1‐5‐1.研究ネカトを通報(告発)する

2016年8月10日掲載。

ワンポイント:【長文注意】。自分の周囲の研究ネカトにたまたま遭遇したら、どこにどのように通報(告発)するとよいのか? 注意点は何か? 他大学・他国の研究者の研究ネカトも含めて、研究ネカトを通報(告発)する方法を示そう。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.研究ネカトを通報(告発)する方法:米国・撤回監視(Retraction Watch)のアドバイス
3.研究ネカトを通報(告発)する方法:米国
4.研究ネカトを通報(告発)する方法:日本
5.申し立て(通報、告発)の危険性
6.白楽のアドバイス:研究ネカトを通報(告発)する方法
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】

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写真出典

研究人生では、思いもかけず、研究ネカトに遭遇する。

白楽も、現役時代に2桁の数ほど見聞き・遭遇した。その時、アクションしたこともあったが、今から思うと、アクションは、いかにも稚拙だった。

ブログの読者から、「研究ネカトを目撃・直面しているが、どうするとよいか?」と、かなりの数の相談を受けている。かなり危険な行動をとった人からの相談も受けた。

研究者が、自分の研究室の院生の論文・学会発表・研究報告書の“異常”に気が付く。他大学・研究機関の論文を読んで、“異常”に気が付く。

院生・ポスドクが、厄介なことに、自分の研究室の仲間の、指導教授の論文・学会発表・研究報告書の“異常”に気が付く。自分の指導教授から、“異常”な行為をするよう暗示される(実質、強制される)。

研究ネカトを通報したい。ヤメさせたい。

でもどうしていいのかわからない。危険な気もする。

ここでは、米国の中心的な方法、日本の標準的方法述べ、最後の章で「白楽のアドバイス:研究ネカトを通報(告発)する方法」を述べる。

勿論、「お便り・質問・相談・FAQ」から、白楽に通報してくれるのも歓迎である。ただ、白楽は「当局(オーソリティ)」ではないので、ある意味、役に立たない。

「能書きはいいから、通報する方法を早く教えろ」という方は → 6.【白楽のアドバイス:研究ネカトを通報(告発)する方法】に直行する。

●2.【研究ネカトを通報する方法:米国・撤回監視(Retraction Watch)のアドバイス】

★撤回監視(Retraction Watch)のアドバイス:2015年6月

出典 → 2013年1月のアダム・マーカス(Adam Marcus)とアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)の「Labtimes」記事、2015年6月の訂正記事:Labtimes: Publication Statistics: What’s behind paper retractions? – How to Report Alleged Scientific MisconductLabtimes: Publication Statistics: What’s behind paper retractions? – A Retraction: We Gave Bad Advice

最初に、米国・研究公正局が提供するの論文の研究ネカト検査法リストを示す。 まず、検査方法スキルの取得を勧めている。 → http://ori.hhs.gov/forensic-tools

また、全体を通し、研究ネカトの追及では、事実・証拠に固執し、分析は科学的に処理することが重要だと述べている。

1.著者に連絡してはならない。

2013年版でマーカスとオランスキーは、「著者に連絡しなさい」と最初にアドバイスした。しかし、後に、マズいことに気が付き、2013年版を撤回した。2015年版では、真逆のアドバイスをしている。それが、「著者に連絡してはならない」である。

研究ネカトの疑惑論文を見つけた時、著者に連絡すると、著者(研究ネカト者)は自分の身を守るために、研究ネカトの足跡と証拠を隠滅する。著者に連絡すると、その隠滅を助けるだけである。

研究ネカトをするような研究者は、足跡隠滅と証拠隠滅になんのためらいもない。その足跡隠滅と証拠隠滅のために、大学や研究公正局などの当局(オーソリティ)は、調査に多大な支障が生じている。

2.学術誌出版局への申し立ては後にする。

すべての学術誌出版局の編集者は研究ネカトの申し立てに敏感である。しかし、自分の学術誌の掲載論文の訂正や撤回を頑なに拒否する編集者はたくさんいる。ということは、研究ネカト疑惑の最初の申し立て先として、理想的とは言い難い。

以下、白楽が記事を補足する。
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白楽が、学術誌出版局への研究ネカト申し立て例として、研究ネカト論文数が上位の米国の学術誌「Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.」誌を取り上げよう。

「Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.」誌のウェブサイトで、研究ネカト通報方法の記述を探したが見つからない。

総合的な連絡窓口として、電話・ファクス・電子メールアドレス(例 Email: pnas@nas.edu)が記載されている。そこに連絡すれば、対応してくれると思われる。
→ PNAS — Contact Information
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3.研究公正官に申し立てる。

というわけで、正しい答えは、大学・研究機関の研究公正官(research integrity officers、RIO、リオと読む)または同等人ということになる。研究ネカト疑惑がある研究者が所属する大学・研究機関の研究公正官に申し立てることが望ましい。白楽注:日本には研究公正官はいない。

4.研究公正局に申し立てるもよし。

多くの内部告発者は自分の大学・研究機関の研究公正官をあまり信用していない。それで、可能なら信頼がおける外部機関で研究ネカト調査をしてもらいたいと考える。これは優れた選択肢だ。米国なら研究公正局などが該当する。

疑念を抱く論文がNIHに研究助成されていて、論文著者の所属大学・研究機関があなたの研究ネカト申し立てをしっかり受け止めてくれないとき、米国・研究公正局に申し立てるとよい。研究公正局は大学・研究機関の調査を監督する立場で、研究者にペナルティを科す権限もある。

以下、白楽が記事を補足する。
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白楽が、研究公正局のウェブサイトで、研究ネカト通報方法の記述を探したが見つからない。

研究公正局の部門別連絡先が書いてある。調査部門は、Division of Investigative Oversightで、電話は240-453-8800、ファクスは 301-594-0043である。電子メールは、研究公正局の全体で AskORI@hhs.gov である。

ただ、研究公正局は、申し立てを受けると、被疑者の所属する大学・研究機関に連絡し、その大学・研究機関に最初の調査を依頼する。だから、研究公正局に申し立てても、調査するのは被疑者の所属する大学・研究機関である。

