カルロ・クローチェ(Carlo Croce)(米)


2017年4月3日掲載。

ワンポイント:イタリアで生まれ、イタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学で医師免許を取得した男性。1970年(25歳)に米国に渡り、ウィスター研究所・研究員、テンプル大学医科大学院・教授などを経て、2004年(59歳)にオハイオ州立大学・教授になった。米国で、総額8600万ドル(約86億円)以上の研究費を得、米国・科学アカデミー(医学部門)会員に選ばれ、各種の賞を受賞したスター研究者になった。一方、過去に何度も金銭的不正疑惑、ネカト疑惑が生じ、その都度、切り抜けてきた。ところが、2017年4月2日現在(72歳)、改ざんと盗用で、オハイオ州立大学が調査中である。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

カルロ・クローチェ(Carlo M. Croce、写真出典)は、イタリアで生まれ、イタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学で医師免許を取得した。その後、1970年(25歳)に米国に渡り、ウィスター研究所・研究員、テンプル大学医科大学院・教授などを経て、2004年(59歳)にオハイオ州立大学(Ohio State University)・教授になった。研究博士号(PhD)を取得していない。専門はがんの分子生物学(マイクロRNA)で、米国で総額8600万ドル(約86億円)以上の研究費を得た著名な研究者である。米国・科学アカデミー会員でもあり、日本人の弟子も多い。1996年に癌の原因になる「fragile histidine triad — FHIT」タンパク質の遺伝子を発見した。

クローチェは、過去に何度も金銭的な不正疑惑、ネカト疑惑が生じ、その都度、切り抜けてきた。

2013年(68歳)には、ネカト・ハンターのクレア・フラシスがオハイオ州立大学と研究公正局にクローチェのネカトを通報した。

しかし、2013年12月(68歳)、オハイオ州立大学は大した調査もせずに、問題視された論文はクローチェが連絡著者ではなく、オハイオ州立大学で作成されたものでもないと、クレア・フラシスの申し立てを突っぱねた。

2014年(69歳)、ところが、今度は、パーデュー大学のデーヴィッド・サンダース・準教授(David A. Sanders)が、クローチェの論文に改ざんと盗用があると学術誌、研究公正局、オハイオ州立大学に通報した。

また、2017年3月8日(72歳)、ジェームス・グランツ(James Glanz)記者とエイグスチン・アルメンダリツ(Agustin Armendariz)記者の「New York Times」紙の記事で、クローチェの今までの金銭的な不正疑惑、ネカト疑惑が詳しく報じられた。

この2つのことを受け、2017年3月(72歳)、オハイオ州立大学はクローチェの改ざんと盗用の再調査を始めた。

2017年4月2日現在(72歳)、オハイオ州立大学は依然として、クローチェのネカトを調査している。クローチェはネカトを否定していて、論文共著者がネカトの主犯という可能性もでてきた。

なお、共著者の1人でイタリア在住のアルフレド・フスコ(Alfredo Fusco)は、9論文が撤回され、ネカト疑惑が濃厚である。しかし、フスコが共著者ではない論文でもネカト疑惑が生じているので、別のネカト者がいる可能性も高い。
→ アルフレド・フスコ(Alfredo Fusco)(イタリア) | 研究倫理(ネカト)

オハイオ州立大学(Ohio State University)・医科大学院と病院。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:イタリア
  • 医師免許(MD)取得:イタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1944年12月17日
  • 現在の年齢:72 歳
  • 分野:がんの分子生物学
  • 最初の不正:1994年(49歳)
  • 発覚年:1994年(49歳)
  • 発覚時地位:トーマス・ジェファーソン大学(Thomas Jefferson University)・教授
  • ステップ1(発覚):①2013年にクレア・フラシスの研究公正局とオハイオ州立大学への公益通報。②2014年にパーデュー大学のウイルス学者・デーヴィッド・サンダース・準教授の学術誌、研究公正局、オハイオ州立大学への公益通報。
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「New York Times」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①トーマス・ジェファーソン大学・調査委員会。スミ。シロの結論。②オハイオ州立大学・調査委員会、調査中。③研究公正局の調査(?)
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。最終調査が終了していない
  • 不正:改ざん・盗用の調査中
  • 不正論文数:撤回論文が5報、訂正論文が10報
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 研究費:総額は8600万ドル(約86億円)以上。主な内訳 → ①8600万ドル(約86億円)。オハイオ州立大学に着任してから2910万ドル(約29億円)。
  • 結末:調査中であり、辞職なし。

