7-159 「捕食」出版(ハゲタカ・ジャーナル)という分類を止めよ

2024年10月30日掲載 

白楽の意図:日本ではハゲタカ・ジャーナルという用語が大手を振って使用されているが、侮蔑語/ヘイト・スピーチなので、使用すべきではない。英国のノッティンガム大学のグラハム・ケンダル名誉教授(Graham Kendal)が、そもそも、「捕食出版(predatory publishing)」とその関連語の使用を止めるべきだと主張した「2024年6月頃のPublishing with Integrity」論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
2.ケンダルの「2024年6月頃のPublishing with Integrity」論文
7.白楽の感想
9.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●2.【ケンダルの「2024年6月頃のPublishing with Integrity」論文】

★読んだ論文

  • 論文名:Stop classifying journals as predatory
    日本語訳:学術誌を捕食と分類するのをやめよ
  • 著者:Graham Kendal
  • 掲載誌・巻・ページ:Publishing with Integrity
  • 発行年月日:不記載。多分、2024年6月頃
  • ウェブサイト:https://predatory-publishing.com/stop-classifying-journals-as-predatory/
  • 著者の紹介:グラハム・ケンダル(Graham Kendal、写真出典)。
  • 学歴:1979年に英国のマンチェスター大学(The University of Manchester)で学士号(コンピュータ科学)、2000年に英国のノッティンガム大学(University of Nottingham)で研究博士号(PhD)取得(コンピュータ科学)。経歴:出典
  • 分野:コンピュータ科学
  • 論文出版時の所属・地位:英国のノッティンガム大学(University of Nottingham)・名誉教授、マレーシアのミラ大学(MILA University)・副学長 (Deputy Vice-Chancellor)

●【論文内容】

★「捕食」(predatory)出版:誰がいつ最初に使用したか?

「捕食出版(predatory publishing)」という用語は、10年以上前から存在している。

白楽注:「捕食」(predatory)を「ハゲタカ」と呼ぶ人がいる。侮蔑語/ヘイト・スピーチなので、止めるべきである。残念ながら、日本では多数のメディア・知識人が、この侮蔑語/ヘイト・スピーチを堂々と使用している。

この用語は、ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall、写真出典)が2010年の論文で特定のオープンアクセス出版社が「捕食的な(predatory)」行動をすると、初めて述べたことがその起源と言われている。

アイゼンバッハ(Eysenbach)の2008年のブログ記事や、サンダーソン(Sanderson)の2010年の論文、が起源かもしれない。

その起源が「いつ・だれ」であれ、もう、「捕食出版(predatory publishing)」とその関連語の使用を止めるべきである。

★なぜ止める必要があるのか?

「捕食出版(predatory publishing)」とその関連語の「捕食出版社(predatory publisher)」「捕食学術誌(predatory journal)」という用語の使用は不適切である。

なぜか?

多数の科学メディア・主要メディアはそれぞれ「捕食出版(predatory publishing)」を定義している。

しかし、それらの定義は、大まかに言えば同じだが、学術的なレベルではバラバラで、定義と呼べるしろものではない。

筆者(ケンダル)以外、少なくとも他に2人(組)、「捕食出版(predatory publishing)」という用語を使うべきではないと主張している人がいる。

1人目は、リック・アンダーソン(Rick Anderson、写真出典同)で、「捕食的(predatory)」という用語は、人によって意味が異なるため、用語として不適切だと述べている。 → 2015年5月11日のリック・アンダーソン(Rick Anderson)の記事:Should We Retire the Term “Predatory Publishing”? – The Scholarly Kitchen

「捕食出版(predatory publishing)」という用語は、

  • 編集委員やインパクトファクターの虚偽表示
  • スパムメールの送信
  • 他の学術誌からのコンテンツの盗用
  • 論文が受理されるまで論文掲載料を隠す

などをする出版社と言われている。

しかし、これらは「捕食出版」の属性の一部でしかない。他の属性を加えると、「捕食学術誌」と「正当な学術誌」の境界は曖昧になり、区別できない。

2人目は、エリクソンとヘルゲッソン(Stefan Eriksson写真出典、Gert Helgesson)の2人なので2組目だが、彼らの主張である。

彼らの2018年の論文「捕食学術誌について話すのをやめる時が来た(Time to stop talking about ‘predatory journals’)」は、タイトルが示すように、「捕食学術誌」という用語の使用をやめるよう主張している。

