スティーヴン・イートン(Steven Eaton)(英)

【概略】
150205 screen_shot_2013-03-13_at_11.24.11[1]スティーヴン・イートン(Steven Eaton、写真未発見)は、米国・製薬企業アプテュイト社(Aptuit、写真出典)の英国・エジンバラ支所の研究員で、医薬品の動物安全性試験を担当していた。

2009年(43歳)、データ改ざんが発覚した。

2013年4月17日(47歳)、裁判の結果、3か月の刑務所(懲役・禁錮)という実刑判決が下された。「研究上の不正行為」で刑務所送りになった英国の最初の事例である。

  • 国:英国
  • 成長国:
  • 研究博士号(PhD)取得:
  • 男女:男性
  • 生年月日:1966年頃。仮に、1966年1月1日生まれとする
  • 現在の年齢:51 (+1)歳
  • 分野:動物安全性試験
  • 最初の不正行為:2001年(35歳)
  • 発覚年2009年(43歳)
  • 発覚時地位:アプテュイト社・社員
  • 発覚:社内の抜き打ち検査
  • 調査:英国・医薬品・医療製品規制庁(MHRA)と英国・優良試験所規範監視局(UK GLP Monitoring Authority、UK GLPMA)。2年半
  • 不正:改ざん
  • 不正論文数:0報
  • 時期:研究キャリアの初期から(?)
  • 結末:解雇。3か月の刑務所(懲役・禁錮)

【経歴と経過】
不明点多し。

  • 1966年頃:生まれる。仮に、1966年1月1日生まれとする
  • 19xx年(xx歳):xx大学を卒業
  • xxxx年(xx歳):製薬企業アプテュイト社(Aptuit)の英国・エジンバラ支所で、医薬品の動物安全性試験を担当
  • 2001年(35歳):データ改ざん始める
  • 2009年(43歳):データ改ざんが発覚
  • 2013年4月17日(47歳):裁判の結果、3か月の刑務所(懲役・禁錮)という実刑判決が下された。

【研究関連の法規】

★「優良試験所規範」Good Laboratory Practice Regulations 1999

「優良試験所規範」(GLP:Good Laboratory Practice)は、1972年にニュージーランドとデンマークが採用した試験検査の精度確保のための標準作業手順である。現在では世界各国が制定している。生命科学分野では、医薬品開発のための非臨床試験(動物試験等、特に安全性試験)において、データの信頼性を確保する規範となっている。

世界保健機関(World Health Organization, WHO)もGLPハンドブックをだしている。

英国では、健康省(Department of Health)の医薬品・医療製品規制庁(Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency、MHRA)が、医薬品および医療機器の認可および安全性を管轄している。英国では、すべての医薬品の試験所には届け出と監査の義務がある。その医薬品・医療製品規制庁が1999年に法律・「優良試験所規範1999」(Good Laboratory Practice Regulations 1999)を制定した。

【不正発覚・調査の経緯】

★状況

スティーヴン・イートン(Steven Eaton)は、アプテュイト社(Aptuit)の英国・エジンバラ支所で、アストラゼネカ社(AstraZeneca)やロシュ社(Roche)などの製薬企業に依頼されて、医薬品の動物安全性試験を担当していた。

実験動物に医薬品を投与して、安全量の測定と副作用があるかどうかの臨床前試験である。

★発覚・調査

2009年2月、アプテュイト社(Aptuit)の英国・エジンバラ支所で、社員の抜き打ち検査をしたときに、イートンの液体クロマトグラフィーの報告に異常を見つけた。医薬品の血液中の濃度を測定する試験だが、この測定値を元に、医薬品の投与量を決めるので、効能や副作用を考える時の重要なデータだった。

アプテュイト社は、すぐに、医薬品・医療製品規制庁に報告した。

英国・医薬品・医療製品規制庁(MHRA)と英国・優良試験所規範監視局(UK GLP Monitoring Authority、UK GLPMA)は、アプテュイト社の協力のもとに調査を開始した。

アプテュイト社が試験した数百の医薬品のデータを2年半かけて調査した結果、2001年~2009年の9年間、イートンは抗がん剤の臨床前試験データの内、イートンにとって良いと思えるデータを選択して報告していた。試験した医薬品にもし副作用があっても、副作用が見過ごされる結果になる。

