シルビア・ブルフォーネ=パウス(Silvia Bulfone-Paus)(ドイツ)

【概略】
141101 bulfone-paus1[1]シルビア・ブルフォーネ=パウス(Silvia Bulfone-Paus、1964年11月10日~)は、イタリア生まれ・育ちの免疫学者・医師で、米国で博士号取得し、35歳の時、ドイツのボルステル研究センター(Research Center Borstel)・免疫細胞生物部・部長、英国・マンチェスター大学医学部・免疫学の教授に就任した。3人の子供がいる。写真出典

141101i200_50b1ee6faaa854.89833871[1]夫のラルフ・パウス(Ralf Paus)は、ドイツ人で、ドイツのリューベック大学皮膚科教授、英国・マンチェスター大学医学部・皮膚科学の教授である。写真出典

2010年(45歳)、シルビアは、発表論文の画像改ざんを指摘された。調査の結果、研究室のロシア人ポスドクが改ざんをしたとされた。1999年~2009年発表の13論文が撤回された。シルビアは、研究室員の監督不行き届きで、院生受け入れと研究費申請が期限付きで禁止された。

2011年(46歳)、今度は、ロシア人ポスドクが著者に入っていない1999年の論文で、ねつ造・改ざんの嫌疑がかけられた。シルビアは、これは「間違い」だったと釈明し、論文出版の13年後だが、2012年に訂正した。

141101large_1372249760[1]2012年12月7日 DFG-ドイツ研究振興協会(German Research Foundation)が調査報告書を発表した。シルビアは研究室員の監督不行き届きのためにデータ改ざんが発生したのでデータ改ざんで有罪となった。研究室のロシア人ポスドクのエレーナ・ブラノバ(Elena Bulanova 写真 © 2014 DocCheck Medical Services GmbH)が、データ改ざんで有罪になった。

2014年11月現在 シルビアは、ドイツのボルステル研究センター・免疫細胞生物部・部長、英国・マンチェスター大学医学部・免疫学の教授に在職している。事件後も研究者を続けた少数例。

  • 国:ドイツ
  • 成長国:イタリア
  • 男女:女性
  • 生年月日:1964年11月10日
  • 現在の年齢:52 歳
  • 分野:免疫学
  • 最初の不正論文発表:1999年(34歳)
  • 発覚年:2010年(45歳)
  • 発覚時地位:ドイツのボルステル研究センター(Research Center Borstel)・免疫細胞生物部・部長、英国・マンチェスター大学医学部・免疫学の教授
  • 発覚:内部公益通報
  • 調査:①ボルステル研究センターは2010年7月~2010年10月の3か月。②DFG-ドイツ研究振興協会(DFG:German Research Foundation)は2010年5月~2012年12月7日の2年7か月間
  • 不正:研究室員のデータ改ざんの監督不行き届き
  • 不正論文数:2010年に13論文(1999年~2009年)撤回。他に6論文疑念
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:研究室縮小、大学院生・ポスドク受入れ禁止

★主要情報源:
① ウィキペディア Silvia Bulfone-Paus – Wikipedia, the free encyclopedia
② 2011年5月19日のリトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)の記事:Bulfone-Paus saga continues: Her supporters and home institution exchange sharp letters | Retraction Watch
③ 2011年6月11日のコピー・シェーク・ペースト(Copy, Shake, and Paste)の記事:Copy, Shake, and Paste: The Strange Tale of the Paus Family and Borstel
④ 2011年6月2日のポール・ジャンプ(Paul Jump)の「Times Higher Education」記事:Husband and wife in data duplication papers probe | General | Times Higher Education
⑤ 参考:2014年3月、藤井基貴、山本 隆太: 「ドイツにおける研究倫理への取り組み(1) : 「DFG 提言」(1998)および「補遺」(2013)の検討を中心に」、静岡大学教育学部研究報告. 人文・社会・自然科学篇. 64, p. 113-130  http://dx.doi.org/10.14945/00007855