とはいえ、「3」のケースで大学・研究機関が調査するより、研究公正局からの要求で調査する方が、大学・研究機関は熱心に調査する、と想定できる。また、研究公正局と大学・研究機関とのやり取りが公式書類として記録される。
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5.最善策はパブピア(PubPeer)

2013年版ではパブピア(PubPeer)の開設を書いたけど、開設後まだ数か月しか経っていなかった。そのインパクトがわかっていなかった。ところが、2013年5月のミタリポフ事件でパブピアが重要な役目を果たした。それでようやく、パブピアの重要性に気が付いた。

2015年の今、パブピアのインパクトは明白である。パブピアのコメントが、たくさんの論文の「訂正」「撤回」を引き出している。それで私達のアドバイスは、「パブピアでコメントする」を最優先にしたい。

実のところ、研究ネカト疑惑を相談してくる読者に、私達はここ数年、 「パブピアでコメントする」ようにと伝えている。確かに、コメントは自動的に著者に通知されるので、著者に連絡したときと同じ負の問題が生じる可能性はあるが、文書として記録が残る良い面もある。

最後に、有名な文章を引用しておく。心に留めるように。

「人為的ミスで説明できるものを、悪意の行為と決めつけてはならない。論文中に大嘘を見つけても、それが、即、研究ネカトだとは限らない。研究ネカトの告発は、長く、いらいらしたプロセスであるが、告発しなければ、研究ネカトを増長させることになる。すべきことをするのは、重要な研究規範である」。

●3.【研究ネカトを通報する方法:米国】

★米国の大学:ジョンズ・ホプキンス大学医科大学院(Johns Hopkins School of Medicine)

出典 → Procedures for Dealing with Issues of Research Misconduct
PDF: http://www.hopkinsmedicine.org/research/resources/offices-policies/OPC/Policies_Regulations/pdfs/researchMisconduct.June2009.pdf

ジョンズ・ホプキンス大学医科大学院のアドバイスは、米国の大学の中で秀逸かどうか、白楽はわからない。タマタマ、目についただけである。米国の大学が「研究ネカトを通報する」場合、どのようなアドバイスをしているのか、例として読んでみよう。なお、白楽はジョンズ・ホプキンス大学と利害関係はありません。

Ⅱ研究ネカトを通報する(Reporting Allegations of Research Misconduct)

  1. ジョンズ・ホプキンス大学・医科大学院のすべての教員、訓練生、スタッフは、研究ネカトの疑念を抱いたら、部門長、学科長、医科大学院長のいづれかに報告する義務がある。
  2. 研究ネカトの申し立ては、教員、訓練生、スタッフが義務を誠実に果たす行為と、医科大学院は理解している。また、申し立て者に報復があってはならない。たとえ調査委員会が、申し立て内容に間違い、不正確さがあり、支持できないと結論したとしても、申し立て者を報復から保護すべきである。医科大学院は、内部告発者の保護について、連邦規則とガイドラインを遵守する。
  3. 申し立てが部門長にされた場合、申し立て内容の如何に問わず、部門長は適宜、学科長に報告する。学科長は適宜、医科大学院長に報告する。また、申し立てが学科長にされた場合、申し立て内容の如何に問わず、学科長は適宜、医科大学院長に報告する。
  4. ジョンズ・ホプキンス大学の別の学部から申し立てがあれば、関連した学部長または学部長が指名した人と協議して進める。
  5. ジョンズ・ホプキンス大学・医科大学院は、他(例えば、学術誌編集局、NIH、他の助成機関)からの研究ネカトの申し立てにも対応する。すべてのケースにおいて、いったん申し立てを受理したら、医科大学院長は決められた手順および連邦規則に従って適切な行動を取る。

こういう細かい手順が大学のウェブサイトに公表されている。この後、「問い合わせ」「調査」他など、各ステップがどのように進行するか、詳細に記載されている。

さて、上記の「研究ネカトを通報する」規則にケチをつけるわけではないが、規則だから建前論を述べていることは明らかだ。

研究ネカトの疑念を抱けば、部門長に報告の「義務がある」としている。しかし、現実には、報告しない人のほうが圧倒的に多い。全米の統計値では、報告する人は100人に1人、つまり1%くらいだったと思う。

それに、申し立て者への報復は、あるだろう。保護すると書いてあるが、具体的方策や前例がなければ、うっかり信用するのは危険である。

米国では研究ネカト告発者の60%以上は何らかの報復を受け、約10%は解雇などの不当な報復を受けている(Research Misconduct | Office of Research Integrity)。

部門長、学科長、医科大学院長の研究ネカト疑惑はどうするのか記載がない。こういう役職者の不正は、実際のところ、それなりに起こっている。

●4.【研究ネカトを通報する方法:日本】

米国の例を見てきたが、日本の例に移ろう。

「1‐5‐3.研究ネカト対処の4ステップ説」で以下を記述した。

法律あるいは法律でなくても、社会的にその権威・権限が認められている組織が、研究ネカト事件を「公式」に調査し、シロ・クロを判定する。クロと判定した場合は「ペナルティを科す」。この組織を「当局(オーソリティ)」と呼ぶ。

つまり、研究ネカトを通報する相手は、「当局(オーソリティ)」である。現実的な相手は日本では以下の3つである。

  1. 文部科学省(・他省庁)や研究助成機関
  2. 学術誌編集局
  3. 大学・研究所

これらの3つを対象に記述しよう。

【「当局(オーソリティ)」:文部科学省(・他省庁)や研究助成機関】

文部科学省(・他省庁)や研究助成機関に通報するのは、研究者の発表した論文の異常を伝え、調査してもらうためである。なお調査の結果、クロ判定なら、被疑者に研究助成をさせないなどの処分をしてもらうことで、研究ネカトの防止を望むためである。

