フェデリコ・インファシェーリ(Federico Infascelli)(イタリア)


2016年8月25日掲載。

ワンポイント:遺伝子組換え食品の安全/危険の研究では中立が成り立たないのか?

ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
ーーーーーーー

●1.【概略】

201010140213206984フェデリコ・インファシェーリ(Federico Infascelli、写真出典)は、イタリアのフェデリコ2世・ナポリ大学(University of Naples Federico II)・教授で、獣医師である。専門は獣医科学(動物栄養学)だった。

インファシェーリは遺伝子組換え作物反対の立場の人だが、2010年から2015年の論文で、遺伝子組換え作物を飼料に与えたヤギのミルクに、外来遺伝子の断片が入っていたと結論した。つまり、ミルクを飲む人間の健康を害する可能性があると。

2015年(54歳?)、ミラノ大学(イタリア)の神経科学者・元老院議員のエレナ・カッターネオ教授(Elena Cattaneo)が論文の画像がねつ造・改ざんだと指摘した。

この事件の日本語解説は1つ以上あった。「Nature ダイジェスト」の文章を本文に引用した。

なお、フェデリコ2世・ナポリ大学(University of Naples Federico II)は、「Times Higher Education」の大学ランキングでイタリア第7位の大学である(World University Rankings 2015-2016)。 → World University Rankings 2016 | Times Higher Education

KONICA MINOLTA DIGITAL CAMERA
KONICA MINOLTA DIGITAL CAMERA

上の写真は、フェデリコ2世・ナポリ大学(University of Naples Federico II)。出典:By Jeffmatt at English Wikipedia – Transferred from en.wikipedia to Commons., Public Domain。

  • 国:イタリア
  • 成長国:イタリア
  • 研究博士号(PhD)取得:オランダのヴァーヘニンゲン大学(Wageningen Agricultural University
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1961年1月1日生まれとする。1985年に獣医師免許(DVM)取得とあったので
  • 現在の年齢:56 歳?
  • 分野:動物栄養学
  • 最初の不正論文発表:2010年(49歳?)
  • 発覚年:2015年(54歳?)
  • 発覚時地位:フェデリコ2世・ナポリ大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はミラノ大学(イタリア)の神経科学者・元老院議員のエレナ・カッターネオ教授(Elena Cattaneo)で、学術誌とフェデリコ2世・ナポリ大学に通報
  • ステップ2(メディア): イタリアの新聞(推定)や「パブピア(PubPeer)」など
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集局。②フェデリコ2世・ナポリ大学・調査委員会
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:2報が撤回された
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 結末:辞職なし

federico-infascelli

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1961年1月1日生まれとする。1985年に獣医師免許(DVM)取得とあったので
  • 1985年(24歳?):イタリアのフェデリコ2世・ナポリ大学(University of Naples Federico II)で獣医師免許(DVM)取得
  • 1992年(31歳?):オランダのヴァーヘニンゲン大学(Wageningen Agricultural University)で研究博士号(PhD)取得。動物科学
  • 2003年(42歳?):イタリアのフェデリコ2世・ナポリ大学(University of Naples Federico II)・教授
  • 2015年7月(54歳?):研究ネカト疑惑が発生
  • 2016年3月(55歳?):フェデリコ2世・ナポリ大学が調査結果を公表し、不正疑惑があるとした

●3.【動画】

【動画1】
ビデオで発言:「ASSOCIAZIONE SUR – Prof. Infascelli (nutrizione degli animali da reddito) – YouTube」(イタリア語)1分44秒。
associazionesurが2010/01/21 にアップロード

【動画2】
講演会:「Roma 31 10 15 Agroecologia FEDERICO INFASCELLI Univ Napoli Rischio OGM alimentazione zootecnica」(イタリア語)23分04秒。
ACCADEMIA DELLA LIBERTA’ | RELOADED が2015/11/10 に公開

●4.【日本語の解説】

★2016年1月21日:アリソン・アボット(Alison Abbott)(翻訳:三枝小夜子)「遺伝子組換え作物の危険性を指摘する論文に不正疑惑」

出典 → Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160420。原文:Nature (2016-01-21) | doi: 10.1038/nature.2016.19183 | GM-crop papers spark probe 。
Alison Abbott 遺伝子組換え作物の危険性を指摘する論文に不正疑惑 | Vol. 13 No. 4 | Nature ダイジェスト | Nature Research (保存版

