ステイシー・ブレイン(Stacy Blain)(米)

2022年10月30日掲載 

ワンポイント:【長文注意】。ブレインはWASPエリートである。ニューヨーク州立大学州南部医療センター (SUNY Downstate Medical Center)・準教授で、コンカルロ・セラピューティクス社(Concarlo Therapeutics)共同設立者でもある。「2015年5月のMol Cell Biol.」論文の第一著者の院生(プリヤンク・パテル、Priyank Patel)が2016年にネカトと指摘されたが、調査委員会はシロと判定した。3年後の2019年、同じ論文が再告発され、全資料が押収された2回目の調査で、結局、ブレインはクロと認定された。ただ、この事件はブレインが女性差別とアカハラの被害を受けた、と大学を被告に裁判所に提訴したために、大学が報復したネカト事件のようだ。2022年10月29日現在、裁判の結果は出ていない。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。

【追記】
・2023年1月27日記事:裁判所はブレインの要求を却下:‘Kafkaesque nightmare’: Judge wants researcher reinstated as NIH grant PI after med school’s misconduct finding – Retraction Watch

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ステイシー・ブレイン(Stacy Blain、Stacy W Blain、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のニューヨーク州立大学州南部医療センター (SUNY Downstate Medical Center)・準教授で、コンカルロ・セラピューティクス社(Concarlo Therapeutics)の共同設立者でもある。医師免許は持っていない。専門は分子細胞生物学(乳がん)である。

ブレインはWASP(ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタント)で、プリンストン大学・学部卒、コロンビア大学・研究博士号(PhD)取得の米国のエリートである。このような女性がネカト者になるのは、とても珍しい。

なお、ネカト犯は共同研究者であってブレインではないようだが、ブレインを中心に記述する。

「2015年5月のMol Cell Biol.」論文の第一著者の院生(プリヤンク・パテル、Priyank Patel)が2016年にネカトと指摘されたが、調査委員会はクロと判定しなかった。

3年後の2019年、同じ論文が再告発され、全資料を押収する2回目の調査が始まった。

そして、ニューヨーク州立大学州南部医療センター・調査委員会はブレインをクロと結論した。ブレインはNIHグラントを受給していたので、研究公正局案件である。

ただ、2回目の調査は、ブレインが大学から女性差別とアカハラの被害を受けたと裁判に訴えた後で起こっている。裁判所に訴えた報復として、大学がネカトでクロと認定したようだ。

NIH所外研究局は、ブレインが受給していた NIH助成金の主任研究者 (PI) をブレイン以外に変えるよう大学に要請し、ゴタゴタに拍車がかかっている。 

なお、2022年10月29日現在、裁判の結果もゴタゴタの決着もついていない。

ニューヨーク州立大学州南部医療センター (SUNY Downstate Medical Center)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:コロンビア大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1967年1月1日生まれとする。1985年にプリンストン大学・学部に入学した時を18歳とした
  • 現在の年齢:57 歳?
  • 分野:分子細胞生物学
  • 不正論文発表:1997~2021年(30~54歳?)の25年間
  • 発覚年:2019年(52歳?)
  • 発覚時地位:ニューヨーク州立大学州南部医療センター・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのクレア・フランシス(Claire Francis)で、パブピアで指摘し、大学と研究公正局へ公益通報
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ニューヨーク州立大学州南部医療センター・調査委員会。1回目(2016年)。②ニューヨーク州立大学州南部医療センター・調査委員会。2回目(2019年)
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:あり。https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2022/08/Blain-Investigation-Report-2.pdf
  • 大学の透明性:弁護士が公表した調査報告書(委員名付き)がウェブ閲覧可(◎)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:パブピアで9報にコメント。3報に懸念表明。撤回論文は0報。
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分: なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Stacy Blain | LinkedIn

