7-192 ネカト調査をするのは大学か学術誌か?

2026年7月1日(水)掲載 

長文注意】〈AI使用〉。

昨日(2026年6月30日)の記事・「コンピューター化学:ヒトラー・ルイ(Hitler Louis)、イノセント・ベンジャミン(Innocent Benjamin)(ナイジェリア)」のイノセント・ベンジャミンは、不正発覚時、英国のポーツマス大学の修士院生だった。ネカト論文は入学前に出版していた。
 
ポーツマス大学の研究倫理担当者であるサイモン・コルストー(Simon Kolstoe)は、「2026年4月のRetraction Watch」論文で、ポーツマス大学は大学に在籍前の研究不正行為を調査しない。調査は論文を出版した学術誌がすべきだと主張した。この主張が大きな波紋をもたらした。
 
というは、多くの意見は、コルストーの主張する学術誌の対応ではなく、大学が対応すべきだというものだった。
 
アシュケナージとブロウマンの「2026年4月のRetraction Watch」論文も大学が対応すべきだと批判した。
 
なお、欧米(?)の議論では全く出てこないが、白楽は、学術誌でも大学でもない第三者機関が調査すべきだと思う。
 

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
2.コルストーの「2026年4月のRetraction Watch」論文
3.アシュケナージとブロウマンの「2026年4月のRetraction Watch」論文
7.白楽の感想
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●2.【コルストーの「2026年4月のRetraction Watch」論文】

★読んだ論文

  • 論文名:Should universities investigate questionable papers students and faculty wrote elsewhere?
    日本語訳:大学は、学生や教員が他の場所で発表した疑わしい論文について調査すべきか?
  • 著者:Simon Kolstoe
  • 掲載誌・巻・ページ:Retraction Watch
  • 発行年月日:2026年4月3日
  • ウェブサイト:https://retractionwatch.com/2026/04/03/guest-post-should-universities-investigate-questionable-papers-students-faculty-wrote-elsewhere/
  • 著者の紹介:サイモン・コルストー(Simon Kolstoe、経歴の出典)。
  • 学歴:2001年 に英国のサウサンプトン大学(University of Southampton)で学士号(生物医学)、2005年に同大学で研究博士号(PhD)(生化学)取得、2010年にオープン大学(Open University)で学士号取得(人文学・哲学)、2012年にキール大学(Keele University)で修士号取得(研究倫理学)
  • 分野:生命倫理学
  • 論文出版時の所属・地位:英国のポーツマス大学(University of Portsmouth)で生命倫理学を専門とする準教授(Associate Professor in Bioethics)で大学倫理アドバイザー(University Ethics Adviser)

●【論文内容】

論文著者のサイモン・コルストー(Simon Kolstoe、写真出典)は英国のポーツマス大学(University of Portsmouth)で生命倫理学を専門とする準教授である。研究倫理の活動もしている。

白楽がコルストー論文を解説する理由は3つある。

1つ目は、昨日(2026年6月30日)掲載した以下の記事のイノセント・ベンジャミンは、2024年1月~2025年1月、英国のポーツマス大学の大学院に在籍し、生物学およびバイオテクノロジーの修士号を取得した。在籍していた時、研究不正疑惑が生じたが、ポーツマス大学はまともにネカト調査をしなかった。しかし、コルストーはその対応の正当性をこの論文で主張した。

コンピューター化学:ヒトラー・ルイ(Hitler Louis)、イノセント・ベンジャミン(Innocent Benjamin)(ナイジェリア) | 白楽の研究者倫理

コンピューター化学:ヒトラー・ルイ(Hitler Louis)、イノセント・ベンジャミン(Innocent Benjamin)(ナイジェリア)

2つ目は、コルストーの主張に対し、たくさん(26件)の反論・議論が「撤回監視(Retraction Watch)」のコメント欄に記載されている点に興味をもった。

3つ目は、コルストーの主張に対し、3章では、アシュケナージとブロウマンが論文(「2026年4月のRetraction Watch」論文)で反論した。それで、認識を深められると思った。

ーーー論文の本文は以下から開始

★疑惑

私(コルストー)は研究倫理の専門家です。

教職員や学生に研究不正疑惑が生じた時、所属するポーツマス大学から調査を依頼されます。

最近の例としては、ヒトラー・ルイ(Hitler Louis)とイノセント・ベンジャミン(Innocent Benjamin)が論文を捏造したり、過剰自己引用を行なったという疑惑に対応しました。

