2024年6月15日掲載
ワンポイント:シュライナーは、2007年(29歳)、ロストック大学(Universität Rostock)で法学の博士号を取得し、政治家になった。2023年4月27日(44歳)、ベルリン州政府の交通担当上院議員に選出された。4か月後の2023 年9月3日(45歳)、ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)で盗博と指摘された。2024年4月30日(46歳)、ロストック大学が盗博と認定し、博士号を剥奪したのを受け、シュライナーはベルリン州政府・上院議員を辞任した。盗用ページ率は69.8%、盗用文字率は約19%。国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.盗用解析
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
マンヤ・シュライナー(Manja Schreiner、写真出典)は、2007年(29歳)、ロストック大学(Universität Rostock)で法学の博士号を取得し、その後、ドイツキリスト教民主同盟(CDU)に所属する政治家になった。 2023年4月27日(44歳)、ドイツ・ベルリン州政府のモビリティ・運輸・気候保護・環境担当上院議員に選出された。
2023年x月(44歳?)、フランクフルト大学の法学教授であるローランド・シンメル(Roland Schimmel)が学術誌「Neue Juristische Wochenschrift」の学術論文で、「Bauernopfer」(盗用の一種)の例として、シュライナーの博士論文を取り上げた。
2023 年9月3日(45歳)、ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)で盗博と指摘された。
ヴロニプラーク・ウィキ の218番目の事件になった。→ 1‐5‐8 ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)
2024年4月30日(46歳)、ロストック大学は盗博と認定し、シュライナーに授与した博士号を剥奪した。それで、シュライナーはベルリン州政府の上院議員を辞任した。
ロストック大学・法学部(Universität Rostock, Juristische Fakultät)。写真出典.
- 不正:盗博(盗用博士論文)
- 国:ドイツ
- 成長国:ドイツ
- 男女:女性
- 生年月日:1978年4月29日
- 現在の年齢:46 歳
- 研究博士号(PhD)取得年月日:2007年x月x日(29歳)
- 研究博士号(PhD)取得大学:ロストック大学
- 分野:法学
- 博士論文タイトル:Arbeitnehmerberücksichtigung im Übernahmerecht
(日本語訳):買収法における従業員への配慮 - 博士論文審査教授: ①:ラインハルト・シンガー教授: Prof. Dr. Reinhard Singer, ②クラウス・トナー教授: Prof. Dr. Klaus Tonner
- 公開: ①ドイツ国立図書館 Deutsche Nationalbibliothek、②ロストック大学図書館 UB Rostock
- 盗博発覚年月日:2023年x月x日(45歳)
- 発覚時地位:ベルリン州政府の運輸・気候保護・環境担当上院議員
- ステップ1(発覚):第一発見者はフランクフルト大学の法学教授であるローランド・シンメル(Roland Schimmel)だが、追及者はヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)の専門家
- ステップ2(メディア):ドイツの多数のメディア
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ロストック大学・調査委員会
- 盗用ページ率:69.8%
- 盗用文字率:約19%
- 研究博士号(PhD)はく奪状況:はく奪
- 職:事件後に発覚時の地位を続けられなかった(Ⅹ)。ベルリン州政府の上院議員辞任
- 処分: 博士号はく奪
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 1978年4月29日:ドイツのヴィスマールに生まれる
- 1996~2001年(18~23歳):ロストック大学(Universität Rostock)で法学・学士号を取得
- 2007年(29歳):ロストック大学(Universität Rostock)で法学の博士号を取得
- 2023年4月27日 ~2024年4月30日(44歳~46歳):ドイツ・ベルリン州政府のモビリティ・運輸・気候保護・環境担当上院議員
- 2023 年9月3日(45歳):ヴロニプラーク・ウィキで盗博が公表された
- 2024年4月30日(46歳):ロストック大学が盗博と認定し、博士号を剥奪した。それで、シュライナーはベルリン州政府の上院議員を辞任した
●3.【動画】
【動画1】
ニュース動画「Uni entzieht Doktorgrad – Manja Schreiner (CDU) tritt zurück – YouTube 」(ドイツ語)2分20秒
rbb24(チャンネル登録者数 3.18万人)が2024/05/01 に公開
●4.【日本語の解説】
★2024年4月30日:captain_nemo(X)
ロストック大学は、盗作疑惑を受けてベルリン上院議員マンヤ・シュライナー(CDU)の博士論文を審査し、彼女の博士号を剥奪した。🎉 https://t.co/REcj8E6jyZ
— captain_nemo (@captain82935407) April 30, 2024
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★博士論文授与
