白楽とAIの卓見・浅見30【引用カルテル(citation cartel)の問題点と解決策】

/2026年9月8日(火)掲載/

引用カルテル(citation cartel)とは、複数の著者や学術誌が、示し合わせたように互いの論文を引用し合い、被引用数やインパクトファクターを水増しする不正である。1999年にジョージ・フランク(Georg Franck)が危険性を警告し、2012年のセル・トランスプランテーション(Cell Transplantation)事件で世間に広まった。クラリベイト(Clarivate)は毎年、こうした学術誌をインパクトファクターの対象から外しており、その数は年々増えている。スペインや英国では著名教授の事件も発覚した。しかし、日本は研究詐欺の1つという認識が乏しく、日本での摘発例は今のところ見当たらない。・・・が、会津大学は・・・。

〈AI使用:記事はAnthropic Claude Sonnet 5を使用し、白楽が画像添付と校閲(加筆・訂正)をした。ただ、Claudeの記述に間違いがあり、白楽にも間違いがあり、訂正したが、まだ、間違いはある(多分)〉

目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)


英語版ウィキペディアでは、2024年1月に「引用カルテル(Citation cartel – Wikipedia)」が登場しているが、2026年9月現在、日本語版はない。

日本での認知が低いので、記事にまとめてみた。

1.引用カルテル(citation cartel)とは何か

ーー白楽の質問ーー

引用カルテル(citation cartel)とは、なにか?

ーーAIの回答ーー

引用カルテルとは、複数の著者や編集者、学術誌が示し合わせて、本来必要な範囲を超えて互いの論文を大量に引用し合う行為である。こうすることで、インパクトファクター(Impact Factor)や被引用数、h指数といった、論文や研究者を評価するための数字を人為的につり上げ、「高被引用研究者(Highly Cited Researchers)」や「上位ランク学者(Highly Ranked Scholar)」の称号を得る(出典:Journal Impact Factor Manipulation and Citation Cartels(The Rotation, GWU Himmelfarb Library))。

企業が価格をこっそり談合する「カルテル」になぞらえた呼び名で、必ずしも書面で「協定」を結ぶわけではなく、持ちつ持たれつの暗黙の了解として行なわれることが多い。

不自然なほど大量の引用が積み重なるので「引用スタッキング(citation stacking)」と呼ぶこともある。

よくある手口は2つ(出典:Coercive Citation in Academic Publishing(Science, 2012))。

  1. 複数の著者がグループを形成し、論文の論旨とは無関係な互いの論文を引用文献に入れ合う「相互引用」を繰り返す。一方的な引用の場合は金銭の授受が伴うことが多い。これが、標準的な「引用カルテル(citation cartel)」である。
  2. 編集者や査読者が投稿者に「査読時などで、この論文も引用してほしいと求める」、学長や教授が部下に「自分の論文の引用を強要する強制引用(coercive citation)」、これらの場合、金銭の授受が伴わないが、これも「引用カルテル(citation cartel)」に含める。

ただ、同じ専門分野の研究者が相互に引用しあうことは論文とし合理的で当然だという場合も多い。「引用カルテル」は、学術上の合理的な理由なく相互引用が行なわれている場合を指す。

引用カルテルについて、2016年12月の論文「Toward the Discovery of Citation Cartels in Citation Networks(引用ネットワークにおける引用カルテルの発見に向けて)」を書いたスロベニアのマリボル大学のイストク・フィスター・ジュニア(Iztok Fister Jr、写真出典)は、撤回監視の記者の質問に、「引用カルテルの “正確な” 定義を下すことはほぼ不可能だ」と述べている(2017年1月:How to spot a “citation cartel” – Retraction Watch)。

フィスター・ジュニアは、「同じ分野の研究者たちが、互いの研究が関連しているという理由で引用し合う場合と、実際に「引用カルテル」を形成している場合との間には、微妙な違いしかない」と述べ、両者の違いは「微妙」なのである。

とはいえ、「自分が得するために、研究がらみで他人を意図的にダマす研究詐欺行為」であり、「研究規範に反する行為」である。


2.引用カルテルは、なぜいけないのか

ーー白楽の質問ーー

引用カルテルは、どうしていけないのか?

