数学:アンヌイ・カナンタイ、ศาสตราจารย์ อาํนวย ขนันไทย(Amnuay Kananthai)(タイ)

2018年8月11日掲載。

ワンポイント:チエンマイ大学(Chiang Mai University)・数学科・教授の「2013年のThai Journal of Mathematics」論文が2010年の論文と全く同じ、つまり盗用(二重投稿)だと、2015年(70歳)、学術誌「Thai Journal of Mathematics」・編集部員が気が付いた。論文は撤回された。チエンマイ大学がこのネカトを調査したようすはない。国民の損害額の総額(推定)は1億300万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説

5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

アンヌイ・カナンタイ、ศาสตราจารย์ อาํนวย ขนันไทย(Amnuay Kananthai、写真出典http://www.math.science.cmu.ac.th/english/teacher.php リンク切れ)は、タイのチエンマイ大学(Chiang Mai University)・数学科・教授で、専門は数学(部分微分方程式・分布理論・金融数学)だった。

2015年(70歳)、カナンタイ単著の「2013年のThai Journal of Mathematics」論文が「2010年のJ. Appl. Math. Informatics」論文と全く同じ、つまり盗用であることを、学術誌「Thai Journal of Mathematics」・編集部員が気が付いた。論文を撤回した。

その後、チエンマイ大学がカナンタイのネカト調査をしたようすはない。

2018年8月10日(73歳)現在、カナンタイはチエンマイ大学に在籍していない。多分、高齢のために退職したのだろう。

タイの大学での定年は60歳で、定年退職者の再雇用はしない規則だそうだ。現実は再雇用するケースもあるそうだが(チェンマイ大学での貢献(1):伊藤信孝 チェンマイ大学客員教授・工学部)。

問題の論文は、カナンタイが68歳の時、2013年にチエンマイ大学・教授として発表した論文だった。チエンマイ大学が特別待遇した教授だったのだろう。

チエンマイ大学(Chiang Mai University)・数学科棟。写真出典

  • 国:タイ
  • 成長国:タイ
  • 修士号(MS)取得:英国のキングス・カレッジ・ロンドン(King’s College London)
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1945年5月8日
  • 現在の年齢:79歳
  • 分野:数学
  • 最初の不正論文発表:2013年(68歳)
  • 発覚年:2015年(70歳)
  • 発覚時地位:チエンマイ大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)は学術誌・編集部員
  • ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②チエンマイ大学は調査委員会を設けていない
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。チエンマイ大学は調査委員会を設けていない
  • 大学の透明性:発表なし・隠蔽(✖)
  • 不正:盗用(二重投稿)
  • 不正論文数:1報
  • 盗用ページ率:100%(推定)
  • 盗用文字率:100%(推定)
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかったが、70歳という年齢のためと思われる。若ければ、研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)と思われる
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億300万円。内訳 ↓

  • ①研究者になるまで5千万円。70歳で研究者を辞めたので損害額は0円。
  • ②大学・研究機関が研究者にかけた経費(給与・学内研究費・施設費など)は年間4500万円。盗用だし、損害額は0円。
  • ③外部研究費。外部研究費の助成を受けた研究でネカトをした場合、その研究費が無駄になる。実際に受給していても、判明しないので0円とする。
  • ④調査経費。第一次追及の調査費用は100万円。大学・研究機関の調査費用は0円、研究公正局など公的機関は0円、学術出版局は1件100万円とした。小計で200万円
  • ⑤裁判経費は2千万円。裁判はなかったので損害額は0円。
  • ⑥論文撤回は1報当たり1,000万円、共著者がいなければ100万円。撤回論文は0報なので損害額は0円。撤回論文は共著がいない1報なので損害額は100万円。
  • ⑦研究者の時間の無駄と意欲削減+国民の学術界への不信感の増大は1億円。
  • ⑧健康被害:損害額は0円。

