2023年11月5日掲載
ワンポイント:2023年8月29日(37歳?)、発覚から約3年11か月後(遅いですね)、研究公正局は、スリランカに育ち、アラバマ大学(University of Alabama)・助教授になったジャヤワルデナが、4件の研究費申請書の12画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。2023年8月18日から4年間の締め出し処分を科した。発表論文にネカトはなく、撤回論文はゼロ。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。2023年ネカト世界ランキングの「2」の「10」である。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
スランギ・ジャヤワルデナ(Surangi Jayawardena、スランジ・ジャヤワルデナ、Suranji Jayawardena、H Surangi N Jayawardena、ORCID iD:、写真出典)は、スリランカに育ち、コロンボ大学(University of Colombo)で学士号を取得し、米国のマサチューセッツ大学で研究博士号(PhD)を取得した。2017年8月(31歳?)、アラバマ大学(University of Alabama)・化学科の助教授になった。専門は化学(感染症診断・治療)である。
ネカト発覚の経緯は不明であるが、発表論文のネカトではなく、研究費申請書のネカトなので、第一次追及者は研究費審査員と推察した。発覚時期は2019年10月(33歳?)と推定した。
アラバマ大学がネカト調査を終え、クロと判定したことを受け、ジャヤワルデナは、2021年10月26日~2022年3月3日(35~36歳?)の頃、アラバマ大学を辞職した(させられた)。
2023年8月29日(37歳?)、発覚から約3年11か月後(遅いですね)、研究公正局(ORIロゴ出典)は、アラバマ大学(University of Alabama)・助教授だったジャヤワルデナが4件の研究費申請書の12画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。
2023年8月18日(37歳?)から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分は少し重い処分である。
アラバマ大学(University of Alabama)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:スリランカ
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:米国のマサチューセッツ大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1986年1月1日生まれとする。2004年に大学・学部に入学した時を18歳とした
- 現在の年齢:38歳?
- 分野:化学(感染症診断・治療)
- 不正文書作成:2018~2019年(32~33歳?)の2年間
- ネカト行為時の地位:アラバマ大学・助教授
- 発覚年:2019年(33歳?)
- 発覚時地位:アラバマ大学・助教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は研究費審査員(推定)
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①アラバマ大学・調査委員会。②研究公正局
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正文書数: 4件の研究費申請書。撤回論文はない
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
- 処分: NIHから 4年間の締め出し処分
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典: H. Surangi N. Jayawardena (Ph.D.)
- 生年月日:不明。仮に1986年1月1日生まれとする。2004年に大学・学部に入学した時を18歳とした
- 2004年5月~2008年6月(18~22歳?):スリランカのコロンボ大学(University of Colombo )で学士号を取得:化学
- 2009年9月~2014年11月(23~28歳?):米国のマサチューセッツ大学(University of Massachusetts)で研究博士号(PhD)を取得:化学
- 2014年11月~2017年8月(28~31歳?):マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)・ポスドク
- 2017年8月(31歳?):アラバマ大学(University of Alabama)・助教授
- 2018~2019年(32~33歳?):ネカト研究費申請書を提出
- 2019年10月(33歳?):不正が発覚(推定)
- 2021年10月26日~2022年3月3日(35~36歳?):この間にアラバマ大学(University of Alabama)・辞職(推定)
- 2023年8月29日(37歳?):研究公正局がネカトと発表
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★研究人生
スランギ (スランジ) ・ジャヤワルデナ(Surangi (Suranji) Jayawardena)はスリランカで生まれ、スリランカのコロンボ大学(University of Colombo)で化学の学士号を取得後、2014年11月(28歳?)、米国のマサチューセッツ大学で研究博士号(PhD)を取得した。