★文部科学省

出典 → 研究に関する不正の告発受付窓口:文部科学省

「当局(オーソリティ)」として、最も権威・権限があると思われるのが、文部科学省である。

文部科学省から研究助成金を受領した研究で、研究ネカトや研究費不正があった時の告発を受けつけている。

【告発等の受付窓口】
文部科学省研究振興局振興企画課競争的資金調整室
〒100-8959 東京都千代田区霞が関3-2-2
直通電話 03-6734-4018
ファクシミリ 03-6734-4018
電子メール chosei-k@mext.go.jp

但し、留意事項として以下のことが記載されている。

• 告発等を受付ける際には、告発者の氏名・連絡先、不正を行ったとする研究者・グループ、不正行為や不正使用・受給の態様(内容や年度等を含む)、不正行為とする科学的根拠あるいは不正使用・受給とする根拠、使用された競争的資金等について確認させていただくとともに、調査にあたって告発者に協力を求める場合があります。

• また、調査の結果、悪意に基づく告発であったことが判明した場合には、告発者の氏名の公表、懲戒処分、刑事告発がありうることを申し添えます。

「告発が悪意と判断されると、懲戒処分や刑事告発がある」などと脅されると、通報者はビビッてしまう。悪意の判定基準はあいまいである。本人に悪意がないのに、文部科学省から悪意があったと判断されるのは恐怖である。

それに、「米国の大学:ジョンズ・ホプキンス大学医科大学院」で見たような、告発者を保護する記載が全くない。

2013年11月、文部科学省ではなく、厚生労働省だが、担当官が、以下のようないい加減なことをした例がある。

研究プロジェクト・検証責任者の杉下守弘(東京大学・元教授)は、研究者代表者の岩坪威(東京大学・教授)がデータを改ざんしたと厚生労働省に通報した。すると、以下のように告発者のリスクを顧み見ない行動をとったのだ。

2013年11月、検証責任者である杉下守弘より厚生労働省にデータ改竄されていると電子メールが送付されたが、研究者代表である岩坪威に個人情報を削除しない状態で転送された(J-ADNI – Wikipedia

いい加減なことをした厚生労働省の職員2人は戒告処分と厳重注意という軽微な処分がされた。しかし、公益通報者保護法に違反したからではない。職務上知った秘密を漏らすことを禁じた国家公務員法違反である。つまり、告発者を保護する仕組みが機能していない(時事ドットコム:内部告発メールを無断転送=職員2人処分-厚労省)。

職員が処分されても、開示された告発者への報復がなくなるわけではない。別次元の話だ。

また、意図的ではないが、文部科学省も研究不正関連で、個人情報を漏えいしている。 → 「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」の策定にあたり実施した意見募集の際に御意見を提出された方の個人情報の漏えいについて:文部科学省

つまり、個人情報(告発者名)は意図的かどうかにかかわらず、漏れる。

★白楽の小結論

文部科学省の「告発等の受付窓口」に通報すると、何が起こるか?

文部科学省の係員は、通報内容を、被告発者の所属する大学・研究機関に連絡し、調査・対応を丸投げするだけである。

文部科学省・研究振興局・振興企画課・競争的資金調整室の事務員は研究ネカトの専門家ではないし、研究ネカトの調査をするわけではない。

文部科学省の「告発等の受付窓口」への通報は、ほとんど、研究ネカト調査には役に立たない。

さらに、よく見ていただきたい。告発窓口があるのは「競争的資金調整室」で研究振興局である。「研究公正推進室」ではない。「研究公正推進室」は告発窓口を持っていないし、別の局の科学技術・学術政策局に設置されている。研究ネカト対策は一括して「研究公正推進室」が担っている、という仕組みになっていない。
→ 研究不正防止の専門部署設置へ 文科省  :日本経済新聞

★研究助成機関:科学技術振興機構(通称JST)

出典 → 告発窓口|研究倫理

文部科学省系列の資金で日本全国の大学・研究機関の研究者に研究助成している科学技術振興機構(通称JST)を例に挙げよう。

告発受付窓口がある。JSTの事業に係る研究開発活動の不正行為(研究成果の捏造、改ざん、盗用)及び研究費の不正な使用に対する告発受付窓口である。

【告発の受付窓口】

国立研究開発法人科学技術振興機構 総務部 研究公正室 〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3 サイエンスプラザ
直通電話03-5214-839、ファクシミリ03-5214-8393、電子メール ken_kan@jst.gp.jp
※電話による受付時間は、平日9:30~12:00 13:00~17:00です。

【告発を行う際の留意事項】

1.研究開発機関に所属する研究者が行った不正行為及び研究費の不正な使用については、原則として、当該研究開発機関が調査を行うことになることをあらかじめご承知置きください。

2.告発を受け付ける際には、告発者の氏名・所属・連絡先、不正を行ったとする研究者・研究グループ、不正行為及び不正な使用の態様、不正行為及び不正な使用と考える根拠、不正が行われたJSTの事業や使用された競争的資金等の名称、JST以外の研究機関等に対する告発の有無を確認させていただきます。また、告発者に調査への協力を求める場合があること、調査の結果告発が悪意に基づいて行われたと認定された場合には告発者の氏名の公表、懲戒処分、刑事告発等がありうること、告発に係る調査を実施するため他機関に告発内容を開示する場合があることをあらかじめご承知置きください。

文部科学省系列ということだからか、【告発を行う際の留意事項】の「2」は文言も含め、文部科学省のとほとんど同じである。

大きく異なる点は、【告発を行う際の留意事項】の「1」で、JSTは正直に、「当該研究開発機関が調査を行う」と書いてある。つまり、JSTの研究公正室が自前で、研究ネカトの調査をするわけではなく、被告発者の所属する大学・研究機関に連絡し、調査・対応を丸投げしますと事前に伝えているのだ。

また、文部科学省もJSTも自分の管轄下の組織の研究ネカトしか対応しない。どこで起ころうが、日本で起こった研究ネカトなら、全部対応するという政府系組織はない。

犯罪なら、どこで起ころうが、日本で起こったなら、警察が全部対応するが、研究ネカトは「不適切だが違法ではない」ので、警察は対応しない。

【「当局(オーソリティ)」:学術誌編集局】

学術誌編集局に通報するのは、掲載されている論文の異常を伝えるためで、調査の結果、「論文撤回(retraction)」、「論文訂正(correction)」、「懸念表明(expression of concern)」などの対処を望むためである。

