ドンピョウ・ハン(Dong-Pyou Han)(米)

【概略】
hanドンピョウ・ハン(Dong-Pyou Han、写真出典)は、韓国に生まれ育ち、米国・アイオワ州立大学(Iowa State University)・助教授になり、専門はエイズワクチンの開発だった。

2013年(56歳)に、匿名の公益通報によりねつ造が発覚した。

逮捕され、2015年2月16日時点では、裁判中である。

「国際ビジネス・タイムス(ibtimes)」誌が選んだ2013年度・7大科学スキャンダルの第4位である(7 Scientific Scandals Of 2013: From A Retract)。

  • 国:米国
  • 成長国:韓国
  • 研究博士号(PhD)取得:
  • 男女:男性
  • 生年月日:1957年月日。仮に、1957年1月1日生まれとする
  • 現在の年齢:60 (+1)歳
  • 分野:エイズワクチン開発
  • 最初の不正論文発表:2012年(55歳)
  • 発覚年:2013年(56歳)
  • 発覚時地位:アイオワ州立大学(Iowa State University)・助教授
  • 発覚:公益通報
  • 調査:①アイオワ州立大学・調査委員会。②研究公正局。~2013年12月23日。③裁判所
  • 不正:ねつ造
  • 不正論文数:1報
  • 時期:研究キャリアの後期から
  • 結末:辞職(解雇?)。今後、実刑? 罰金?

150217 aidsre連邦裁判所を出たハン。写真出典 (AP)

【経歴と経過】

  • 1957年月日:韓国で生まれる。仮に、1957年1月1日生まれとする
  • 19xx年(xx歳):韓国(?)のxx大学で研究博士号(PhD)取得
  • 1999年(42歳):韓国・延世大学(Yonsei University)・医学部・生化学教室の教員(または研究員)として在籍していた
  • 2001年(44歳):米国・NIHの国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の分子微生物学研究室のマイケル・チョー(Michael Cho)研究室の研究員として在籍していた
  • 20xx年(xx歳):米国・ケース・ウェスタン・リザーブ大学(Case Western Reserve University)のマイケル・チョー(Michael Cho)研究室の研究員(助教授?)
  • 2009年(52歳):米国・アイオワ州立大学のマイケル・チョー(Michael Cho)研究室・助教授
  • 2013年(56歳):不正研究が発覚する
  • 2013年秋(56歳):アイオワ州立大学・調査委員会が報告書を公表
  • 2013年10月4日(56歳):アイオワ州立大学を辞職(解雇?)
  • 2013年12月23日(56歳):研究公正局が調査報告書を公表
  • 2014 年6月(57歳):逮捕され、アイオワ州デモイン(Des Moines)の連邦裁判所で裁判
  • 2015年1月16日(58歳):司法取引し、有罪を認めた
  • 2015年2月25日(58歳):裁判は続いている

【不正発覚・調査の経緯】

150217 Cho%20Bio%20Pic2009年、ハンは、米国・アイオワ州立大学のマイケル・チョー教授(Michael Cho、写真出典)の研究室で、エイズワクチンの開発研究をしていた。

マイケル・チョー教授は、1994年、ユタ大学(University of Utah)で研究博士号(PhD)を取得した。途中の経過を省くが、2001年、NIHの国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の分子微生物学研究室(Laboratory of Molecular Microbiology)に在籍(室長?)していた。その時、ハン(44歳)は自分より若いチョーの部下(?)として、チョー研究室で研究していた。

2009年、チョーはオハイオ州のケース・ウェスタン・リザーブ大学(Case Western Reserve University)からアイオワ州立大学に栄転した。この時、ハンは、チョーに随伴して、助教授になった。2人は、約15年、一緒に研究してきた。

2010年、ハンは、エイズウイルス(HIV-1)のgp41糖タンパク質の一部であるgp41-54ペプチドを用いてエイズワクチンの開発に成功したと発表した。

つまり、gp41-54ペプチドを抗原としてウサギに注射し、エイズの抗血清をウサギに作らせた。この抗エイズ血清は、広範なエイズウイルスに反応し、エイズウイルスの働きを阻害した。画期的なことは、この方法をヒトに適用し、ヒトのエイズワクチンとして応用できることだった。

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エイズウイルス。写真出典 Credit: National Institute of Allergy and Infectious Diseases

2010年~2012年、この研究成果を研究室ミーティングでなんども発表し、全米のシンポジウムや国際シンポジウムで7回発表した。

2012年9月13日、論文を「Retrovirology」誌に発表した(Retrovirology 2012, 9(Suppl 2):P362 doi:10.1186/1742-4690-9-S2-P362)。ハンが第一著者である。

一方、マイケル・チョーは、政府・NIHの研究費を何年にもわたり獲得し、その総額は1900万ドル(約19億円)に及んでいた。その内、ハンが貢献した研究成果により、エイズワクチン開発が有望とみなされて獲得した額は約1000万ドル(約10億円)だった。NIHの研究課題番号は、P01 AI074286-03、-04、-05、-06;R33 AI076083-04;U19 AI091031-01と-03; R01 AI090921-01である。

