ドン・ポルダーマンス(Don Poldermans)(オランダ)

【概略】
141105 kim-eagle1[1]ドン・ポルダーマンス(Don Poldermans、1956年~)はオランダ人の循環器内科医で、オランダ・ロッテルダムにあるエラスムス大学(Erasmus University)・教授、エラスムス大学付属病院・エラスムス医療センター・周術期心臓ケアユニットのユニット長、欧州心臓学会・臨床ガイドライン委員だった。写真出典

ドン・ポルダーマンスは、心臓手術合併症の予防と管理では世界的に著名な研究で、500報以上の論文を出版していた。しかも、16報は100回以上引用され、1報は700回以上も引用された。

周術期という用語は手術の前後という意味で、ドン・ポルダーマンスは、心臓の手術の前後にベータ・ブロッカー(βブロッカー、β遮断薬、交感神経β受容体遮断薬)のビソプロロール(bisoprolol)を使用することで、心臓手術合併症のリスクが減ると提唱していた。

2011年(54歳)、内部から「研究上の不正行為」があるとの公益通報によりエラスムス大学調査委員会が調査していた結果が公表された。その結果、ドン・ポルダーマンスに「研究上の不正行為」がいくつも見つかり、エラスムス大学から解雇された。

なお、調査報告書は公表されている。委員名も公表され、記述は丁寧で、調査報告書の模範となる。

エラスムス大学(エラスムス・ロッテルダム大学)は、欧州の名門大学で、2014年-2015年のタイム誌の大学ランキングで世界72位、オランダ3位、医療医学分野で世界35位、オランダ1位だった(World University Rankings 2014-2015 – Times Higher Education)。

141105 ErasmusMC[1]エラスムス大学付属病院・エラスムス医療センター(Erasmus University Medical Center :Erasmus MC)。写真出典

  • 国:オランダ
  • 成長国:オランダ
  • 男女:男性
  • 生年月日:1956年■月■日
  • 現在の年齢:61 (+1)歳
  • 分野:循環器内科学
  • 最初の撤回論文発表: 2006年(49歳)
  • 発覚年:2011年(54歳)
  • 発覚時地位:エラスムス大学教授
  • 発覚:内部告発
  • 調査:エラスムス大学調査委員会(委員5人:氏名公表)、3回。①1回目:2011年7月28日~ 2011年11月8日の4か月 報告書②2回目:2012年1月1日~ 2012年9月30日の10か月  報告書③3回目: 2013年2月5日~ 2014年7月25日の1年5か月 最終報告書
  • 不正:ねつ造。医療手続きルールの違反
  • 不正論文数:撤回論文1報(2006年論文が2013年に撤回)。他に多数の不審論文がある。
  • 時期:研究キャリアの初期から?
  • 結末:エラスムス大学から解雇

★主要情報源:
① 2011年11月17日のリトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)の記事:Breaking news: Prolific Dutch heart researcher fired over misconduct concerns | Retraction Watch
② 2014年7月25日のエラスムス大学調査委員会・最終報告書
③ ウィキペディア:Don Poldermans – Wikipedia, the free encyclopedia

【経歴】
参考:http://repub.eur.nl/pub/23667

  • 1956年:オランダで生まれる
  • 1981年(24歳):オランダ・ロッテルダムにあるエラスムス大学(Erasmus University)を卒業。医師免許
  • 1982-1983年(25‐6歳):1年6か月、ハーグで医務官として勤務
  • 1983-1988年(26‐31歳):エラスムス大学・エラスムス医療センターの内科・研修医(教授は、Prof. Dr J. Gerbrandyと Prof. Dr M.A.D.H. Schalekamp)
  • 1989年(32歳):エラスムス大学・エラスムス医療センターの臨床微生物学・研修医(教授は、Prof. Dr M.F. Michel)
  • 1990年年(33歳):エラスムス大学・エラスムス医療センターのスタッフ
  • 2004年(47歳):エラスムス大学・エラスムス医療センター・周術期心臓ケアの教授
  • 2011年(54歳):不正研究が発覚する
  • 2011年(54歳)11月:エラスムス大学から解雇される。欧州心臓学会・臨床ガイドライン委員を辞任

【研究内容】

141105 Don[1]ドン・ポルダーマンスの研究内容の一部を、ノバルティス ファーマ株式会社のプレスリリース(2009年9月11日)から引用しよう。なお、フルバスタチン(Fluvastatin)は、肝臓でのコレステロール合成をおさえ、その結果、血液中のコレステロールを減らす薬である。写真出典