ベルギーのマティルド王妃(Princess Mathilde of Belgium)(左)から2013年「InBev Baillet-Latour」賞を受けるカルロ・クローチェ(Carlo M. Croce)(右)。出典

●2.【経歴と経過】

  • 1944年12月17日:イタリアのミラノで生まれる
  • 1963-1969年(18-24歳):イタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学(La Sapienza University of Rome)を卒業。医師免許取得
  • 1970年(25歳):米国のウィスター研究所(Wistar Institute of Biology and Anatomy)・研究員
  • 1977年(32歳):ウィスター研究所・教授
  • 1988年(43歳):テンプル大学医科大学院(Temple University School of Medicine)・教授
  • 1991年(46歳):トーマス・ジェファーソン大学(Thomas Jefferson University)・教授
  • 1994年(49歳):金銭的不正とネカトでトーマス・ジェファーソン大学が政府に260万ドル(約2億6千万円)を支払う示談をまとめた。クローチェには不正がない
  • 2004年(59歳):オハイオ州立大学(Ohio State University)・教授
  • 2007年(62歳):金銭的不正とネカト発覚。クローチェには不正がない
  • 2010年(65歳):米国・科学アカデミー(医学部門)・会員(Member, Institute of Medicine (IOM) of the National Academies):Academy of Arts & Sciences Website Search
  • 2012年(67歳):オハイオ州立大学・殊勲教授(Distinguished University Professor)
  • 2013年12月(68歳):ネカト・ハンターのクレア・フラシス(Clare Francis)がクローチェの論文に改ざんがあると、研究公正局とオハイオ州立大学に通報した
  • 2013年12月(68歳):オハイオ州立大学はクレア・フラシスの申し立てを却下した
  • 2014年12月(69歳):パーデュー大学のウイルス学者・デーヴィッド・サンダース・準教授がクローチェの論文に改ざんと盗用があると、学術誌、研究公正局、オハイオ州立大学に通報した
  • 2017年3月8日(72歳):「New York Times」紙がクローチェの金銭的不正疑惑とネカト疑惑を記事にした
  • 2017年4月2日現在(72歳)、オハイオ州立大学はクローチェのネカトを調査中。

受賞(2000年以降のみ示す。出典:【主要情報源】①)

●3.【動画】

【動画1】
カルロ・クローチェ(Carlo M. Croce)の研究の解説:「Carlo Croce MD: 40 Years of Progress in Cancer Research – YouTube」(英語)9分07秒。
Ohio State University Comprehensive Cancer Center-James Cancer Hospital & Solove Research Institute が 2011/10/06 にアップロード

●4.【日本語の解説】

事件を解説した日本語はない。以下は、カルロ・クローチェ(Carlo M. Croce)の研究内容に関する日本語である。

★2008年:東京医学会 第2438回集会の案内:Carlo M. Croce博士

出典 → ココ

Carlo M. Croce 博士
Ohio State University Cancer Center(アメリカ)

microRNAs in Human Cancer

MicroRNA (miRNA)はタンパク質をコードしない内在性の小型 RNAであり、標的遺伝子の発現を転写後段階で抑制することにより個体の発生や細胞の増殖などを調節しています。近年では癌の発生と進展において miRNA が重要な役割を果たしていることが報告されていますが、この分野の研究は始まって間もなく、未解明の課題が多く残されています。Croce 博士は miRNA 研究における世界的権威であり、本セミナーでは miRNA の基礎的研究から、miRNA を用いた癌診断や治療への可能性について最新の知見をお話しいただく予定です。

