「医療」:ファリド・ファタ(Farid Fata)(米)


ワンポイント: 553人に無用な癌治療をし、臓器損傷や死に至らしめた医師。逮捕、刑期45年

【概略】
150701-farid-fata-mn-1350_8bd151f5bb1d79349d9b2c7ad76a2f2c_nbcnews-ux-2880-1000ファリド・ファタ(Farid Fata、写真出典)は、レバノン出身で米国・ミシガン州のミシガン血液腫瘍学病院(Michigan Hematology Oncology)・院長・医師になった。専門は癌の化学療法だった。

病院経営が上手で、この地域に7つの癌関連病院を運営していた。

ところが、その実態は、大半は癌ではない553人に不必要な治療をし巨額のお金(数百億円)を得ていたのである。強力な治療を受けた健常人の多くは臓器損傷を受け、または死亡した。

2013年に逮捕され、2015年7月10日(50歳)、刑期45年の判決が下った。米国では新聞・テレビで大報道され大事件になった。

【動画】 2015/07/10に公開
▶ Cancer doctor Farid Fata sentenced to 45 years in prison – YouTube

Cancer doctor Farid Fata sentenced to 45 years in prison

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ほとんどの米国の研究助成機関〈科学庁(NSF)を含む〉は、監察官(inspector-general)がいて、監察官は研究ネカトを含めた「研究上の不正行為」を調査する権限を持ち、刑事訴追に持ち込むことが可能である。

ところが、研究公正局(健康福祉省の1部局)は、「研究上の不正行為」の調査権限はあるが、クロと判定しても、刑事訴追に持ち込むことはできない。刑事訴追に持ち込むには、司法省または健康福祉省の監察官(inspector-general)に依頼するしかない。

そして、健康福祉省の監察官(inspector-general)は医療詐欺(Health care fraud)事件で手一杯で、研究ネカト事件を処理する余裕はない。だから、生命科学研究者が研究ネカトで刑事訴追されるのは稀である、と言われている。

医療詐欺事件を具体的に知ることで、研究ネカト事件との違いや重要性を認識しよう。

Dr-Farid-Fata-denies-5-news-chargesファリド・ファタ(Farid Fata)は、素敵な病院を経営していた。

無題ミシガン州オークパーク(Oak Park)のミシガン血液腫瘍学病院(Michigan Hematology Oncology)。ファリド・ファタ(Farid Fata)のオフィスがあった。写真出典 Photograph: Carlos Osorio/AP。

【動画】
ABCニューズ「Judgment Day For Michigan Doctor Farid Fata Accused of Misdiagnosing Patients With Cancer」(英語)2分32秒。
ABCニューズが2015/07/10 に公開

  • 国:米国
  • 成長国:レバノン
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1965年頃。仮に、1965年1月1日とする。
  • 現在の年齢:52 (+1)歳
  • 分野:がん臨床
  • 最初の不正治療:2007年8月(42歳)以前から
  • 発覚年:2013年(48歳)
  • 発覚時地位:民間病院のミシガン血液腫瘍学病院(Michigan Hematology Oncology)・院長・医師
  • 発覚:部下(病院の管理部長)の調査と通報
  • 調査:①連邦捜査局(FBI-Federal Bureau of Investigation)。②裁判所
  • 不正:医療詐欺
  • 被害数:553人。少なくとも、政府(Medicare)の9100万ドル(約91億円)の医療費
  • 時期:医師キャリアの初期から
  • 結末:逮捕、刑期45年、罰金

【経歴と経過】

  • 1965年頃:レバノンで生まれる。仮に、1965年1月1日生まれとする。
  • 1987年?(22歳?):レバノンのレバニーズ大学(Lebanese University)科学部の学士号取得
  • 1992年?(27歳?):米国・フィラデルフィアのセント・ジョゼフズ大学医学大学院(Saint Joseph’s University / Faculty of Medicine)を卒業。医師免許取得
  • 1996年(31歳?):米国・ニューヨークのメイモナイズ病院(Maimonides Medical Center)で研修医を終了
  • 20xx年(3x歳):ミシガン血液腫瘍学病院(Michigan Hematology Oncology)を開設
  • 2013年(48歳):ミシガン血液腫瘍学病院(Michigan Hematology Oncology)系列の7つの病院を経営するまでに発展させ、ミシガン州では民間病院として最大の病院の院長・経営者になっていた
  • 2013年7月(48歳):医療詐欺が発覚する
  • 2013年8月6日(48歳):連邦捜査局(FBI-Federal Bureau of Investigation)が逮捕
  • 2014年9月30日(49歳):米国・連邦地方裁判所で有罪となる
  • 2015年7月10日(50歳):米国・連邦地方裁判所で刑期45年の判決が下った