この件では、研究コミュニティの中で誰が研究不正疑惑に対処すべきかという問題が浮上しました。

「撤回監視(Retraction Watch)」の読者ならご存知の通り、研究上の不正行為を見つけるのは非常に難しい。

多くの場合、匿名で通報されて初めて、教職員・学生の研究不正に大学は気づきます。

今回も、「Cisticola Tinniens」という人物から、私たちの現在の修士課程の学生の一人であるベンジャミンが、異常なほど多くの論文を出版していたという情報が寄せられました。

そのうちのいくつかの論文は、PubPeerで問題が指摘されました。

★大学の守備範囲

「Cisticola Tinniens」の通報を受け、まず、私たちが最初に行なったのは、自分たちの大学(ポーツマス大学)の名前が、ベンジャミンの疑わしい論文の中に記載されているかどうかを確認することでした。

もちろん、大学としては、所属する研究者・学生が行なった行為の責任を負う必要があります。

調べた結果、疑わしい論文のうち、ポーツマス大学の名前が所属先になっていたのは1報だけでした。

そして、その論文に記載されていた研究内容は私たちの大学で行なわれていないことは、明らかでした。そのため、所属の間違いをすぐに修正させることができました。

以下出典:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1369800124009442

最初に意訳

著者らは、「ポーツマス大学生物科学部(School of Biological Sciences, University of Portsmouth)」という所属を記載したことについて、以下の通り訂正・説明いたします。当該研究は全面的にカラバル大学(University of Calabar)で実施されたものであり、ポーツマス大学では一切行なわれておりません。間違った所属を記載してしまいました。
ご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

本論文で論じる問題は、私たちの大学(ポーツマス大学)とは何の関係もない不正疑惑の論文を、誰がどう調査すべきかという問題です。

「Cisticola Tinniens」にその論文を掲載している学術誌に連絡するよう言う以外に、ポーツマス大学は何ができるでしょうか?

ベンジャミンはポーツマス大学の院生ですが、ポーツマス大学に入学する前に出版した彼の論文に口出しする権利は、私たちの大学(ポーツマス大学)にはありません。

私たちは、これで問題が解決したと思いました。

しかし、約1年後、つまり、ベンジャミンが修士課程を終了し、私たちの大学(ポーツマス大学)を去った後でも、多くの批判的メールが私たちの大学(ポーツマス大学)にきました。

その時点では、問題論文の多くは既に調査され、撤回されていました。

それでも、「Cisticola Tinniens」は、私たちの大学(ポーツマス大学)がさらなる措置を取るべきだとPubPeerで批判しました。

私たちの意見は「Cisticola Tinniens」の意見と異なります。

研究者は頻繁に異なる大学・研究所を渡り歩きます。従って、もし研究成果が特定の大学・研究所と直接結びつかないのであれば、その大学・研究所は研究不正問題でさらなる措置を取る権利はありません。

現実的に大学ができることは、授与した学位を取り消すことくらいです。しかし、学位の取得に必要な研究成果と、学位の取り消しとの間に明確な関連がない場合、その措置を正当化するのは非常に難しい。

「発表しなければ生き残れない(publish-or-perish)」という圧力がある学術界に、生成AIが高度化し、研究者・院生が、研究記録(research record)の信頼を損なう行為で金銭的な利益を得るのが、残念ながら、現在は容易になっています。

これは、懸念すべき問題です。そして、研究記録(research record)を正す責任は大学に限らず、学術関係者全員にあります。

★学術誌の編集者

研究論文の内容について疑惑がある場合について論じれば、その論文を掲載した学術誌の編集者こそが、その疑惑を調査すべきです。彼らは、その分野の専門知識を持っているからです。

「学問上の見解の相違」でも、現在は、「研究不正」と指摘される傾向があるので、この点は重要です。

私たちとしては、こうした懸念を伝えることはできますが、「学問上の見解の相違」と「研究不正」の違いを判断する責任は、学術誌の編集者たちにあります。

学術研究者として、私は研究記録(research record)の正確さを重視しています。また、不届きな人物が何の処分を受けず、システムを悪用できることに苛立ちを感じます。