●2.【経歴と経過】

ศูนย์วิจัยวัสดุศาสตร์ มหาวิทยาลัยเชียงใหม่の経歴はおかしいので使用していない

  • 1945年5月8日:タイで生まれる
  • 1965-1969年(20-24歳):タイのチエンマイ大学(Chiang Mai University)で学士号取得:数学
  • 1969年(24歳):タイのチエンマイ大学(Chiang Mai University)・数学科・教授。24歳で教授とは超優秀なのか、白楽の誤解なのか?
  • 1973-1975年(28-30歳):英国のキングス・カレッジ・ロンドン(King’s College London)で修士号取得:数学
  • 2004年(59歳):タイ国家学術調査委員会(The National Research Council of Thailand:NRCT)の国家優秀研究者(National Outstanding Researcher)に選出された
  • 2013年(68歳):2年後にネカトが発覚する「2013年のThai Journal of Mathematics」論文を出版
  • 2015年(70歳):ネカトが発覚
  • 2015年(70歳):チエンマイ大学を退職(推定)

●5.【不正発覚の経緯と内容】

アンヌイ・カナンタイ、ศาสตราจารย์ อาํนวย ขนันไทย(Amnuay Kananthai)http://prd.rmutl.ac.th/prd/index.php?op=news&newsid=1175

2015年(70歳)、カナンタイ単著の「2013年のThai Journal of Mathematics」論文が「2010年のJ. Appl. Math. Informatics」論文と全く同じ、つまり盗用であることを、学術誌・編集部員が気が付いた。論文を撤回した。
→ 2015年の撤回公告:Retraction notice to “On the Parametric Interest of the Black-Scholes Equation” [Thai Journal of Mathematics 11(2) 491-498] | Kananthai | Thai Journal of Mathematics

被盗用論文の著者名はわからないが、カナンタイ自身らしい。つまり、盗用であるが、盗用の1形態である自己盗用、それも二重投稿のようだ。

なお、カナンタイ論文の主題であるブラック–ショールズ方程式(Black-Scholes Equation)は、デリバティブ(金融派生商品)の価格付けの方程式で金融界では重要である。

ハーバード・ビジネススクール教授のロバート・マートン(Robert Cox Merton)は、

フィッシャー・ブラックとマイロン・ショールズが1973年に開発したブラック・ショールズ方程式の数学的証明で1997年ノーベル経済学賞を受賞した(ロバート・マートン – Wikipedia)。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

arXiv.org e-Print archiveで、アンヌイ・カナンタイ(Amnuay Kananthai)の「数学(Mathematics)」論文を検索すると、論文はヒットしなかった。
→ Search | arXiv e-print repository

アンヌイ・カナンタイ、ศาสตราจารย์ อาํนวย ขนันไทย(Amnuay Kananthai)のサイトに、以下の論文がリストされていた(網羅的ではない)。

  1. A. Kananthai, K. Nonlaopon, “On the generalized nonlinear Ultra-hyperbolic heat equation related to the Spectrum”, Computational & Applied Mathematics, 28 (2), 157 – 166(2009).
  2. A. Kananthai, S. Charkrit, “Existence of solutions for some higher order boundary value problems”, Journal of Mathematical Analysis and Applications, 329,830 – 850(2007).
  3. A. Kananthai, J. tariboon, “On the Green’s Function of the Operator”, Integral Transforms and Special Functions, 18,297 – 304(2007).
  4. A. Kananthai, K. Nonlaopon, ” On the generalized ultra-hyperbolic heat kernel related to the spectrum”, ScienceAsia, 32 (1),21-24 (2006).

2018年8月10日現在、少なくとも、本記事で問題にした1論文が撤回されている。

★パブピア(PubPeer)

省略。

●7.【白楽の感想】

《1》不明点だらけ

アンヌイ・カナンタイ、ศาสตราจารย์ อาํนวย ขนันไทย(Amnuay Kananthai、写真出典リンク切れ)が、ネカトをした状況や、発覚した状況は不明である。

カナンタイはタイの数学界では優秀な教授だったようだ。2004年に59歳でタイ国家学術調査委員会(The National Research Council of Thailand:NRCT)の国家優秀研究者(National Outstanding Researcher)に選ばれている。

そういう優秀な教授が、どうして68歳で二重投稿したのだろう? 単著なので、彼以外が投稿したとは思えない。

初犯ではなく、今まで何度もネカトをしてきたのか? 不明である。

チエンマイ大学は調査委員会を立ち上げたようすがない。

タイのネカトの実態、対処の実態を、白楽はほとんど理解できていない。

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●8.【主要情報源】

① Prabook Amnuay Kananthai:Prabook Amnuay Kananthai (born May 8, 1945), Thai educator, Mathematician |
② 2015年9月28日。シャノン・パルス(Shannon Palus)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:1+1 “identical” math papers = retraction – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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