クリスティーン・マルシャル=シスウ(Christine Marchal-Sixou)、ミシェル・シスウ(Michel Sixou)(仏)

【概略】
141129 201401181751-fullミシェル・シスウ(Michel Sixou)はフランスのポール・サバティエ大学(英:Paul Sabatier University、仏:l’université Paul-Sabatier)の教授・歯学部長・歯科医だった。妻で助教授のクリスティーン・マルシャル=シスウ(Christine Marchal-Sixou)の盗用事件に巻き込まれ、歯学部長を辞任した。 写真出典

2008年、論文盗用が発覚した。

論文盗用したのは妻のクリスティーン・マルシャル=シスウ(Christine Marchal-Sixou)とされたが、妻の情報はとても少ない。夫のミシェル・シスウ(Michel Sixou)に共犯の嫌疑がかかったが無罪とされた。

SANTE-MEDECINE-SOCIALE歯科治療中(左)の妻・クリスティーン・マルシャル=シスウ(Christine Marchal-Sixou)(推定)。写真出典

なお、ポールサバティエ大学はフランス南西部の街・トゥールーズにある名門大学・トゥールーズ大学連合の1つである。トゥールーズ大学は、1229年創立で欧州最古の大学の1つである。

ポールサバティエ大学はトゥールーズ第三大学(UT3)とも呼ばれ、トゥールーズ大学連合の科学・技術・健康(医学)分野を担っている。大学名のポールサバティエは、1912年にノーベル化学賞を受賞したこの地方出身のポール・サバティエ(Paul Sabatier)に因んで、1969年に命名された。

141129 UPS_Front[1]-1ポールサバティエ大学(英:Paul Sabatier University、仏:l’université Paul-Sabatier)。写真出典

  • 国:フランス
  • 成長国:不明、フランス(多分)
  • 博士号取得:
  • 男女:夫婦
  • 生年月日:不明
  • 現在の年齢:不明
  • 分野:歯科学
  • 最初の不正論文発表:2006年
  • 発覚年:2008年
  • 発覚時地位:夫はポール・サバティエ大学・教授・歯学部長・歯科医。妻は夫の研究室の助教授・歯科医
  • 発覚:内部公益通報
  • 調査:①ポール・サバティエ大学・調査委員会。②裁判所
  • 不正:妻が盗用。夫は無罪
  • 不正論文数:妻が1報
  • 時期:夫は研究キャリアの後半から。妻は研究キャリアの初期から
  • 結末:夫は、歯学部長・辞任。妻は、罰金5,000ユーロ(約74万円)と2万ユーロ(約296万円)の損害賠償

★主要情報源:
① 2013年12月10日のリトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)の記事:France tries husband-wife team for research misconduct in plagiarism case at Retraction Watch
② 2013年12月27日のリトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)の記事:Stiff sentence for French researcher found guilty of plagiarizing at Retraction Watch

【経歴】
★ミシェル・シスウ(Michel Sixou)
mr_sixou_1[1]個人の履歴は、ほとんど不明。

  • 19xx年:不明。仮に、1950年1月1日生まれとする。
  • 19xx年(xx歳):xx大学を卒業
  • 19xx年(xx歳):ポール・サバティエ大学・教授
  • 20xx年(xx歳):ポール・サバティエ大学・歯学部長
  • 2006年(56歳?)12月:妻(大学院生)が博士論文で盗用をした
  • 2008年(58歳?)8月:妻(助教授)の盗用が発覚する
  • 2008年(58歳?):歯学部長は辞任
  • 2013年(63歳?)12月:裁判で妻は盗用で有罪。夫は無罪