【医療詐欺の内容】

日本語で事件を紹介している記事があったので引用する。

2015年4月28日の「日本や世界や宇宙の動向」記事( 米 医師の詐欺行為 癌と診断して金儲け

1年前[2014年]、ミシガン州の有名な癌専門医(Dr. Farid Fata)は、法廷で、健康な人々に対し故意に癌であると嘘の診断をしたことを認めました。さらにDr.Fetaは利益を得るために健康な人々に治療薬を与えたことも認めました。

医師がお金を稼ぐために偽の診断を行うなど。。誰が想像したでしょう。(・・・中略・・・)

Dr.Fetaは法定の有罪答弁で何年も前から、故意に患者に不必要な治療薬を投与した事を認めました。

Dr.Fataは3500万ドルの メディケア詐欺(医療的)を働き、不必要な腫瘍や血液の治療薬を患者に与え、国に医療費の請求をしたために告発されました。

政府によるとDr.Fetaは2009年からミシガンの血液・癌センターを通してクラークストン、ブルームフィールドヒルズ、ラピア、スターリンハイツ、トロイ、オークパークの診療所にて医療ビジネスを展開し詐欺行為を行ってきました。

Dr.Fataは1200人の患者を診療し6200万ドルもの医療費を受け取っていました。つまり彼は1億5千万ドルもの医療費を国に請求していました。

米連邦検事はDr.Fataに対しヘルスケアに置いて最悪の詐欺行為を行ったとして終身刑を求める予定です。

Dr.Fataは、医学界では良くあるのだが、国を騙しただけでなく患者に害を与えたと検事は言っています。

2015年7月11日の「Sputnik 日本」記事(米国のガン専門医 健康な患者に化学治療

米国でガン専門医に対し、健康に害のある治療を患者達に行ったとして禁固45年の判決が下された。

マスコミ報道によれば、デトロイト出身の医師ファリド・ファタは、間違った診断をし、健康な患者に化学治療を受けさせ、人体に破滅的な悪影響を及ぼした。

ファタ医師は「ヒポクラテスの誓いに反し、患者達の信頼を損ねてしまった。この傷をどう癒す事ができるのか分からない。言葉で言い表せない程、悲しく恥ずかしく思っている」と述べた。

米国検察当局は、ファタ医師を「許す事の出来ない詐欺師」だと断じ、複数のガン患者の治療に対し保険会社から受け取った1760万ドルを没収した。

【医療詐欺発覚の経緯】

ファタは逮捕されたとき、米国・ミシガン州の民間病院では最大のミシガン血液腫瘍学病院(Michigan Hematology Oncology)を経営していた。ミシガン血液腫瘍学病院はミシガン州の7か所にがん病院を設けていた。

米国・ニューヨークのスローン・ケタリング記念癌研究所(Memorial Sloan Kettering Cancer Center)で癌化学療法の経験を積み、癌治療医師としての経歴には申し分なかった。

2013年(48歳)、ファタが経営するミシガン州ロチェスターのクリッテントンがん病院(Crittenton Cancer Center)の管理部長・ジョージ・カラディシェ(George Karadsheh)は、病院の医師・看護師が頻繁にやめるのを不審に思っていた。

ある時、辞める医師に、「どうしてやめるのか?」と聞くと、その医師が「ここでは、必要ない化学療法をしているからだ」と答えたのだ。

それで、カラディシェは調べ始め、ファタ医師は不必要な治療を行なっていることを突き止め、連邦捜査局(FBI-Federal Bureau of Investigation)に伝えた。
chemotherapy 上のように元気だった癌患者がファタ医師のせいで、亡くなった。
CANCER FRAUD DOCTOR

2013年8月6日(48歳)、連邦捜査局(FBI)はクリッテントンがん病院(Crittenton Cancer Center)に突入し、ファタ医師を逮捕した(FBI — Oakland County Doctor and Owner of Michigan Hematology and Oncology Centers Charged in $35 Million Medicare Fraud Scheme)。

【動画】 2013/08/11 に公開
Doctor Accused of Mistreating Cancer Patients for Medicare Payments – YouTube

逮捕されたとき、ファタ医師は、「自分の能力を使い間違えました。権力と欲望のためにこのような不正治療をしてしまいました。権力への欲求が自滅的に強かったのです」と述べた。