★2013年?:関谷剛男「第7回AACR高松宮妃記念講演会報告」

出典 → ココ

米国癌学会(AACR)年会が、2013年4月6日(土)から4月10日(木)までの5日間、ワシントンDCで開催されました。
本年度のAACR高松宮妃記念講演会は、レクチャーシップ受賞者であるオハイオ州立大学医学部のCarloM.Croce博士を演者として、年会3日目の4月8日(月)、午後4時30分から5時30分の1時間、コンベンションセンターのレベルCにあるボールルームCで行われました。Croce博士は、「がんにおけるマイクロRNAの発現制御異常の原因とその結果」の演題で、聴衆を魅了する素晴らしい講演をされました。Croce博士は、バーキットリンパ腫において、異なる染色体間で組換えを起こした染色体転座を見出し、14番染色体上の免疫グロブリン遺伝子の近くに8番染色体上のMYCがん遺伝子が結合し、その結果MYC遺伝子の異常発現がもたらされ細胞がん化に関与することを明らかにされました。
この発見は、染色体転座が細胞がん化に寄与する遺伝子異常をもたらす機構の一つであり、がんは遺伝子の病気であることを示しました。

オハイオ州立大学(Ohio State University)の生物医学研究棟(Biomedical Research Tower)。カルロ・クローチェ(Carlo M. Croce)の実験室がある。写真出典:Years of Ethics Charges, but Star Cancer Researcher Gets a Pass – The New York Times

●5.【不正発覚の経緯と内容】

カルロ・クローチェ(Carlo M. Croce)には1994年以来、いくつもの不正疑惑が生じている。2017年現在、これらの不正疑惑をすり抜けているが、現在調査中のケースでは、どうなるかわからない。

これほど疑惑まみれの研究者は珍しい。

★1994年の事件:大学が政府に260万ドル(約2億6千万円)を支払う示談

1994年(49歳)、研究実施予定の研究者が米国からイタリアに帰国してしまい、全く研究を実施しないのに研究費を受領したとクローチェは非難された。

また、同じ年、カルロ・クローチェ(Carlo M. Croce)が関係するデータねつ造・改ざん事件が起こった。この事件の詳細は不明である。

上記2つの事件で、当時、クローチェが所属していたトーマス・ジェファーソン大学は政府に260万ドル(約2億6千万円)を支払う示談をまとめた。この示談には、クローチェには不正がないとする旨も含まれていた。

★2007年の事件:研究費申請書を取り下げ

2007年(62歳)、NIHはカルロ・クローチェの研究費申請書を取り下げた。理由は、研究費申請書の主要部分がクローチェの弟子の1人が4か月前に提出した研究費申請書と同じだったからだ。つまり、同一課題の2重申請あるいは盗用である。

さらに、クローチェ研究室の事務員が何年にも渡って個人的な海外旅行にクローチェ研究室の研究費を使っていたと通報された。

さらに、かつての研究室員が自分の研究をクレジットしないで特許申請したとカルロ・クローチェを非難した。

これらの件でもクローチェは処罰されなかった。

★2011年のエルトン事件と1992年のパケット事件

2011年、クローチェ事件とは直接関係ないが、オハイオ州立大学の体質に問題を感じる事件が起こった。エルトン事件である。薬学部・教授のテリー・エルトン(Terry Elton)がデータねつ造・改ざんをしたのだ。
→ テリー・エルトン(Terry Elton)(米) | 研究倫理(ネカト)

この時、オハイオ州立大学は、一度、エルトン教授をシロと結論した。

しかし、米国・研究公正局の要請でオハイオ州立大学が再調査し、今度はクロと結論した。つまり、最初、オハイオ州立大学は、事件をもみ消そうとしたのだ。どうやらそういう体質が強い大学らしい。