  • 生年月日:不明。仮に1967年1月1日生まれとする。1985年にプリンストン大学・学部に入学した時を18歳とした
  • 1985~1989年(18~22歳?):米国のプリンストン大学(Princeton University)で学士号取得:分子生物学
  • 1989~1995年(22~28歳?):米国のコロンビア大学(Columbia University)で研究博士号(PhD)を取得:分子細胞生物学
  • 1996~2002年(29~35歳?):スローン・ケタリング記念がんセンター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)・ポスドク。ボスは著名なジュアン・マサグエ(Joan Massagué – Wikipedia
  • 2002年(35歳?)~現:ニューヨーク州立大学州南部医療センター (SUNY Downstate Medical Center)・準教授
  • 2016年7月(49歳?)~現:コンカルロ・セラピューティクス社(Concarlo Therapeutics https://concarlo.com/)共同設立
  • 2016年(49歳?):ブレインの「2015年5月のMol Cell Biol.」論文のネカトが発覚。ネカト者は院生
  • 2019年(52歳?):ブレインが性差別・アカハラでニューヨーク州立大学州南部医療センターを訴えた
  • 2019年(52歳?):ニューヨーク州立大学州南部医療センターがネカト再調査
  • 2022年10月29日(55歳?)現在:裁判中。ニューヨーク州立大学州南部医療センター・準教授職は維持している

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
「ステイシー・ブレイン」と自己紹介。
自己宣伝動画:「Meet Our Semi-Finalist – Stacy Blain! – YouTube」(英語)1分27秒。
AIM-HI Accelerator Fund(チャンネル登録者数 21人)が2020/09/10 に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★WASPエリート

ステイシー・ブレイン(Stacy Blain)は、WASP(ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタント)で、プリンストン大学・学部卒、コロンビア大学・研究博士号(PhD)取得の米国のエリートである。このような女性がネカト者になるのは、とても珍しい。

現在、米国のニューヨーク州立大学州南部医療センター (SUNY Downstate Medical Center)・準教授である。

2016年7月(49歳?)、夫のジェイソン・ムラーズ(Jason Mraz、写真出典)と共にバイオベンチャー企業のコンカルロ・セラピューティクス社(Concarlo Therapeutics)を共同設立した。

ブレインは、NIHの研究費を2016年以降6件受給している。以下出典:Stacy W Blain: Grantome: Search

「2015年5月のMol Cell Biol.」論文が問題視されたが、ブレインはこの論文ではNIH研究費の支援を受けていない。別の人(共著者)がNIH研究費を受給していた。

★最初のネカト告発:2016年

2016年(49歳?)、ブレインの研究室の院生の1人(エリナ・シェティン、Elina Shetyn、第3著者)が、「2015年5月のMol Cell Biol.」論文のデータにねつ造・改ざんがあると、第1著者の院生・プリヤンク・パテル(Priyank Patel)をネカト犯としてニューヨーク州立大学・大学院(SUNY School of Graduate Studies)に通報した。

ニューヨーク州立大学・大学院(SUNY School of Graduate Studies)はネカト調査をした。

ブレインの要請した教員を含めた2 人の教員が調査委員となった。

ネカト調査委員は調査の結果、ネカトの証拠は見つからなかったと結論した。

ただ、ネカト調査結果と若干異なるニュアンスで、マーク・スチュワート学部長(Mark Stewart、写真出典)は、2016年12月20日付のパテル院生宛ての手紙で、論文原稿の画像に重大な懸念があり出版した論文にもデータ疑念があったと述べている。

しかし、スチュワート学部長は、院生のパテルを今回は懲戒処分しない。今後は、注意深く研究し、研究経過を適切に記録するようパテル院生に注意した。

パテル院生(本記事の最後近くに写真あり)は2017年に研究博士号(PhD)を取得し、その後2年間、ブレインの会社で働いた。

以下は2016 年12月20日付のパテル院生宛てのスチュワート学部長の手紙の2ページ目(出典:同)。全文(3ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2022/08/Blain-Stewart-letter.pdf

