/2026年8月8日(土)掲載/
アレックス・フェアバーン(Alex Fairbairn)、ダニエル・ソコル(Daniel Sokol)の「2026年5月27日のTimes Higher Education」記事は、学生の学術不正行為(盗用や不正なAI利用など)事件に対処した英国の弁護士を対象に、大学の調査・判定・処分のやり方をアンケート調査した。その結果、弁護士たちは、大学の調査・判定・処分は、不公平かつ信頼性に欠けると指摘した。指摘を具体的に書くと、大学の担当責任者の副学長および調査委員は、①学術不正の専門知識や手続きの公正さ(正当な手続)の知識が著しく不足している、②学生側の反論や証拠を不当に無視している、と答えた。弁護士の視点から警鐘をならしたこの結論は、研究者の研究不正に対する日本の大学の対処でも同じだと白楽は思い、取り上げた。
〈AI使用:この記事はAIを利用し、白楽が元記事の主張を取捨選択しまとめた。2章の「白楽・AI問答」は、白楽が質問しClaudeが答えた文章を校閲(加筆・訂正)した。その後、白楽が「白楽の感想」を書いた〉
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.【論文】:大学の学術不正調査委員の欠陥(英国)
2.〈白楽・AI問答1〉:日本の大学の研究不正調査委員会の問題点と改善策
5.白楽の感想
6.主要情報源
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●1.【大学の学術不正調査委員の欠陥(英国)】
★書誌情報と著者
2026年5月27日に「Times Higher Education」に掲載されたアレックス・フェアバーン(Alex Fairbairn)、ダニエル・ソコル(Daniel Sokol)の「UK universities’ academic misconduct procedures are not fair(英国の大学の学術不正対処は公正ではない)」という記事を紹介する(Copyright © 2026 THE – Times Higher Education)。
2人いる著者の1人は、アレックス・フェアバーン(Alex Fairbairn、写真・経歴の出典)で、フェアバーンはアルファ・アカデミック・アピールズ(Alpha Academic Appeals)の法律アシスタント(Legal assistant)である。
2人目の著者であるダニエル・ソコル(Daniel Sokol、写真出典)がこの論文の根幹の思想の人物である。
「Daniel Sokol – Wikipedia」によると、ソコルはロンドン大学インペリアル・カレッジ(Imperial College London)で医療倫理学の博士号を取得した医療倫理学の専門家で、大学で倫理学の講師も務めていた。
そして、2011 年に弁護士資格を取得した。現在、ロンドンの弁護士事務所「12 King’s Bench Walk」のメンバーである。2020年から、メトロポリタン警察の研究倫理委員会の委員長を務るなど、他の要職も兼務している。
ソコル弁護士は、大学の調査委員会の質の悪さを批判してきた骨のある人物で、2012年に、大学の調査委員会のデタラメな判定に苦しむ学生を支援する「アルファ・アカデミック・アピールズ(Alpha Academic Appeals)」という団体を設立した。
★大学調査のデタラメ
本論に入る前に、著者の1人であるダニエル・ソコル(Daniel Sokol)の別の記事から始めよう。
出典は、ダニエル・ソコル(Daniel Sokol)の2023年7月14日記事である。 → It is too easy to falsely accuse a student of using AI: a cautionary tale | Times Higher Education (THE)
エミリー(Emily、仮名、女性)は、弁護士を目指してロンドンの某有名大学に入学した。
2023年4月、学部1年生だった時、授業で指定されたエッセイを1,300単語にまとめて提出した。
1か月後、大学のシステムにログインして自分の成績を確かめようとしたが、成績が付いていない。
困惑したエミリーは、担当教員に連絡を取り、説明を求めた。
翌日、担当教員は、「この件については、試験委員会によって調査が行なわれている」と返答してきた。
さらに1か月後の6月初旬、所属部門から、「Turnitinというソフトウェアの分析によると、彼女の論文の64%はAIによって作成された」というメールを受け取った。
弁護士を目指すエミリーにとって、大学が不正行為だと認定したら、この「汚点」のせいで弁護士になる道は断たれるかもしれない、と思い悩んだ。
エミリーはChatGPTの存在は知っていたが、実際に使ったことはなかったので、AIを使用して作成したエッセイだとの指摘に、非常に困惑し、動揺した。
ただ、Turnitinのレポートには、彼女のエッセイは他の論文との類似点がないとも記述されていた。
しかし、自分の公正さをどうやって大学に伝え、大学の対処に異議を唱えれば良いのか?