その理由として、捕食学術誌は、「不正行為を隠した学術誌、質の低い学術誌」の同義語として使用されているが、「正当な学術誌」にも不正行為を隠したり、質の低い学術誌はたくさんある。

それで、学術界は、特定の学術誌が「捕食的」かどうか、決められない。

1人目のリック・アンダーソンの主張は2015年なので、「捕食出版(predatory publishing」という用語を使用しないよう提唱されてから、2024年10月現在、9年半経つ。

それでもこの用語は広く使用され、いまだに広く使用されている。

皮肉なことに、この「広く使用され」てきたことが、副作用として、「捕食的」学術誌の分類を難しくしてきた原因である。

現在、結局、どの学術誌も、いくつかの「捕食的」基準を満たすが、同時に、いくつかの「捕食的」基準を満たさない。

その結果、特定の学術誌を確実に「捕食学術誌」・「非捕食学術誌」のどちらかに分類するのは不可能である。

「捕食出版(predatory publishing)」かどうかの基準は、多岐にわたり、バラバラである。

現在のところ、学術誌を「捕食学術誌」として明確に分類することはできない。

広く合意された「捕食学術誌」の定義はなく、大まかには同じことを言っているが互いにわずかに異なる多くの定義があるため、明確に定義できない。

バラバラな定義のためグレーゾーンが大きくなっている。

「捕食出版社(predatory publisher)」の共通項は、確かに、金儲けの道具として学術誌を発行していると思うが、この共通項でさえ、明確な証拠を見つけるのは難しい。

「まっとうな学術誌」でも学術誌の発行は金儲けの道具である、というか金儲けしなければ、出版社として成り立たない。

「捕食学術誌」と「まっとうな学術誌」の境界は曖昧で、グレーゾーンに分類される学術誌はたくさんある。「捕食出版(predatory publishing)」の多くの定義に当てはまる「まっとうな学術誌」もある。

従って、私たちは、「捕食出版(predatory publishing)」(とその関連語)」という用語の使用をやめるべきである。

★ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)

ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)が2010年に「捕食的(predatory)」なという用語を使用し、7年後の2017年、捕食的学術誌のリストを削除した。この間、「捕食的」学術誌のリストがウェブ上に公表されていた。

このリストは、長年にわたって多くの人々に役立ってきた。

そして、2024年の現在でも、大多数の研究者・図書館員・学術出版界は、「捕食」学術誌・「非捕食」学術誌の2分類を望んでいる。

しかし、ビールの分類方法は不透明だった。また、学術誌が捕食的かどうかを決めたのはビールだけだったので、議論もあった。

明確な1つの定義ですべての学術誌を分類でき、大多数の人がその定義に合意できたならよかったのだが、そうではなかった。

2024年現在、バラバラの定義のもとで「捕食出版(predatory publishing)」という曖昧な分類をしている。

研究者・図書館員・学術出版界は特定の統一的な定義を採用できない。それで、私たちは、この用語の使用をやめるべきだと思う。

実は、ビール自身も「捕食的」という用語の使用に慎重だった。

ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)は、2010年の独創的な論文「“Predatory” Open-Access Scholarly Publishers 」で初めて「捕食的(Predatory)」という用語を使用したとき二重引用符で括っていた。またその論文で、「捕食出版(predatory publishing)」という用語を使用していない。

ビールは「これらの出版社が捕食的なのは・・・」と述べ、また、特定のオープンアクセス出版社を分類する時、「捕食的(predatory)」という用語は慎重は使用しているとも述べていた。

一般的には、ビールが「捕食出版(predatory publishing)」という用語を導入したとされている。「捕食出版(predatory publishing)」という概念の導入は正しいと思うが、彼自身はその用語を使用したことはないし、定義したこともない。

白楽注:ビール は、2017年の論文で、「What I learned from predatory publishers」と「捕食出版社(predatory publishers)」という用語を使用している。初期の論文では使用しなかったと、ケンダルは指摘したいのだろう。 → 7-20.ビールのライフワーク:捕食出版社との闘い | 白楽の研究者倫理