欧州では、年間およそ700万人の成人が命にかかわる非心臓の血管手術を受けますが、うち15万人から25万人(2.0%から3.5%)が重篤な心疾患を合併するとされています。

2009年9月3日、スイス・バーゼル発 — 本日、「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(New England Journal of Medicine)」に掲載されたDECREASE (Dutch Echocardiographic Cardiac Risk Evaluation Applying Stress Echocardiography) III試験の結果によると、周術期にフルバスタチン徐放製剤を投与し血管手術を行った患者さんにおいて、術後30日以内の術後心疾患の転帰がプラセボ群に比べ有意に改善したことが示されました。

エラスムスメディカルセンター(オランダ・ロッテルダム)で実施されたこの試験では、フルバスタチンを投与すると、総コレステロール値、LDLコレステロール(LDL-C)値が有意に低下し、高感度CRP値とインターロイキン-6濃度の低下によって反映される炎症の低下も有意に認められました。

この試験の実施者であるエラスムスメディカルセンターのドン・ポルダーマンス教授(Professor Don Poldermans)は次のようにコメントしています。「周術期心疾患イベントは、リスクの大きい血管手術を受ける患者さんにとって有害転帰の主要原因となるものなので、それらを減らすために一層努力する必要があります。」

DECREASE IIIは、リスクの高い血管手術を受ける患者さんを対象として行われた過去最大の無作為化・二重盲検・プラセボ対照スタチン試験です。この試験には、腹部大動脈瘤修復、遠位大動脈腸骨動脈再建、下肢動脈再建、頸動脈血管内膜切除などの心臓以外の血管手術を予定していてスタチンによる治療経験のない患者さん497名が参加しました。

それらの患者さんは、ベータ遮断薬の投与を受けるとともに、「フルバスタチン徐放製剤」群(1日80mg)(n=250)またはプラセボ群(n=247)に無作為割り付けされました。治療は手術の37日前(中央値)に開始され、術後30日間続けられました。術後30日以内に心筋虚血が発症したのは「フルバスタチン徐放製剤」群で27名(10.8%)、プラセボ群で47名(19.0%)で、「フルバスタチン徐放製剤」により発症リスクは45%(p=0.01)減少しました。

さらに、心血管系の原因による死亡または非致死的心筋梗塞に関しては、「フルバスタチン徐放製剤」群で12名(4.8%)、プラセボ群で25名(10.1%)と、「フルバスタチン徐放製剤」により発症リスクは53%(p=0.03)減少しました。有害事象に関して「フルバスタチン徐放製剤」群とプラセボ群の間に有意差はありませんでした。
http://www.novartis.co.jp/news/2009/pr20090911.html

【不正発覚の経緯】

★1回目調査報告書(Prominent Dutch Cardiovascular Researcher Fired for Scientific Misconduct – Forbes

2011年11月17日 エラスムス大学・エラスムス医療センターは、「研究上の不正行為」でドン・ポルダーマンス(Don Poldermans)を解雇したと発表した。実は、内部から公益通報があり、エラスムス大学・研究公正委員会が調査していたのである。

「研究上の不正行為」内容は、4点あった。

  1. 患者の承諾書(イニフォームド・コンセント)なしに患者のデータを使用した。
  2. 事前に申請した手順に従わないで患者のデータを集め論文に発表した。
  3. ねつ造。
  4. 信頼できないデータを含む論文を投稿した。

ドン・ポルダーマンスは「申しわけありませんでした」と謝罪したが、「意図的ではありませんでした」と述べている。

★2回目調査報告書

2012年9月30日 2回目調査結果を発表した。

2006年の「Coron Artery Dis」論文に、科学的に正しくない点があった。

  • 実際に研究された患者数と論文に記述された患者数が異なっていた。
  • 文書の出所 (患者の人物調査書)、診察記録、研究データベース、これらと論文の記述に重要な相違があった。

この理由で、「Coron Artery Dis」論文は撤回された。

★3回目調査報告書

2014年7月25日 エラスムス大学・研究公正委員会の報告書が公表された。以前の調査で漏れていた「ディクリースⅠ・プロジェクト(DECREASE I)」を調査した結果、医療記録に記載のない患者が記載されていた。データの信頼性に欠けると結論した。

【撤回論文】
2014年11月3日現在、撤回論文は1報。

  1. Baseline plasma N-terminal pro-B-type natriuretic peptide is associated with the extent of stress-induced myocardial ischemia during dobutamine stress echocardiography.
    Feringa HH, Elhendy A, Bax JJ, Boersma E, de Jonge R, Schouten O, Karagiannis SE, Schinkel AF, Lindemans J, Poldermans D.
    Coron Artery Dis. 2006 May;17(3):255-9.
    Retraction in: Coron Artery Dis. 2013 Dec;24(8):725