彼女は母親に相談した。母親は、本稿の著者であるダニエル・ソコル弁護士(Daniel Sokol)に相談した。
ソコル弁護士は、学生に弁護の機会を与えず、大学が有罪と判断したことは、自然正義(natural justice)に反すると主張した文書を大学に提出した。また、エミリーに不利なすべての証拠、Turnitinの報告書そのものを提示するよう大学に求めた。
また、エミリーのエッセイを、3つのAIコンテンツ検出ツールにかけた結果、1つ目は「このテキストは主に人間が書いたものだ」、2つ目は「テキストがAIによって生成された可能性は非常に低い」、3つ目は「これは人間が書いたテキストです」という回答結果だった、という文書を大学に提出した。
数日後、大学は「提出された証拠をもとに、委員会は、エミリーのエッセイはAIを使用していたという懸念を取り下げました。学生記録には何も残りません。何のペナルティも科されません」と通知してきた。
★大学調査のあり方
ここから、2026年5月27日の「Times Higher Education」記事に入る。
学生(学部生・院生など)がカンニングした時、または、使用禁止の人工知能(AI)を使ったレポートを提出した時、それらの学業不正は大学が調査する。これは、研究者が研究不正疑惑で告発されると、大学が研究不正疑惑を調査するのと同じシステムである。
英国の大学ではこれら学術公正(academic integrity)に関する議論やカンファレンスが頻繁に行なわれているが、議論は、大学管理職者、教授、高等教育の研究者などだけで行なわれている。その結果、他の人たちの視点が完全に欠落する。
このため、議論の流れや結論は大学側に有利な方向に偏る。
それで、今回、そうした議論に重要な視点をもちうる弁護士の視点を調査した。
大学の不正行為対処に携わる弁護士は、大学から依頼される場合もあれば学生から依頼される場合もある。弁護士は、学生側・大学側の双方を観察している上、法的な視点からも状況を評価できる。
著者らは、この弁護士に初のアンケート調査を行ない、英国の大学が学術不正行為に対処する際の不適切な状況を浮き彫りにした。
★弁護士へのアンケート調査
著者らは2026年4月から5月にかけて、英国の大学の学術不正案件に携わる現役の弁護士24名にアンケート調査を依頼した。12名がアンケート調査に応じてくれた。回答者の数は少ないが、回答してくれた弁護士たちの実務経験は極めて豊富だった。
- 全員が6年以上の実務経験を持ち、12名中11名は10年以上の経験があった。
- 過去3年間に10件以上の学術不正案件を扱った弁護士が8名、20件以上が5名だった。[白楽注:8名+5名=13名。アンケートに応じた弁護士は12名なので、数字が合わない]
- 学生のみを代理した者が8名、学生と大学の双方を代理した者が3名、大学のみを代理した者が1名だった。
★調査結果①:学生側からの証拠や主張への不十分な配慮
調査結果では、大学の調査に深刻な不信感を抱いていることが示された。大学は学生の提出した証拠や主張に耳を傾けていないのだ。
具体的には、回答者の
- 83%(12人中10人)が「大学は学生側から提出された証拠を適切に検討していない」
- 92%(12人中11人)が「判定結果通知書(outcome letter)において、学生が提起した主要な論点に答えていない」
と指摘した。
★調査結果②:調査委員の無知・理解不足
最も意見が一致した深刻な問題は、調査・判定を行なう副学長および調査委員の対処プロセスの無知、理解不足だった。
回答者の
- 92%(12人中11人)が「副学長および調査委員は調査に関して適切な訓練を受けていない」
- 半数以上が「副学長および調査委員は対処プロセスを十分に理解していない」
- 83%が、副学長および調査委員は近代法の根本原則である「無罪推定の原則」、つまり、「学生は、有罪と証明されるまでは無罪とみなされる」を守っていない
- 75%が、調査委員会が証明責任や証明基準を十分に理解していない。つまり、「一般的に、大学の主張や証言はそのまま真実として受け入れられるが、被告となった学生は、自分が言ったことをすべて証明しなければならない。意見が対立した場合、大学の主張の方が優先される」
と答えた。
ある回答者は、「多くの場合、副学長はほとんど訓練を受けておらず、自校の規程、高等教育独立裁定機関*(Office of the Independent Adjudicator for Higher Education – OIAHE)のガイドライン、あるいは等価法(Equality Act)などの法律を極めて貧弱にしか理解していない」と酷評した。
