マコト・スズキ、鈴木実(Makoto Suzuki)(米)


ワンポイント:高橋孝夫と同じ米国の研究室で事件を起こし日本に帰国した医師・論文博士

【概略】
b21715258b3e5ad8719b40270db61d93e5d46233マコト・スズキ、鈴木実(Makoto Suzuki、写真出典)は、2001‐2003年(36‐38歳)、米国のテキサス大学・サウスウェスタン・メディカルセンター(University of Texas Southwestern Medical Center)のアディ・ガズダー(Adi Gazdar)研究室のポスドクだった。

米国・留学先のアディ・ガズダー教授の専門はがんの分子生物学である。留学前後は、千葉大学の助手・医師で専門は呼吸器外科(癌)である。研究博士号(PhD)は論文博士で取得している。

2003年に日本に帰国し、2011年(46歳)に熊本大学・呼吸器外科・教授になった。

2012年(47歳)、テキサス大学が、米国滞在中の研究成果を基にした2005‐2007年の論文にデータねつ造を見つけた。

2014年12月19日(49歳)、米国・研究公正局は、テキサス大学の調査に独自の調査をした結果、2001‐2003年(36‐38歳)の米国滞在中の研究成果を基にした鈴木実の6論文にデータねつ造・改ざんがあったと発表した。高橋孝夫のねつ造・改ざんの発表と同じ日である。

2015年5月現在(50歳)、熊本大学は、鈴木実の処分を発表していない。ほぼ同じ不正をした高橋孝夫・岐阜大学・講師は4論文の不正で停職6か月の懲戒処分を受けた。鈴木実は6論文の不正なので、処分はさらに重い可能性がある。

IMG_6390熊本大学医学部・呼吸器外科の2014年スタッフ。鈴木 実 (教授、科長)(中央)。 写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:日本
  • 研究博士号(PhD)取得:千葉大学、論文博士
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に、1965年1月1日とする
  • 現在の年齢:52 (+1)歳
  • 分野:がん学
  • 最初の不正論文発表:2005年(40歳?)
  • 発覚年:2012年(47歳)
  • 発覚時地位:熊本大学医学部・教授
  • 発覚:
  • 調査:①米国のテキサス大学・サウスウェスタン・メディカルセンター・調査委員会。2012年~2014年②研究公正局。~2014年月日
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:6報。撤回論文は6報で内3報が不正論文と重複している
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 結末:米国で3年間研究費申請不可の調停に合意した。熊本大学の処分なし

SWMedicalCenter-640v4n3prcdwmgp3fifgezcvd0z3v739lqe8l81iymyテキサス大学・サウスウェスタン・メディカルセンター (University of Texas Southwestern Medical Center)。写真出典

【経歴と経過】
主な参考サイト(九州医事新報・中四国医事新報

  • 生年月日:不明。仮に、1965年1月1日とする
  • 1989年(24歳?):千葉大学医学部を卒業。医師免許
  • 1996年11月28日(31歳):千葉大学で研究博士号(PhD)取得、論文博士、タイトル「肺癌におけるMMPsおよびTIMPsの発現と浸潤・転移に関する検討」
  • 1999年(34歳):千葉大医学部附属病院・助手。肺外科
  • 2001‐2003年(36‐38歳):米国のテキサス大学・
    サウスウェスタン・メディカルセンター(University of Texas Southwestern Medical Center)・のアディ・ガズダー(Adi Gazdar)研究室に2年間ポスドクとして留学
  • 2003年(38歳):千葉県がんセンター・医長。呼吸器科
  • 2008年(43歳):千葉大学医学部・講師。呼吸器外科
  • 2011年(46歳):熊本大学医学部・教授。呼吸器外科
  • 2012年(47歳):不正研究が発覚する
  • 2014年12月19日(49歳):米国・研究公正局は、鈴木実の2005‐2007年の6論文にデータねつ造・改ざんがあったと発表した