もう1つ、パケット事件もある。
→ レオ・パケット(Leo A. Paquette)(米) | 研究倫理(ネカト)

レオ・パケット(Leo A. Paquette)は、クローチェと同じように、米国科学アカデミー会員でオハイオ州立大学・殊勲教授(Distinguished University Professor)だった。

1992年、パケット(57歳)の論文と研究費申請書に盗用が発覚した。研究公正局は調査の結果、盗用と結論し、10年間というとても強い締め出し処分を科した。

しかし、パケットは研究者として生き残ったのである。つまり、オハイオ州立大学は厳格な処分を科さなかったのだ。

★2013年の事件:クレア・フラシスの通報

このケースは、今回の事件の前哨戦である。

2013年12月(68歳)、ネカト・ハンターのクレア・フラシス(Clare Francis)がカルロ・クローチェ(Carlo M. Croce)の30論文に改ざんがあると、研究公正局とオハイオ州立大学に通報した。

2013年12月16日、ところが、オハイオ州立大学は大した調査をせずに、問題視された論文はクローチェが連絡著者ではなく、オハイオ州立大学で作成されたものでもないと、クレア・フラシスの申し立てを突っぱねた。

論文原稿はオハイオ州立大学で作成されたものではありません。論文の連絡著者はオハイオ州立大学所属ではありません。クローチェは指摘された論文の共著者ですが、指摘された論文の図はオハイオ州立大学で作成されたものではありません。論文の連絡著者とその所属機関にお問い合わせ下さい。

つまり、オハイオ州立大学は、クローチェを調査せず、シロと見なし、クレア・フラシスに伝えた。以下は2013年12月16日付のクレア・フラシス宛の手紙(マル秘)である。
osu-letter-to-clare-francis

★「2014年のProc Natl Acad Sci U S A.」論文の文章重複使用・盗用

「2014年のProc Natl Acad Sci U S A.」論文の文章が別の5論文の文章と重複(overlap)している。

重複(overlap)している対比表を作ってませんが(ゴメン)、「重複」は盗用と同義だと思う。

しかし、「Proc Natl Acad Sci U S A」 編集局もクローチェも「盗用ではなく重複」とし、論文を訂正した。

まるで、日本の安倍首相の「戦闘ではなく衝突」と同じ詭弁である。

★2014年の事件:デーヴィッド・サンダースの通報

2014年(69歳)、パーデュー大学のウイルス学者・デーヴィッド・サンダース・準教授(David A. Sanders 、写真出典)が、クローチェの論文に改ざんと盗用があると学術誌とオハイオ州立大学に通報した。

2013年まで、クローチェの20論文に「撤回」「訂正」などの編集者の但し書きがついている。

例えば、「2005年のProc Natl Acad Sci U S A.」論文を例示しよう。

図1Bのウェスターンブロット像の下段のバンドが使いまわされている。345の3つのバンドと678の3つのバンドが同じである。

オハイオ州立大学のクリス・デイベイ・広報担当官(Christopher Davey、写真出典)は、サンダース・準教授の通報を受け、「大学は独立した外部委員会を設置しました。なお、この外部委員会の設置自体はクローチェがネカト者であると確証したわけではありません」と「New York Times」記者に答えている。

なお、クローチェ本人は指摘されたネカトを否定している。コロンバスの法律会社「Kegler Brown Hill & Ritter」を通して、次のことを「New York Times」紙の記者に伝えてきた。

論文中の図を作る過程で、幾つかの間違いがあったことは確かです。どれも「誠実な間違い」です。なお、共著者を信頼していますが、私(クローチェ)が盗用を許すことはありません。