学術誌は日本で発行しているとはいえ、英語学術誌は日本人以外の投稿もある。先に上げた米国の学術誌「Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.」誌は英語学術誌だが、日本から日本人が投稿することが可能であり、事実、日本人の論文も掲載される。つまり、ほとんどの英語学術誌は、出版国に限定されず、著者も読者も国際的で、従って国際基準で運営されている。

一方、日本には日本語学術誌も多数ある。日本語学術誌は、日本人以外の投稿がほとんどなく、ローカル基準で運営されていることが多い。というか、基準がしっかりしていないことが多い。

日本生化学会は英語学術誌と日本語学術誌の2つを発行しているので、ここでは、日本生化学会の学術誌を取り上げた。

★日本生化学会:「Journal of Biochemistry」と「生化学」

日本生化学会は英語学術誌の「Journal of Biochemistry」と日本語学術誌の「生化学」を刊行している。

「Journal of Biochemistry」の方針出典 → Oxford Journals | Medicine & Health & Science & Mathematics | The Journal of Biochemistry | Instructions to Authors

「Journal of Biochemistry」は、出版規範委員会(Committee on Publication Ethics (COPE))に入会している。研究ネカトの対処は、出版規範委員会の基準で行なうと想定される。

編集長の判断で論文を「撤回」する。

研究ネカト専用の通報窓口はないが、連絡先のインターネット・アドレスが明記されている。 日本語で可能かどうかわからない。→ JB — Feedback

一方、日本語学術誌の「生化学」誌はどうだろうか?
→ 公益社団法人 日本生化学会 » 「生化学」誌

投稿規定に研究ネカトの記載がない。研究ネカトの通報窓口はないが、原稿の投稿先と電話・ファクス・電子メールアドレスは記載されているので、そこに連絡すれば、対応すると思われる。

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日本の学術誌をたくさん調べたわけではないが、英語学術誌は「Journal of Biochemistry」に、日本語学術誌は「生化学」誌に準じていると思う。

通報者からの指摘を受け(推定)、論文撤回している例はいくつもある。以下に4例挙げる。

  1. 「臨床皮膚科」2013年9月
  2. 「鶴岡工業高等専門学校研究紀要」ココ
  3. 「日本医師会雑誌」2002年4月
  4. 日本酸化ストレス学会の機関誌「Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition」 

なお、日本語学術誌は出版規範委員会(Committee on Publication Ethics (COPE))の基準を知らないため(推定)、「撤回」論文を削除してしまう編集者がいまだに多い。改善してほしい。

【「当局(オーソリティ)」:大学・研究所】

大学・研究所に通報するのは、所属研究者の発表した論文の異常を伝え、調査してもらうためである。なお調査の結果、クロ判定なら、被疑者を懲戒解雇するなどの処分をしてもらうことで、研究ネカトの防止を望むためである。

「当局(オーソリティ)」である大学・研究所の例に北海道大学で説明する。

北海道大学は、日本の大学・研究所の中で研究ネカト対策が秀逸かどうか、調査していないので、白楽はわからない。タマタマ、目についたという理由で、日本の大学・研究所が「研究ネカトを通報する」場合、どのようなアドバイスをしているのか、具体例の取り上げた。なお、白楽は北海道大学と利害関係はない。

出典 → 国立大学法人北海道大学の公益通報・コンプライアンス通報に係る通報窓口について | 公益通報・コンプライアンス通報に係る通報窓口 | 大学案内 – 北海道大学

★通報の範囲

公益通報者保護法の通報対象法律に係る違反行為の外,その他の法令,学内の諸規則,教育研究及び診療に係る固有の倫理その他の規範に係る違反行為について取り扱います。ただし,虚偽,中傷目的その他の不正目的の通報は受け付けいたしません。

★通報できる者

本学の教職員,本学に勤務している派遣職員,本学との取引先事業者の労働者
その他本学の学生等

北海道大学以外の人が北海道大学の院生・教員が発表した論文・学会発表・研究報告書の“異常”に気が付いても、通報できない。なんかヘンですね?

★通報窓口

<学内窓口> 北海道大学監査室。住所、電話、FAX、E-mailが記載されている。E-mailには「件名は『公益通報・コンプライアンス通報』としてください」とある。

<学外窓口> 坂本・松田法律事務所。住所、電話、FAXが記載されている。E-mailは記載されていない。

学外窓口は,本学の研究活動上の不正行為,研究費の不正使用に係る申立て窓口と同じです」とある。

つまり、大学と学外の弁護士は相互に連携している。

★通報方法

氏名及び連絡先を明らかにした上で,公益通報・コンプライアンス通報書を持参(面談)し,又はFAX,電子メール,郵送で提出してください。電話による通報は受け付けません。

公益通報・コンプライアンス通報書(PDFWord

公益通報・コンプライアンス通報書をみると分かるが、通報書は2頁からなる。1頁目に、氏名・連絡先等の秘匿を「希望する」「希望しない」の選択肢がある。

氏名等の秘匿を希望しない場合でも,通報者の氏名等の情報は調査関係者以外には公表されません」。

通報書第2頁は,北海道大学理事へ取り次ぎされます。氏名等の秘匿を希望する場合は,秘匿したい内容をこの頁に記入しないでください」とある。

つまり、通報内容は監査室/坂本・松田法律事務所でとどめる事項と、大学理事まで伝える事項がわかれている。

監査室に監事が2名いて、少なくとも1名は学外者を選任することになっている。監事は文部科学大臣から任命され、任期4年、再認は可である。とはいえ、大学が選任し文部科学大臣に任命してもらうのである。大学学長・副学長の息のかかった人であることは疑いない。