【研究内容】

高橋孝夫(Takao Takahashi)の項と同じ

【不正発覚・調査の経緯】

テキサス大学は調査報告書を公表していない。熊本大学は鈴木実(Makoto Suzuki)の研究不正を調査しているのかどうか公表していない。

しかし、高橋孝夫(Takao Takahashi)の項と同じだろう。

【論文数と撤回論文】

パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、鈴木実(Makoto Suzuki)の論文を「Makoto Suzuki[Author]」で検索すると、2002年~2015年の14年間の392論文がヒットした。全部が当該者の論文ではないだろう。

2015年5月4日現在、6論文(2004‐2006年)が撤回されている。6論文全部、アディ・ガズダー(Adi Gazdar)が共著である。また、6論文全部、同じ研究不正者である高橋孝夫(Takao Takahashi)とも共著である。また、共著者に日本人名がとても多い。

  1. Methylation of apoptosis related genes in the pathogenesis and prognosis of prostate cancer.
    Suzuki M, Shigematsu H, Shivapurkar N, Reddy J, Miyajima K, Takahashi T, Gazdar AF, Frenkel EP.
    Cancer Lett. 2006 Oct 28;242(2):222-30. Epub 2006 Feb 3. Retraction in: Cancer Lett. 2015 Apr 28;360(1):87.
  2. Aberrant promoter methylation of multiple genes during multistep pathogenesis of colorectal cancers.
    Takahashi T, Shigematsu H, Shivapurkar N, Reddy J, Zheng Y, Feng Z, Suzuki M, Nomura M, Augustus M, Yin J, Meltzer SJ, Gazdar AF.
    Int J Cancer. 2006 Feb 15;118(4):924-31.
    Retraction in: Int J Cancer. 2013 Jan 15;132(2):499.
  3. Aberrant methylation of Reprimo in human malignancies.
    Takahashi T, Suzuki M, Shigematsu H, Shivapurkar N, Echebiri C, Nomura M, Stastny V, Augustus M, Wu CW, Wistuba II, Meltzer SJ, Gazdar AF.
    Int J Cancer. 2005 Jul 1;115(4):503-10.
    Retraction in: Int J Cancer. 2013 Jan 15;132(2):498.
  4. Aberrant methylation of Reprimo in lung cancer.
    Suzuki M, Shigematsu H, Takahashi T, Shivapurkar N, Sathyanarayana UG, Iizasa T, Fujisawa T, Gazdar AF.
    Lung Cancer. 2005 Mar;47(3):309-14.
    Retraction in: Lung Cancer. 2014 Aug;85(2):337.
  5. Aberrant methylation profile of human malignant mesotheliomas and its relationship to SV40 infection.
    Suzuki M, Toyooka S, Shivapurkar N, Shigematsu H, Miyajima K, Takahashi T, Stastny V, Zern AL, Fujisawa T, Pass HI, Carbone M, Gazdar AF.
    Oncogene. 2005 Feb 10;24(7):1302-8.
    Retraction in: Oncogene. 2014 May 22;33(21):2814.
  6. DNA methylation profiles of lymphoid and hematopoietic malignancies.
    Takahashi T, Shivapurkar N, Reddy J, Shigematsu H, Miyajima K, Suzuki M, Toyooka S, Zöchbauer-Müller S, Drach J, Parikh G, Zheng Y, Feng Z, Kroft SH, Timmons C, McKenna RW, Gazdar AF.
    Clin Cancer Res. 2004 May 1;10(9):2928-35.
    Retraction in:  Clin Cancer Res. 2013 Jan 1;19(1):307.