★2回目のネカト告発:2019年

2016年の調査で「数値と画像に重大な懸念がある」のに懲戒処分しなかった理由は不明だが、「数値と画像に重大な懸念がある」のだから、ネカトハンターが見れば異常を発見してしまう。

2019年7月xx日(52歳?)、ネカトハンターのクレア・フランシス(Claire Francis)が2論文の画像に重複使用があるとパブピアで指摘し、その疑惑を研究公正局とニューヨーク州立大学州南部医療センター (SUNY Downstate Medical Center、以下、「大学」または「ニューヨーク州立大学」と略す)に伝えた。

2019年7月17日(52歳?)、大学は、ステイシー・ブレイン(Stacy Blain)の研究データにねつ造・改ざん疑惑があると、研究公正局から連絡を受けた。

クレア・フランシス(Claire Francis)がパブピアで2論文の画像に複製があると指摘したのは、「2015年5月のMol Cell Biol.」論文と「2010年11月のJ Pediatr Gastroenterol Nutr」論文の2論文である。

疑惑の画像を見ていこう。

「2015年5月のMol Cell Biol.」論文の書誌情報は以下で、問題はその図2C、2H、2Iである(図の出典は原著論文)。

――――――――――以下は図2C――――――――――

――――――――――以下は図2H――――――――――

――――――――――以下は図2I――――――――――

クレア・フランシスが画像重複使用を指摘した3画像を上に並べたけど、白楽にはどこが重複使用なのか、わからなかった。

以下の「2010年11月のJ Pediatr Gastroenterol Nutr」論文の図1Cも疑惑だと指摘された。

こちらはバンドは似ているように白楽は思う。左上の4つのバンドの内左3つが似ているが、白楽には、確証できない。

クレア・フランシス(Claire Francis)の観察眼はスゴイですね。

★ネカト予備調査:2019年

2019年のネカト指摘箇所は、 2016年にブレイン研究室のパテル院生に対して提起されたものと同じだった。

2021年12月2日付けのネカト調査報告文書によると、2019年9月16 日に予備調査を開始した大学のネカト調査はスゴイ。

以下に示すように、ステイシー・ブレイン(Stacy Blain)のネカト関連資料を全部押収している。

大学は、ステイシー・ブレイン(Stacy Blain)のラボ、研究室、共同研究したポスドク、大学院生のコンピューターとメディアデバイス(研究に使用したすべてのコンピューター、ラボ・コンピューター、外付けハード・ドライブ、ノートパソコン、など)、Adobe Photoshopおよびウエスタン・ブロットに使用したコンピューター、オリジナルフィルムのデジタル画像、ゲル、各画像のオートラジオグラフ、実験ノート、クラウド・ストレージ、DropBox、それらのアカウント、その他の関連資料を押収した。

2019年12月12 日、予備調査委員会は予備調査の結果、本調査するよう大学に答申した。 → 2019年12月12日付けの予備調査報告書: Blain-Inquiry-Report

2019年12月16 日、大学は本調査すると決定した。

★調査結果:2021年12月2日

以下は2022年8月23日にファイルしたネカト本調査の報告文書(2021年12月2日付け)の2ページ目部分(出典:同)。ネカト調査報告文書の全文(47ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2022/08/Blain-Investigation-Report-2.pdf

2021年12月2日、大学は、本調査の結果、以下のように、ブレインをネカトでクロと結論した(2021年12月2日付けネカト調査報告書)。

当委員会は、データねつ造・改ざん、生データのズサンな扱い、出版論文と研究助成金申請書でのそれらを使用したことで、ブレイン博士は研究上の不正行為を犯したと結論した。

調査委員会は、「これらの調査結果に基づいて真剣に対処する」ことを大学に勧告した。

委員会は、調査で特定したネカト論文の撤回または修正を学術誌に依頼することを要請した。また、大学の管理者がコンカルロ・セラピューティクス社とライセンス契約について協議し、何らかの措置を講じるよう要請した。