★オミックス社(OMICS)

「捕食出版社(predatory publisher)として最もよく知られている出版社はオミックス社(OMICS)である」。この「 」内のフレーズは、今までたくさんの記事で使用されてきたが、間違っている。

参考:企業:学術業(academic business):オミックス・インターナショナル社(OMICS International)(インド) | 白楽の研究者倫理

オミックス社(OMICS)の裁判では、「捕食出版(predatory publishing)」(含・その関連用語)というフレーズは一度も使われていない。

裁判所の文書は「詐欺的手法(deceptive practises)」という用語が使われている。

裁判所の書類で使われていないので、オミックス社(OMICS)が定評のある「捕食出版社(predatory publisher)」だと言うのは正しくない。

私(ケンダル)は法律家ではないけど、正しい言い回しでは、「オミックス社(OMICS)は詐欺的手法(deceptive practises)を使用していたことが判明し、その結果、5千万ドル(約50億円)の罰金が科された」となる。 → オミックス社(OMICS)の裁判の論文:Manley2019aManley 2019bDyer2019.

★代わりの名称?

もちろん、査読がほとんどない(or まったくない)学術誌にお金を払ってでも、論文を出版したい人はたくさんいる。

「査読がほとんどない(or まったくない)」のは「非倫理的な出版(unethical publishing)」の悪徳行為の1つにすぎない。

悪徳行為の他の例としては、①著者枠の販売、②引用操作、③盗用、④大規模な言語モデルの無許可の使用、⑤学術誌のクローン作成、⑥インパクトファクターの虚偽使用、⑦学術誌の品質が良いと研究者を騙すためだけに使用するインパクトファクターの設定、⑧スパムメールの送信、などなどがある。

これらのいくつかは、古い用語を使えば、学術誌や出版社が「捕食的」であることを示している。

しかし、上記した悪徳行為は「非倫理的な出版」のすべてではなく、他の悪徳行為もある。

それで、「捕食出版(predatory publishing)」を定義するのではなく、その悪徳行為を示す言葉で学術誌を表現すべきである。

たとえば、スパムメールを送ってくる出版社を非倫理的だと思う場合を考えよう。

以前は、スパムメールの送信は「捕食出版社(predatory publisher)」の1つの指標だった。しかし、それを全員が「捕食出版社(predatory publisher)」の定義に挙げていたわけではない。となると、スパムメールを送信する出版社は、「捕食出版社(predatory publisher)」かなのか、そうではないのか判定できない。

しかし、「捕食出版社(predatory publisher)」かどうかは別にして、スパムメールの送信は非倫理的なので、「スパムメールを送信する出版社」と分類することはできる。

さらに、「非倫理的な(unethical )」という用語を使用しても、その「非倫理的な(unethical )」学術誌全体、ひいてはその出版社全体が「捕食的」かどうかはわからない。

学術誌または出版社の行動や運営の1つの側面が非倫理的(unethical )であると指摘しているだけだ。

この指摘の方がずっと公平に思える。

学術誌が非倫理的に行動していると言うとき、私たちはその悪徳行為に焦点を当てているので、悪徳行為そのものを表現した方がよい。

★研究者は自分で学術誌を選べ

研究者は、自分の論文原稿をどの学術誌に投稿するか、学術誌を「捕食」・「非捕食」として分類されているリストに頼るのではなく、その学術誌の特性を調べ、論文をどこに投稿するかを決定する責任を自分で負うべきである。

学術誌の特性は多面的である。以下のような項目が検討点だろう。

  • 学術誌がカバーする研究分野の範囲が適切か
  • オープンアクセスか(そして手数料を払えるか)
  • 同業者がこの学術誌に論文を発表しているか
  • 論文は引用数が多いか(これがあなたにとって重要な場合)
  • どこに索引付けされているか
  • そのインパクトファクター (これがあなたにとって重要な場合)
  • その学術誌の撤回論文数
  • 編集長は誰か
  • あなたの研究界で知られているその学術誌の編集委員会のメンバーは誰か
  • 学術誌は論文工場に狙われているか
  • 論文採択率はどれくらいか
  • 採否決定に要する日数
  • 学術誌への連絡方法
  • スパムメールを送信しているか
  • 査読が適正か
  • 編集長等に連絡できるか
    など、多面的である。