【ボルステル研究センター】
ボルステル研究センター(Research Center Borstel)(Research Center Borstel)は、結核とハンセン病の研究所として、1947年に設立されたドイツの非営利の国立研究所である。
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ドイツ北部ハンブルク郊外にあるボルステル研究センター。写真出典

2004年、非大学研究所の全国的な組織であるライプニッツ協会(Leibniz Association)傘下の研究所になった。その組織の傘下であることを示すために、「ボルステル研究センター-医学とバイオサイエンスのライプニッツ・センター(”Research Center Borstel – Leibniz-Center for Medicine and Biosciences”)と改名された。

ライプニッツ協会とは、

ライプニッツ協会として知られているゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ学術連合(WGL)は、国家レベルの重要な課題に取り組む89の研究所を統括する連合組織です。人文科学、社会科学、経済学、空間科学、生命科学、数学、自然科学、工学、環境学など幅広い分野を扱っているのが特色です。傘下の研究所は、学問的にも組織的にも独立しているため、ライプニッツ協会は分権化された組織体制となっています。研究活動のほか、大学や研究機関、企業などに研究インフラや各種サービスの提供も行っています。

総職員数は17,200人、うち8,200人が研究者です(2013年)。年間予算は14億ユーロ(2012年)で、出資比率は、連邦政府38.7%、州政府38.7%、その他22.6%です。

ライプニッツ協会の名称は、哲学者・数学者・科学者として幅広い分野で活躍したゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)に由来しています。(ライプニッツ学術連合 – ドイツ 科学・イノベーション フォーラム 東京

【経歴】
主な出典:SFB Proteolysis as a Regulatory / Signaling Event in Pathophysiology

  • 1964年11月10日:イタリア、トリノで生まれる
  • 1989年(24歳):イタリア北西部のトリノ大学(Turin University)医学部で免疫学を学び卒業。医師免許
  • 1989年(24歳):トリノ大学で最初の論文出版:Development. 1989 Jul;106(3):473-81.。著者:Mangiarotti G, Bulfone S, Giorda R, Morandini P, Ceccarelli A, Hames BD.
  • 1989年(24歳):米国・イエール大学・大学院入学。ドイツ人の未来の夫・ラルフ・パウス(Ralf Paus)は、同じ時期(1987~1990年)、イエール大学・皮膚科学研究室にポスドクとして滞在していた。米国で結婚、出産。1990年、夫・ラルフ・パウス(Ralf Paus)はドイツに帰国・就職したが、1993~1994年の13か月は育児休暇で米国滞在
  • 1994年(29歳):米国・イエール大学・遺伝学研究室で博士号取得
  • 1994年(29歳):ドイツのベルリン自由大学・免疫研究部(Tibor Diamantstein教授)・ポスドク。サイトカイン(IL-15)とその受容体の研究開始
  • 1995年(30歳):ドイツのベルリン自由大学・免疫研究部(Tibor Diamantstein教授)で、独立した研究者になる
  • 1996年(31歳):ドイツのベルリン自由大学・免疫研究部・代理部長
  • 1997年(32歳):夫と共著の論文出版:Nat Med. 1997 Oct;3(10):1124-8. 著者:Bulfone-Paus S, Ungureanu D, Pohl T, Lindner G, Paus R, Ruckert R, Krause H, Kunzendorf U.
  • 1999年(34歳):ドイツのベルリン自由大学・免疫研究部・助教授
  • 2000年(35歳)10月:教授資格論文(Habilitation)提出。ドイツのリューベック大学(University of Lübeck)・正教授。ボルステル研究センター・免疫細胞生物部・部長
  • 2006-2008年(41-43歳):ボルステル研究センター・所長(?)
  • 2010年(45歳):不正研究が発覚する
  • 2014年(49歳):大学・研究所は辞職していない

シルビア・ブルフォーネ=パウス(Silvia Bulfone-Paus)は、アレルギーや感染時の炎症過程におけるマスト細胞の役割を研究している。特に、先天性免疫と獲得免疫の間の相互作用を調節する際のマスト細胞の役割の解析である。