★女性差別とアカハラ

ここまでネカト事件として話しを進めてきたが、実は、事件には裏がある。

裏が本当の事件だと、ブレインの弁護士は主張している。白楽も同感である。

話は少しズレる。

2019年、実は、ブレインは大学(ニューヨーク州立大学州南部医療センター)からアカハラ、性差別の被害を受けていたのを不服として、大学が同一賃金法に違反していると裁判所に訴えていた。

具体的には以下のようだ

  • 男性の同僚と比較して、ブレインには、長年、少ない給料が払われていた。
  • ブレインの昇進が不当に拒否されていた。
  • 大学は、男性なら利用できるのに女性だからという理由でブレインが利用できない資源を用意していた。
  • 職場環境が敵対的だった。

ブレインがこれらの不当な扱いについて裁判を起こしたことに大学は激怒し、大学上層部はブレインのテニュアを剥奪し解雇すべきだと議論していた。それで、3年前に終了したネカト調査を再調査するという報復にでた。

さらに、ブレインが設立したコンカルロ・セラピューティクス社(Concarlo Therapeutics)に彼女が開発した乳がん治療法の特許を与えていたのだが、大学はその特許の供与を止めるという報復もした。

thaler_paul_new_webブレインは著名なジム・ウォルデン弁護士(Jim Walden (lawyer) – Wikipedia)とネカト問題で著名なポール・ターラー弁護士(Paul Thaler、写真出典)を雇った。→ 1‐6‐2.研究ネカトと告発されたらどうする? | 白楽の研究者倫理

弁護士は、大学は2019年に新たにネカト調査を開始するのではなく、2016年にネカト調査は済んでいる。その調査結果をスチュワート学部長のパテル院生宛ての手紙(2016年12月20日付)と共に、研究公正局に送るべきだったと主張した。

ブレインはまた、名誉毀損も裁判所に訴えていた。

大学とネカト調査委員会の委員(教授)がブレインの同僚の何人かに、研究公正局がネカト行為を発見したと告げていたのだ。

2022年5月23日(55歳?)、ブレインは裁判所に大学を被告として、「失われた機会に対する」損害賠償、「屈辱、精神的苦痛、感情的苦痛、および評判への損害」に対する損害賠償、懲罰的損害賠償、および弁護士費用を求めた。

2022年5月23日(55歳?)、ブレインの弁護士は、訴訟と同じ日に「一時的な差し止め命令と仮差し止め要求(temporary restraining order and preliminary injunction)を提出し、次のように主張した。

被告の大学(ニューヨーク州立大学州南部医療センター)は、研究公正局の調査とブレイン博士が提供した無罪の証拠の調査が進行中であるにもかかわらず、根拠のない調査結果で、ブレイン博士を解雇しようとしている。

以下は2022年5月23日の訴状の1ページ目部分(出典:同)。全文(24ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2022/08/Blain-injunction-request.pdf

ブレインは裁判所に対し、大学が懲戒手続きを開始しないよう命令し、学術誌に論文撤回を中止するよう伝え、裁判所が彼女の雇用差別訴訟の判決を下すまで、2つの NIH助成金の主任研究員として彼女を復帰させるよう求めた。

大学の懲戒手続きなどは、研究公正局の結論を待つ義務は大学にはない。

2022年4 月(55歳?)、大学は学術誌に論文の撤回を要求した。4論文の内3論文は2022年8月22日に懸念表明をした。

「2015年5月のMol Cell Biol.」論文の懸念表明は次のようだ。 → Expression of Concern

上記の論文が大学(ニューヨーク州立大学州南部医療センター)によって調査され、図3Aと6Bで画像の重複が見つかったと通知されました。

この懸念表明は、大学(ニューヨーク州立大学州南部医療センター)と論文の責任著者であるステイシー・ブレイン(Stacy Blain)との間で進行中の訴訟の結果が出るまで表示される。

「撤回監視(Retraction Watch)」の問い合わせに、ブレインの弁護士であるポール・ターラー弁護士とジム・ウォルデン弁護士は次のように答えている。 → Thaler/Walden comment 10/20