確かに、大学は管理者・雇用主であり、学位を授与する機関としてある程度の権限を持っていますが、研究過程で起こるあらゆる問題に対して、法的な責任を負うことはできません。

論文出版で巨額の富を得ている学術誌は、そうした事態が起こらないようにする責任があります。

学術誌・編集部が不正な論文の発表を防ぐことや、適切な査読を行なえないのなら、学術論文出版システムが破綻していることになります。その場合、別の方法で研究成果を伝え、評価する必要があります。

★コメント

コメントが26件もある。以下、数件を選んだ。

マーテン・ファン・カンペン(Maarten van Kampen)
April 3, 2026 at 11:18 am

「自分の大学に所属する研究者・院生が行なった行為だけに大学は責任を負う」という主張に異議があります。

この主張はあまりにも限定的です。

過去に研究不正をした研究者が新たに別の大学に雇用される事例は、今まで、いくつもあり、問題視されてきました。コルストーの論理に従えば、この場合、問題視することがナンセンスになります。つまり、「他大学でやったことだから、私たちの問題ではない」からです。

しかし、新たに別の大学に雇用されたのは、雇用前の多くの論文がネカトだったからです。「過去の不正を水に流して新しく始める(start with a clean sheet)」という方針だと、不正研究者に有利で学術界を歪めます。

大学・研究所は、院生や研究者の研究成果(the work)の信頼性に責任を果たすべきだと強く思います。

FFT
April 3, 2026 at 7:37 pm

これは大学が面倒な問題を他に押し付けようとしている明らかな例です。イノセント・ベンジャミンがネカトした研究成果を提出しなければ、おそらく修士号を取得できなかったでしょう。この点については、しっかりと調査する必要があります。

lf
April 3, 2026 at 11:15 pm

もしこれが研究倫理学を専門とする学者の見解なら、世界の研究倫理の程度が悪く、規範が適切に守られていないのも不思議ではありません。

Édouard Onazol エドゥアール・オナゾル
April 4, 2026 at 6:21 am

コルストー博士は、このような恥知らずな発言をしたことを恥じて、すぐに辞任すべきです。また、「撤回監視(Retraction Watch)」が彼に発言の場を与えたことも問題です。

FFT
April 4, 2026 at 10:19 pm

「撤回監視(Retraction Watch)」の判断について言えば、大学の管理者で、自ら研究倫理の専門家だと称する人物が、こんな歪んだ論理を持っているという事実を公にしたという点で、大きな意義があったと思います。

Simon Kolstoe サイモン・コルストー
April 8, 2026 at 11:19 am

論文の著者です。

自分のことを悪しざまにコメントされていて、反論せずにはいられません。

まず、このような侮辱的な発言を、問題を解決しようとしている人に向けるのは、いかがなものか?

もし、私が上で述べた方法に代わる別のアプローチを考えるとすれば、大学に大規模な調査部門を設置し、そこで現在または過去の学生や教職員に対してなされたすべての告発を調査することになるでしょう。

私の所属する中規模の大学でも、調査対象となる人は数十万人にもなるでしょう。このような調査には多くの時間がかかる上、研究に精通した上級職員が調査に当たる必要があります。

その結果、多大なコストが発生します。これは、調査を行なってはいけないという意味ではありません。ただし、研究資金の配分を根本的に見直し、研究文献の検証や修正のための十分な資源を確保する必要があります。

本論文で私が指摘したかったポイントは、現行システムの中で、学術誌に発表された論文の責任は、所属大学よりも学術誌・編集者の方が大きいということです。

その理由は以下の通りです。

  1. 学術誌・編集者はその研究分野の専門家であり、正確な判断をするのに適任です。
  2. 出版や撤回に関しては、学術誌・編集者が最終的な決定権を持っています。
  3. 学術誌は、こうした論文の出版から多額の収益を得ているため、問題のある論文を見抜くことができるはずです。もし編集者ができないのであれば(そして実際、しばしばそういうことが起こりますが)、問題は研究論文出版システム自体にあると思います。