2007年(29歳)、マンヤ・シュライナー(Manja Schreiner)はロストック大学(Universität Rostock)で法学の博士号を取得した。
博士論文審査委員会はシュライナーの博士論文「Arbeitnehmerberücksichtigung im Übernahmerecht (買収法における従業員への配慮)」を「優」と評価し、博士号を授与するよう答申した。口頭試験は 2007 年 1 月 26 日に行なわれた。 → DNB, Katalog der Deutschen Nationalbibliothek
この博士論文は 2008 年に VDM Verlag から出版された。
★盗博が発覚
シュライナーの博士号取得から、17 年が経過した。
2人の博士論文審査委員はすでに退職して久しい。
2023年x月(44歳?)、フランクフルト大学の法学教授であるローランド・シンメル(Roland Schimmel、写真出典)が学術誌「Neue Juristische Wochenschrift」の学術論文で、「Bauernopfer」(盗用の一種)の例として、シュライナーの博士論文を取り上げた。
[白楽注:ドイツ語版ウィキペディアに「Bauernopfer – Wikipedia」があり、英語でPawn Sacrifices(チェスで一番価値 が低い駒であるポーンの犠牲)・・・、盗用の一種とある。この説明では盗用の種類を理解できなかった。多分、言い換え盗用(paraphrase plagiarism、paraphrasing plagiarism)=加工盗用(ロゲッティング)、だと思う。 → 2‐2 盗用のすべて | 白楽の研究者倫理]
要するに、シンメル教授が、シュライナーの博士論文を盗用と指摘したのである。
それで、ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)の盗用分析の専門家たちが、シュライナーの博士論文を分析し始めた。
ドイツの有名なネカト研究者であるデボラ・ウェーバー=ウルフはロストック大学・学長に「盗博調査を開始し、必要に応じて結論を出すよう」要請した。
2023年8月7日(45歳)、シュライナーの盗博疑惑が世間で知られるようになったので、シュライナー自身もロストック大学に、盗博の申し立てを調査するよう、文書で要請した。
この文書は、ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)の サイトで「博士の論文の批判的検討」という名前で閲覧・ダウンロードできるらしい(白楽はしていない)。
2023 年 8 月 10 日(45歳)、ロストック大学は調査委員会を設立し、シュライナーの2007年の博士論文「Employee Consideration in Takeover Law 」に盗用があるかどうかの調査を開始した。
2023 年9月3日(45歳)、ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)は、シュライナーの博士論文を分析した結果、「広範な盗用の証拠」を発見した、と発表した。
ウェブサイトによると、博士論文の 3分の2以上のページに盗用したテキストが見つかり、文章の75%以上を盗用したページは13ページもあった。
盗用の形式は主に「Bauernopfer」(盗用の一種、言い換え盗用(paraphrase plagiarism)だと思う)だが、一部には「逐語盗用」もあった。
2023 年 x 月xx 日(45歳)、ロストック大学はシュライナーの博士論文に盗用があると結論した。
この結論に不満なシュライナーは、論文執筆のどの時点でも、意図的に騙したり、ごまかしたりしていないと主張した。従って、盗博という結論に異議を唱えた。
シュライナーはロストック大学に再調査を依頼した。
ロストック大学は再調査をした。
2024年4月30日(46歳)、ロストック大学の教授会は、引用符のない盗用の多さから、この論文は博士論文の要件を満たしていない。従って、シュライナーには博士号を授与すべきではなかった、と結論した。教授会は全会一致で博士号の取り消しを決定した。 → 2024年4月30日の ロストック大学の記事: Entscheidung im Fall Dissertation Manja Schreiner – Universität Rostock
それを受けて、シュライナーはベルリン上院へのダメージを防ぐため、ベルリン市のカイ・ウェグナー市長(Kai Wegner)に相談し、上院議員を辞任した。
●6.【盗用解析】
マンヤ・シュライナー(Manja Schreiner)の博士論文のタイトルは 「Arbeitnehmerberücksichtigung im Übernahmerecht (買収法における従業員への配慮)」である。
博士論文は28xページ、本文169ページ。分析時点(2024年5月8日04:38:17 (UTC+2))では169ページ中118ページに盗用があり、盗用率は69.8%だった。なお、ページあたり50~75%の盗用が25ページあり、75%以上の盗用が13ページあった。
盗用文字率は少なく見積もって19%と算出された。
分析時点(2024年5月8日04:38:17 (UTC+2))では、被盗用文書数は66文書だった。
博士論文の盗用分析図を以下の5色(4色+白色)のバーコードで示す。
なお、上記の元の盗用分析図では、バーコードがページ毎の盗用分析にリンクしている。
★イラスト表示
以下はページ毎に色分けしたイラスト表示である。 → 出典:https://vroniplag.fandom.com/de/wiki/Msr/Befunde
盗用の色分けは、灰色= 逐語盗用(コピペ、文献提示なし)、赤色 = 加工盗用(ロゲッティング、文献提示なし)、黄色 =流用部分が曖昧な盗用(文献提示あり)、である。
★各ページの盗用分析
マンヤ・シュライナー(Manja Schreiner)の博士論文の各ページ毎に盗用分析がされている。盗用があるページは赤色で、盗用がないページは薄い黒色である。