ファタ医師の逮捕により、その不当な治療の実態が報道された。多数の患者とその家族は、激怒し、落胆し、嘆き悲しんだ。最愛の夫や家族が不必要な化学療法で亡くなったり不具になってしまったのである。

Nurse_talks_about_condition_of_Dr__Farid_821710000_20130809172523_640_480事件が公になって、ミシガン血液腫瘍学病院(Michigan Hematology Oncology)の元看護師・アンジェラ・スワンテック(Angela Swantek、写真)は、「治療が異常だと2010年に訴えていた」と証言している。

【裁判】

ファタ医師は、2007年8月から2012年7月に発覚するまでの丸6年間にわたり、計2億2500万ドル(約225億円)の医療費を政府(Medicare)に請求していた。その約半分の1億900万ドル(約109億円)は化学療法に対するもので、残りの約半分はその他の治療に対するものだった。

そして、政府(Medicare)はすでに計9100万ドル(約91億円)をファタ医師に支払っていた。その上、民間の保険会社も巨額な保険金をファタ医師とファタ医師の患者に支払っていた。

Borman-photo%20(1)_02014年9月30日(49歳)、米国・連邦地方裁判所の裁判官(US District Judge)のポール・ボーマン(Paul Borman、写真出典)が、13件の医療詐欺、2件のマネーローンダリング(不正資金の合法化)、1件のキックバック要求でファタを有罪とした。(①Detroit-area doctor pleads guilty to widespread cancer treatment fraud | US news | The Guardian、②Agent: Farid Fata planned to buy $3M castle in Adma, Lebanon)。

2015年7月10日(50歳)、この日は、米国・連邦地方裁判所の裁判官(US District Judge)のポール・ボーマン(Paul Borman)が刑期を下す日だった。

多数の被害患者とその家族がバスをチャーターし、裁判所に集まり、法廷を傍聴あるいは法廷前でデモをした。

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cancer-doctor-fraud2015年7月10日、証言が終わり、裁判所前に出てきた被害者とその家族。写真出典

cancer-doctor-fraud22015年7月10日、裁判所前で、2007年に62歳で亡くなった母親(ファタ医師の患者)の遺影を示す娘・リズ・ルポ(Liz Lupo)。写真出典

ボーマン裁判官は、判決を述べる前に「本事件は、とても大きく、恐ろしい連続的な犯罪行為である」と述べた。

ファタは、「法廷では、何度もすすり泣き、慈悲を乞うた。彼の治療を求めて病院のドアをたたいた患者に間違った処置をしたことを悔いて、被害者に謝罪した」と報道されている。

書いていて白楽も怒りが湧いてきた。「すすり泣き、慈悲を乞うた」だとお、極悪非道人間はどうしてこう演技がうまいんでしょう。

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連邦検察官(US Attorney)のバーバラ・マッケード(Barbara McQuade、写真出典)は、「こんな非道な事件に譲歩はできません。終身刑を求めます。これは金を盗んだとかというレベルの犯罪ではありません。癌だと嘘をついて多くの人間を拷問したのです」。マッケード連邦検察官は、「終身刑は、この犯罪に正当な求刑です」と述べている。

結局、連邦検察官(Federal prosecutor)のキャサリン・ディック(Catherine Dick)は、禁固175年を求刑した。

一方、ファタ側は刑期を25年と主張した。

検察はファタに譲歩しなかったので交渉が成立せず、ポール・ボーマン裁判官は刑期を決めるのにたくさんの審理が必要だった。それで判決を下すまで、数週間がかかった。

そして、ボーマン裁判官の判決は、45年の禁固刑だった。

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553人のほとんどの人は実際は癌ではなかった。ファタは、健康な人々に強力な化学療法を処置し、骨と臓器を衰弱させ、死に至らしめた。ある患者は、失業し、住居失い、破産した。それほどひどい50歳のファタ医師の犯罪行為に、45年の禁固刑だったのである。

2013年に逮捕され、すでに2年間拘留されているので、実質は禁固43年間になるし、刑務所で模範囚なら、刑期はさらに短縮される。

被害患者とその家族は、45年の禁固刑は短すぎると抗議した。
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被害者は、「刑期45年は少なすぎる」プラカードを掲げ、判決に判決に抗議し、メディアに訴えた。

cancer-doctor被害患者とその家族は団結を示す黄色のシャツやスカーフを身に着け、裁判所の前で、家族の遺影、「刑期45年は少なすぎる」プラカードを掲げ、判決に抗議した。