そして、クローチェ論文の2人の若い共著者が、自分たちがウェスターンブロット像を加工したと「New York Times」紙の記者に告白したらしい。

ということで、オハイオ州立大学の調査は2人の若い共著者をクロとし、クローチェをシロとする公算が高い。

さらに、マイケル・ドレイク学長(Michael Drake、写真出典)がクローチェの味方側についているので、クローチェがクロと判定されないとも予測されている。
→ 2017年3月9日記事:Amid Ethics Concerns, Ohio State Stands Behind Researcher Carlo Croce | WOSU Radio

【クローチェとオハイオ州立大学】

クローチェはオハイオ州立大学のスター研究者で、2004年(59歳)にオハイオ州立大学に着任してから2017年4月2日現在まで、2910万ドル(約29億円)もの研究費を大学外から獲得している。内、870万ドル(約8億7千万円)がオーバーヘッドとして大学に直接振り込まれている。

その事と無縁ではないと思われるが、今まで何回もクローチェにネカト疑惑が生じてきたが、研究公正局もオハイオ州立大学も、クローチェをクロとしていない。従って、処分もしていない。

「New York Times」記者が2017年3月8日の記事にするため、オハイオ州立大学に問い合わせた時、担当者はサンダース・準教授のネカト通報を知らなかったと答えている。これはおかしい。大学内で情報統制をしているなどの異様な管理体制があるのかもしれない。

【ねつ造・改ざんの具体例】

2017年4月2日現在(72歳)、研究公正局もオハイオ州立大学も調査の結果を公表していない。しかし、既に示したように、「2005年のProc Natl Acad Sci U S A.」論文の図1Bのウェスターンブロット像にバンド画像の重複使用が認められる。

公式発表がないので、他のクローチェ論文でのねつ造・改ざんと指摘された部分をパブピアで探った。

★「2008年のPLoS One.」論文

「2008年のPLoS One.」論文の書誌情報を以下に示す。パブメドでは撤回表示がないが、2016年1月24日の撤回監視に「撤回された」とある。
→ Journal retracts paper due to image mismatch; one co-author alleges fraud – Retraction Watch at Retraction Watch

どの部分がどのように不正だったのか、パブピアで見てみよう。

2014年10月14日に、図4Cの電気泳動バンドが重複使用されていると指摘された「Peer 1: ( October 14th, 2014 3:02am UTC )」。下図の右の2段目と3段目の電気泳動バンドが重複使用されている。サンプル名が異なるので、データねつ造である。

以下のパブピアの図の出典: (Peer 1: ( October 14th, 2014 3:02am UTC ) )

上図の左側は、上記で指摘した「2008年のPLoS One.」論文の図4Cの電気泳動バンドが、「2010年のCell Death Differ.」論文の図2Cの電気泳動バンドとしても使用されていることを示している。「2010年のCell Death Differ.」論文の書誌情報を以下に示す。

重複使用を指摘され、クローチェは、「他の研究者から指摘されたが、自分でも確かにねつ造・改ざんだと思う」と述べている。そして、クローチェ自身のネカトへの関与を否定している。

「クローチェ論文の2人の若い共著者」がネカト実行者とするなら、「2008年のPLoS One.」論文の第二著者で、「2010年のCell Death Differ.」論文の第一著者になったクリスチーナ・クィンタヴェール(Cristina Quintavalle、写真出典)が、ネカト者である可能性が濃厚である。

つまり、「クローチェ論文の2人の若い共著者」の内のネカト者の1人がクィンタヴェールである公算が高い。

なお、クィンタヴェールはスイスのバーゼル大学(Universitätsspital Basel)に移籍し、現在、米国にはいない。

★「2009年のJ Biol Chem.」論文

「2009年のJ Biol Chem.」論文の書誌情報を以下に示す。2016年6月に撤回された。

どの部分がどのように不正だったのか、パブピアで見てみよう。

2015年3月16日に、図5aの電気泳動バンドがおかしいと指摘された「Peer 1: ( March 16th, 2015 5:06pm UTC )」。上部1段と2段の電気泳動バンドが重複使用されている。サンプル名が異なるので、データねつ造である。以下のパブピアの図の出典

このデータねつ造論文では、クリスチーナ・クィンタヴェール(Cristina Quintavalle)が共著者に入っていない。後述するアルフレド・フスコ(Alfredo Fusco)も共著者に入っていない。クローチェがネカト実行者でないなら、一体、誰なんだろう?