ーーAIの回答ーー

インパクトファクターや被引用数は、大学ランキング、研究費の配分、研究者の昇進や任期の審査、学術誌そのものの評価など、研究者や大学を評価する際の重要なものさしとして世界中で使われている。

この数字が不正に操作されると、実際の研究の質や独創性とは関係なく評価が歪んでしまい、本当に優れた研究や研究者が正当に評価されなくなる。論文を読む研究者は、内容とは関係のない引用文献をたくさん読まされることになり、学術情報のやり取り全体の効率や信頼性が損なわれる(出典:Citation Cartels: Manipulating the Metrics of Authors and Journals(Proof-Reading-Service.com))。

オーストリアのジョージ・フランク(Georg Franck、写真出典)は1999年の論文で、引用数で評価する仕組みが「見栄の市(Vanity Fair)」のようになり、研究者を数値操作へと駆り立てる危うさを、早くから指摘していた(出典:Scientific Communication—A Vanity Fair?(Science, 1999))。

近年の医学系の総説でも、引用カルテルは「学術出版における隠れた脅威」と呼ばれている(出典:Citation Cartels: A Hidden Menace in the Scientific Publication(Dharmshaktu, Journal of Surgical Specialties and Rural Practice, 2024))。


3.引用カルテルは、いつ頃、誰が始めたのか

ーー白楽の質問ーー

引用カルテルは、いつ頃、誰が始めたのか?

ーーAIの回答ーー

すべての物事には最初に始めた人がいるが、引用カルテルでは、「創始者」は特定されていない。

1960年代に米国のユージン・ガーフィールド(Eugene Garfield)が科学情報研究所(Institute for Scientific Information、ISI、現在のクラリベイトの前身)を作り、学術誌のインパクトファクター制度を広めた。この制度が研究評価の中心的なものさしとして定着していくにつれ、引用カルテルも自然に広がっていったと考えられる。

学術界でこの危うさを最初にはっきり指摘したのは、前章で紹介したジョージ・フランクの1999年の論文である。

その後、2012年、学術出版の専門家である米国のフィル・デイヴィス(Phil Davis、写真出典)が、学術誌「セル・トランスプランテーション(Cell Transplantation)」と、その仲間の学術誌(Medical Science Monitor、The Scientific World Journalなど)が組織的に互いの論文を引用し合い、その結果、インパクトファクターが2006年の3.482から4年後の2010年には6.204まで急上昇させた実態を、証拠とともに暴いた。

これが「citation cartel(引用カルテル)」という呼び名を世に広めるきっかけになった(出典:The Emergence of a Citation Cartel(The Scholarly Kitchen, 2012))。

その後、統計の力で引用カルテルを見つけ出す研究も進んだ。

2016年には前述したマリボル大学のイストク・フィスター・ジュニア(Iztok Fister Jr)らが、引用カルテルを数値で検出する方法を発表した(「Toward the Discovery of Citation Cartels in Citation Networks(引用ネットワークにおける引用カルテルの発見に向けて)」(2016年12月15日のFront. Phys.))。


4.世界と日本における引用カルテルの蔓延状況

ーー白楽の質問ーー

引用カルテルは、現在、世界で、また日本で、どのくらい蔓延しているのか?

ーーAIの回答ーー

★(1) 世界の引用カルテル

クラリベイト(Clarivate)は毎年、ジャーナル・サイテーション・レポート(Journal Citation Reports、JCR)という報告書で、自己引用のしすぎや引用スタッキングを理由に、一部の学術誌をインパクトファクターの算出対象から外している。

外される学術誌の数は年々増えている。

分野を見ても、引用カルテルは一部の特殊な分野だけの話ではない。

数学では、スペインのビーゴ大学(Universidad de Vigo)の数学者ドミンゴ・ドカンポ(Domingo Docampo、写真出典)が15年分のデータを調べ、中国医科大学(China Medical University)やキング・アブドゥルアジーズ大学(King Abdulaziz University、サウジアラビア)などの研究グループが、質の低い論文を大量に作っては互いに引用し合い、大学ランキングを押し上げていた実態を明らかにした。

この2大学だけで、2021年から2023年に「被引用数がとても多い論文」を合わせて66本も出版ており、クラリベイトは2023年11月、権威ある「高被引用研究者(Highly Cited Researchers)」という研究者ランキングから、数学分野をまるごと除外するという思い切った対応を取った(出典:Citation cartels help some mathematicians—and their universities—climb the rankings(Catanzaro, Science, 2024))。