しかし、上記したウサギ抗エイズ血清は、実は、驚いたことに、エイズウイルスに反応しなかったのである。これは、確実に、大きなスキャンダルである。

ハンは、検査する時に、エイズウイルスに反応することが知られているエイズ患者の抗血清、あるいは、ウサギの抗HIV-1 gp120・抗血清(これもエイズウイルスに反応することが知られている)を、自分が造ったウサギ抗エイズ血清に意図的にまぜていたのだった。

抗血清はウサギ由来でもヒト由来でも見た目には全く区別がつかないし、混ぜても何ら異常なことは起こらない。だから、一見、ヘンな操作がされたとは誰も気が付かない。

ハンの話だと、最初は、2009年8月11日、共同研究者に自分が作成したウサギ抗エイズ血清のサンプルを送った時、後で、間違えたことに気が付いた。これが、すべての出発だとハンは述べている。

実験室では、エイズウイルスに反応することが知られているエイズ患者の抗血清、また、ウサギの抗HIV-1 gp120・抗血清(これもエイズウイルスに反応することが知られている)を頻繁に扱っている。自分が造ったウサギ抗エイズ血清に、何かの折に間違えてエイズ患者の抗血清の一部を混入してしまった、とハンは言うのだ(真偽は不明ですが・・・)。

しかし、間違いと気が付いた時、既に、共同研究者は、その間違っいウサギ抗エイズ血清で画期的なデータをだしていて、研究結果に大興奮していた。ハンは、今さら、間違いでしたと、チョー教授に伝えることができなかった。

そして、それ以後、問題が発覚するまでの数年間、ウサギ抗エイズ血清に意図的な細工をするようになった、とハンは述べている。

当然、他の研究者からは、発表論文が追試できない、とクレームがついた。

ウサギ抗エイズ血清にヒト血清が混入しているかどうかは、その気になれば、比較的簡単に判定できる。

2013年1月、ハーバード大学の研究者がデータねつ造ではないかと公益通報した。

アイオワ州立大学は、研究担当副学長補佐で研究公正官(Research Integrity Officer )のシャーロット・ブロンソン(Charlotte Bronson)を軸に調査委員会を設け、調査した。

2013年8月、調査委員会は、ハンがデータをねつ造したことを特定した。

2013年秋、ハンは、大学に手紙を書き、データねつ造を自白した。「ねつ造は2009年頃から始めました。研究結果がよりよく見えてほしかったのです。ねつ造は自分一人で行ないました。私が愚か者でした。ひきょう者で、素直ではありませんでした」。

アイオワ州立大学は調査委員会は、ドンピョウ・ハン(Dong-Pyou Han)がデータをねつ造し、そのねつ造を単独で行なったと発表した。上司・マイケル・チョー教授(Michael Cho)は無罪となった。

150217 1396378995000-michael-cho-and-team-pic前列右がドンピョウ・ハン(Dong-Pyou Han)。前列左はマイケル・チョー教授(Michael Cho)。写真出典 (Photo: Iowa State University)

★逮捕と裁判

2014 年6月(57歳)、ハンは逮捕され、アイオワ州南地区の米連邦検事であるニコラス・クラインフェルド(Nicholas Klinefeldt)がハンを起訴した。有罪なら、1件当たり、最高5年の刑務所での服役および25万ドル(約2,500万円)の罰金になる。

アイオワ州デモイン(Des Moines)の連邦裁判所で、裁判が行われている。

ハンはデータねつ造で、政府・NIHから1900万ドル(約19億円)の研究費の助成を受けていたが(書面ではチョー教授が受けていた)、申請書類の内容が虚偽だったのだ。

800px-Sen_Chuck_Grassley_official[1]アイオワ州選出の共和党の上院議員・チャック・グラスリー(Chuck Grassley、写真出典)も乗り出した。

グラスリー上院議員は、ハンに支給した研究助成金を政府は取り戻すことができるかとNIHに質問した。

2014 年5月9日、NIH所長のフランシス・コリンズ(Francis Collins)は、グラスリー上院議員に回答した。

研究助成金の中からアイオワ州立大学がハンの給料として支払った496,832ドル(約4,968万円)は返還すべきだと、アイオワ州立大学に伝えてある。ただ、アイオワ州立大学以外の最近の事件では、研究費の返還を要求していないと答えた。

アイオワ州立大学・相談役のポール・タナカ(Paul Tanaka)は、496,832ドル(約4,968万円)を政府に返還したと述べた。

ハンは、大学を辞職した後、オハイオ州に住んでいたが、交通事故で負傷し、裁判が最初の予定より遅れた。

2014年7月(57歳)、ハンは、アイオワ州デモイン(Des Moines)の連邦裁判所で、4件の罪に対し無罪を主張した(AIDS Scientist Dong-Pyou Han Pleads Not Guilty To Faking Study)。

もし有罪なら、1件あたり、最高5年の刑務所での服役および25万ドル(約2,500万円)の罰金になる。4件とも有罪なら、最高20年の刑務所での服役および100万ドル(約1億円)の罰金が科せられる。