★クリスティーン・マルシャル=シスウ(Christine Marchal-Sixou)
個人の履歴は、ほとんど不明。

  • 19xx年:不明。仮に、1970年1月1日生まれとする。
  • xxxx年(xx歳):xx大学を卒業
  • 2004年(34歳?):ポール・サバティエ大学・大学院入学。ミシェル・シスウ研究室
  • 2006年(36歳?)(?):ミシェル・シスウと結婚
  • 2006年(36歳?)12月:博士論文提出
  • 2008年(38歳?)8月:博士論文の盗用が発覚
  • 2013年(43歳?)12月:裁判で盗用として有罪

【研究内容】

【不正発覚の経緯】

2006年6月、フランスのポール・サバティエ大学のシスウ研究室で、ヨルダンからの修士院生・セイマー・ヌヴァリ(Samer Nuwwareh)が、修士論文を書き上げた。2人の論文指導教授の1人がミシェル・シスウ教授だった。

6か月後の2006年12月、当時、ミシェル・シスウ研究室の大学院生だったミシェル・シスウの妻・クリスティーン・マルシャル=シスウ(Christine Marchal-Sixou)は博士論文を提出し審査に合格した。博士論文にはセイマー・ヌヴァリの名前を記して謝辞を表したが、彼の論文を引用しなかった。

博士号取得後、クリスティーンは夫・ミシェルの研究室の助教授になった。

2008年8月、セイマー・ヌヴァリが、パリの刑事裁判所にクリスティーン・マルシャル=シスウを盗用で訴えた。「(自分の論文が盗用され、)自分が裏切られ、疎外されたと感じた。文章を書いたのは自分だという事実を取り戻したかった」と述べている。

クリスティーン・マルシャル=シスウの博士論文は、文献を除くと150頁からなっている。その150頁のうちの44頁はセイマー・ヌヴァリの論文からの盗用であった。この44頁はクリスティーン・マルシャル=シスウの博士論文の主要な結果を記述した部分である。一字一句転写した、明白なコピペも多い。

具体的盗用部分を示す。写真をクリックすると、写真が別窓で大きくなります。
141129 Livre-blanc-Gauche-vs-Thèse-droite左が2005年9月の歯科医学研究論文(セイマー・ヌヴァリの修士論文?)で、右が2006年12月のクリスティーン・マルシャル=シスウの博士論文である。同一部分を黄色でハイライトした(出典:Archéologie du “copier-coller” » Blog Archive » Toulouse 3, Paris 5 et les similitudes : le livre noir du livre blanc

裁判では、誰が誰の文章・研究を盗用したか、誰にプライオリティがあるか、ということが争点になった。というのは、ミシェル研究室でセイマー・ヌヴァリとクリスティーン・マルシャル=シスウはかなり似たテーマで研究していて、相互に情報交換をしていたからである。

生物医学の研究室はほとんどそうだが、研究成果は研究室全体のものという考えが強い。クリスティーン・マルシャル=シスウは、博士論文のために単独名で論文を書いただけで、盗用ではないと主張した。

裁判が進むにつれ、別の興味深い事実がみえてきた。セイマー・ヌヴァリとクリスティーン・マルシャル=シスウは、ナント、同じ電子メールアドレスを共有していたのである。だから、セイマー・ヌヴァリが教授にメールすれば、それは、クリスティーン・マルシャル=シスウに筒抜けになっていたのである。また、博士号取得に通常3年かかるところ、クリスティーン・マルシャル=シスウは、2年で取得したのである。

2013年10月20日、パリの刑事裁判所で、検察はクリスティーン・マルシャル=シスウとミシェル・シスウに、それぞれ5,000ユーロ(約74万円)の罰金を求刑した。

2013年12月19日、パリの刑事裁判所は、クリスティーン・マルシャル=シスウを有罪とし、罰金5,000ユーロ(約74万円)を課し、さらに、セイマー・ヌヴァリへの2万ユーロ(約296万円)の損害賠償を命じた。夫のミシェル・シスウを無罪とした。(Condamnée pour avoir plagié le mémoire de son étudiant
sixou3[1]
2013年12月19日のパリの刑事裁判所:左から、裁判官(女性)、1人おいて、シスウ夫妻。 写真出典

