歴史学:マシュー・ウィタカー(Matthew Whitaker)(米)

2017年1月21日掲載。

ワンポイント:2011年(40歳?)に1回目の盗用疑惑を受けたが、シロと判定された。2014年に、別件で2回目の盗用疑惑を受け、今度はクロと判定された黒人男性教授。クロとはいえ、有利な条件で示談となった。2016年ランキングの第3位になった。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】

マシュー・ウィタカー(Matthew C. Whitaker、写真出典)は、米国・アリゾナ州立大学(Arizona State University)・準教授で、専門は歴史学(人種的平等、市民権、アフリカ系アメリカ人の歴史)だった。

2011年(40歳?)、1回目の盗用疑惑を受け、シロと判定された。

2014年(43歳?)、2回目の盗用疑惑を受けた。結局、クロと判定されたが、有利な条件で示談となった。

ウィタカー事件は、2016年ランキングの「Plagiarism Todayの「2016年(今までのところ)の5大盗用」」の第3位である。

アリゾナ州立大学(Arizona State University)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 研究博士号(PhD)取得:ミシガン州立大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1971年1月1日とする。2015年7月10日の新聞に44歳とあった
  • 現在の年齢:46 歳?
  • 分野:歴史学
  • 最初の不正論文発表:2005年(34歳?)
  • 発覚年:1回目は2011年(40歳?)、2回目は2014年(43歳?)
  • 発覚時地位:アリゾナ州立大学・教授
  • ステップ1(発覚):2回目疑惑の第一次追及者(匿名ブロガー、詳細不明)の公益通報
  • ステップ2(メディア): 地元新聞社「Inside Higher Ed」、地元新聞社「Arizona Central」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①アリゾナ州立大学・1回目調査委員会。②アリゾナ州立大学・2回目調査委員会
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:3著書
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:教授から準教授に降格。休職。示談成立。約1年半年後の辞職

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1971年1月1日とする。2015年7月10日の新聞に44歳とあった。アリゾナ州フェニックスで生まれる
  • 1993年(22歳?):アリゾナ州立大学(Arizona State University)を卒業。学士号:社会学
  • 1994年(23歳?):アリゾナ州立大学(Arizona State University)で学士号:歴史学
  • 1997年(26歳?):アリゾナ州立大学(Arizona State University)で修士号:米国の歴史
  • 2001年(30歳?):ミシガン州立大学(Michigan State University)で研究博士号(PhD)取得:歴史学
  • 2001年(30歳?):アリゾナ州立大学(Arizona State University)・助教授。歴史学
  • 2001年(30歳?):コンサルティング会社「The Whitaker Group, L.L.C 」を設立しCEO。2014年まで?
  • 2006年(35歳?):アリゾナ州立大学(Arizona State University)・準教授。歴史学
  • 2010年(39歳?):アリゾナ州立大学の人種・デモクラシー研究センター(Center for the Study of Race and Democracy )創設者・所長
  • 2011年(40歳?):アリゾナ州立大学・教授
  • 2011年(40歳?):1回目の盗用疑惑が発生
  • 2014年(43歳?):2回目の盗用疑惑が発生
  • 2015年6月26日(44歳):盗用のため、アリゾナ州立大学は、教授から準教授に降格した。年俸163,530ドルだったのを20,000ドル低い143,530ドルにした
  • 2015年9月(44歳?):アリゾナ州立大学・停職
  • 2015年12月11日(44歳?):アリゾナ州立大学と示談が成立
  • 2016年(45歳?):コンサルティング会社「Diamond Strategies, LLC」を設立
  • 2017年5月17日(46歳?):アリゾナ州立大学・準教授を辞職予定

●3.【動画】

【動画1】
2010年10月2日のアリゾナ州フェニックスでの講演。話が力強い。
タイトル:「A Conversation with Cornel West – How We Got Here: Historical Roots of SB1070」
「Dr. Matthew Whitaker with Cornel West – YouTube」(英語)2分15秒。
panleftが2010/10/10 にアップロード

●5.【不正発覚の経緯と内容】

【1回目の盗用疑惑:2011年】

2011年(40歳?)、マシュー・ウィタカーの2冊の著書に盗用が指摘された。指摘した人は不明である。

アリゾナ州立大学・歴史学・教授のジェーン・メイアンズチェイン(Jane Maienschein、写真出典:By Embryo Project Encyclopedia Editorial Team – Arizona State University, CC BY-SA 3.0, Link)が調査委員長になり、調査した。「不注意な部分がところどころにあるが、実質的で系統的な盗用ではない」と結論した。
→ 2012年5月11日のカウスタフ・バス(Kaustuv Basu)記者の「Inside Higher Ed」記事:Arizona State faculty members question handling of plagiarism allegations保存版

ウィタカーの2005年の著書『Race Works: The Rise of Civil Rights in the Urban West』 (University of Nebraska Press, 2005)」(表紙写真出典:Amazon )の盗用の指摘例は以下のようだ。