今回の件でわかるのは、大学は教員採用規則をより明確にすべきだということです。そうすれば、過去に論文が撤回されたといった事実が明らかになり、教員採用の際にその点が考慮されるようになります。 → [白楽注:人事・賞授与・研究費採否の際の業績リストに、論文撤回の事実を記載させる外国の大学・助成機関の例を調べたことがないが、多分、ないと思う。日本の大学・助成機関を数年前に調べたことがあるが、記載させる大学・助成機関はなかった。今後、導入すべし

Édouard Onazol エドゥアール・オナゾル
April 9, 2026 at 8:33 am

責任を果たすのに時間と労力が必要なのは当然です。もし、出版社が経済的な利益を得ているのに対処しないことを問題視するなら、大学もまた、学生を受け入れ、入学金・授業料という経済的な利益を得ているので、同じではないでしょうか。

大学は、自校の評価を高めるために、しばしばネカト論文を発表した研究者を雇います。ベンジャミンのように学術詐欺をしたケースに対処しないなら、一体誰が対処すべきなのでしょうか?

Richard Pinch リチャード・ピンチ
April 9, 2026 at 11:58 am

ちょっと待ってください。

英国の大学は国立の機関ではなく、民間の機関です。大学には、複雑な調査を行なうための資金が与えられておらず、また、そうした調査を行なう法的権限もありません。

もし、A大学の職員や学生が、以前、B大学に在籍中、研究不正を行なったとして告発された場合、A大学は、B大学に対して調査を強制する法的権限はありません。また、もしB大学が調査を行なったとしても、その調査結果は個人情報にあたるため、A大学に開示する法的義務はありません。

John Bacon-Shone ジョン・ベーコン=ショーン
April 4, 2026 at 3:18 am

その大学に在籍・在職していない時の活動について、誰が調査すべきなのか決めるのは難しいと思います。しかし、大学が入学を認めたり、採用する際は、その人の過去の活動を評価しているのだから、大学に在籍・在職する前の疑わしい活動について評価するのも、大学の責任だと思います。もし、その疑わしい活動が学生の入学決定に影響を与えたなら、大学は入学を認めないでしょう。

Maarten van Kampen マーテン・ファン・カンペン
April 4, 2026 at 4:15 am

大学が、このような人物に修士号を与えたのは、ある程度理解できます。

卒業の一般的な要件として、「授業料を支払うこと」「試験で不正をしないこと」だけだからです。現在の制度は、過去 3年間に100報以上の論文を発表し、そのうち21報がネカト論文だったという不正まみれの院生には、全く対応できないのです。

今後、大学は、院生であれ教員であれ、関連する規則を見直すべきだと思います。

金融詐欺を犯した人は、その後一生、銀行で働くことはできません(少なくともオランダではそうです)。
保育所も、特定の人々を雇用しない同様の規則があります。
学生や教員を受け入れる際にも、同様の規則を設けるのが倫理的だと思います。

Simon Kolstoe サイモン・コルストー
April 4, 2026 at 9:41 am

論文の著者です。

私がこの論文を書いた目的は、研究システムが直面している課題を建設的に指摘することでした。

従って、コメントに対して全部には対応しません。

まず、1つ目。ブログで意見を述べるのと、実際にこのような状況に対処する立場とでは、事態は全く違います。研究公正を守る現場での重要な要素は、合法的で実務的なことです。

研究者をブラックリストに載せるという問題については、以前から議論されてきましたが、簡単に解決できる問題ではありません。私の考えでは、このような事柄に関しては、大学界全体で教員の採用や教員・学生の懲戒に関する規則をより明確にする必要があるでしょう。

しかし、私は、学術誌や論文出版に関する慣行こそが、最大の問題だと思います。そもそも、なぜこれらの論文が学術誌に掲載されたのでしょうか?

また、編集や査読の不備によって生じた問題を、なぜ大学が解決しなければならないのでしょうか?

このような議論が必要であるという事自体が、より良く、より信頼性の高い研究成果の普及方法を考え出す必要があることを示しています。私にもいくつかアイデアはありますが、それについては機会があれば、別に書きます。

Alexander Magazinov アレクサンドル・マガジノフ
April 4, 2026 at 1:22 pm

> なぜこれらの論文が学術誌に掲載されたのでしょうか?