141101newsimage[1]写真出典

【不正発覚の経緯】

2009年10月 シルビア研究室のポスドクだったカリン・ウィーバウアー(Karin Wiebauer、生物学者)が、シルビア研究室が発表しているいくつかの論文のウェスタン・ブロット像が酷似していることを指摘した(使い回し、ねつ造・改ざん)。同じ画像のラベルを変えただけの画像、フォトショップでバンドを移動、変形した画像があり、ねつ造・改ざんと指摘した。カリン・ウィーバウアーはその5年前の2004年から、その酷似をシルビアに伝えていたので、実際は、シルビアは5年前の2004年から研究ネカトを知っていたハズだと訴えた。

2009年11月 カリン・ウィーバウアー(Karin Wiebauer)は、研究ネカトを詳細に記したメールをシルビアに送った。しかし、シルビアは、ボルステル研究センターにそのことを、3か月間後の2010年2月まで伝えなかった。

2010年2月 シルビアは、やっと、ボルステル研究センターに公益通報を伝えた。

2010年4月 ボルステル研究センター調査委員会が招集された。

匿名の公益通報が続いた。

2010年5月 シルビアはDFG-ドイツ研究振興協会(German Research Foundation)から研究資金を助成されていたから、ボルステル研究センターはDFG-ドイツ研究振興協会に研究ネカトの公益通報を伝えた。

2010年7月 ボルステル研究センターは調査を開始した。

2010年10月 ボルステル研究センター調査報告書は、「論文には不注意な点があったが、研究結果には問題がない」とした。「データを改ざんしたのはシルビア研究室にロシアから来たロシア人ポスドク・カップルのエレーナ・ブラノバ(Elena Bulanova)とヴァディム・ブダジアン(Vadim Budagian)である。シルビアには研究室員の監督責任があった」と結論した。シルビアの研究室は縮小され、大学院生・ポスドクの受け入れは禁止された。

エレーナ・ブラノバ(Elena Bulanova)とヴァディム・ブダジアン(Vadim Budagian)のロシア人カップルは論文撤回に同意しなかったが、シルビアは、1999年~2009年の12論文を撤回した。

2011年3月16日 25人の国際的な科学者たちが署名した公開書状がボルステル研究センター評議会に提出された。25人の科学者たちは繰り返しシルビアへの賞賛・尊敬を表明し、悲しいが、シルビアには研究ネカトをした2人のポスドクへの責任はあるとした。(OPEN LETTER – TO WHOM IT MAY CONCERN March 16, 2011

2011年6月 カリン・ウィーバウアー(Karin Wiebauer)は、「Blood」誌に出版したシルビアの別の論文にもデータねつ造・改ざんあると糾弾した。その論文の著者にロシア人カップルは入っていない。夫のラルフ・パウスが共著者になっていた。一方、ラルフ・パウスにも6報(1997年~2003年)の論文に研究ネカトの嫌疑がかかった。6報の内、5報は妻・シルビアと共著である。

その「Blood」論文は以下である。

Human monocytes constitutively express membrane-bound, biologically active, and interferon-gamma-upregulated interleukin-15.
Musso T, Calosso L, Zucca M, Millesimo M, Ravarino D, Giovarelli M, Malavasi F, Ponzi AN, Paus R, Bulfone-Paus S.
Blood. 1999 May 15;93(10):3531-9.
Erratum in: Blood. 2012 Sep 6;120(10):2155.
PMID:10233906

1999年の「Blood」論文は、13年後の2012年9月、シルビアは訂正を発表した。

訂正の概略は以下のようだ。

1999年論文の3,536ページの図5Aと5Bが重複していると指摘された。図は、非常に良く似たヒストグラムだったので間違えました。不注意でした。著者(シルビア)は、図5Aと5Bの元となるフローサイトメトリーの生データを探したが、見つからなかった。研究所と政府のガイドラインに従うと実験終了後10年を経た記録は廃棄してよいとされているので、廃棄していた。結論の有効性のために再実験をしたが、オリジナルの抗IL-15 M112抗体(ジェンザイム社)とIL-15 IgG2b融合タンパク質は、もはや市販されていないので入手不可能だった。
それで、Peprotech社のウサギ抗ヒトIL-15ポリクローナル抗体で代用した。IL-15:Fc融合タンパク質はChimerigen社から購入した。新しい図を以下に示します(図は白楽が削除)。