遺伝子組換え作物を食べて育った動物に有害な影響が出ているとするナポリ大学(イタリア)のある研究室の論文が、データ加工の疑いにより学内調査を受けている。問題の論文を発表した研究室のリーダーは、この指摘には何の根拠もないとしている。

調査のきっかけは、ミラノ大学(イタリア)の神経科学者でもある元老院議員のElena Cattaneoが、この研究に疑問を抱いたことだった。「遺伝子組換え作物をめぐる論争にこれらの論文が政治的に利用されているという点でも、本件は非常に重要なのです」と彼女は言う。

論文はいずれもナポリ大学の獣医科学者Federico Infascelliの研究室が発表したもので、遺伝子組換えダイズを食べて育った母ヤギから生まれた子ヤギについて実験を行った結果、ダイズに組み込まれた外来遺伝子の断片が母ヤギの小腸から体内に取り込まれ、乳汁中に分泌されて、それを飲む子ヤギの体に影響を及ぼすことが確認されたと報告していた。

Cattaneoは、3本の論文全てに問題がありそうな点を発見した。電気泳動ゲルの画像のいくつかの区画が消されているように見えた上、別々の論文に使われている画像のいくつかが、キャプションによれば異なる実験のものであるはずなのに、全く同じに見えたのだ。

そこで彼女は、生物医学サービス会社バイオ・デジタル・バレー(BioDigitalValley;イタリア・アオスタ)のCEOであるEnrico Bucciに論文の科学捜査を依頼した。分析の結果、論文の画像には確かに加工されたものや再利用されたものがあることが判明した。

Cattaneoは2015年9月に論文掲載誌に連絡し、同11月にはナポリ大学に分析結果を送付した。同大学の学長である工学者のGaetano Manfrediは、学内外の科学者からなる調査委員会を設置した。2016年1月の時点で調査はほぼ完了していて、Manfrediは、2月末には大学としての対応を発表できるだろうとしている。

しかし、イタリアの新聞La Repubblicaによると、Infascelliは、こうした指摘には何の根拠もなく、自分が論文について相談した専門家は、データが加工されている可能性を否定したと反論しているそうだ。Natureはこの件につきInfascelliに問い合わせたが、調査が終了するまで話すことはできないと拒絶された。

2016年1月14日、Bucciは、問題の3本の論文の他、Infascelliが共著者になっている遺伝子組換え飼料に関する4本の論文と、Infascelli研究室の博士論文1本の分析結果をスライドシェア(slideshare)というサイトに投稿した(https://www.slideshare.net/secret/L8m5Whh4lrvmXZ)。

それによると、8本の論文全てに画像が加工された証拠が見つかったという。BucciはManfrediとInfascelliにもこの結果を伝えた。

Cattaneoが明らかにした事実を論文掲載誌に送付してから、調査中の3本の論文のうち1本が撤回された。その論文はFood and Nutrition Sciencesに発表されたもので、取り下げ理由は「自己剽窃」であった。同誌は、研究結果は今でも有効であり、問題とされた行為は「悪意のない間違い」にすぎないとしている。

ジョージア大学(米国アセンズ)の植物遺伝学者Wayne Parrottは、3本の論文の画像加工についてCattaneoとは独立に調査し問題を指摘していた他、遺伝子組換え飼料がウサギの代謝に影響を及ぼすというInfascelli研究室の別の論文についても疑問を投げかけていた(後者の論文はBucciの分析結果でも言及されている)。Parrottも論文掲載誌にこの問題を報告している。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

2010年、2013年、2015年、フェデリコ・インファシェーリは、後に問題視される論文を3報発表した。

1つ目の「2010年のAnimal」論文。

  • Fate of transgenic DNA and evaluation of metabolic effects in goats fed genetically modified soybean and in their offsprings.
    Tudisco R, Mastellone V, Cutrignelli MI, Lombardi P, Bovera F, Mirabella N, Piccolo G, Calabrò S, Avallone L, Infascelli F.
    Animal. 2010 Oct;4(10):1662-71. doi: 10.1017/S1751731110000728. PMID:22445119

2つ目の「2013年のFood Nutr. Sci.」論文。

  • Gamma-Glutamyl Transferase Activity in Kids Born from Goats Fed Genetically Modified Soybean
    Vincenzo Mastellone, Raffaella Tudisco * , Giovanni Monastra, Maria Elena Pero, Serena Calabrò, Pietro Lombardi, Micaela Grossi, Monica Isabella Cutrignelli, Luigi Avallone, Federico Infascelli
    Food Nutr. Sci. 4, 50–54 (2013).