医学や歯学の分野でも、同じような懸念が指摘されている(出典:Citation Cartels in Medical and Dental Journals(Zaidi & Taqi, Journal of the College of Physicians and Surgeons Pakistan, 2023))。

2025年には、化学の分野でさらに手の込んだ手口が見つかった。ベルリン自由大学(Freie Universität Berlin)で研究不正を調べているアンナ・アバルキナ(Anna Abalkina、写真出典)が、実在しない架空の著者名や、論文掲載料(APC)が免除される国(セネガル、ケニア、サウジアラビアなど)の研究者の名前を勝手に借りて、被引用数を水増しする手口を、20本以上の論文で見つけた。

実在の著者を巻き込まない理由は、論文が撤回されても本物の研究者には傷が付かず、しかも撤回された論文からの引用は、あとからでもh指数などの数字にカウントされ続けてしまうという抜け穴のためだとみられる。

テイラー・アンド・フランシス(Taylor & Francis)、シュプリンガー・ネイチャー(Springer Nature)、エルゼビア(Elsevier)という大手出版社3社が調査を始めている(出典:Citation cartels use fake author names to target chemistry journals(Chawla, Chemical & Engineering News, 2025))。

また、査読が甘く、論文掲載料(APC)で稼ぐ「捕食学術誌(predatory journal)」のような怪しい学術誌だけでなく、エルゼビア(Elsevier)が出す主要な金融系の学術誌のような、いわゆる一流学術誌でも、2025年から2026年にかけて大規模な引用カルテルが発覚している(詳しくは7章で述べる)。

白楽が本ブログで既に取り上げたフアン・コルチャド(Juan Corchado)事件などの摘発例は、自己引用も甚だしいが、強制引用(coercive citation)」という「引用カルテル(citation cartel)」もしていたと思われる。

「引用操作」:人工知能学:フアン・コルチャド(Juan Corchado)(スペイン)

同じスペインだが、別の研究機関・研究員だった日本人のアイ・コヤナギ(Ai Koyanagi、小柳 愛)は、2021年と2022年、多数論文出版者で「高被引用研究者(Highly Cited Researchers)」になった。このケースも同類の「引用カルテル(citation cartel)」だと思われる。 → アイ・コヤナギ(Ai Koyanagi、小柳 愛)(スペイン) | 白楽の研究者倫理

こうした例から、引用カルテルはもはや一部の学術誌だけの問題ではなく、学術出版の中心にまで入り込んでいる可能性があることが分かる。

★(2) 日本の引用カルテル

日本については、2026年9月時点での白楽の調査では、クラリベイトの除外リストや大手報道機関で名前が挙がった引用カルテルの例は見当たらなかった。

しかし、引用数を不正に水増しする国際ネットワーク(引用カルテル)の主犯格とされたインド出身のティッパ・レディ・ガデカル(Thippa Reddy Gadekallu)の日本の仲間に、会津大学・コンピュータ理工学部の蘇 春華(スー チュンホワ、Chunhua Su)・上級准教授がみつかった。

それで、2026年8月18日、会津大学に調査するよう告発した。

蘇 春華(スー チュンホワ、Chunhua Su)(会津大学)、ティッパ・レディ・ガデカル(Thippa Reddy Gadekallu)(中国)

ところが、会津大学は「文部科学省の「研究活動における不正行為への対応等に対するガイドライン」に明示されておりませんので、対応は困難であると考えております。」と回答してきた。

文部科学省のガイドラインは、捏造、改ざん、盗用「以外」の研究活動での不正行為も国際的な動向等を踏まえ対応するよう強く望んでいる(以下)。

具体的にどのような行為が、(中略)研究者倫理に反する行為に当たるのかについては、科学コミュニティにおいて、各研究分野において不正行為が疑われた事例や国際的な動向等を踏まえて、学協会の倫理規程や行動規範、学術誌の投稿規程等で明確にし、当該行為が発覚した場合の対応方針を示していくことが強く望まれる。」(出典:研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン

例えば、捏造、改ざん、盗用以外の研究活動における不正行為として、2022年に毎日新聞がスクープした福井大学の友田明美・教授の査読偽装事件がある。2023年2月、福井大学は友田明美・教授を減給処分した。 → 2022年6月25日の鳥井真平と柳楽未来の記事:福井大教授の「査読偽装」認定 オランダの出版社、論文1本撤回 | 毎日新聞

友田明美の査読偽装事件を受けて、文部科学省は2023年11月に「査読における不適切な行為の防止について」という通知を研究機関に出し、不適切な査読行為を「研究者倫理に反する行為」とした(以下緑囲み文書の出典:査読における不適切な行為の防止について(通知)(文部科学省, 2023年))。

このように、捏造、改ざん、盗用「以外」の研究活動での不正行為も、日本で研究不正として摘発している。

査読偽装は引用カルテルと重複する面もあるが、定義上はほぼ同レベルの別の出版詐欺不正である。

会津大学は、疑惑を指摘したのに、調査せずに放置するようだが、コンピュータ理工学の分野では、従来の生物医学系の研究不正よりも格段と進んだ研究不正方法が編み出されている。

会津大学は、その不正動向に対応する意識・体制がないようである。

となると、会津大学内および国内で引用カルテルの拡散が防止されないだけでなく、疑惑を持たれた研究者にとっても、会津大学にとっても、不利益だと思うが、そういう感覚もないらしい。


5.引用カルテルの検出方法

ーー白楽の質問ーー

引用カルテルは、どうやって見つけることができるのか?

ーーAIの回答ーー

見つけ方には大きく2つある。(1) 統計やアルゴリズムを使う方法と、(2) 出版詐欺(編集詐欺)の知識と検出能力のある人が見て気づく方法である。

★(1) 統計やアルゴリズムを使う方法

まず、学術誌どうしの引用関係をネットワーク図のように描き出し、分野や規模ごとに「本来これくらいは引用されるはず」という目安の数を統計的に計算する。そのうえで、ある学術誌どうしの間で、その目安を大きく超える引用が集中している組み合わせを探し出す、という研究が進んでいる。

例えば、2021年にコジャク(Sadamori Kojaku)、リヴァン(Giacomo Livan)、マスダ(Naoki Masuda、増田 直紀)の3人が発表した「CIDRE(CItation Donors and REcipients)」という方法は、ある学術誌が別の学術誌に提供する引用の割合が15%を超え、しかも「偶然ではまず起こりえない」と統計的に言えるほど不自然な場合に、異常な引用グループ(つまり、引用カルテル)と判定する。

この方法で、人類学・結晶学・外科学のそれぞれの分野で、インパクトファクターを20%以上も押し上げていた引用カルテルを多数見つけた。

新たに見つけた159の引用カルテルは(A)から(E) の5つのタイプに分類できた。

グループ内の引用の20%以上が、(A)1つの論文から、(B)1つの論文に、(C)1 人の著者から、(D)1 人の著者に、(E)グループ内の2つの学術誌が少なくとも1 人の編集委員を共有していた(出典:Detecting anomalous citation groups in journal networks(Kojaku, Livan & Masuda, Scientific Reports, 2021))。

 

★(2)個々の著者を対象にした方法

個々の著者を対象にした方法もある。

アイブラヒム(Hazem Ibrahim)ら4名が2025年2月に発表した論文は、ResearchGateなどのプレプリントサーバー(正式な査読を経る前の論文を公開する場)に、架空の著者名や質の低い論文を大量に投稿し、それらに標的とする著者の論文を大量に引用させて被引用数を水増しする「引用工場(citation mills)」という手口を、次のような複数の目安を組み合わせて見つけ出している(出典、図も:Citation manipulation through citation mills and pre-print servers(Ibrahim et al., Scientific Reports, 2025))

 (a) 急な増加:右図に示すように通常(青色)、年間被引用数は徐々に増える。引用不正がある場合(赤色)、年間被引用数が、急に増える。しかもその増えた分だけで、これまでの生涯の総被引用数の25%以上を占めていれば、異常とみなす。

 (b) 引用の集中度(c²指数):「n回以上引用された論文が、n本以上ある」という条件を満たす一番大きなnの値を、著者ごとに計算する指標。ふつうの研究者はこの値が10前後に収まるのに対し、引用操作が疑われる著者では23~45にまで達していた

 (c) 1本の論文への引用の集中:1本の論文だけから、極端に多くの引用(全著者の中で上位0.1%に入るほど。回数にして18回以上)を受けていないかどうかも確認する