論文の掲載は、この手の学術誌では、あまり能力のない、または正直ではない人々によって採択され、掲載されるのです。

例えば、どこかの大学で学位を取得したというウソの学歴をでっち上げ、西洋の国に移住し、大学院生や大学教員になったとしましょう。その人は、時々、新しい同僚たちと共著の退屈な論文を発表するだけです。

ただ重要なのは、同時に、彼は多くの不正論文の編集や査読を行なうのです。それができるから、そしてそうすることで利益を得られるからです。コルストーによれば、それは誰の問題でもないのですが・・・。

Dani ダニ
April 6, 2026 at 7:28 am

大学で研究公正の業務に従事している者として言わせてもらうと、この問題はずっと深刻です。資金不足や、ここで述べられているような制度的な仕組みが、問題解決の妨げとなっています。

多くの場合、問題が深刻にならない限り、何も行動を起こせません。問題を無視する方が、対処するよりも大学の損害が大きくなりそうな場合にだけ、大学は対処します。

ほとんどの研究機関では、疑わしい研究内容を検証するために、適任の専門家を雇っています。

ところが、問題は、個々の研究者に責任を負わされる一方で、研究機関自体はほとんど何も問題なく存続しているという点です。逆の状況も同様に起こり得ます。つまり、不正疑惑のある研究者が他の研究機関に移ると、移る前の問題は消滅します。

しかし、本来、研究公正は、研究と共にあるべきで、研究機関の管理によって覆い隠されてしまってはなりません。

研究不正問題を解決することに対するインセンティブは、問題が深刻化したり、すでに論文として発表されてしまうまで、ほとんど与えられない現状は、いかがなものでしょうか。

●3.【アシュケナージとブロウマンの「2026年4月のRetraction Watch」論文】

★読んだ論文

  • 論文名:A response to: Should universities investigate questionable papers students and faculty wrote elsewhere?
    日本語訳:「大学は、学生や教員が他の場所で発表した疑わしい論文について調査すべきか?」に対する回答
  • 著者:Itamar Ashkenazi and Howard I. Browman
  • 掲載誌・巻・ページ:Retraction Watch
  • 発行年月日:2026年4月22日
  • ウェブサイト:https://retractionwatch.com/2026/04/22/response-should-universities-investigate-questionable-papers-students-and-faculty-wrote-elsewhere/
  • 著者①の紹介:イタマル・アシュケナージ(Itamar Ashkenazi)。
  • 著者②の紹介:ハワード・ブロウマン(Howard I. Browman)。

●【論文内容】

ーーー以下、AI使用ーーー

【要約】

『撤回監視(Retraction Watch)』に掲載された、学術界における研究不正調査の責任の所在に関する議論。他機関に在籍時に執筆された疑わしい論文について、現在の所属大学が調査を行なうべきか否かという問いに対し、出版規範委員会(COPE)評議員らは「研究を行なうのは人間であり、現在の所属機関も責任を共有して不正者の追究や学術界のシステム是正に当たるべきだ」と主張している。

はじめに

研究不正の疑いが生じた際、誰がそれを調査し、是正する責任を負うのかという問題は、現代の学術界におけるきわめて重要かつ複雑な論点である。

議論の背景と発端

事の発端は、研究倫理学者であるサイモン・コルストー(Simon Kolstoe)が同サイトに寄せたゲスト投稿であった。コルストーは、自身の大学が不正調査を依頼される立場から、次のような疑問を提起した。

  • 教員や学生が、現在の大学に赴任・入学する前に、他の研究機関で行なった(あるいは出版した)研究について、現在の所属大学が調査を行なう責任はあるのだろうか?
  • コルストーは、こうした過去の不正疑惑の調査は、学術誌の編集者(エディター)が主導して行なうべきではないかと主張した。

これに対し、学術出版規範の世界的権威である出版規範委員会(COPE)の評議員であるイタマール・アシュケナージ(Itamar Ashkenazi、写真左出典:イスラエル・ラムバム医療センター外科医)とハワード・ブラウマン(Howard I. Browman 、写真右出典:ノルウェー海洋研究所首席研究員)の2名が、共同で反論の書簡を寄せた。それが今回の記事である。

アシュケナージとブラウマンの主張(COPE評議員の視点)