3つ目の「2015年のSmall Rumin. Res.」論文。

  • Genetically modified soybean in a goat diet: Influence on kid performance
    R. Tudisco, S. Calabrò, M.I. Cutrignelli, G. Moniello, M. Grossi, V. Mastellone, P. Lombardi, F. Infascelli
    Small Rumin. Res. 126, 67–74 (2015).
    DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.smallrumres.2015.01.023

前章の「4.【日本語の解説】」で引用した文章を再掲すると、フェデリコ・インファシェーリは、これらの論文で、次のような主張をした。

遺伝子組換えダイズを食べて育った母ヤギから生まれた子ヤギについて実験を行った結果、ダイズに組み込まれた外来遺伝子の断片が母ヤギの小腸から体内に取り込まれ、乳汁中に分泌されて、それを飲む子ヤギの体に影響を及ぼすことが確認された。

子ヤギでなくても、乳汁中に分泌されれば、ヤギの乳を飲んだり加工品を食べる人間は外来遺伝子の断片を摂取することになる。つまり、人間の健康を害する可能性がある。ヤギでそうなら牛でも同じだろう。牛乳を飲む人間の健康を害する可能性がでてくる。

2015年7月8日、フェデリコ・インファシェーリはイタリア議会の「農業生産の上院委員会」(Commissione Agricoltura e produzione agroalimentare del Senato)で数人の有識者の1人として意見を述べた(1回目は7分24秒)。
→ ビデオのサイト:16:03 Federico Infascelli をクリックすると7分24秒の話が始まる(イタリア語)。16:15に再度6分46秒話している: Commissione Agricoltura e produzione agroalimentare del Senato (8.07.2015)保存版

この委員会に、ミラノ大学の著名な幹細胞研究者で終身上院議員あるエレナ・カッターネオ教授(Elena Cattaneo)が出席していて、研究結果に疑問を抱いた。

研究ネカト疑惑の発端である。

140739739-489ad9bc-0c32-4bc1-848e-06cda01a465eミラノ大学のエレナ・カッターネオ教授(Elena Cattaneo)、写真出典

2015年7月28日、エレナ・カッターネオ教授は「農業生産の上院委員会」で呈した疑念を含め、公開手紙で問題点を指摘した。
→ 手紙の原文(イタリア語):http://www.scienzainrete.it/files/lettera_prof_infascelli_2015_07_28.pdf
→ 手紙のグーグル翻訳(英語):Google Translate

しかし、インファシェーリはこの公開手紙を無視したのである。

それで、カッターネオ教授はインファシェーリの論文を丹念にチェックした。すると、幾つかのねつ造・改ざんが見つかってきた。

カール・ハロ・フォン・モゲル(Karl Haro von Mogel)下図は、カッターネオ教授が指摘したのと同じだが、パブピアで指摘された図を、【主要情報源】①のカール・ハロ・フォン・モゲル(Karl Haro von Mogel、写真出典同)がまとめた図である。
→ パブピアの指摘:PubPeer – Genetically modified soybean in a goat diet: Influence on kid performance

1445911915776「2010年のAnimal」論文の図を「2015年のSmall Rumin. Res.」論文で別の図(試料名が異なる)として使用している。さらに、「2015年のSmall Rumin. Res.」論文で再使用した時は、コントロール(最右のレーン)を切り取って、バックグランドが綺麗になるように加工している。

図「2010年のAnimal」論文の図を「2013年のFood Nutr. Sci.」論文でも再使用している。

2015年12月15日、カッターネオ教授が学術誌に通報し、学術誌「Food Nutr. Sci.」はようやく、「2013年のFood Nutr. Sci.」論文を撤回した。ただし、撤回理由は、ねつ造・改ざんではなく自己盗用だった。論文の結論は有効だとしている。
→ http://file.scirp.org/pdf/FNS_2013061411054679.pdf保存版

なお、「2013年のFood Nutr. Sci.」論文の学術誌「Food Nutr. Sci.」はパブメドのリスト対象に入っていない。ビール(Beall)の捕食出版社リストの学術誌と認定されている。
→ ビール(Beall)の捕食出版社リスト:LIST OF PUBLISHERS | Scholarly Open Access