左側がウィタカーの盗用疑惑文章で、右側が被盗用疑惑文章。赤色が盗用疑惑文章である。以下の記事を加工した。
→ 2014年5月13日のコリーン・フラハティ(Colleen Flaherty)記者の「Inside Higher Ed」記事:Arizona State professor accused of plagiarism for second time保存版

白楽には、立派な盗用に見える。

メイアンズチェイン調査委員会は、著者『Race Works』の序論と脚注に被盗用文章の著者に謝辞を書いているので、盗用にはあたらないと結論した。

盗用と指摘された2冊目の本は、マシュー・ウィタカーが編集した『African American Icons of Sport: Triumph, Courage, and Excellence』(Greenwood、2008年)(表紙写真出典:Amazon )である。

ウィキペディア、本、新聞記事の文章を引用しないで使用していた。

メイアンズチェイン調査委員会は、次のように結論した。

ウィタカーの文章は明らかに他の文章を利用していて問題であるが、序論にこの本は派生的な本である(内容はオリジナルではない)と記述されている。本は少年少女の向けに書かれていて、少年少女の向けの本は参考文献や脚注を記述しないのが一般的である。それで、調査委員会は、騙そうとした意図はなく、盗作と結論するのは過剰だと判定した。

アリゾナ州立大学・歴史学教授のモニカ・グリーン(Monica Green、写真出典)は、「委員会は大学上層部に操作され、最初から、ウィタカーはシロという結論ありきの委員会だった」と非難を込めて、大学の委員会「History Promotions and Tenure Committee」委員長を辞任した。
→ 2012年5月6日のアン・ライマン(Anne Ryman)記者の「Arizona Central」記事:ASU history professor at center of plagiarism debate保存版

実は、ウィタカーはアリゾナ州立大学上層部に以下の手紙を送付していた。

盗用疑惑で私を大学から追い出そうとしているが、盗用は建前で、黒人を正教授に昇進させたことに対する敵意、嫌がらせ、人種差別が根底にある。

モニカ・グリーン教授は黒人女性だが、「ウィタカー事件は盗用が本当の問題で人種差別は含まれていない」と主張した。

【2回目の盗用疑惑:2014年】

 ★ 2014年3月1日の仮名ブロガ-の指摘

2014年(43歳?)、2回目の盗用疑惑が生じた。

今度も著書での盗用が指摘された。

ウィタカーの2014年の著書『Peace Be Still: A History of Modern Black America』 (University of Nebraska Press, 2014)」(表紙写真出典:Amazon )に、仮名ブロガ-のアン・リビドゥー(Ann Ribidoux)が盗用を指摘した。
→ 2014年3月1日の仮名ブログ記事:The Cabinet of Plagiarism: Exhibit C — Repackaging of a Famous Textbook保存版

1例をあげる。

被盗用文章を最初に示す。ボールペンの矢印で示した部分から次次ページのボールペンの矢印で示した部分までである。
 Hinefeminisms

上記のボールペンの矢印で示した部分が、次に示すウィタカーの2014年の著書『Peace Be Still: A History of Modern Black America』で使用されている。但し、後述するように「ロゲッティング(rogeting)」なので、一字一句同じ文章を使用しているわけではない。

Whitaker feminisms (1)

 

★2回目の盗用疑惑:2014年5月14のJohn Masheyの指摘

上記と同じ著書「Peace Be Still: A History of Modern Black America (Nebraska, 2014)」の盗用の例示。

1頁目が説明で、2頁目が例示。
左側がウィタカーの盗用文章。右側が被盗用文章。同じ色が盗用文章。
plagiarism.display

★2回目の調査:2014年末

2014年末、アリゾナ州立大学は、今度は、アリゾナ州立大学の研究倫理学者のカリン・エリソン教授(Karin Ellison、写真出典)とプリンストン大学のキース・ワイルー・歴史学教授(Keith Wailoo)に予備調査を依頼した。

エリソン教授は、ウィタカーの本に引用しない複数の「同一フレーズ」があるだけでなく、彼の本の主要な論点のいくつかは、他人の文章の論点と「平行している」と指摘し、大学が正式に調査すべきだと結論した。

2015年1月9日、プリンストン大学のキース・ワイルー教授(写真出典)は、アリゾナ州立大学に、「ウィタカーの本には、標準的な引用ルールに従っていない多数の箇所があった」と報告した。

ウィタカーの盗用法は「ロゲッティング(rogeting)」という方法で、他人の文章をそのまま使用するのではなく、元の文章の構造と論点を変えずに、文章や単語を少し変えて使用する方法である。「ロゲッティング(rogeting)」は、元文章への敬意を欠き、盗用である。

ウィタカーは「ロゲッティング(rogeting)」を散発的に、しかし、繰り返し使用していた。
→ 2015年7月14日のレイ・スターン(Ray Stern)記者の「Phoenix New Times」記事:ASU Professor Matthew Whitaker Should Lose Police Contract, Councilman Says | Phoenix New Times保存版