懸念表明は、ニューヨーク州立大学の完全に信頼性が低く、偏った調査と長年にわたる性差別と直接結びついています。たとえば、ニューヨーク州立大学 は 3 年前に同じ論文のネカトを男性の研究者が犯人と結論しました。女性のブレイン博士の指導下にあったため、レイン博士に監督責任があるとしましたが、その後、新しい証拠や異なる証拠が見つかっていません。さらに、ニューヨーク州立大学 は問題の  3 論文のうち 2論文の筆頭著者にインタビューできていません。問題のデータを出し、図を作成したのは彼らですニューヨーク州立大学 彼らがネカト調査への協力を拒否したのに責任を追及せず、ブレイン博士が調査の一部を否定した時、調査拒否と決めつけたのです。ニューヨーク州立大学 同時に、ブレイン博士のネカト無罪の証拠を持っていると人へのインタビューを拒否しました。

ブレイン博士は、これら3論文で報告された科学的結果を支持するデータを持っていて、図の誤りを修正するために学術誌に協力すると繰り返し申し出てきました。ブレイン博士は、ニューヨーク州立大学に長い間否定されてきた正義を裁判で求めます。なお、ブレイン博士は、論文に対して懸念表明がされたことを知ったばかりで、懸念表明を撤回するよう裁判所に緊急介入を求めています。

2022年8月25日(55歳?)、ブレインは別のフェイス・ゲイ弁護士(Faith Gay)も雇い、裁判所に対し、一時的な差し止め命令を求める申し立てを提出した.

以下は2022年8月25日の裁判官への申し立ての1ページ目部分(出典:同)。全文(7ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2022/08/Blain-EOC-intervention.pdf

★NIH助成金の主任研究者 (PI)

既に「NIH助成金の主任研究員として彼女を復帰させる」と一行書いたが、話しが混乱するので、NIH助成金を別項目にした。

前述したように、2021年12月2日(54歳?)、大学は、ブレインをネカトでクロと結論した(2021年12月2日付けネカト調査報告書)。

NIHの所外研究局( Office of Extramural Research)は、NIHから全米の大学にグラントを支給する部局である。

2022年1月25日(55歳?)、そのNIH所外研究局の下部機関である所外研究管理政策部(Office of Policy for Extramural Research Administration)のミシェル・ブルズ部長(Michelle Bulls、写真出典)は、大学がネカト調査でブレインをクロと結論したので、ブレインが受給していた NIH助成金の主任研究者 (PI) をブレイン以外に変えるよう大学に要請した。

以下の3~4ページ目部分(出典:同)。全文(4ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2022/10/44-22-NIH-to-SUNY-re-grants.pdf

NIH は 大学に 30 日間の猶予を与えて、ブレインが主任研究者 (PI) の2 つの助成金に新しい 主任研究者 (PI) を指定するか、あるいは、それらの助成金を終了するよう要求した。

2022年2月22日(55歳?)、ニューヨーク州立大学のデイヴィッド・クリスティーニ研究担当副学長(David Christini、写真出典)は、大学は、ネカト違反だけを理由にブレインを助成金の主任研究者 (PI) から解任しないと返事した。 → Scanned Document(25ページのPDF)

ニューヨーク州立大学はNIH からの応答を得られなかったので、仕方なしに、主任研究者 (PI) からブレインをはずし、別の人を主任研究者 (PI) とした。

ブレインの弁護士はブレインが ニューヨーク州立大学 の規則に違反したことを否定している。それで、助成金からブレインをはずすべきではなかったと主張している。

ニューヨーク州立大学 はブレインがネカト調査に協力しなかったという理由で、ネカト犯としたが、ブレインの弁護士は これは「虚偽の陳述(misrepresentation)」だと非難している。 