ネットで探ると、理事も、監事も名前が出ている(理事,監事,副学長及び経営協議会の委員- 北海道大学)。

全国立大学の監事名も公表されている(国立大学法人・大学共同利用機関法人監事(文部科学大臣任命):文部科学省)。

全国立大学の監事の「選任理由」はほぼ全員、「組織業務に精通」「大学業務に精通」または「会計業務に精通」とある。「主な職歴」と合わせて推察すると、どう見ても、研究ネカトの専門家とはほど遠い。それどころか、研究経験のないと思える人も多い。

例えば、以下の図がねつ造・改ざんだと申し立てた時、分析できるだろうか?

background

この画像は、米国・研究公正局が研究ネカト検査法で示しているサンプル画像の1つである。

上記の画像の問題部分を指摘できる監査室の監事はほとんどいないだろう。だから、もし、大学の窓口に通報するにしても、米国の大学の研究公正官(research integrity officers、RIO)並みの知識・経験・スキルを期待してはいけない。

そして、公益通報・コンプライアンス通報書の2頁目では、次の項目を記入しなければならない。

2.被通報者
(1)氏名
(2)所属・職名等
3.通報対象事実の概要
(1)通報対象事実が(生じている・生じようとしている・その他(    ))(いつ,どこで,何を,どのように,何のために,なぜ生じたのか等を記入すること。)
(2)対象となる法令違反等
(3)通報対象事実を知った経緯
(4)通報対象事実に対する考え
(5)その他(調査に当たって希望すること,注意すべきこと等があれば記入してください。)
4.証拠書類等の用意(有(書面・電子媒体(         )・その他(        ))・無)
5.調査結果の通知(希望する・希望しない)

注意として、「通報書第2頁は,北海道大学理事へ取り次ぎされます。氏名等の秘匿を希望する場合は,秘匿したい内容をこの頁に記入しないでください」とある。

しかし、通報書2頁目の項目を適切に記入するのは、難しい。研究ネカトをハッキリ具体的につかめていないレベルでは通報しにくい。疑念があるから通報したいのに、疑念レベルでは、ほぼ、通報できない。敷居が高すぎる。

★実際の調査

通報を受けて実際に調査をするのは、監事ではなく、被告発者の研究分野の大学教授である。

調査は、予備調査と本調査の2段階である。予備調査は本調査が必要かどうかを判断するための調査である。

文部科学省のガイドラインでは、本調査の委員は、告発者や被告発者と利害関係がない有識者で、学外者を半数以上入れることになっている。北海道大学でもそうしていると思われる。

一般的に、有識者というのは、おおむね大学教授で、被告発者の研究分野の専門家と、法律の専門家が入る。本当は、研究ネカトの専門家が1人は入るべきだが、研究ネカトの専門家はごく少数しかいないので、入らないことが多い。それで、研究ネカトに関しては専門性が低い可能性がある。

北海道大学の研究ネカト事件は2007年の1件しかない。その時の調査報告書は、既にウェブ上に公開されていない。「大学職員.net -Blog/News」の記録から引用しよう → 北海道大学 論文の盗用 – 大学職員.net -Blog/News-

 (北海道大学/2007.10.24)(一部抜粋)
本学教員による研究活動上の不正行為(論文盗用)について

//経緯//
平成19年7月8日(日),匿名メールにより,本学大学院メディア・コミュニケーション研究院の准教授の論文について盗用論文である疑いがあるという指摘があった。
本学は,7月12日(木)にメディア・コミュニケーション研究院に上記指摘の合理性,調査が必要かどうかを判断するための予備調査委員会を設置し,予備調査を開始した。
予備調査委員会の報告を受け,8月22日(水)に不正行為調査委員会を設置し,調査を実施し,9月18日(火)に研究活動上の不正行為調査報告書にまとめた。
なお,調査報告書に対する李准教授の不服申立て期間の経過を待って本日,10月24日(水)の教育研究評議会で同准教授に対する懲戒処分の検討を開始した。

//調査結果//
調査委員会が調査した結果,疑惑の指摘があった論文1篇及びそれ以外の論文3篇について,他の研究者の論文を当該研究者の了解もしくは適切な表示なく流用した盗用論文であるという結論に達した。

調査委員は主に当該学問の専門家(大学教授)である。研究ネカトの専門家は入っていないが、委員は委員会を通して、「研究ネカトの対処法」を学ぶから、トンデモないことはないだろう。

ただ、考え方の偏向、処分の軽重、守秘義務、などの問題点が時々露呈する。特に、大学擁護思想は強い。選任される委員が御用思想の人だから結論はそうなる傾向がある。

★白楽の小結論

各大学・研究機関に研究ネカトの通報窓口はあるし、通報手続きも整っている、しかし、通報は敷居が高く、気楽に通報はできない。それに監査室員の研究ネカトの知識・経験・スキルは期待できない。個人情報を秘匿してくれるとあるが、社会一般では、時々、個人情報が洩れるので、その点も不安がある。

しかし、各大学・研究機関の通報窓口に「匿名」で研究ネカトを通報するのは有効だろう。Yahoo!メール、Gmail、Outlook.com、gooメールなどのフリーのウェブメール・アドレスを新たに取得し、身元が発覚しないように、注意深く、行なうべきだ。

研究ネカトの証拠を伝えるには、匿名は無理で、顕名で通報せざるを得ない場合もある。

各大学・研究機関に通報し、監査室が動けば、被告発者にも動きがみられる。そして、匿名通報でも、被告発者は告発者を見つけて攻撃しようとする。

だから、匿名なら、通報する前に、まず、通報者の身元がバレない通報の仕方をする。それでも、特定の内部情報を示して通報すれば、被告発者は通報者を見つける可能性がある。身元がバレることも想定し、被告発者からの攻撃を予測し、防御できる状況を構築しておくのが望ましい。

ある程度、事態が進行し、顕名にせざるを得ない、あるいは安全となれば、その時の判断で顕名にすればよい。

●5.【申し立て(通報、告発)の危険性】

大学・研究機関の規則では、研究ネカトの申し立て(通報、告発)が推奨、あるいは義務だと明記されている。しかし、通報者は報奨されることはない。むしろ、報復など不利益なことが起こる。