2012年12月7日 DFG-ドイツ研究振興協会(German Research Foundation)が調査報告書を発表した(DFG, German Research Foundation – Scientific Misconduct: Decisions in Three DFG Cases)。

DFG-ドイツ研究振興協会調査委員会は、研究室のリーダーの機能として研究室員の監督があるが、シルビアはそれがいい加減だったので、研究ネカトで有罪とした。ペナルティは、3年間の研究費申請が不可、研究費審査委員になることも不可だった。

DFG-ドイツ研究振興協会・事務局長のドロテー・ツヴォネク(Dorothee Dzwonnek)は次のように述べている。

この結論は、彼女が若手の研究者の監督責任を履行しなかったためで、ブルフォーネ=パウスさん(Ms. Bulfone-Paus)をけん責する適切な手段と考えます。経験を積んだ研究者として、ブルフォーネ=パウスさん(Ms. Bulfone-Paus)は、彼女の同僚に、よいロールモデルを提供する重要な役割を遂行すべきところ、遂行しませんでした。

14110102_dzwonnek[1]ドロテー・ツヴォネク(Dorothee Dzwonnek) © DFG / Eric Lichtenscheidt:出典

どうでもいいかもしれないが、ドロテー・ツヴォネク(Dorothee Dzwonnek)は、ブルフォーネ=パウス「博士」と呼ばずに、ブルフォーネ=パウス「さん」(Ms. Bulfone-Paus)と呼んでいる。違和感がある。

DFG-ドイツ研究振興協会調査委員会は、エレーナ・ブラノバ博士(Dr. Elena Bulanova)は、問題論文の第一著者(first author)で責任著者(corresponding author)である。論文の画像操作、つまりデータ改ざんで有罪とした。夫(恋人?)のヴァディム・ブダジアン(Vadim Budagian)はおとがめなしだった。

【撤回論文】
2014年10月10日現在で13論文(1999年~2009年)が撤回されている。ポスドクのエレーナ・ブラノバ(Elena Bulanova)に下線を引いたが、12論文で著者だった。2番目の論文は著者ではない。夫のラルフ・パウス(Ralf Paus)は青字にしたが、7論文で共著者だった。