マサチューセッツ大学の指導者はミンディ・ヤン教授(Mingdi Yan、写真出典)だった。
2014年11月~2017年8月(28~31歳?)、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)・ポスドクになったが、この時のボスはロバート・ランガー教授(Robert Langer)だった。
2017年8月(31歳?)、アラバマ大学(University of Alabama)・化学科の助教授に就任した。
専門は化学(感染症診断・治療)である。
ジャヤワルデナの研究人生で特徴的なのは、出版した15論文の内、第一著者は3論文しかないことが1つ。
もう1つは、ミンディ・ヤン教授への依存(結びつき?)が強すぎることだ。出版した15論文の内、12論文がミンディ・ヤン教授と共著である。
2014年11月にミンディ・ヤン教授の研究室を離れているのに、離れてから出版したと思える2015年2月~2021年の10論文がミンディ・ヤン教授と共著である。
ミンディ・ヤン教授がジャヤワルデナを米国留学に誘ったのかもしれないが、ミンディ・ヤン教授はスリランカ出身ではない。1967年生まれの中国人である(出典)。
★獲得研究費
スランギ・ジャヤワルデナ(Surangi Jayawardena)は、NIHから研究費を獲得していない。 → RePORT ⟩ Surangi Jayawardena
★研究公正局
ネカト発覚の経緯は不明であるが、ネカトは研究費申請書だけで、発表論文のネカトは指摘されていない。それで、第一次追及者は研究費審査員と推察した。
ただ、アラバマ大学(University of Alabama)のネカト調査報告書をベースに、研究公正局が追加調査をしている。つまり、ネカト調査はアラバマ大学が主体的に行なった。
2019年10月16日にジャヤワルデナがNIHに提出した研究費申請書が、2019年11月5日に取り下げられた。これが最初の取り下げである。
提出から取り下げまで20日間である。推察するに、この時、研究費申請書のデータねつ造が見つかったのだと思う。それで、それ以前・以降に提出された研究費申請書を丁寧にチェックしたのだと思う。
それで、発覚時期を2019年10月(33歳?)とした。
2023年8月29日(37歳?)、発覚から約3年11か月後(遅いですね)、研究公正局はジャヤワルデナが4件の研究費申請書の12画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。
2023年8月18日(37歳?)から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分は少し重い処分である。
4件の研究費申請書は(R21 AI154256, R21 AI152064, R21 AI149142, and R15 AI146978)である。以下の通り、採否決定前にネカトが発覚し、取り下げ(withdrawn)られた。
- R21 AI154256:「Designing artificial glycoforms to inhibit binding of Clostridioides difficile flagellin to TLR5」、2019年10月16日に NIAID、NIH に提出、2019年11月5日に取り下げ(withdrawn)
- R21 AI152064:「Multivalent glycoconjugates to inhibit binding of Clostridioides difficile flagella to TLR5」、2019年6月14日にNIAID、NIHに提出、2021年11月1日に申請は行政的取り下げ(administratively withdrawn)
- R21 AI149142:「Rapid Low-cost Diagnostics Assay for Mycobacteria through Magnetic Concentration」、2019年2月15日に NIAID、NIH に提出、2021年7月1日に申請は行政的取り下げ(administratively withdrawn)
- R15 AI146978:「BACTERIA HOMING-IN GLYCAN SENSING」、2018年10月25日にNIHの NIAID に提出、2021年3月1日に申請は行政的取り下げ(administratively withdrawn)
●【ねつ造・改ざんの具体例】
研究公正局は、各研究費申請書のネカト部分を指摘している。
言葉で説明されてもわかりにくい。しかし、研究費申請書のネカトなので、外部の人は具体的な図表を知ることができない。
以下は印象レベルである。
ジャヤワルデナは、異なる実験条件なのに同じ画像(透過型電子顕微鏡の画像)を複数回使用した。それが、画像データのねつ造・改ざんになった。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
データベースに直接リンクしているので、記事を閲覧した時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えていると思います。
★パブメド(PubMed)
2023年11月4日現在、パブメド(PubMed)で、スランギ (スランジ) ・ジャヤワルデナ(Surangi (Suranji) Jayawardena)の論文を「Surangi Jayawardena [Author]」で検索した。2013~2022年の10年間の15論文がヒットした。
15論文の内、第一著者は3論文しかない。
15論文の内、12論文がミンディ・ヤン教授(Mingdi Yan)と共著である。