なお、米国・研究公正局が鈴木実(Makoto Suzuki)の不正だと指摘した論文は以下の6報(2005‐2007年)で、鈴木実(Makoto Suzuki)が全部第一著者である。1番目、5番目、6番目の3論文は上記にリストされていない。

  1. Suzuki, M., Hao, C., Takahashi, T., Shigematsu, H., Shivapurkar, N., Sathyanarayana, U.G., Iizasa, T., Fujisawa, T., Hiroshima, K., & Gazdar, A.F. “Aberrant methylation of SPARC in human lung cancers.” Br J Cancer 92(5):942-8, 2005 Mar 14 (hereafter referred to as “BJC 2005-1″); Retraction in: Br J Cancer 108(3):744, 2013 Feb 19
  2. Suzuki, M., Shigematsu, H., Shames, D.S., Sunaga, N., Takahashi, T., Shivapurkar, N., Iizasa, T., Frankel, E.P., Minna, J.D., Fujisawa, T., & Gazdar, A.F. “DNA methylation associated inactivation of TGFbeta-related genes DRM/Gremlin, RUNX3, and HPP1 in human cancers.” Br J Cancer 93(9):1029-37, 2005 Oct 31 (hereafter referred to as “BJC 2005-2″); Retraction in: Br J Cancer 109(12)3132, 2013 Dec 10
  3. Suzuki, M., Shigematsu, H., Takahashi, T., Shivapurkar, N., Sathyanarayana, U.G., Iizasa, T., Fujisawa, T., & Gazdar, A.F. “Aberrant methylation of Reprimo in lung cancer.” Lung Cancer 47(3):309-14; 2005 Mar (hereafter referred to as “LC 2005″); Retraction in: Lung Cancer 85(2):337, 2014 August
  4. Suzuki, M., Toyooka, S., Shivapurkar, N., Shigematsu, H., Miyajima, K., Takahashi, T., Stastny, V., Zern, A.L., Fujisawa, T., Pass, H.I., Carbone, M., & Gazdar, A.F. “Aberrant methylation profile of human malignant mesotheliomas and its relationship to SV40 infection.” Oncogene 24(7):1302-8, 2005 Feb 10 (hereafter referred to as “ONC 2005″); Retraction in: Oncogene 33(21):2814, 2014 May 22
  5. Suzuki, M., Shigematsu, H., Shivapurkar, N., Reddy, J., Miyajima, K., Takahashi, T., Gazdar, A.F., & Frenkel, E.P. “Methylation of apoptosis related genes in the pathogenesis and prognosis of prostate cancer.” Cancer Lett. 242(2):222-30, 2006 Oct 28 (hereafter referred to as “CL 2006″)
  6. Suzuki, M., Shigematsu, H., Shames, D.S., Sunaga, N., Takahashi, T., Shivapurkar, N., Iizasa, T., Minna, J.D., Fujisawa, T., & Gazdar, A.F. “Methylation and gene silencing of the Ras-related GTPase gene in lung and breast cancers.” Ann Surg Oncol. 14(4):1397-404, 2007 Apr (hereafter referred to as “ASO 2007″).

【事件の深堀】

高橋孝夫(Takao Takahashi)の項と同じだが、以下を追加した。

★誰が先導?

鈴木実(Makoto Suzuki)が2001年に留学し、高橋孝夫(Takao Takahashi)が2002年6月に同じ研究室に留学した。日本では別の大学・系列なので先輩後輩関係はなかっただろう。鈴木実は高橋孝夫より約2歳年上である。留学が先で、年齢は上なので、鈴木実の方が立場が上だったと思われる。

データねつ造と認定された最初の論文は2004年5月出版で、高橋孝夫が第一著者で、研究公正局の報告では、不正実行者は高橋孝夫である。鈴木実は不正に関与していない。

鈴木実(Makoto Suzuki)がガズダー研究室で最初に論文発表したのは、その7か月前の2003年10月の以下の論文である。この論文では鈴木実は第三著者だ。高橋孝夫(Takao Takahashi)は共著者に入っていない。

翌月の2003年11月に、鈴木実(Makoto Suzuki)は第一著者の論文を発表している。高橋孝夫(Takao Takahashi)は共著者に入っていない。

そして、2004年5月の高橋孝夫が第一著者の不正論文(不正は高橋孝夫が実行者)は、鈴木実(Makoto Suzuki)が共著者に入っているが、鈴木実にとって、ガズダー研究室での8報目の論文である。

時間軸で見ると、この、2004年5月の不正論文で、高橋孝夫はデータねつ造を始めた。鈴木実は、この高橋孝夫のデータねつ造を見て、米国留学の先輩で年上にもかかわらず、高橋孝夫の不正行為を追従したと受け取れる。

この時、「朱に交わらず」、高橋孝夫に注意や警告を発すればよかったのにと思う。鈴木実は、既に論文を7報も出版していたのだから、論文数を増やす必要性はさほど強くないハズだったろうに。

【防ぐ方法】

高橋孝夫(Takao Takahashi)の項を参照

【白楽の感想】

《1》論文博士の欠陥?