パブメドで検索すると、エレーナ・ブラノバとシルビアの共著論文は全部で23報ヒットした。約半数が撤回されたことになる。

  1.  Death deflected: IL-15 inhibits TNF-alpha-mediated apoptosis in fibroblasts by TRAF2 recruitment to the IL-15Ralpha chain.
    Bulfone-Paus S, Bulanova E, Pohl T, Budagian V, Durkop H, Ruckert R, Kunzendorf U, Paus R, Krause H.
    FASEB J. 1999 Sep;13(12):1575-85.
    Retraction in: FASEB J. 2011 Mar;25(3):1118.
  2.  An interleukin-2-IgG-Fas ligand fusion protein suppresses delayed-type hypersensitivity in mice by triggering apoptosis in activated T cells as a novel strategy for immunosuppression.
    Bulfone-Paus S, Rückert R, Krause H, von Bernuth H, Notter M, Pohl T, Tran TH, Paus R, Kunzendorf U.
    Transplantation. 2000 Apr 15;69(7):1386-91.
    Retraction in: Transplantation. 2011 Dec 27;92(12):e68
  3. The IL-15R alpha chain signals through association with Syk in human B cells.
    Bulanova E, Budagian V, Pohl T, Krause H, Dürkop H, Paus R, Bulfone-Paus S.
    J Immunol. 2001 Dec 1;167(11):6292-302.
    Retraction in: Pohl T, Krause H, Dürkop H, Paus R, Bulfone-Paus S. J Immunol. 2011 Feb 15;186(4):2681.
  4. Enhanced inhibition of tumour growth and metastasis, and induction of antitumour immunity by IL-2-IgG2b fusion protein.
    Budagian V, Nanni P, Lollini PL, Musiani P, Di Carlo E, Bulanova E, Paus R, Bulfone-Paus S.
    Scand J Immunol. 2002 May;55(5):484-92.
    Retraction in: Scand J Immunol. 2011 Mar;73(3):266.
  5. Mast cells express novel functional IL-15 receptor alpha isoforms.
    Bulanova E, Budagian V, Orinska Z, Krause H, Paus R, Bulfone-Paus S.
    J Immunol. 2003 May 15;170(10):5045-55.
    Retraction in: Krause H, Paus R, Orinska Z, Bulfone-Paus S. J Immunol. 2011 Feb 15;186(4):2682.
  6. Signaling through P2X7 receptor in human T cells involves p56lck, MAP kinases, and transcription factors AP-1 and NF-kappa B.
    Budagian V, Bulanova E, Brovko L, Orinska Z, Fayad R, Paus R, Bulfone-Paus S.
    J Biol Chem. 2003 Jan 17;278(3):1549-60. Epub 2002 Nov 6. Retraction in: J Biol Chem. 2011 Mar 18;286(11):9894
  7. Natural soluble interleukin-15Ralpha is generated by cleavage that involves the tumor necrosis factor-alpha-converting enzyme (TACE/ADAM17).
    Budagian V, Bulanova E, Orinska Z, Ludwig A, Rose-John S, Saftig P, Borden EC, Bulfone-Paus S.
    J Biol Chem. 2004 Sep 24;279(39):40368-75. Epub 2004 Jun 23. Retraction in: J Biol Chem. 2011 Mar 18;286(11):9894.
  8. Extracellular ATP induces cytokine expression and apoptosis through P2X7 receptor in murine mast cells.
    Bulanova E, Budagian V, Orinska Z, Hein M, Petersen F, Thon L, Adam D, Bulfone-Paus S.
    J Immunol. 2005 Apr 1;174(7):3880-90.
    Retraction in: Orinska Z, Hein M, Petersen F, Bulfone-Paus S, Thon L, Adam D. J Immunol. 2011 Feb 15;186(4):2683.
  9. Soluble Axl is generated by ADAM10-dependent cleavage and associates with Gas6 in mouse serum.
    Budagian V, Bulanova E, Orinska Z, Duitman E, Brandt K, Ludwig A, Hartmann D, Lemke G, Saftig P, Bulfone-Paus S.
    Mol Cell Biol. 2005 Nov;25(21):9324-39.
    Retraction in: Mol Cell Biol. 2011 Mar;31(6):1330.
  10. A promiscuous liaison between IL-15 receptor and Axl receptor tyrosine kinase in cell death control.
    Budagian V, Bulanova E, Orinska Z, Thon L, Mamat U, Bellosta P, Basilico C, Adam D, Paus R, Bulfone-Paus S.
    EMBO J. 2005 Dec 21;24(24):4260-70. Epub 2005 Nov 24. Retraction in: EMBO J. 2011 Feb 2;30(3):627.
  11. Soluble Interleukin IL-15Ralpha is generated by alternative splicing or proteolytic cleavage and forms functional complexes with IL-15.
    Bulanova E, Budagian V, Duitman E, Orinska Z, Krause H, Rückert R, Reiling N, Bulfone-Paus S.
    J Biol Chem. 2007 May 4;282(18):13167-79. Epub 2007 Feb 27. Retraction in: J Biol Chem. 2011 Feb 18;286(7):5934.
  12. Reverse signaling through membrane-bound interleukin-15.
    Budagian V, Bulanova E, Orinska Z, Pohl T, Borden EC, Silverman R, Bulfone-Paus S.
    J Biol Chem. 2004 Oct 1;279(40):42192-201. Epub 2004 Jul 28. Retraction in: J Biol Chem. 2011 Mar 11;286(10):8708.
  13. ATP induces P2X7 receptor-independent cytokine and chemokine expression through P2X1 and P2X3 receptors in murine mast cells.
    Bulanova E, Budagian V, Orinska Z, Koch-Nolte F, Haag F, Bulfone-Paus S.
    J Leukoc Biol. 2009 Apr;85(4):692-702. doi: 10.1189/jlb.0808470. Epub 2009 Jan 21.
    Retraction in: J Leukoc Biol. 2011 Mar;89(3):489.