米国は告発者の保護に関して、世界で最も進んでいて、内部告発者を報復から守る法律がある(Whistleblower Protection Act of 1989)。

さらに、大学・研究機関の研究公正方針に、通報者を保護することが明記されているし、大学は、調査の機密保持にベストをつくすと表明している。

また、大学・研究機関に研究公正官がいて、研究ネカトの知識・スキル・考え方がしっかりしている。研究公正官は、研究ネカトの処置ではかなりの権限があり、もし、学長・副学長が不当な行為をすると、政府の研究公正局に伝え、法律で処理することが可能だ。

とはいえ、米国の研究ネカト通報者の60%以上は何らかの報復を受け、約10%は解雇などの不当な報復を受けていると、研究公正局は警告している(Research Misconduct | Office of Research Integrity)。

パブピア(PubPeer)も匿名でコメントできる原則を非常に重要だと考えている。裁判で負けない限り(法的な強制執行を受けない限り)、コメント者の個人情報を開示しない方針である。

しかし、以下の現実もある。

ニューヨークのコロンビア大学・博士プログラム副学部長のジャン・アレン(Jan Allen)は、「通報者を匿名にしておくことで大学は通報者を保護するが、完璧な機密保持は保証できない。例えば、もし通報者が大学規則に違反していたら、私達はそれを報告する義務がある」と言う。「場合によっては、大学が、通報者を別の研究室に移籍させることもある」。

ミシガン州立大学の前・研究公正官で研究公正局長(記事出版時)のデイビッド・ライト(David Wright)は、「しかし、推薦状を書かないなどの小さな報復に対処するのは困難である」と述べている。(出典。Virginia Gewin:「Research: Uncovering misconduct」、Nature 485, 137-139 (2012) doi:10.1038/nj7396-137a)。

つまり、研究ネカトで申し立て(通報、告発)すれば、報復を受けることは前提である。その対処ができない状態で、研究ネカトの申し立て(通報、告発)をするのは無謀である。

whistleblower
マンガ出典

ここで、申し立て(通報、告発)のリスクを学んでおく。

【日本語の解説】

★2013年6月8日:日東亜日報「大きすぎる「内部告発」のリスクとは – エキサイトニュース」

出典 → 大きすぎる「内部告発」のリスクとは – エキサイトニュース(1/2) (保存版)

2006年に施行された公益通報者保護法は、会社の違法行為を内部告発した社員が不当な扱いを受けないようにするための法律だ。

ところが、法律には内部告発(法律では「公益通報」)の定義や告発のルートについて厳しい条件がつけられており、実際には機能しない場合があるという。まず、通報内容は犯罪行為に関わる事例でなければならない。

「たとえば、社長が愛人を秘書にして公私混同の経営をしているとします。しかしこれは直接犯罪行為に結びつくわけではないので、告発しても法律の保護を受けられません」

この時点で、研究ネカトはアウトだ。研究ネカトは「不適切だが違法ではない」から、公益通報者保護法の保護を受けられない。

神戸大学大学院教授(労働法)の大内伸哉氏が説明する。
また、社内への通報は保護を受けやすいが、監督官庁に通報するときは保護の条件が狭まり、報道機関など外部への通報の場合は要件がさらに厳格になる。

研究ネカトを文部科学省に申し立てたり、朝日新聞社など外部に通報したりすると、ますます厳しい。

外部への通報が保護されるには、社内に通報すればほぼ確実に報復されるとか、証拠隠滅のおそれがある、社内通報では相手にされなかった、生命・身体に危害を加えられる急迫した危険がある、といった条件が必要だ。

一方で、内部告発を行った社員に対して「会社の名誉・信用を毀損した」という理由から会社側が懲戒処分を科すことも珍しくない。

たとえば、予備校の講師が理事長の不正経理問題に関して記者会見を開き解雇されたケース。

この裁判では、1審は解雇処分を無効としたが、2審は講師の行動を「雇用関係の信頼を踏みにじる行為」とし、解雇は有効と判断した。

「判例を見るかぎり、まずは内部通報をするなど企業内部での解決を図っていない場合は、会社側の処分が有効となる可能性は十分にある」と大内教授はいう。

また、公益通報者保護法が禁じているのは、通報者への解雇や降格、減給といった、あくまでも目に見える形での報復処分。仮に査定や昇進で不利な扱いをされても、それが不当であるかどうかは判断しにくい。

ざっと、こんなところだ。会社を大学・研究所と置き換えて読むと、解雇、降格、減給、昇進で不利な扱いがあるということだ。

★2013年頃(?)の記事:匿名(kuro-t@dp.u-netsurf.ne.jp)「公益通報、内部告発の方法」

出典 → 公益通報 内部通報の概略  公益通報、内部告発 解説(保存版)

書いている人は、国立がんセンターの職員で国立がんセンターの長年の不祥事を、厚生労働省に申し立て(通報、告発)し、報復を受けた。自分の経験をもとに同様な人にアドバイスしてきた。

長年にわたる複数の大きな医療不祥事、隠蔽、公益通報に対する妨害、嫌がらせを経験し公益通報を行いました。

私は弁護団の援助のもと、厚労省に公益通報した。しかし、この情報さえ厚労省は病院に情報漏洩し行政からも公益通報妨害を受けた。更に多くの確実な証拠を弁護団と共に厚労省に提出したはずなのに、厚労省は地方自治体に本件をたらい回しにした。

病院側は調査委員会を設置、調査を行った。私は頻回に公平中立な調査を要望したが、病院側は第三者も入れずに、まさに不当な身内調査を行った。調査委員会側は組織的隠蔽や公益通報妨害に対しては一切、調査をしなかった。「大した問題ではなかった。公益通報者は嘘つき」。その他、考えられない発言の数々..