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2017年4月2日現在、パブメド(PubMed)で、カルロ・クローチェ(Carlo M. Croce)の論文を「Carlo M. Croce [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2017年の16年間の470論文がヒットした。

「Croce CM[Author]」で検索すると、1971~2017年の47年間の1088論文がヒットした。とても多作である。

2017年4月2日現在、「Croce CM[Author] AND retracted」で検索すると、パブメドの論文リストでは以下の5論文が撤回されている。

  1. Genetics: Are circRNAs involved in cancer pathogenesis?
    Croce CM.
    Nat Rev Clin Oncol. 2016 Nov;13(11):658. doi: 10.1038/nrclinonc.2016.113. Epub 2016 Jul 26. No abstract available. Retraction in: Nat Rev Clin Oncol. 2016 Nov;13(11):658.
    PMID:27458008
  2. POZ-, AT-hook-, and zinc finger-containing protein (PATZ) interacts with human oncogene B cell lymphoma 6 (BCL6) and is required for its negative autoregulation.
    Pero R, Palmieri D, Angrisano T, Valentino T, Federico A, Franco R, Lembo F, Klein-Szanto AJ, Del Vecchio L, Montanaro D, Keller S, Arra C, Papadopoulou V, Wagner SD, Croce CM, Fusco A, Chiariotti L, Fedele M.
    J Biol Chem. 2012 May 25;287(22):18308-17. doi: 10.1074/jbc.M112.346270. Epub 2012 Apr 9.
    Retraction in:
    J Biol Chem. 2017 Mar 31;292(13):5609.
    PMID:22493480
  3. Expression of a truncated Hmga1b gene induces gigantism, lipomatosis and B-cell lymphomas in mice.
    Fedele M, Visone R, De Martino I, Palmieri D, Valentino T, Esposito F, Klein-Szanto A, Arra C, Ciarmiello A, Croce CM, Fusco A.
    Eur J Cancer. 2011 Feb;47(3):470-8. doi: 10.1016/j.ejca.2010.09.045. Epub 2010 Oct 31. Retraction in: Eur J Cancer. 2015 Apr;51(6):789.
    PMID:21044834
  4. Unique microRNA profile in end-stage heart failure indicates alterations in specific cardiovascular signaling networks.
    Naga Prasad SV, Duan ZH, Gupta MK, Surampudi VS, Volinia S, Calin GA, Liu CG, Kotwal A, Moravec CS, Starling RC, Perez DM, Sen S, Wu Q, Plow EF, Croce CM, Karnik S.
    J Biol Chem. 2009 Oct 2;284(40):27487-99. doi: 10.1074/jbc.M109.036541. Epub 2009 Jul 29.
    Retraction in:
    J Biol Chem. 2016 Jul 15;291(29):14914.
    PMID:19641226
  5. Targeted disruption of the murine homeodomain-interacting protein kinase-2 causes growth deficiency in vivo and cell cycle arrest in vitro.
    Trapasso F, Aqeilan RI, Iuliano R, Visone R, Gaudio E, Ciuffini L, Alder H, Paduano F, Pierantoni GM, Soddu S, Croce CM, Fusco A.
    DNA Cell Biol. 2009 Apr;28(4):161-7. doi: 10.1089/dna.2008.0778.
    Retraction in:
    DNA Cell Biol. 2014 Mar;33(3):189.
    PMID:19364276

2017年4月2日現在、「Croce CM[Author] AND corrected」で検索すると、パブメドの論文リストでは3論文が「訂正」されている。「訂正」論文リストの記載は省略する。