論文博士は外国にはないシステムで、論文さえ出せば博士号が取得できる日本独特のシステムである。だから、学ぶ態度が軽減されている。講義を通して、「研究とは何か?」を学び・考え・議論する時間は少ないと思われる。だから、研究の基本が習得できにくい。もちろん、全員がそうではないが、そういう傾向があるように思う。

日本は論文博士制度を廃止すると言いながら現在もかなりの人が取得している。2014年だと789人が博士号を取得し、内、117人が論文博士である。

論文博士を取得する過程で、研究規範を習得する機会はない。鈴木実は論文博士だが、米国の同じ研究室でデータねつ造を働いた高橋孝夫(Takao Takahashi)も論文博士である。

論文博士だから研究ネカトをしてしまう傾向が強いのだろうか?

以下の米国ポスドクの4人の研究ネカト事件では、論文博士が2人、課程博士が2人で、論文博士が特に研究ネカトをする傾向はない。

鈴木実(Makoto Suzuki):医師、論文博士
高橋孝夫(Takao Takahashi):医師、論文博士
田仲和宏(Kazuhiro Tanaka):医師、課程博士
藤田亮介(Ryousuke Fujita):課程博士(薬学)

より多数の統計的データが必要だろう。

《2》米国留学先の仲間

米国留学先での研究者同士の付き合いは、相手の素性がよくわからないので難しい面がある。

自分の経験でも、とても有益だった人と、悪いこと学んだ人がいた。悪いことは、本人(白楽)が拒否すればよかったのだが、白楽は意志薄弱である。「朱に交わりピンクになった」。

《3》処罰

鈴木実は、2011年(46歳)に熊本大学・教授に就任し、医局が動き出した2012年にテキサス大学がねつ造疑惑を表明し、その2年後の2014年12月19日(49歳)、米国・研究公正局がクロと判定した。

鈴木実(Makoto Suzuki)のダメージは大きいだろう。しかし、これは自分が蒔いた種だから仕方ない面もある。

鈴木実(Makoto Suzuki)の研究不正を知らずに教授として採用した熊本大学、医局に入った医局員、これら両者は、もともと責任がないのに大きなダメージを受けている。

2015年5月8日現在、熊本大学は、鈴木実の処分を発表していない。時間を延ばせば延ばすほど鈴木実と熊本大学のダメージは大きくなる。熊本大学は、何らかの態度表明をすべきだろう。まさか、調査していないのだろうか?

選択1案・・・ほぼ同じ不正をした高橋孝夫・岐阜大学・講師は4論文の不正で停職6か月の懲戒処分を受けた。これを参考にする。鈴木実は6論文の不正なので、処分を少し重くする。

選択2案・・・鈴木実は米国で処分を受けている。熊本大学で不正研究をしたわけではないので処分しないという選択案である。教授採用人事で、虚偽の書類が提出されたわけではないし、採用後に撤回された論文を差し引いても、教授人事の結果に変わりがないとする(推定)。岐阜大学の高橋孝夫の処分とは異なるが、岐阜大学が間違って、「ヤリスギた」と判断した、ということにする。

【主要情報源】
① 2014年9月18日のリトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)の記事:Former UT-Southwestern cancer researchers faked data in 10 papers: ORI – Retraction Watch at Retraction Watch
② 2014年12月19日、研究公正局のケースサマリー:Case Summary: Suzuki, Makoto | ORI – The Office of Research Integrity