両氏は、コルストーの「学術誌側が責任を持つべきだ」という意見に対し、明確に反対の立場をとっている。彼らの論点は主に以下の3点に集約される。

1.不正を行なうのは「組織」ではなく「人間」である

  • 学術研究は大学等の組織によって支援されているが、実際に行なうのは個々の研究者(人間)である。
  • したがって、不正行為を行なった個人に対して責任を追及しなければならない。その際、その人物と現在、雇用や教育、契約などの正式な関係を結んでいる現在の所属機関が関与することは不可欠である。所属が変わったからといって、過去の不正を不問に付すことは許されない。

2.学術誌の権限には限界がある

  • 現在の学術出版の基準では、不正調査の第一義的責任は研究機関にあるとされている。
  • なぜなら、研究が実際に行なわれた機関こそが、生データや実験施設、当時の承認手続き、調査にあたる人員へのアクセス権を持っているからである。
  • 学術誌の編集者には、著者に調査への協力を強制するような法的な権限や実効力は乏しい。現在の所属機関が協力することで、初めて実効性のある調査や協力体制が構築できる。

3.大学も「出版圧力」のエコシステムの一部である

  • 現在の学術界には、研究者に過度な出版を強いる構造(いわゆる「発表しなければ生き残れない(publish-or-perish)」)が存在し、これが研究者に規範を破らせる誘因(インセンティブ)となっている。
  • 大学などの研究機関は、このエコシステムを構成する当事者であり、自組織の構成員が過去に行なった不正であっても、専門職としての規範に違反した者に対しては厳しい姿勢を示し、結果(ペナルティ)を科す責任を共有している。

コメント欄における多角的な論点(社交メディアやサイトでの議論)

この記事の発表後、コメント欄では研究者や関係者から非常に活発な議論(社交メディア等でも見られる典型的な論争)が巻き起こった。主な論点は以下の通りである。

法律およびデータ保護の壁(英国などの事例)

リチャード・ピンチ(Richard Pinch:学術団体の評議員)らは、法的な観点、特に英国や欧州のGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)下における制限を指摘した。

  • 大学(雇い主)は、現職・元職を問わず、従業員や学生の個人データを他大学や学術誌の編集者に同意なく開示することは法律上非常に難しい。
  • これに対し、原著者のコルストーは「データ保護は行動を起こさない言い訳にはならない」と反論。研究管理の契約上の義務や、正確な研究成果を公表するという「正当な利益(Legitimate Interests)」を根拠に、調査結果や問題のある論文リストの共有は可能であるとし、機関側の過度な法的恐怖心が問題を停滞させていると指摘した。

学術誌と大学の役割分担

クリス・メベイン(Chris Mebane)らは、『Science』誌の編集長であるホールデン・ソープ(Holden Thorp)のエッセイを引用しつつ、役割分担を明確にすべきだと主張した。

  • 学術誌の責任: 出版された論文そのものの信頼性に責任を持つ。データに矛盾や改ざんがあれば、誰が犯人かを特定するのを待たずに、当該論文を迅速に撤回すべきである。
  • 大学の責任: 共同著者のうち誰に責任(誠実な誤りか、あるいは意図的な不正行為か)があるのかを特定し、処分を下すのは大学の仕事である。

二重処罰の懸念と手続的公正

エマニュエル(Emmanuel)と名乗る人物は、すでに過去の機関や学術誌で調査が完了し、撤回などの処分が出ているケースにおいて、新しい所属大学が再度調査を行なうことへの疑問を呈した。

  • 新たな証拠がない限り、プロセスの重複(二重処罰)になるリスクがある。
  • 採用時や入学時のバックグラウンドチェック(背景調査)で過去の撤回履歴を把握した上で雇用・入学させたのであれば、後からそれを理由に遡及的に処分を下すのは手続的公正(Fairness)を欠く恐れがある。
  • すべての撤回が悪質な不正によるものではなく、中には「誠実な誤り(Honest Error)」によるものもあるため、一律の厳罰化ではなく、事案の性質を見極めるべきだという意見である。

ーーー以上、AI使用ーーー

●7.【白楽の感想】

《1》AIの威力

本記事のアシュケナージとブロウマンの「2026年4月のRetraction Watch」論文はAIを使って解読した。

AIの威力はスゴイ!