データの信頼性を損なう行為(データ改ざん)は、イートン個人の行為であって、アプテュイト社が会社ぐるみで関与したという証拠は見つからなかった。

イートンのデータ改ざんで、英国の新薬開発が遅れたが、患者の健康被害をもたらすことはなかった。

★裁判

150205 edinburghsheriff[1]エジンバラ地方裁判所(Edinburgh Sheriff Court) 写真出典

2013年4月17日(47歳)、エジンバラ地方裁判所(Edinburgh Sheriff Court)は、もし医薬品が認可されていたら、患者の健康が損なわれただろうと判断し、「優良試験所規範1999」(Good Laboratory Practice Regulations 1999)違反で、イートンに3か月の刑務所(懲役・禁錮)送りの判決を下した。

「優良試験所規範1999」法が施行されてから14年経つが、初めての実刑判決だった。3か月という期間はこの法律が定めている刑罰の上限である。

弁護士・ジム・スティーブンソン(Jim Stephenson)は、「イートンは仕事上にプレッシャーがきつかったことと、不正を働いていた時期には別の個人的問題も抱えていた。データ改ざんで彼に金銭的収入はなかったので、カネ目的ではなく、動機は不明である。それに、彼は、そもそも科学研究ができるタイプの人間ではない」と述べている。

150205 s216_gerald-heddell[1]医薬品・医療製品規制庁の監査執行基準局(Inspection, Enforcement and Standards)局長のジェラルド・ヘデル(Gerald Heddell、写真出典)は、英国で研究者に初めての刑務所刑が科されるのに対して、「有罪判決を歓迎する。国民の健康を害する研究者には実刑が科されるというメッーセージだ」と述べている。

【論文数と撤回論文】
パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、スティーヴン・イートン(Steven Eaton)の論文を「Eaton S[Author]」で検索すると、708論文がヒットした。論文数の多さからココで問題にしているスティーヴン・イートン(Steven Eaton)の論文だけではない。

所属企業名を加えて「(Eaton S[Author]) AND Aptuit[Affiliation]」で検索すると、論文ヒット数はゼロだった。

企業で、医薬品の安全性試験を仕事としていたので、論文は発表していないのだろう。

【白楽の感想】

《1》 刑務所で服役

「研究上の不正行為」で研究者が裁判の被告になり、研究者が刑務所で服役することはかつてはなかった。

2013年4月17日、裁判の結果、スティーヴン・イートン(Steven Eaton)に3か月の刑務所刑(懲役・禁錮)が科された。英国で最初の実刑例であり、歴史的な事件である。

それで、「研究上の不正行為」で世界的に実刑(懲役、禁錮、拘留)判決がでた研究者を調べてみた。

「研究上の不正行為」で世界で最初に投獄された研究者は、米国のエリック・ポールマン(Eric Poehlman)で、2006年6月28日、刑期は1年1日の実刑判決が下った。

2人目は、米国のスコット・ルーベン(Scott S. Reuben)で、2010年2月24日、医療詐欺のため刑期6か月の実刑判決が下った。

3人目になるところだったのが、米国のルク・ファン・パライス(Luk van Parijs)で、刑期6か月が求刑された。しかし、2011年6月13日、6か月の自宅謹慎、400時間のコミュニティサービス、61,117ドル(約611万円)の大学への支払いという温情の判決がなされた。

日本では、まだいない。

米英の傾向として、「研究上の不正行為」は実刑(懲役、禁錮、拘留)が科される方向にある。カネ・地位・健康被害・キャリア妨害など社会に損害を与え、他人の人生・健康に損害を与えるので、実刑は当然だろう。

日本も、「研究上の不正行為」を犯罪とみなすべきだ。刑法の対象にし、刑罰(懲役、禁錮、罰金、拘留、没収)を科すのが適当だと思う。法制度の改革を望む。

【主要情報源】
① 2013 年4月17日のリトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)の記事:UK researcher who faked data gets three months in jail – Retraction Watch at Retraction Watch
②  2013年4月17日のリチャード・グレイ(Richard Gray)の「Telegraph」紙の記事:Scientist jailed for faking medicine test results – Telegraph
③ 2013年3月21日のアンディ・エクスタンス(Andy Extance)の「Chemistry World」紙の記事:Court convicts ex-Aptuit researcher over drug data | Chemistry World