●6.【白楽のアドバイス:研究ネカトを通報する方法】

「研究ネカトを通報する」タイトルで、通報の方法を解説する流れで書いてきたが、研究ネカトにたまたま遭遇した時、通報しないという選択肢もある。最初に言うべきだった。スイマセンネ。

一般的に、「通報しない」人が圧倒的に多い。「通報しない」場合のリスクは少ない。「通報しない」で罰せられることはごくマレである。

研究倫理の専門家の白楽が言うのもヘンだけど、正直、「通報しない」ことを勧める。イヤイヤ、「怒りにまかせて」とか「しっかり勉強・準備なし」に「通報する」ことはしないように。

通報しても自分にとって得なことはない。報復される。法律も社会も守ってくれない。自分の将来と自分の身は自分で守るしかない。安全を優先した方がいい。

でも、あなたは、正義感が強い、軟弱な人生を過ごす自分を許せない。研究ネカト者が余りにもひどい。是非とも、まっとうな学術界にしたい、そんな不正が通るなら自分ごときは死んでもいい(ここは言い過ぎだ)。自分の正義を貫き、日本をそして世界の人間社会を良くしたい。

「通報しないことを勧める」と専門家が言うのを承知で、でも、「通報したい」。そういう人に、ハウツウを示そう。基本は準備・勉強・慎重だ。

ここでは、日本在学・在勤に限定するが、あなたが、①大学教員・公立研究所研究員、または、②訓練生(学部生、院生、ポスドク)の場合に分けて考える。さらに、それぞれ、(A)自分の研究室、(B)自分の所属機関、(C)他大学・他国の研究ネカトを発見したケース、に分けて考えよう。

【本当に研究ネカト?】

ブログの読者から、「研究ネカトを見聞きしたのでどうするとよいか?」と、かなりの数の相談を受けている。そのうちのいくつかは、研究ネカトには該当しないケースがあった。

だから、問題視している点について、①データ(証拠)が集めてあること、②確かに研究ネカトなのかどうか、しっかり学んでから、判断してほしい。

  1. 伝聞や憶測ではなく、紙(論文、文章、画像)、電子ファイル、音声ファイル、動画ファイルなど、第3者に示せる事実だけをあつめる。その事実を科学的に研究ネカト検査して、研究ネカトと判断できるか? 必要なら、研究ネカト検査法のスキルも習得する。 → http://ori.hhs.gov/forensic-tools
  2. 研究ネカトは「ねつ造」「改ざん」「盗用」である。間違い、解釈の違い・バイアス、著者問題、セクハラ、パワハラ、研究費不正は研究ネカトではない。ハーバード大学の研究法令順守主任(chief research compliance officer)のマーク・バーンズ教授(Mark Barnes)は「意図的または著しくメチャクチャだと証明できなければ研究ネカトとは言えない」と述べている。
    出典 → Virginia Gewin:「Research: Uncovering misconduct」、Nature 485, 137-139 (2012) doi:10.1038/nj7396-137a
  3. 「盗用」と指摘する場合、多くの「当局(オーソリティ)」は、「自己盗用」を、研究ネカトの「盗用」とは見なしていない。例えば、文部科学省の「盗用」の定義は、「他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を当該研究者の了解又は適切な表示なく流用すること」で、「他の研究者の・・・」なら盗用だけど、「自分の・・・」は盗用に該当しない。
    ココのp10

【①大学教員・公立研究所研究員が、(A)自分の研究室の研究ネカトに遭遇】

研究ネカト者が訓練生(学部生、院生、ポスドク)の場合と想定する。

  1. 他人が見ても研究ネカトと思える証拠を押さえる。記録を残す。
  2. 初犯で、しかも、修士論文や学術誌論文の原稿など、研究ネカトがまだ外部に出ていない原稿段階の場合、本人に会い、研究ネカトについての教育的指導をする。例えば、白楽のサイトなどで研究倫理を習得させる。その際、了承を得て、面談の会話をICレコーダーやビデオに記録する。この場合の選択肢は「通報しない」。
  3. 初犯でも、論文、学会発表など、研究ネカトが外部に出ている場合、修士論文や博士論文などの公式な論文の場合、大学・研究所内の担当部署に、実名で連絡し、処置を任せる。
  4. 再犯の場合、大学・研究所内の担当部署に、実名で連絡し、処置を任せる。

【注意点】
1. 証拠が得られなけば、「通報しない」。
2. セクハラ、アカハラだと訴えられる報復が予想される。
3. ウェブや友人にあなたの悪口を吹聴する。あなたの自宅や研究室に嫌がらせをするなどの報復が予想される。

【①大学教員・公立研究所研究員が、(B)自分の所属機関または(C)他大学・他国の研究ネカトに遭遇】

研究ネカト者が、同じ大学の学長・教授・准教授・助教など(研究所も同等)、または他大学・他国の研究者の場合

  1. 他人が見ても研究ネカトと思える証拠を押さえる。記録を残す。
  2. (自分が共著者の論文で、投稿前なら、主著者に、問題点を伝える。問題が解決されなければ、著者から外してもらう。出版後なら、主著者に、問題点を伝え、学術誌編集局に連絡し著者から外してもらう。)
  3. (正面から戦う覚悟なら、「実名」で、大学・研究所の担当部署に連絡し、処置を任せる。しかし、報復が激しいので、白楽はこの選択肢をお勧めしない。)
  4. 「匿名」で、研究ネカトのデータをパブピア(PubPeer)に論文コメントとしてアップする。英文になるが、パブピア(PubPeer)のコメントを参考に作成する。
  5. 「マスメディア」に「通報する」。情報源の秘匿を依頼し、「実名」で、地元の新聞に連絡し、記者に会い・伝える。または、ウェブサイトに「匿名で」「通報する」。日本では適当なのがないが、研究倫理問題で「通報」できるのは片瀬久美子(katasekumiko@yahoo.co.jp)やミスコン・プレイ 研究不正・盗用(@plagiarismfraud) – Twilogなどがある。
  6. パブピア(PubPeer)のコメントの反応を見て、「当局(オーソリティ)」に「匿名」で通報する。Yahoo!メール、Gmail、Outlook.com、gooメールなどのフリーのウェブメール・アドレスを新たに取得し、「匿名」で、パブピア(PubPeer)のコメントを引用し、研究ネカトと思える証拠を添えて、「当局(オーソリティ)」(日本国内だと文部科学省や研究助成機関、米国だと研究公正局、学術誌編集局、大学・研究所)に「通報する」。
  7. 「当局(オーソリティ)」が取り上げてくれれば、協力要請に応じる。