おどろいている

AIの登場で、白楽は「論文を読んで」を止めようと思案中だ。

「論文を読んで」は、自分の勉強のために解読した英語論文を、読者の皆さんと共有しようという趣旨で日本語化し、ブログ公開したのだが、今は、読者自身が読みたい英語論文を、①翻訳ソフトを使って簡単に日本語化できる。あるいは、②AIを使って日本語文章にまとめることも、1分程度で簡単にできる。

だから、わざわざ白楽が日本語化する必要はない。つまり、役に立っていない(気がする)。

止める? 続ける? どうしようかなあ~。

《2》捜査権をもつ政府機関のリスト 

欧米の議論(今回の議論)では全く出てこないが、白楽は、根本的な解決策は、学術誌でも大学でもない第三者機関が調査すべきだと思う。

麻薬取締部や労働基準監督署のような捜査権を持つ独立した政府機関が調査を行なうべきだと考える。

そのような第三者機関がないために、大学は身内の不正を隠蔽し、調査を拒否し、クロをシロへと捻じ曲げ、関係者を脅迫するという暴挙に出る。学術誌も似たような行動をとる。

白楽はサボーの感覚に近い。

7-188 ◎学術論文の営利出版を廃止せよ:サボーのフリブール宣言 | 白楽の研究者倫理

7-188 ◎学術論文の営利出版を廃止せよ:サボーのフリブール宣言

―――AIに聞くと、「捜査権をもつ政府機関のリスト」は以下のようだ。―――

日本の刑事司法制度において、犯罪を捜査し、犯人を逮捕したり証拠を集めたりする権限(捜査権)を持つ主な政府機関(行政機関)は以下の通り。

一般に「警察」が代表的だが、特定の犯罪(密輸、脱税、労働基準法違反など)を専門に扱う特別司法警察職員を擁する機関や、独自の捜査権を持つ検察庁などがある。

1. 一般の刑事事件を扱う機関
すべての犯罪に対して広範な捜査権を持つ、中心的な捜査機関。

  •  警察庁・都道府県警察(内閣府・国家公安委員会の下部組織 / 各都道府県)
    殺人、強盗、詐欺など、あらゆる一般的な犯罪(刑事事件)を捜査する。
  • 検察庁(法務省の特別の機関)
    警察から送致された事件を捜査(追起訴のための補足捜査など)するほか、独自に政財界の汚職や大規模な経済犯罪を捜査する権限(特捜部など)も持っている。

2. 専門分野の犯罪を扱う機関(特別司法警察職員など)
特定の法律に違反する犯罪に限って、警察と同じような捜査権(家宅捜索や逮捕など)を持つ職員が所属する機関。

  • 厚生労働省 麻薬取締官(麻薬取締部) 覚醒剤、大麻、麻薬などの薬物犯罪
  • 労働基準監督官(労働基準監督署) 労働基準法違反、労働安全衛生法違反など
  • 国土交通省 海上保安官(海上保安庁) 海上における犯罪(密漁、密輸、海難事故など)
  • 財務省 税関職員 密輸(不正薬物や拳銃などの持ち込み)
  • 法務省 刑務官 / 法務事務官 監獄(刑務所など)内での犯罪
  • 人事院 人事院事務総局の職員 国家公務員法違反(政治的行為の制限違反など)

3. 独自の行政調査・告発権を持つ機関
厳密な「司法警察権(逮捕や独自の強制捜査)」とは異なるが、法律に基づき強力な強制調査権を持ち、悪質な事案を検察庁へ直接「告発」することで刑事責任を追及する機関。実質的に捜査機関に近い役割を果たす。

  • 国税庁(財務省の外局)
    国税査察官(いわゆるマルサ)が、悪質な巨額脱税(国税犯則事件)に対して強制調査を行う。
  • 公正取引委員会(内閣府の外局)
    談合やカルテルなどの独占禁止法違反に対して強制調査を行ない、検察総長に刑事告発する。
  • 金融庁(内閣府の外局)
    証券取引等監視委員会の査察官が、インサイダー取引や有価証券報告書の虚偽記載などの市場犯罪に対して強制調査を行なう。

【ポイント】「調査」と「捜査」の違い
税関や国税庁、公正取引委員会などの行政調査は、裁判所の令状を得て強制臨検(家宅捜索のようなもの)を行なうことができるが、その場で犯人を「逮捕」する権限までは持っていない。そのため、最終的には検察庁へ事件を引き継ぐ(告発・送致する)。

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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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