【私生活】

Farid Fataファリド・ファタ(Farid Fata)の美人妻・サマル・ファタ(Samar Fata、写真出典)は、医療詐欺とは無関係ではない。

サマル・ファタは、ミシガン血液腫瘍学病院(Michigan Hematology Oncology)・最高財務責任者(CFO)だった。ところが、身の危険を察知し、3人の子供を連れてレバノンに逃げてしまった。

39334-MariaYonanSamarFataRenellMansour-940d9775中央が妻のサマル・ファタ(Samar Fata)。2012年。写真出典

Farid-Fata-home-jpgファリド・ファタ(Farid Fata)一家は豪邸に住んでいた。

【論文数と撤回論文】

2015年8月5日、パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、ファリド・ファタ(Farid Fata)の論文を「Farid Fata[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2012年までの11年間の5論文がヒットした。

2002年に2報、2003年に2報で、所属はペンシルヴァニア州ダンビル(Danville) のGeisinger Medical Centerになっている。

2012年に1報で、所属はミシガン州オーバーンヒルズ(Auburn Hills)のSt. Joseph Mercy Oakland-Pontiacである。

2015年8月5日現在、撤回論文はない。

【防ぐ方法】

《1》犯罪を防ぐ方法

この事件は、研究ネカトを防ぐ方法というより、犯罪を防ぐ一般的な方法を適用するほうが妥当だろう。そして、この事件を防ぐのは刑罰しかないように思える。もっとも、刑罰を科しても、犯罪は依然として起こる。どうするとよいのか?

多くの人の健康を害しても金銭的な得をしようとファタの行為(犯罪)を未然に防ぐには、ファタの場合、どこをどうするとよかったのか?

刑罰を科し、方策を立てても、ファタの自己中心的な思考・強い金銭欲を考えると、人間の業の深さに絶望的な気分になる。

【白楽の感想】

《1》犯罪初期で修正

医療詐欺(Health care fraud)は、「だます」という点では研究ネカトと類似している。研究ネカトもそうだが、医療詐欺も発覚することが目に見えている。同僚の医師・看護師は注意すればわかるだろう。

今回の事件のような医療詐欺は、患者の健康被害は深刻で、多数の死者もでている。となると、刑罰は重い。それなのに、なぜ、ファタは実行したのだろう?

最初は違法ギリギリの軽微な行為から始め、発覚しなかった。もう少ししても大丈夫だった。軽微な行為の成功に味を占め、そして、ファタは、だんだん大胆かつ広範に行なうようになったのだろう。成り行きで、やめられない状態になって、破たんしたということだろう。

この過程は、研究ネカトでも同じである。さらに言えば、一般的に、大きな犯罪を犯す場合も同じだ。

人間心理をさらに拡張すると、犯罪でなく、善行であっても、人間のほとんどの行為は、軽微な行為から始め、成功に味を占めだんだん大胆かつ広範に行なうようになると言える。

善行だと、顕彰制度が初等教育から死ぬ直前まであるのに、犯罪の場合、軽微な初期段階で修正するメカニズム(発覚・処分)があまり発達しているように思えない。社会として、初期段階で発覚・処分するシステムを開発・導入すべきでしょう。
B99260889Z_1_20150610170357_000_GA5H4S8G_1-02012年(47歳)、悪事発覚前、スピーチするファリド・ファタ(Farid Fata)。高級スーツ着ているこんな医師に説得されると、患者・家族はコロッとだまされるだろう。写真出典

《2》日本の患者死亡事件

最近、日本の特定の病院で多数の患者が死んでいる。明らかに医療ミスだと思える。それなのに、日本では、どうして担当医が逮捕・投獄されないのだろう?

日本のファリド・ファタ(Farid Fata)は医師仲間の業界権益に守られ、患者は泣き寝りするしかないのか? なんかおかしい。

【主要情報源】
① 2014年9月30日の「The Guardian」記事:Detroit-area doctor pleads guilty to widespread cancer treatment fraud | US news | The Guardian
② 2015年7月11日のMia De Graaf と Sophie Jane Evansの「Daily Mail」記事:Dr Farid Fata dubbed a fraudster was turned in by office manager George Karadsheh | Daily Mail Online#ixzz3g0XQJC33#ixzz3g0XQJC33#ixzz3g0XQJC33#ixzz3g0XQJC33
③ 米国司法省のファリド・ファタ(Farid Fata)関連資料サイトリスト:Farid Fata – Department of Justice Search Results
④ 米国司法省のファリド・ファタ(Farid Fata)関連資料:U.S. v. Farid Fata: Court Docket 13-CR-20600 | USAO-EDMI | Department of Justice
⑤ 記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。