【白楽の感想】

《1》 調査と処分が甘い印象

調査と処分が甘い印象がある。1999年~2009年の13論文を撤回しているということは、公式に、11年間も研究ネカトをしていたことになる。ある意味、筋金入りだ。それなのに、解雇や停職ではなく、研究室縮小、大学院生・ポスドク受入れ禁止、3年間の研究費申請不可、研究費審査委員不可である。

1999年の論文はシルビアが34歳の時である。この時に発覚していれば、その後の不正は防げたはずだ。研究ネカトは「早期発見・厳罰対処」が重要だ。

ロシア人ポスドクはスケープゴートにされただけで、シルビア・ブルフォーネ=パウスが研究ネカトをしていたとみなす人もいる。調査が甘くシルビアの処分が甘いため、白楽も同様な印象を少し受ける(他の根拠はない)。

《2》 他の論文の信頼度

2011年に事件の渦中にあったシルビアだが、その後、メゲズニ

2012年に4報
2013年に3報
2014年11月1日までに1報

の論文を発表している。
研究成果をあげることは望ましいが、これらの論文は信頼されるのだろうか?

《3》 ポスドクの人生

研究ネカトとは別問題だが、ポスドクの人生も考えさせられる。

エレーナ・ブラノバ(Elena Bulanova)はロシア人ポスドクだが、シルビア研究室で、1999年~2010年の12年間、シルビアとの共著論文が23報ある。その内、第一著者は6報もある。11年間もポスドクだったことになる。

仮に、最短コースの研究者人生として、27歳でロシアで博士号を取得し、すぐにシルビア研究室に来て、1年後から論文を発表したとする。1999年で28歳。2010年では39歳である。論文は毎年2報出版している。論文数から判断すると、かなり有能である。しかし、39歳でもポスドクのままではかわいそうだ。そのような有能な人を、正規研究者に登用しないのは、研究者の人材育成システムに問題があるのではないか?

こんなに長期間ポスドクとして使っていないで、どこかに独立した研究室を持つように、シルビアは助力すべきだったのではないだろうか?

ドイツでは外国人(ロシア人)研究者は、研究室を主宰しにくいような差別があるのだろうか? そういえば、シルビア自身も外国人(イタリア人)で、差別を受けていたのだろうか?

振り返って考えると、日本ではロシア人(外国人)ポスドクに独立した研究室を持たせるシステムや文化をもっていない。日本の方が差別が強い。外国人留学生に日本語を教えないで英語だけでOKにしたら、彼らは日本に就職できない。

《4》 ポスドクの研究ネカトと教授の責任

大学院生やポスドクが研究ネカトをしたとき、教授の責任をどうとらえるといいのだろう?

論文で大きく得をする人は、第一著者と教授である。

米国では、テクニシャン(技術員、有給)のメラニー・ココニス(Melanie Cokonis)がデータねつ造で有罪とされても、上司は責任を問われなかった。

日本では、大阪大学医学部の下村伊一郎教授、竹田潤二教授、医学生のデータねつ造事件があった。論文の筆頭著者である医学生(無給)が単独でねつ造したとされた(本人は後で否定)。責任著者である両教授は監督不意行き届きで軽微な処分だった。

大学院生(日本では無給、欧米では有給)やポスドク(有給)と教授との関係が、国によって幾分異なる。有給なら研究者として責任を負わせて良いと考えるか?

そうではなくて、力関係が重要だろう。教授は大学院生やポスドクよりかなり権限が強い。その場合、教授の責任の方が重いとすべきだろう。

シルビア・ブルフォーネ=パウス:写真出典Allergieforschung in Borstel