【事件の深堀】

【白楽の感想】

《1》 事件は難解

毎度のことであるが、「研究上の不正行為」の詳細を解読するのは、難解である。不正行為をした研究者は、なるべく隠す。一方、調査委員会の委員は研究者であって捜査のプロではないのでトコトン捜査しない。穏便に取り繕う、あるいは、研究機関・国へのイメージを悪くしないように、不正行為者をかばう傾向がある。

そして、白楽の情報源は、インターネット上の資料でしかない。

だから、この隠ぺいされ、バイアスの強い記事・資料を読み解くのは難しい。難解である。

《2》 誰が得するのか?

ドン・ポルダーマンスは47歳で教授就任だから、特段出世が早かったわけではない。地道な研究を積み上げ、真面目に生きてきた印象だ。目立つ点は、論文数が500報以上ととても多いことだ。これは、全部、自分で書いていないハズだ。また、共著者が書いた論文を充分に目を通さないで出版していることになる。それだけ、「研究上の不正行為」の罠におちいる危険は高い。

ドン・ポルダーマンスは著名な研究者なので、引きずり降ろすと得な人がいるハズだ。そして、ここでもそうだが、一般的に、得をした人物の情報がない。事件には、文字にされていない重要な事実があるように思えてならない。不都合な真実が隠されているに違いない。

科学では、提唱した説が間違っているなどは、純粋に科学上の問題として扱って欲しい。また、インフォームド・コンセントを取っていないなどの医療手続き上のミスも、研究ネカトとは切り離して扱って欲しい。利益相反、金銭問題、研究クログレイも含めたすべての「研究上の不正行為」を一緒に問題視すると、事実がボケてくる。

《3》 調査は難航する

2回目調査報告書の記述にあるのだが、調査委員会には強い捜査権がない。調査は難航したようだ。

以下の論文260と論文264についての議論は、難航する調査を記述している。論文260は撤回されていないが、論文264は撤回された。

  1. 論文260.
    Feringa HH, Bax JJ, Elhendy A, de Jonge R, Lindemans J, Schouten O, et al. Association of plasma N-terminal pro-B-type natriuretic peptide with postoperative cardiac events in patients undergoing surgery for abdominal aortic aneurysm or leg bypass. Am J Cardiol. 2006 Jul 1;98(1):111-5.
  2. 論文264.
    Feringa HH, Elhendy A, Bax JJ, Boersma E, de Jonge R, Schouten O, et al. Baseline plasma N-terminal pro-B-type natriuretic peptide is associated with the extent of stress-induced myocardial ischemia during dobutamine stress echocardiography. Coron Artery Dis. 2006 May;17(3):255-9.

上記に関して次の記述がある。

  •  これらの論文の大部分は事実と一致しない架空データで満たされていました。
  • 委員会は、これらの論文が悪意を持った人によって意図的に作られたと考えました。
  • どのようにデータをだしたか質問すると、第一著著者(Feringa HH)と主任研究者(PI、ドン・ポルダーマンスのこと)の2人の説明は矛盾していました。そして、それぞれ他方を非難するのです。また、両者とも、患者向け情報と研究データを照合しなかったと述べました。それで、委員会は、この架空データの作成者を特定できできず、特定の人に責任を負わせることができませんでした。

《4》 不正の社会的影響度の勘案

ドン・ポルダーマンスは心臓手術合併症の予防と管理が専門で、欧州の医療ガイドラインを作成する立場の人だった。データが間違っていると、患者に健康被害が起こる可能性がある。対象となる患者数が多いと、健康被害も多くなる。

研究上の不正行為は、研究ネカトや研究クログレイという分類以外に、不正の影響度も勘案した方が良いだろうか?

工学分野のデータねつ造・改ざんは、論文に従うと製品が造ることができないので、論文自身が信用されない。基礎医学でのデータねつ造・改ざん(単なる間違いも)は、患者の健康被害に至らない。

一方、臨床のデータねつ造・改ざん(単なる間違いも)は、患者の健康被害が起こる。

話が大ざっぱだが、要するに、「研究上の不正行為」に社会的影響を勘案した方が良いのだろうか? 一度、深く考えたほうがよい問題だ。

141105 poldermans[1]写真 http://cardiobrief.org/tag/poldermans/