ブレインは、すべてのデータを押収され、調査で真実を話すことだけを要求された。しかし、彼女は調査に協力した。 

しかし、調査では

調査委員会は、ブレイン博士に責任を負わせ、彼女が拒否したときに彼女が協力方針に違反したと主張し、完全で公平な調査を実施する責任を放棄した。

2022年6月27日(55歳?)、ウォルデン弁護士は、後に法廷に提出した手紙で、NIH所外研究局のマイケル ラウアー代理長官(Michael S. Lauer)に、「ブレインはネカト調査に実際に協力しています。助成金からブレインを除外することを再検討してください」と求めた。 → 27-NIH-Letters.pdf

2022年7月18日(55歳?)、ラウアー代理長官ウォルデン弁護士の 2 通目の手紙を ニューヨーク州立大学のデイヴィッド・クリスティーニ研究担当副学長に電子メールで送り、次の 2 つの質問に 10 日以内に回答するよう求めた。 

  • ニューヨーク州立大学は、最終調査報告書に記載されているように、ブレイン博士がネカト調査に非協力的で、大学の規則に違反したと信じ続けているのか?
  • ニューヨーク州立大学は、ブレイン博士 がその後もまだ非協力的で、大学の規則に違反して続けていると信じているか? 

デイヴィッド・クリスティーニ研究担当副学長は、法廷文書にあるようにブレインが大学の規則に違反したという大学の認定を繰り返した。法廷文書 → 法廷に提出されたクリスティーニの手紙

クリスティーニは、ブレインの主張に対する反論で締めくくっていた。

ブレインは、前述したように、ブレインが大学から女性差別とアカハラの被害を受けたと裁判に訴えた。ニューヨーク州立大学は、その報復として、一度終えたネカト調査を再開し、ブレインをネカトでクロと認定したと主張している。

2022年10月29日現在、この事件は紛争中である。

【ねつ造・改ざんの具体例】

★「2015年5月のMol Cell Biol.」論文

上記したようにこの論文の図2C、2H、2Iがネカトだとされ、既に図2C、2H、2Iを示したが、白楽はネカト箇所を特定できなかった。

「2015年5月のMol Cell Biol.」論文の書誌情報を以下に示す。2022年8月22日に懸念表明されたが、2022年10月29日現在、撤回されていない。当初、第1著者の院生プリヤンク・パテル(Priyank Patel)がネカト者と告発された。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/A66D142101CB042AFA896E4FA36E71

――――――――――以下は図2C――――――――――

――――――――――以下は図2H――――――――――

――――――――――以下は図2I――――――――――

――――――――――――――――――――

白楽はネカト箇所を特定できなかったが、このように示されると、ナルホド重複使用だということが良くわかります。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2022年10月29日現在、パブメド(PubMed)で、ステイシー・ブレイン(Stacy Blain、Stacy W Blain)の論文を「Stacy Blain[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2021年の20年間の19論文がヒットした。

2022年10月29日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2022年10月29日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでステイシー・ブレイン(Stacy Blain、Stacy W Blain)を「Stacy Blain」で検索すると、 0論文が撤回されていた。

「Stacy W Blain」で検索すると、2008年、2009年、2015年に出版された3論文が2022年8月22日に懸念表明されていた

★パブピア(PubPeer)

2022年10月29日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ステイシー・ブレイン(Stacy Blain、Stacy W Blain)の論文のコメントを「Stacy Blain」で検索すると、1997~2021年(30~54歳?)の9論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》証拠保全 

日本のネカト調査はスルメ調査と批判した。 → ●白楽の卓見・浅見16【ネカト調査の現状は大掃除後のゴミさがし:根本的改善を】 2022年9月28日

ステイシー・ブレイン(Stacy Blain)事件での2019年のネカト調査では、

以下に示すように、ステイシー・ブレイン(Stacy Blain)のネカト関連の資料を全部押収している。

大学は、ステイシー・ブレイン(Stacy Blain)のラボ、研究室、共同研究したポスドク、大学院生のコンピューターとメディアデバイス (研究に使用したすべてのコンピューター、ラボ・コンピューター、外付けハード・ドライブ、ノートパソコン、など)、Adobe Photoshopおよびウエスタン・ブロットに使用したコンピューター、オリジナルフィルムのデジタル画像、ゲル、各画像のオートラジオグラフ、実験ノート、クラウド・ストレージ、DropBox、それらのアカウント、その他の関連資料を押収した。

予備調査の最初に、ほぼ全部の資料を押収している。スゴイですね。

《2》ネカト事件の悪用

ブレイン事件をネカト問題として読み始めたが、どうやら、大学とブレインの抗争のようだ。

抗争の真の理由はわからないが、カネ、色恋、人間関係?