2015年7月1日(44歳?)、ウィタカーは、アリゾナ州立大学上層部に、迷惑をかけている状況、間違いを修正していること、大学を当惑させてしまったことへの謝罪の手紙を書いた。

2015年7月13日(44歳?)、アリゾナ州立大学は、2回目の調査結果で、ウィタカーをクロと判定した。
→ 2015年7月13日のロウリー・ロバーツ(Laurie Roberts)記者の「Arizona Central」記事:Matthew Whitaker, dogged by second plagiarism scandal, scores $268,800 to raise cops’ consciences保存版

2015年7月17日(44歳?)、アリゾナ州立大学は、ウィタカーに休職を命じた。

★示談成立:2015年12月11日

2015年12月11日(44歳?)、アリゾナ州立大学とウィタカーの間に示談が成立した。

ウィタカーは、示談成立の約1年半年後の2017年5月17日(46歳?)にアリゾナ州立大学・準教授を自主的に辞職する。それまで、15万ドル以上の年俸を受け取る。

Whitaker settlement 4239_001

●7.【白楽の感想】

《1》指摘されても2回目の盗用

出典:https://webapp4.asu.edu/directory/person/91993

盗用を1回指摘されたら、次は慎重になるのが普通だ。

ウィタカーの場合、2011年に盗用疑惑が発生し、大学が調査に入った。結局、シロとなったが新聞報道もされた。

それなのに、2014年に再度、盗用疑惑を引き起こし、今度は、結局、クロとなった。

盗用を指摘されても、研究者は一般に再犯してしまうのか? ウィタカー事件はマレなケースなのか? どちらにしろ、どうすると抑止できたのだろうか?

《2》有利な条件で示談の不思議

盗用が明白なので、アリゾナ州立大学は単純に解雇すればいいと白楽は思うが、ウィタカーにとってかなり有利な条件で示談が成立した。

ウィタカーの弁護士が誰なのかわからないし、どうして示談になったのかもわからない。

フェニックス市・市会議員のSal DiCiccioはウィタカーを解雇するよう要求していた。
→ 2015年7月12日のカイラ・ホワイト(Kaila White)記者の「AZ Central」記事:DiCiccio wants city to fire ASU professor after plagiarism

《3》ネカトと人種差別

研究ネカト者の処分にしばしば影響するのが人種問題だ。ウィタカーは黒人で正教授になり、専門は歴史学で人種問題も扱う。

そういう教授のネカト判定に、人種問題が持ち込まれた。ウィタカー自身が人種差別だと主張した。

ネカトのシロ・クロ判定は本来、人種問題と無縁である。ところが、1回目の盗用疑惑では、グリーン教授(黒人女性)が指摘したように、大学は、人種問題とネカト問題の両方を天秤にかけ、人種問題の腫物を恐れ、ネカト判定でシロとするよう圧力をかけたと思われる。

それが裏目にでて、ウィタカーはつけあがり、数年後、2回目の盗用を犯した。

大学は、今度は、学外の黒人の歴史学教授(プリンストン大学のキース・ワイルー・歴史学教授)にも調査を依頼し、人種問題にも配慮した。ようやくクロと判定されたが、ウィタカーにかなり有利な条件で示談が成立した。

研究ネカト事件を調べると、ネカトを利用して人種差別をしたと思われる事例がたくさんある。米国で差別を受けるのは黒人だけでなく、中東イスラム出身者、ロシア系、アジア系だ。欧州でも、差別する人種は少し異なるが、ネカトを利用した人種差別がある。

今回は、それを逆手に取った。盗用したのに大学は人種差別で自分を処分しようとしていると、ウィタカーは上手に反撃した。

日本には、今のところネカト関係では表面化しないが、国民大衆だけでなく学術界に人種差別思想がドップリある。欧米白人崇拝、アジア人蔑視観である。

何年か前、アメリカの大学教授(日本人1世)が日本の大学の客員教授として数か月日本に滞在した。白楽の自宅に宿泊してもらい、いろいろ話し合ったことがある。その時、アメリカでは通用しない学術レベルの欧米白人研究者が日本の大学で教授として厚遇されていると、白楽に嘆いた。

学術界に人種差別思想があるうえ、外国人の大学教員、外国人の学生・院生、外国語の授業をすることを文部科学省が強く要求するから、日本の高等教育界は質が低下し、歪んでくる。

●8.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Matthew C. Whitaker – Wikipedia
② 2015年7月13日以降。シャノン・パルス(Shannon Palus)などの「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:You searched for Matthew Whitaker – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 2014年5月13日のコリーン・フラハティ(Colleen Flaherty)記者の「Inside Higher Ed」記事:Arizona State professor accused of plagiarism for second time保存版
④ 2016年1月15日のアン・ライマン(Anne Ryman)記者の「Arizona Central」記事:ASU professor accused of plagiarism to resign, will get $200,000 in salary保存版
⑤ 2014年3月1日の匿名ブログ記事:The Cabinet of Plagiarism: Exhibit C — Repackaging of a Famous Textbook保存版

出典:http://historynewsnetwork.org/article/156161

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