「撤回監視(Retraction Watch)」は、撤回論文が5報、訂正論文が10報あると述べている(【主要情報源】②)。

また、共著者の1人・アルフレド・フスコ(Alfredo Fusco)は、9論文が撤回され、ネカト疑惑が濃厚である。
→ アルフレド・フスコ(Alfredo Fusco)(イタリア) | 研究倫理(ネカト)

フスコとの共著論文を、「Croce CM[Author] AND Fusco A[Author] 」で検索すると、44論文がヒットした。

44論文の内、3論文が撤回されている(Croce CM[Author] AND Fusco A[Author] AND retracted)。上記の撤回5論文の2、3、5番目である。

★パブピア(PubPeer)

2017年4月2日現在、「パブピア(PubPeer)」ではカルロ・クローチェ(Carlo M. Croce)の63論文にコメントがある。とても多い。:PubPeer – Results for Carlo M. Croce

●7.【白楽の感想】

《1》大学は隠す

パブピアの指摘や「New York Times」の指摘で、画像のねつ造・改ざんは明白である。それなのに、カルロ・クローチェ(Carlo M. Croce)は「誠実な間違い」であると主張し、何も不正していないと強く否定している。

オハイオ州立大学のいままでのネカト調査は信頼できない。テリー・エルトン(Terry Elton)事件では、一度調査した時はシロと判定し、他からの批判を受け、再調査し、データねつ造・改ざんをしたと判定したのだ。
→ テリー・エルトン(Terry Elton)(米) | 研究倫理(ネカト)

オハイオ州立大学は、2014年の・デーヴィッド・サンダース・準教授の告発を受けてクローチェを調査をしたはずだが、調査結果を公表していない。研究公正局も公表していない。

だからこそ、「New York Times」、「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」などのメディアが批判的な記事を書いたのだろう。

メディアの批判的な記事を受けて、オハイオ州立大学は、2017年3月に再調査を始めたようだが、なんかヘンである。

オハイオ州立大学自身の研究公正への姿勢が大いに疑問である。

《2》絵画コレクター

基本的には、個人生活での趣味と研究上のネカトは関係ない。白楽もとやかく言いたくない。

しかし、クローチェのネカト疑惑を報じている「New York Times」紙がクローチェの趣味も報道している。

カルロ・クローチェ(Carlo M. Croce)は個人生活で絵画収集の趣味があり、16- 18世紀のイタリアの絵画を400点も収集しているのだ。費やした金額はわからないが、1枚100万円とすれば、4億円になる。
→ 2009年の記事:High Hopes for a New Kind of Gene | Page 4 | Science | Smithsonian

この金はどこから得ているのだろうか?

クローチェは若い時にイタリアから米国に移住した研究者である。生家が大富豪とは思いにくい。子供が2人いる。1979年生まれ(現・38 歳)だから35歳の時の子供と、1997年生まれ(現・20 歳)だから52歳の時の子供である。離婚・再婚したのだろう。

クローチェは自分の発見を特許にし、3つの会社の共同設立者になった。ここから莫大な収入を得ているのかもしれない。

とはいえ、400枚ものイタリア絵画を収集したお金は莫大な額だろう(1枚100万円として、4億円)。

そのために、金儲けに熱心だったと思われる。本文に記載しなかったが、たばこ業界(Council for Tobacco Research)の顧問になっていたこともある。企業の顧問自体を不正とは思わないが、がんの分子生物学者がたばこ業界の顧問をするのは、一般的には異様に思える。

たばこ業界は著名ながん研究者のクローチェを顧問にすることで、業界に都合のよい宣伝材料に利用したハズだ。クローチェは利用されるのを承知で多額の顧問料を貰っていたに違いない。