保釈金を払い、保釈されたが次回は2014年9月2日に予定された

★司法取引し有罪

2015年1月16日(58歳)、ハンは、司法取引(plea agreement)し、有罪を認めた。司法取引の内容は2015年1月21日時点では公表されていない(2015年1月21日の記事:Former ISU researcher to plead guilty in federal court – Iowa State Daily: Academics)。

法廷文書によると、ハンは、現在、保釈中の身だが、健康上の理由で、アイオワ州まで運転してくることができず、司法取引の議事録が作成できていない。

ハンの国選弁護人・ジョー・ヘロルド(Joe Herrold)は、ハンのために優秀な韓国語通訳者を探す時間と、その韓国語通訳者が韓国から米国に来る経費はハンが支払うのだが、その適切な値段の飛行機をさがす時間を要求した。

2015年3月2日(58歳)、審理再開予定。

2015年2月25日時点では決着がついていない。

150217 B9315895166Z_1_20150116173131_000_GS29MPI98_1-0左はハンの国選弁護人のジョー・ヘロルド(Joe Herrold)、中央はドンピョウ・ハン(Dong-Pyou Han)。2014年7月、写真出典(Photo: Associated Press file photo)。

【論文数と撤回論文】

パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、ドンピョウ・ハン(Dong-Pyou Han)の論文を「Han D[Author]」で検索すると、4,109論文がヒットした。数字の多さから、大半は、他の人の論文だろう。

2015年2月16日現在、2012年9月13日の1論文が撤回されている。

【白楽の感想】

《1》 成功の誘惑

以下は憶測である。

ハンは、韓国に生まれ育ち、韓国の大学で研究生活を送り、40歳頃、渡米し米国で研究者になった。母国の両親・親戚・友人は、世界的に大活躍していると思っているに違いない。しかし、50代になっても助教授で、学問の成果はさほどない。自分のボスは年下である。徐々に精神が歪んできた。

最初は、間違えて血清を混ぜてしまったと述べているが、これは言い訳だろう。最初から、後先考えずに、華々しい研究人生を夢見たのだろう。

しかし、コトは甘くない。この手のデータねつ造はどう考えてもバレる。エイズワクチンの開発に成功すれば、ワクチンはモノ(物質)なので、モノがなければバレる。そしてモノがない。代用品はきかない。

ワクチン開発に成功したと嘘をつき、嘘のデータをねつ造で塗り固める泥沼に陥ったのだろう。

このような研究ネカトをどう防げるか? マイケル・チョー教授は、上司とは言え、ハンは助教授で独立した研究者だ。実験ノートをもってこさせてデータをチェックするのは難しい。この場合、データは既にねつ造実験のデータなので、実験ノートをチェックしても不正を見つけることができない。

今回の件は追試できなかったことから調査が入り、本人が自白しているから、ねつ造が明るみに出ているが、一般的に、追試できない研究結果はヤマほどあるし、本人が自白しないのもヤマほどある。発覚はとても困難だろう。

とはいえ、15年以上、一緒に研究してきたマイケル・チョー教授にも何らかの責任があるだろう。

《2》 生きていけるか?

以下も憶測である。

ハンは、健康に問題がある。研究職への復帰はあり得ない。裁判に巨額のお金を使う。

上の状態で、57~58歳で実刑判決がでたら、生きていけないだろう。家族と資産の両方が十分でなければ、自殺してしまうだろう。

資産が十分で、しっかり支えてくれる家族があれば、なんとか生きるだろうが、仕事・夢・生きがいを見つけるのは大変だろう。

【主要情報源】
① 2012年12月23日のリトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)の記事:ORI: Ohio State researcher manipulated two dozen figures in NIH grants, papers – Retraction Watch at Retraction Watch
② ◎2014年7月2日、デビィト・ピット(David Pitt)の「Huffington Post」の記事:AIDS Scientist Dong-Pyou Han Pleads Not Guilty To Faking Study
③ ウィキペディア英語版:Dong-Pyou Han – Wikipedia, the free encyclopedia
④ 2014年10月21日、デビィト・フィッツパトリック(David Fitzpatrick)とドリュー・グリフィン(Drew Griffin)の「CNN」の記事。【動画あり】:Government prosecutes alleged scientific fraud on AIDS research – CNN.com
⑤ 2013年12月23日、研究公正局:Case Summary: Han, Dong-Pyou | ORI – The Office of Research Integrity
⑥2013年12月23日、Federal Register: Federal Register | Findings of Research Misconduct
⑦ トーマス・オドンネル(Thomas R. O’Donnell)の記事:ISU research fraud probe staked out faked results | Iowa Science Interface
⑧ 20134年12月23日、トニー・リーズ(Tony Leys)の「Des Moines Register Staff Blogs」の記事:ISU researcher quits amid allegations of AIDS-research fraud involving millions of federal dollars | Des Moines Register Staff Blogs
⑨3頁しか見れないが資料:

2013-10-15.Inquiry Report – Redacted – Reduced Size