【論文数と撤回論文】
2014年11月28日現在、論文は撤回されていない。

パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、ミシェル・シスウ(Michel Sixou)を「Sixou M[Author]」として検索すると、1988年~2014年の27年間の50論文がヒットした。

クリスティーン・マルシャル=シスウ(Christine Marchal-Sixou)を「Marchal-Sixou C[Author]」て検索すると、2008年~2014年の7年間の6論文がヒットした。2014年の1報だけ、夫・ミシェルが共著者に入っていた。

クリスティーンの結婚前の名前「Marchal C[Author]」で検索すると、347報もヒットしたので、別人の論文が多数占めていると思われる。347報のうち、夫となったミシェル・シスウとの共著論文を検索すると下記の1報がヒットした。

皮肉なことに、論文のタイトルは、歯学における研究規範の論文で、出版は2006年秋である。結婚前の名前「Marchal C[Author]」ということは、2006年秋出版の論文の投稿時点では結婚していなかったということになる。

  • J Am Coll Dent. 2006 Fall;73(3):36-9.
    Ethical reflection in dentistry: first steps at the Faculty of Dental Surgery of Toulouse.
    Hamel O, Marchal C, Sixou M, Hervé C.

【事件の深堀】
以下は邪推である。と言うか、多くの人は、この事件の真実を次のように思うだろう。
ーーーーーー
状況から推察すると、夫・ミシェルがセイマー・ヌヴァリの論文を妻・クリスティーンに「博士論文執筆の参考になるから」と見せたのだろう。妻・クリスティーンは、参考にするだけにしておけばよかったのに、博士論文執筆に苦闘し、事後を考えもせず、セイマー・ヌヴァリの論文のかなりの部分を盗用してしまった。

夫・ミシェルは、提出された妻・クリスティーンの博士論文を見て、盗用に気がついたはずだ。では、どう対処するか?

博士論文審査会で妻の提出論文の盗用を指摘すれば、即、妻は破滅し、妻の研究上の指導教授である夫・ミシェルも無傷では済まない。それに、自分と妻の関係も破滅する。

幸い、他の審査員はセイマー・ヌヴァリの論文を知らない。

それで、フランス語の習得が悪いという難癖をつけ、ヨルダンから来たセイマー・ヌヴァリを研究室から追い出した。セイマー・ヌヴァリをポール・サバティエ大学から遠ざけ、セイマー・ヌヴァリさえ黙っていてくれれば、妻・クリスティーンの盗用が発覚しないで、しのげると期待したのだろう。

さらに、妻・クリスティーンを研究室の助教授に採用すれば、妻の大学内での権力も強くなる。それもプラスに働くハズだ、と考えたに違いない。

【白楽の感想】

《1》 フランスの事件は不明点が多い

「研究上の不正行為」を調べていると、フランス政府・学術界・大学の「研究規範」への取組は、相当ヒドイという記述が目につく。

不正に対処しない、不正をちゃんと調査しない、事件を公表しない、調査結果を公表しない、事件関係者が調査に加わっているなどの批判がある。

フランスの研究者の事件は少ない。それは、不正行為自体が少ないのではなく、上記の状況のために、不正行為が表面化しないということらしい。

確かに、今回の事件は、もし盗用行為がなくても、首をかしげる状況がある。

学部長・教授が、①自分の妻を自分の研究室に大学院生として入学させた、あるいは、自分の研究室の大学院生を妻にした。②研究の経験・実績・成果を知らないが、通常3年間かかるところ、自分の妻を2年間で博士号取得させた。③博士号取得後すぐに、自分の妻を自分の研究室の助教授に採用した。

これでは、大学院制度・人事・研究室を私物化していると言わざるを得ない。3点の内の①は違反とは言えないが、②と③は、違反だろう。相当ヒドい違反だ。ポール・サバティエ大学も、よくもまあ、こんな人物を教授にしたり、さらには学部長にしたなあと、あきれた。