*高等教育独立裁定機関(OIA)は、英国の学生の苦情に対処する機関。法律により、すべての高等教育機関はOIAの苦情制度の規則に従うことが義務付けられている。(Office of the Independent Adjudicator – Wikipedia)
特にAI利用の有無など、事実関係の立証が複雑化する中で、法的な訓練を受けていない教員だけで構成される調査委員会はその限界を露呈している。
★調査結果③:時間的遅延と不当に重い処分
対処過程全体の信頼性についても否定的だった。
回答者の
- 3分の2が「聴聞会が公正に行なわれていない」
- 半数以上が「疑惑者の主張を述べる公正な機会を学生に与えていない」
- 75%が「合理的な期間内に案件を処理していない」。学生は進学・卒業・就職などタイムリミットがある。長期間にわたる放置や遅延は学生の人生を狂わせる
★結論:弁護士視点の必要性
上記の点以外にも、大学は、学術不正行為事件に対処する際、①不十分な学生支援、②副学長および調査委員の根拠のない「学術的判断(academic judgement)」への過度な依存、③過剰に重い処分、も異常であると、多くの弁護士は指摘した。
一部の弁護士は、大学の手続きが「その場しのぎ(ad hoc)」、「主観的(opinion-led)」、さらには「リンチ裁判・見せしめ処罰(kangaroo courts)」だと厳しく批判した。
ある弁護士は、「副学長および調査委員が事実を誤解したり、調査・判定の手続きを理解できなかったり、法的義務を全く無視したりするような場面で、弁護士は単なる傍観者として立ち会わなければならない。これは、本当に腹立たしいしイライラする」と述べていた。
●2.〈白楽・AI問答1〉:日本の大学の研究不正調査委員会の問題点と改善策
ーー白楽の質問ーー
〈この質問はAIではなく、白楽の質問です〉
日本の大学の研究不正調査委員会の問題点と改善策を教えてください。
似たような質問は、「白楽とAIの卓見・浅見29【研究不正調査の問題点と解決策】」でも行なった。但し、そこではGeminiに質問した。今回は、Claudeに質問した。
ーーAIの回答ーー
一般的に指摘されている論点を踏まえて、日本の大学における研究不正調査委員会の問題点と改善の方向を整理します。
1. 独立性・公正性の欠如
調査委員会は多くの場合、不正が疑われる研究者と同じ大学の学内者で構成されます。日本の大学には様々な派閥や利害関係があり、その利害関係が調査に影響を与えてしまうという指摘があります。同僚や同じ学部の人間が調査する構造上、身内をかばう「お手盛り」調査になりやすいことが繰り返し批判されています。
[白楽注。この 出典は「研究活動の不正行為への対応のガイドラインについて 研究活動の不正行為に関する特別委員会報告書(案)に対する意見募集の結果:文部科学省」の19番目を参照したらしい]
改善策:委員の一定割合を学外の専門家・法律家とする、あるいは学協会や第三者機関が調査に関与する仕組みを制度化する。
[白楽注。現在、既に、委員の一定割合は学外の専門家・法律家になっています。なお、とても少ないが、学協会が調査したケースもある。但し、第三者機関が調査し、その結果が尊重されたケースはない。学協会や第三者機関の関与は制度化されていない]
2. 調査能力・専門人材の不足
アメリカには研究公正局(ORI)という専属機関があり、20名以上の博士号を持つ専属スタッフが調査にあたるのに対し、日本では研究機関だけで調査を進めることが非常に困難という現場の声があります。統計解析、専門分野の技術的判断、法的手続きなどを扱える人材が学内に常時いるとは限りません。
[白楽注:日本は米国の研究公正局(ORI)を理想化し過ぎている。米国も大学が調査したのを研究公正局(ORI)が認定するのが基本で、基本は日本と同じ]
改善策:米国ORIのような、政府レベルまたは複数大学が共同利用できる常設の研究公正専門機関を整備し、統計・法務等の専門人材を集約する。
[白楽注:日本の調査委員会には、弁護士が委員になっていることが多い。しかし、ネカト調査の専門家、統計やフォレンジック調査の専門家は、ほぼいない。調査委員会にそういう専門家が必要だという認識がないからである]
3. 判断基準の曖昧さ・分野間のばらつき
白楽が省略
4. 調査の長期化・不透明な情報公開
不正が認定されなかった場合は原則として調査結果を公表しないという運用があり、告発者・被告発者双方にとって手続きの透明性が十分でないケースがあります。また、報告書公表時に実名を出すかどうかも大学ごとに対応が分かれ、書誌情報が公開されないと同分野の研究者が不正論文と知らずに引用し続けるリスクも指摘されています。
改善策:調査期間の上限設定、進捗の適時開示、報告書における書誌情報公開の原則化などにより、当事者・学術コミュニティ双方への説明責任を高める。
5. 教育・予防体制の弱さ
白楽が省略
6. 告発者保護の不十分さ