論文投稿先として、適切な学術誌を選択する際、「捕食」に関して、学術誌が抱えるすべての問題を知る必要はない。

学術誌の非倫理的な悪徳行為を調べ、しきい値に達したら、その学術誌は止めて別の学術誌を探せばよい。

●7.【白楽の感想】

《1》「捕食出版(predatory publishing)」の用語廃止に大賛成 

白楽は、2015~2019年に白楽ブログで捕食出版・捕食会議の記事を書いた。 → 捕食学術の記事リスト(1) | 白楽の研究者倫理「6-1 捕食出版・捕食会議

その「6-1 捕食出版・捕食会議」の説明は以下のようだ。

捕食=predatory publisher, predatory journals, and predatory conferences=ほぼ査読なしで論文を出版する捕食出版社(predatory publisher)、低質な研究発表会(捕食会議“Predatory” conferences)を開催する学術業者(academic business)

そして、当時、「捕食」という分類は「ヘンだ」と思い続けていた。それで、2019年以降、記事にしていない。

その上、日本では「ハゲタカ」という鳥類は侮蔑するヘイト・スピーチが大手を振って使用されている。

研究ネカトの直接的問題ではないが、これらを何とか是正しなくてはと、2018年頃から思っていた。

今回、グラハム・ケンダル(Graham Kendal)の主張を紹介しながら、6年前からの懸案事項を表明しようと思った。

それで、数年前の下書きを修正して、【「ハゲタカ」ジャーナルはヘイト・スピーチ】の記事の公表を準備している。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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Minami
Minami
2024年10月30日 9:03 AM