研究者が金儲けにいそしんでもいいが、節度と限度がある。たばこ業界への協力は、節度を越えていると思う。400枚ものイタリア絵画の収集は、限度を越えていると思う。クリーンな研究者とは思いにくい。

カルロ・クローチェ(Carlo Croce)の自宅の絵画コレクション。写真出典:Years of Ethics Charges, but Star Cancer Researcher Gets a Pass – The New York Times

《3》予防法

クローチェはネカト者と結論されていない。現在調査中の件でもクロと判定されないかもしれない。しかし、ここ20年ほど、クローチェは金銭的不正疑惑とネカト疑惑にまみれている。

クローチェの不正疑惑を予防する方法はどこにあったのだろうか?

クローチェは研究を出世や金儲けの道具と考えていたとしても、その考え自体は違法でも規範違反でもない。考えただけで学術界から追放することはできないしすべきではない。

しかし、クローチェは、実際に何度も、不正だと指摘されてきた。その際に、大学は的確にかつ厳正にクローチェを処分してこなかった。それで、クローチェはだんだん、ズル賢く生きるスベに磨きをかけてきたように思う。

初期の段階で罰することが重要だ。

初期での処罰を逸したことで、やがて、スター研究者になってしまった。でも、スター研究者だからと言って特別扱いしないことだ。イヤイヤ、特別甘くしないということであって、有名人・権力者・高額研究費受給者を特別厳しくチェックし、平均より厳しく処分するという意味では、特別扱いしてもいい。イヤすべきである。

《4》2017年に受賞予定

ここで述べたようにクローチェは20年以上の金銭的不正疑惑とネカト疑惑まみれである。そして、2017年、「New York Times」紙をはじめ、いくつかのメディアがデータ改ざんと盗用を指摘している。

2017年4月2日現在、オハイオ州立大学はデータ改ざんと盗用を調査中である。

それなのに、本日(2017年4月2日)、米国癌学会(AACR)は、2017年4月1-5日に開催の年会で、クローチェに第11回マーガレット・フォティ賞(11th Margaret Foti Award for Leadership and Extraordinary Achievements in Cancer Research)を授与したという。
→ 2017年3月29日の記事:AACR Margaret Foti Award for Leadership and Extraordinary Achievements in Cancer Research

「撤回監視(Retraction Watch)」が米国癌学会に、オハイオ州立大学がクローチェのデータ改ざんと盗用を調査中であることを知っているのかと問い合わせた。返事は、「知っています。「New York Times」記事も知っています。しかし、授賞の決定を変えるほど重要な知見が提示されておりません。それで、委員会での選考結果を変更しないで進めております」との返事だった。

白楽が思うに、疑惑の研究者に急いで賞を授与する意味はない。疑惑が晴れるのを待って、来年でも再来年でもいいだろう。逆にクロと判定されたら、マーガレット・フォティ賞及び米国癌学会に汚点の歴史が残る。

クローチェは、現状では、米国癌学会が賞を授与して学会員の鑑にするような人物とは思えない。

米国癌学会に、まともな見識を持つ会員・役員はいないのか?

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●8.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Carlo M. Croce – Wikipedia
② カルロ・クローチェ(Carlo Croce)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:You searched for Carlo Croce – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 2017年3月8日のジェームス・グランツ(James Glanz)記者とエイグスチン・アルメンダリツ(Agustin Armendariz)記者の「New York Times」記事:Years of Ethics Charges, but Star Cancer Researcher Gets a Pass – The New York Times保存版
④ 2017年3月22日、ミーガン・ホールデン(Meghan Holden)記者の「J&C higher education」記事:Purdue biologist calls out cases of scientific misconduct保存版
⑤ 「パブピア(PubPeer)」ではカルロ・クローチェ(Carlo M. Croce)の63論文にコメントされている:PubPeer – Results for Carlo M. Croce
⑥ 2017年3月18日、Adam Marcus と Ivan Oranskyの記事:Bad incentives push universities to protect rogue scientists.
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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