【注意点】
1. 証拠が得られなけば、「通報しない」。
2. 「通報する」場合、匿名か実名かをよく考える。
3. 「当局(オーソリティ)」の権威に惑わされない。「当局(オーソリティ)」が前向きに対処してくれると勝手に期待してはいけない。また、「当局(オーソリティ)」には研究ネカト専門家はいないと考える。なお、「当局(オーソリティ)」は一般的には、面倒なことはしたくない、ゴタゴタはさけたい、穏便にしたい、握りつぶしたい、自分の大学・研究機関が不名誉なことをしたと認めたくない、など、基本的に研究ネカトの通報に否定的である。その状況でも、「当局(オーソリティ)」を説得できる証拠をしめし、我慢強く進めることが必要である。

【②訓練生(学部生、院生、ポスドク)が、(A)(B)(C)の研究ネカトに遭遇】

研究ネカト者が、「(A)自分の研究室」の同じ訓練生(学部生、院生、ポスドク)の場合、その訓練生との距離や上下関係で対処の仕方が変わる。後輩で新人の場合は教育的指導をし、「通報しない」ことを勧める。

研究ネカト者が、「(C)他大学・他国」の場合、報復は「中」なので、難易度も「中」である。

研究ネカト者が、「(B)自分の所属機関」の場合、報復は「強」なので、難易度は「高」い。「通報しない」。

研究ネカト者が、「(A)自分の研究室」の中心的な先輩や指導教員の場合、報復は「最強」なので、難易度は「とても高」い。「通報しない」で、そっと、他大学に移籍することを勧める。

以下は、以上を承知で「通報する」場合である。

「通報する」方法は、上記の【①大学教員・公立研究所研究員が、(B)所属機関または(C)他大学・他国の研究ネカトに遭遇】と同じである。

●7.【白楽の感想】

《1》自分の身は自分で守る方針

白楽が「研究ネカトを通報する方法」で示しているポイントは、たまたま、他人の研究ネカトに遭遇しても、自分の研究キャリアを無駄にしないことが主眼である。

再掲するが。そもそも、「通報しても自分にとって得なことはない。報復される。法律も社会も守ってくれない。自分の将来と自分の身は自分で守るしかない。安全を優先した方がいい」。

ただ、研究者として一生過ごすなら、約10回以上、研究ネカトに遭遇する(多分)。学部生・院生も遭遇するが、学部生・院生時代に、その対処に多大の時間・エネルギーを割けば、研究者として大きく育つのが困難になる。

一方、自分が(准)教授や研究室主宰者になってから、研究室員の研究ネカトに遭遇したとする。この時、研究ネカトを軽視したり、対処を間違えると、(准)教授や研究室主宰者としての指導能力や管理能力に疑念が呈され、失職するかもしれない。だから、研究ネカトに適切に対処しなければならない。

《2》通報者への報奨

研究ネカトを通報しても、なんら報奨がない。あるのは報復だけである。となると、通報はバカバカしい。

しかし、内部告発は研究ネカト摘発で、最重要ともいえるほど重要である。学術研究はある意味、密室の行為である。盗用は、外部に出てきた研究論文である程度見つけることができる。しかし、研究ネカトのねつ造・改ざんを外部に出てきた研究論文で見つけることは、かなり難しい。

ウェスタンブロットなどの画像は、研究論文あるいは投稿原稿でそこそこ解析できるが、解析限界を越える加工を行なえば、外部の人間は見破れない。

ましてや、測定値の数値を改ざんする、データを不適切に選択する、などは実験ノートと突き合わせなければわからない。

測定値の数値を実験ノートに記載する時点で変えて記載されれば、実験ノートを見ても、ねつ造・改ざんはわからない。

そもそも、特定の結果に合うように研究対象を意図的に選べば、観察・記録・測定値にねつ造・改ざんがなくても、ねつ造・改ざんであるが、その場合、生データや実験ノートを見てもわからない。

これらがねつ造・改ざんだと断定できるのは、本人と共同研究者しかいない。内部者が証拠を保全し、通報してくれなければ、不正は永遠に闇の中である。

「1‐5‐3.研究ネカト事件対処の4ステップ説」で以下のように述べたが、内部告発者はとても重要である。

ステップ1「第一次追及者」・・・研究ネカトは内部告発者またはネカト・ハンターが最初に見つけ、通報する。第一次追及者がいなければ、研究ネカト事件は発覚していない。

研究ネカト摘発には、内部告発でしか発見できない面がとても多い。

しかし、内部告発の見返りは報復だけである。となると、通報はバカバカしい。

同じような状況は他にないだろうか?

ありました。証券取引での不正を内部告発するケースだ。

この場合、報奨金を出している。

米国の証券取引委員会(SEC)は、2011年から、内部告発者に報奨金を払っている(Whistleblower Program – CFTC)。

それも、自分の地位と職を賭して見合う額を払っている。内部告発で防げた損害額の30%が上限である。下記の告発のケースでは、告発者に1700万ドル(約18億2000万円)も払っている。
→ 2016年6月10日のMatt RobinsonとNeil Weinbergの記事: 米証券取引委、内部告発者の有力情報に懸賞金18億円-過去2番目の額 – Bloomberg

2016年7月14日、「The Canadian Press」は、カナダでも告発者に報奨金を払う制度を導入したと報道している。
出典 → 2016年7月14日の「The Canadian Press」記事:「BlackburnNews.com – OSC launches whistleblower program」。 (保存版)

日本の証券取引等監視委員会は報奨金を出していない。
→ ◎情報提供窓口等:証券取引等監視委員会

ただ、日本の警察庁は報奨金を出している。
→ 捜査特別報奨金制度の実施|警察庁

研究ネカト通報者にも、報奨金を出したらどうだろう。

●8.【主要情報源】

本文中に示した。
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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