おまけに、インファシェーリはこの学術誌「Food Nutr. Sci.」の編集員でもある。
→ EditorialBoard – FNS – Scientific Research Publishing保存版

2016年3月、フェデリコ2世・ナポリ大学は調査結果(途中結果?)を公表し、「複数の異質な点があり、これらは、画像をデジタル加工をしたためと思われる。そのため、論文内容の信頼性に重大な疑念が生じた」と述べた。

hqdefault2016年3月、大学の調査結果を受け、「2010年のAnimal」論文が撤回された。

2016年8月24日現在、フェデリコ2世・ナポリ大学は調査を終えていない(推定)。インファシェーリは辞職していない。

●6.【論文数と撤回論文】

2016年8月24日現在、パブメド(PubMed)で、フェデリコ・インファシェーリ(Federico Infascelli)の論文を「Federico Infascelli [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2003~2016年の14年間の5論文がヒットした。

5論文とはとても少ない。

「Infascelli F[Author]」で検索すると、2003~2016年の14年間の18論文がヒットした。

フェデリコ2世・ナポリ大学のサイトでは90論文以上がリストされている。
→  FEDERICO INFASCELLI – www.docenti.unina.it保存版

2016年8月24日現在、上記パブメド論文では、撤回論文の表記はない。

しかし、【主要情報源】②によれば、以下の2論文が撤回されている。最初の「2013年のFood Nutr. Sci.」論文はパブメドのリスト対象に入っていない。2つ目の「2010年のAnimal.」論文はパブメドのリスト対象に入ってるが、撤回の表示がない。

●7.【白楽の感想】

《1》大金がらみの研究の中立性

遺伝子組換え食品の研究結果の受けとめ方が難しい。

schermata_2015-09-08_alle_10_03_06「安全」と言えば、賛成派からの支援を受けているとされ、「危険」と言えば、反対派からの支援を受けているとされる。それぞれ、大きなお金が絡む。

どちらの派でも、事実を捻じ曲げてでも金銭的な利益を優先しようと画策することは容易に想像がつく。

遺伝子組換え食品に反対の立場で結果を捻じ曲げた「ジル=エリック・セラリーニ(Gilles-Eric Seralini)(仏)」の事件もあった。

今回のフェデリコ・インファシェーリも、遺伝子組換え食品に反対の立場で結果を捻じ曲げた。

ところが、遺伝子組換え食品に賛成の立場で結果を捻じ曲げたという研究ネカト事件は報道されていない。賛成派の論文に研究ネカトはないのだろうか? それとも、賛成派の論文は反対派の論文ほど詮索されない、あるいは発覚しても火事にならないうちに消され、隠蔽されてしまうのか?

そもそも、大金が絡む研究テーマ、政治色が濃い研究テーマは、中立の研究が成り立たないのだろうか?

研究するには研究費が必要で、その出所は、政府助成金を含め、最初から賛成・反対の色がついている。

《2》論争テーマの論文はクリーン?

論争となる研究論文は相手側陣営から精査され、研究ネカトは詳細にチェックされる。少しの疑念でも指摘され・糾弾される。

となると、論争となる研究テーマでは、一般的に、出版された研究論文の研究ネカトは少ないかもしれない。

研究ネカトを含め、本旨と異なるところで足を引っ張られたのでは、主張が通らなくなる。

それで、研究内容の質はともかく、それ以外のことではクリーン度が高いだろう。それは、ある意味、良い面でもあるだろう。

ただ、非難する時、重箱の隅にあった些細な間違いを針小棒大に指摘しているのか、あるいは、相手の圧力・攻撃に負けずに事実を誇張せずに主張し続けているのか、第三者にはわかりにくい(わからない)。

●8.【主要情報源】

① 2016年1月15日のカール・ハロ・フォン・モゲル(Karl Haro von Mogel)の「Biology Fortified, Inc」記事:Italian research group subject of data fabrication probe – Biology Fortified, Inc.保存版
② 2016年1月17日などのシャノン・パラス(Shannon Palus)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:You searched for Federico Infascelli – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 「パブピア(PubPeer)」のフェデリコ・インファシェーリ(Federico Infascelli)記事:PubPeer – Gamma-Glutamyl Transferase Activity in Kids Born from Goats Fed Genetically Modified Soybean
④ 2016年1月18日のアリソン・アボット(Alison Abbott)の「Nature」記事。日本語訳を本文で引用:Italian papers on genetically modified crops under investigation : Nature News & Comment保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
maxresdefault

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です