事実として、大学(ニューヨーク州立大学州南部医療センター)はアカハラ、性差別でブレインをイジメていた。

ブレインはそれを裁判に訴えた。

すると大学は反撃材料として、3年前に終わった2016年のネカト事件(ブレインはシロ)を再度調査し、今度はブレインをクロとして、解雇しようとしている。

2022年10月29日現在、裁判が進行中なので、ブレイン事件はどう決着するのかわからない。

ただ、ネカト事件が学内政治の抗争材料に利用されていることはわかる。

そして、ジェイソン・ロバート(Jason Robert)の2022年1月6日出版の論文のように、大学(ニューヨーク州立大学州南部医療センター)がネカト調査不正をしていると思える。 → 「Misconduct in research administration: What is it? How widespread is it? And what should we do about it?

そう、ネカト問題は、研究者のネカトだけでなく、「大学のネカト調査不正」、「学術誌のネカト対応不正」もあるので、何を信用していいのかわからないというのが現実である。

ブレイン事件では、大学(ニューヨーク州立大学州南部医療センター)のネカト調査不正が濃厚な気がする。

《3》弁護士

thaler_paul_new_webブレインは著名なジム・ウォルデン弁護士(Jim Walden (lawyer) – Wikipedia)とネカト問題で著名なポール・ターラー弁護士(Paul Thaler、写真出典)を雇った。→ 1‐6‐2.研究ネカトと告発されたらどうする? | 白楽の研究者倫理

2014年の小保方晴子事件の時、著名な三木秀夫が小保方晴子の弁護士になった。

しかし、その後、三木秀夫弁護士は研究ネカト事件に登場しない。

日本では、残念ながら、研究ネカト専門の有力な弁護士が(育って)いない。

《4》ネカト犯は誰?

2016年に指摘され調査された「2015年5月のMol Cell Biol.」論文のデータにねつ造・改ざんでは第1著者の院生(プリヤンク・パテル、Priyank Patel)がネカト犯とされている。

ただ、「パブピア(PubPeer)」で問題視されたブレインの1997~2021年(30~54歳?)の9論文の内、プリヤンク・パテルが共著者になっているのは3論文だけである。他の6論文では共著者になっていない。

すると、この6論文のネカト犯は誰なのか?

9論文全部の著者はブレインしかいない。

問題視された論文の出版年は1997~2021年(30~54歳?)で、25年間に及ぶので、ブレインがネカトしたのだろうか?

ステイシー・ブレイン(Stacy Blain)(左から2人目)。プリヤンク・パテル(Priyank Patel)(最右)https://www.newsday.com/business/breast-cancer-venture-capital-concarlo-j30829

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】

① ◎2022年8月25日のエリー・キンケイド(Ellie Kincaid)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Exclusive: Cancer researcher sues med school for retaliation after research misconduct finding – Retraction Watch
② 2022年2月7日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ:The Legacy of Joan Massague – For Better Science
③ 2022年5月23日の著者名不記載の「pacermonitor」記事(閲覧有料):Blain v. State University of New York Downstate Medical Center et al (1:22-cv-03022), New York Eastern District Court
④ 2022年5月23日 の「Justia 」記事:  Blain v. State University of New York Downstate Medical Center et al 1:2022cv03022 | US District Court for the Eastern District of New York | Justia
⑤ 2022年10月27日のエリー・キンケイド(Ellie Kincaid)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:NIH asked to replace a PI on grants after university said she violated policy – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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