盗用がある赤色ページはクリックすると、そのページの盗用比較図が開く。
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盗用比較図【13ページ目】
1例として、13ページ目(つまり、013)をクリックした。すると、盗用比較図が出てくる。以下はその1部分を示した。
左側がマンヤ・シュライナー(Manja Schreiner)の博士論文で右が被盗用論文である。着色部分の文章が同一である。
●7.【白楽の感想】
《1》なくならない政治家の盗博
数年ぶりにヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)による盗博摘発を白楽記事にした。
振り返って、前回の記事を探すと、2020年10月3日掲載の「盗博VP209:シェミン・ヴォシュムギア(Shermin Voshmgir)(オーストリア)」だった。つまり、3年8か月ぶりだ。
以前に比べ、摘発数が少なくなったが、依然としてヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)は活動を続けている。
ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)になじみがない人に説明すると、ヴロニプラーク・ウィキの盗博調査は、盗用検出ソフトでは見つからないレベルの専門家による被盗用文書探しをしている。
そして、盗用分析図、イラスト表示、盗用比較図など、わかりやすく証拠を提示する。つまり、盗用調査・証拠提示のお手本である。ここまで徹底しているサイトは珍しい。多大な知能・時間・意欲・熱意・努力が払われていて、その活動に頭が下がる。
そしていまだに摘発される人がいる。
今回も政治家だった。
ドイツでは政治家の盗博が多数、摘発されているのに、人間というのは、なかなか、やっかいである。
本人は盗用した意識がないのか、見つからないと踏んでいるのか、シュライナー自身もロストック大学に、盗博の調査をするよう要請している。
一般論だが、逐語盗用する人は、盗用を悪いと知っているが、言い換え盗用(paraphrase plagiarism)は、元資料を自分なりに言い換えるので、盗用という意識がないケースもある。ただ、元資料を示さないので、著者のアイデア・文章だと読者に思わせてしまうので盗用である。
言い換え盗用(paraphrase plagiarism)は、盗用検出ソフトをすり抜ける。被盗用者でも見つけるのは難しい。ましてや、第三者が見つけるの至難である。つまり、発覚率はかなり低いと思われる。従って、見つからないと思ってする人は多いと思う。
マンヤ・シュライナー(Manja Schreiner)。https://www.berlin.de/en/news/8844616-5559700-transportation-senator-schreiner-resigns.en.html
《2》日本の盗修・盗博
日本の盗修・盗博は多いと思うが、日本には大きな異常が2つあって、日本の盗修・盗博を調査できない。
1つは、現在の日本では盗修・盗博しても、盗用とならないケースがかなりある(推察)。理由は、ここに書いた。 → ヘンですよ文部科学省:修士論文、博士論文のネカトは研究不正です
もう1つは、昔の日本の博士論文の盗用をほぼチェックできない。
2013年4 月 1 日以降、インターネットで博士論文にアクセスできるように、大学が博士論文を公開するよう義務付けられた(2013年3 月 11 日文部科学省令第 5 号)。もちろん、ダウンロードもできる。
ということは、それ以前の博士論文はインターネットでアクセスできなかった。そもそも、現在も電子化されていない。
国立国会図書館が日本のすべての博士論文(電子版ではなくて紙版)を持っていて、一応、公開している。
「一応」というのは、国立国会図書館でのみ閲覧できるが、著者の許諾なしでの複写は一部分しかできない。
となると、手書きで写す?
つまり、2013年4 月 1 日以前の博士論文は、全文入手して、盗用かどうかを調べるのは非現実的(ほぼ不可能)である。
なんで、こんなに、拒絶的なのだろう?
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●8.【主要情報源】
① ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)のマンヤ・シュライナー(Manja Schreiner)サイト:Msr | VroniPlag Wiki | Fandom
② ウィキペディア・ドイツ語版:Manja Schreiner – Wikipedia
③ 2023年8月6日の著者名不記載の「rbb24」記事:Berliner Verkehrssenatorin Schreiner will ihre Doktorarbeit überprüfen lassen | rbb24
④2023年9月6日の著者名不記載の「BILD」記事:Plagiate in Doktorarbeit von Berliner Senatorin Schreiner entdeckt | Regional | BILD.de
⑤ 2024年4月30日のクリストフ・ゾーダー(Christoph Soeder)記者の「Breaking Latest News」記事:Berlin Transport Senator Manja Schreiner resigns – University withdraws doctorate – Breaking Latest News
⑥ マンヤ・シュライナー(Manja Schreiner)の写真サイト:Manja Schreiner – Google 検索
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