2023年11月4日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2023年11月4日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでスランギ (スランジ) ・ジャヤワルデナ(Surangi (Suranji) Jayawardena)を「Surangi Jayawardena」で検索すると、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2023年11月4日現在、「パブピア(PubPeer)」では、スランギ (スランジ) ・ジャヤワルデナ(Surangi (Suranji) Jayawardena)の論文のコメントを「Surangi Jayawardena」で検索すると、0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》幼い
スランギ (スランジ) ・ジャヤワルデナ(Surangi (Suranji) Jayawardena)は研究者として幼い印象を受けた。
ジャヤワルデナはスリランカに育ち、渡米後、博士号を取得し、ポスドクを済ませ、スイスイと、2017年8月(31歳?)にアラバマ大学(University of Alabama)・助教授に就任した。
しかし、出版論文数は15報で、その内、第一著者は3報しかない。
15報の内、12報は大学院の時の指導教授であるミンディ・ヤン教授(Mingdi Yan)と共著である。そして、幼いと感じたのは、12報の内の10報は、ミンディ・ヤン教授の研究室を離れてから出版した論文だったからだ。
研究者として独立していない、異常に依存している印象を受けた。
そして、助教授に就任した2年後、最初のNIH研究費申請書で同じ画像の複数使用という単純なデータねつ造をした。
研究界のイロハを学んでいない?
イヤイヤ、研究上の知識の欠如ではなく、人間としての精神的成長の遅れ?
《2》NIH研究費申請書
以下はアリス・チャンの記事の修正引用。
研究公正局は2022年に入ってNIH研究費申請書でのネカトをドンドン摘発している。
研究公正局は、「選択と集中」・「トリアージ」で、研究費申請書を重点的に捜査する方針に舵を切ったと思われる。
研究公正局は、人材と予算が十分ではないので、長年、「盗用」を扱ってこなかった。
ねつ造・改ざんは、従来、出版論文を対象に摘発してきたが、出版論文を摘発しても、研究費は既に使用されいる。既に使用された研究費はなかなか回収できない。
それに、ここ数年は、出版論文でのねつ造・改ざんは、ネカトハンターが追求してくれる。
それで、出版論文でのねつ造・改ざんは、ネカトハンターに任せ(というわけではないだろうが?)、研究費申請書でのねつ造・改ざんを優先的に捜査する方針に舵を切った、と思う。
研究費申請書でのネカトを摘発できないと、詐欺的な研究計画に国民の税金を直接支給してしまう。この場合、金銭的な実害がハッキリしている。
研究費申請書でのネカトを摘発すれば、研究費を支給する前なので、ある意味、研究費を100%回収したのと同等になる。つまり、損害額を減らせる度合いが大きい。
研究費申請書は非公開なので、捜査できる機関はNIHにほぼ限定される。そこでは、研究公正局が活躍でき、存在感も示せる。
この方針変更は誰が主導したのか?
今回のジャヤワルデナ事件では2019年に捜査を始めている。
研究公正局・3代目局長のキャシー・パーティン(Kathy Partin、写真左出典)の在任期間は、2015年12月末~2017年12月4日(2年間)で、4代目局長のエリザベス・ハンドリー(Elisabeth Handley、写真右出典)の在任期間が2020年3月3日~2021年6月7日(1年3か月)だった。
2019年は、局長不在だった。その時点のトップは局長代理のワンダ・ジョーンズ(Wanda Jones)である。
3代目局長のキャシー・パーティンが退任した頃、局長代理のワンダ・ジョーンズ(Wanda Jones)が主導したのだろう。
スランギ (スランジ) ・ジャヤワルデナ(Surangi (Suranji) Jayawardena):http://www.upliftlives.org/2010/09/
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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●9.【主要情報源】
① 研究公正局の報告:(1)2023年8月29日:Case Summary: Jayawardena, Surangi (Suranji) | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2023年9月1日の連邦官報:Jayawardena FRN.pdf 。(3)2023年9月1日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2023年9月6日:NOT-OD-23-173: Findings of Research Misconduct
② 2023年8月29日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former Alabama chemistry prof faked data in grant applications: Federal watchdog – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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