うーん、「ハゲタカジャーナルがヘイトスピーチ」という主張はよくわからないです。最近、権力者が自分にとって不都合なことを、勝手に「差別」ということに決めてしまって、みんなに、そのトピックについて、議論させないようにするというギミックを使ってくることがあります。
白人男性の大学教員なんて、別に、差別されて死ぬほどつらかったという人生体験を、そんなに経験してきていないと思います。私は、女性で障害者なので、死ぬほど差別されてきていますが、男性が差別について何かしゃべったところで、真実味を感じないです。たくさん差別をされると、差別について深く哲学をするのですが、差別されてきていないだろう人が差別についてしゃべるというのは、うさんくさいです。
それより、どれだけ自分たちが優遇されているかを考えたほうがいいと思います。私は、大学の外、地域社会に住む、学者の元愛人です。私が、人に、「学者の元愛人です」と名乗ると、非常にさげすまれ、バッシングを受けます。
しかし、以前、日本学術会議やエディテージ(科学者をサポートする会社)にメールを送って、とても丁寧な返事をもらって、面食らったことがあります。”Minami先生 貴重なご意見をわざわざどうもありがとうございました”というようなメールでした。私は、「えっ、私は先生じゃないですよ」と思いました。きっと、日本学術会議やエディテージは、私のことを、どこかの大学の教員とかんちがいしたのでしょう。まるで貴人に接遇するようなうやうやしいメールをもらって、私は調子が狂って、ずっこけそうになりました。
私は、「もし、科学者たちが、こんなふうにみんなから貴人のように、接遇されるとしたら、パワーハラスメント加害者的パーソナリティに育つだろうな」と思いました。子どもの頃から、教育熱心な親や教師や塾講師等から、「勉強できてえらいね」と褒められ育ってきて、大学に入って、院生や教員になったら、いよいよみんなから、貴人のように扱われるわけです。誰も叱る人がいません。そんな環境に何十年もいたら、高飛車な性格に育って、誰も手がつけられなくなると思います。
私は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)の研究倫理セミナーに参加して、研究倫理に関する冊子をもらったこともあります。パンフレットに非常にお金がかかっていました。ハードコートというんでしょうか、水をかけてもはじくような表紙でした。私は、「こんな、学者に”いんちきをするな”という、当たり前のことを言う冊子に、金をかける必要なんかないだろう」と思ったのですが、しっかりした、お金のかかったパンフレットを送ってきました。これも、私たち国民が納めた貴重な血税によって作られています。
しかも、内容が、軽い研究倫理違反でした。私は学者の研究不正が原因で死にそうな目に遭ったのですが、軽い事例が書いてあって、「この人たちは、マネジメント(経営)がへただな」と呆れました。
「なぜ、ぼくたち科学者は、学問を金で飾らないと、気がすまないのか?」は問われていいと思います。北海道浦河町というところで、貧乏学会をやっています。「当事者研究交流集会」という学会で、精神病の患者さんが、自分の病気について研究発表をする、なんちゃって素人学会です。ここは、お金がかかっていないです。貧乏な患者さんの学会なので、町営の公共施設を借りて、段ボールに「当事者研究交流集会」と絵具で絵を描いて、看板としています。でも、「学問のいちばんプリミティブな形って、それでいいと思うんですよ。学問を金で飾ることが大事なのではなく、みんなが知恵を出し合うという催しが学会です。
私は6月に、日本精神神経学会に行きました。ラクジュアリーなコンベンション・ホールを借りて、ホテルのロビーみたいなところに、医師が悠然と座って、ノートパソコンを叩いていました。そりゃあ、お金を持っている人が学会をやるなら、立派なホールを借りる財力があると思います。しかし、「お金をかけないと学問はやれないものなのか?」という問いはあっていいと思います。
さらに、「ラクジュアリーなコンベンション・ホールで、ハードコートの学会パンフレットを配らないと、えらい先生からクレームが出る。やむを得ず、学会は、製薬会社から寄付を受け取った。寄付をもらってしまったので、今度は、本当は別に薬を使わなくても、病気を治す方法はあるのだが、製薬会社からお金をもらってしまったので、なんか、薬物療法に関する研究をしなくちゃいけなくなってしまった」というようなことであると、事態は深刻です。さらに、「それで患者さんに薬害が発生した」ということが実際に発生しているのですが、本末転倒です。
「お金で解決しようとしてしまって、知恵を出さない」というのは、科学者の場合は絶対あってはいけないことだと思います。私は地域社会から学者を観察していて、どうも「安易にお金で解決して、知恵を出さない」ということが、結構あります。知恵を出さない学者なんかいらないです。社会的存在意義なんか、ないです。
このハゲタカジャーナルというのも、富裕層の子、いいうちのボンボンの子が、科学者という、社会的に聞こえのいい職業につきたがり、自分の天才神話を作るために、ハゲタカジャーナルというものを必要とするのだろうと思います。いいうちのボンボンが医大に、寄付をして裏口入学するのと同じだと思います。
一方で、「とにかくお金がかからない学術出版の形」というのが、問われていいと思います。私はそろそろ、株式会社ではなく、NPO法人や一般社団法人等の形態の出版社が出てきていいと思います。
例えば、朝日新聞社や岩波書店、エルゼビア等は株式会社だと思います。株式会社だと、株主に配当を出さないといけないと思います。
株式会社という法人格は百年以上前からあるようで、一方、阪神大震災のあとぐらいに、NPO法人という法人格ができました。最近だと、一般社団法人という法人格が作られています。
いまある老舗の企業というのは、だいたい株式会社であることが多いと思います。朝日新聞社や岩波書店、エルゼビア等にこだわらないで、NPO法人や一般社団法人を設立して、出版、特に学術出版をやっていいと思います。学術出版なんか、それ自体が公益事業みたいなものだと思います。NPO法人等だと、株主に配当を出さなくていいので、安く出版ができるのではないでしょうか。
最近、詩の出版をやるNPOというのは見ました。「ライトバース」というところで、児童養護施設の子どもに詩を書いてもらって、販売するというNPOみたいでした。 https://x.com/rightversecom
さらに、税金がかからない法人形態があると、もっと安上がりに出版ができると思います。私は学術出版なんか、株主に配当を出さなくていいし、納税もしなくていい、学術出版そのものが公益性のかたまりなので、それだけでいいと思います。学会等だと、「公益社団法人」というような法人格を見ますけども、私は詳細は知らないのですが、配当なしで、非課税でいいと思います。既存の法人格で、学術出版にフィットした法人格がなければ、「学術出版法人」という法人格を新設しても、よいと思います。とにかく金がかからなくて、大学法人や学生の経済的負担にならず、スマートな知をみんなに配れて、社会が円滑にまわればいいと思います。