内部告発者が不利益を受けるリスクへの制度的な保護が弱く、告発をためらわせる要因になっているとされます。
改善策:匿名性の担保や不利益取扱いの禁止を明文化し、実効性のある救済手段を用意する。
●5.【白楽の感想】
《1》学術不正を専門とする弁護士
英国に学術不正を専門とする弁護士が24名もいることに驚いた。
そして、その内の1人であるダニエル・ソコル(Daniel Sokol)が、学術不正に対処する大学の状況を分析したり、記事を書いている。このような弁護士は日本にいない。日本はそもそも弁護士で研究や科学がわかる人がとても少ない。
東京の弁護士情報で見ると、弁護士の取り扱い業務に、そもそも、大学、学術、研究の項目がない → 東京の弁護士情報提供サービス〜検索条件入力:取扱業務
米国には研究不正を専門に扱う弁護士が少なくとも数人はいる(多分、2桁~3桁数いる)。英国にも多数いると思うが、日本にはいるのか・いないのか、ハッキリしない。
大学の研究不正調査委員会には弁護士が委員に加わることが多いが、白楽が調べた限り、調査委員になった弁護士の取り扱い業務に「研究倫理」「研究不正」とある弁護士はいなかった。
ただ、たまたま目にした甲本晃啓(こうもと・あきひろ)弁護士の専門分野に「アカデミック法務(研究教育機関向け顧問業務)」とあったので、甲本弁護士は該当するかもしれない。
《2》調査がユニーク
本調査はサンプル数が12名と少なく、学生側の代理人だった弁護士が多いという偏りはあるものの、弁護士たちが示した学術不正行為に対処する際の大学側の問題点を示していて、英国の高等教育界は真摯に受け止めるべきだと思った。
弁護士の視点から問題点を指摘したが、この指摘は、日本の研究者の研究不正に対する日本の大学の調査委員会にも当てはまると白楽は思う。
この論文を参考に、日本の弁護士に、日本の大学における研究不正調査委員会の問題点と改善策を聞くと、面白いと思った。
研究不正調査委員を務めた弁護士を対象にアンケートを取ったら、有益な回答が得られるかもしれない。誰かしませんかね。その結果を論文に書いて発表してください。院生なら博士号を取得できるレベルの論文になるでしょう。
《3》日本の大学
客観的なデータはないけど、日本の大学も同様に、研究不正調査委員会を統括する副学長と選任される調査委員は、研究不正対処の実務・実態、文部科学省ガイドライン、法律に疎い教員という印象が強い。
研究不正対処の知識・技術がないだけでなく、法的対処の基本(正当な手続、無罪推定の原則、立証責任)を無視した独自の処分・裁定を乱用し、誠実さを欠いた対処をし、大学自治・自律性を盾に、不都合な情報を隠蔽する、という印象も強い。
これらの問題の実態を明らかにし、改善していくことが望ましい。この課題も、誰か挑戦してくれませんかね。その結果を論文に書いて発表してください。
一般的に、大学は、普通の教員を調査委員に選任している。そして、普通の教員は25ページもある文部科学省ガイドラインを熟知していない。熟知するのは難しいので、熟知しなくてもいいけど、それなりの理解は必須である。そして、各ステップの判断が必要な場面で、ガイドラインの該当箇所をしっかり参照すれば良い。ところが、これらをしない委員が多い(と思う)。
そして、ガイドラインの知識は置いておいて、研究不正対処の実務・実態・現状を知っている普通の教員はほぼいない。にわか勉強でその知識や感覚を身につけるのは無理である。ここは研究不正対処の専門家でないと難しい。また、一般論として、普通の教員は研究不正調査で、法的対処の基本を発揮できるとは思えない。
このように洗い出すと、ハッキリ言えば、日本では、素人または素人に近い人が、研究不正調査委員会という専門性の高い調査委員になっている。このこと自身が大きな問題だが、誰も異を唱えない。
日本の現状をなんとかしないと。
●6.【主要情報源】
① アレックス・フェアバーン(Alex Fairbairn)、ダニエル・ソコル(Daniel Sokol)の2026年5月27日の「Times Higher Education」記事:UK universities’ academic misconduct procedures are not fair
② ダニエル・ソコル(Daniel Sokol)の2023年7月14日記事:It is too easy to falsely accuse a student of using AI: a cautionary tale | Times Higher Education (THE)
③ 2026年5月:Responses to Lawyers for AAA website.pdf
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。