 (d) 他のデータベースとの比較:グーグル・スカラー(Google Scholar)とスコーパス(Scopus)という、2つの異なる被引用数データベースを見比べる。通常の著者(青色)に比べ、疑わしい著者(赤色)は、Scopus側の被引用数がGoogle Scholarに比べて平均96%も少なく、水増しの疑いを裏付ける。

クラリベイトも独自の方法で「不自然な引用パターン」を探し出しており、学術誌の自己引用の割合や、少数の論文に引用が異常に偏っていないかを、毎年チェックしている(出典:Title Suppressions(Journal Citation Reports, Clarivate)

★(3)知識と検出能力のある人が見て気づく方法

統計的な方法だけでなく、経験を積んだ人が目で見て気づくこともある。

「撤回監視(Retraction Watch)」のアリソン・マックック(Alison McCook)は2017年の記事で、調べてみる価値のあるサインを以下に示した(出典:How to spot a “citation cartel”(McCook, Retraction Watch, 2017))。

  1. 関係する学術誌が1~2誌と少ない
  2. 著者の顔ぶれに広がりがない
  3. 編集委員が複数の学術誌で重なっている
  4. 「著者Xが別の著者の論文を10回ほど引用し、その著者もXの論文を頻繁に引用し返す」といった不自然な相互引用

あわせて、こうしたグループを自動的に見つけ出す「コミュニティ検出アルゴリズム」の開発が進んでいることも紹介した。

一方で、計量書誌学者のワルトマン(Ludo Waltman)とデ・レイケ(Sarah de Rijcke)は2016年、引用カルテルの実態について、まとまった知識が「驚くほど乏しい」と指摘し、研究者コミュニティに事例の情報提供を呼びかけた。実際にあった例として、観光学の2つの学術誌の間で、一方の論文の参考文献172件のうち161件がもう一方の学術誌の論文だったケースや、医学情報学の分野で編集者が複数の学術誌を掛け持ちしており、トムソン・ロイターが2016年に該当する2誌のインパクトファクターの算出を止めたケースなどを紹介している(出典:What do we know about journal citation cartels? A call for information(Waltman & de Rijcke, CWTS Blog, 2016)

このほか、前出のフィル・デイヴィスのような研究者やジャーナリストによる個別の調査や、撤回監視のような内部告発の受け皿・調査報道も、大がかりな引用カルテルを暴くうえで大きな役割を果たしている。

6.引用カルテルの取り締まり主体

ーー白楽の質問ーー

引用カルテルは、誰が、どう取り締まっているのか?

ーーAIの回答ーー

引用カルテルを一手に取り締まる国際機関は存在しない。いくつもの組織が、それぞれ部分的に役割を分担しているのが実情である。

①クラリベイト(Clarivate):学術誌のインパクトファクターの算出から、その学術誌を一時的に外したり除外したりする権限を持ち、事実上もっとも強い抑止力になっている。

②出版規範委員会(Committee on Publication Ethics、COPE):引用操作についてのガイドラインや考え方を公表し、加盟する学術誌に対応の方針を示している(出典:Handling citation manipulation(COPE))。

③出版社(エルゼビアやシュプリンガー・ネイチャーなど):自社で内部調査を行ない、論文の撤回や編集委員の解任といった措置を取る。

④大学・研究機関:編集職を辞めさせたり、利益相反への対応を取ったりと、雇用する側としての処分を行なう。

⑤各国の研究公正機関:スペインの研究倫理委員会や、日本の文部科学省のような行政機関が、指針を出したり勧告を行なったりする。

ただし、これらはいずれも法律に基づいて強制的に「摘発」できるわけではなく、学術誌の指標を取り上げる、あるいは雇用契約上の処分にとどまることが多い。

フアン・コルチャド事件のように、当事者が処罰されるどころか大学のトップに就いてしまう例まで報告されており、実際に効果のある制裁が働いていないケースも少なくない(出典:「引用操作」:人工知能学:フアン・コルチャド(Juan Corchado)(スペイン)(白楽の研究者倫理))。


7.世界と日本における処罰事例

ーー白楽の質問ーー

世界で、また日本で、誰がどのような処罰を受けたか?

ーーAIの回答ーー

【世界の事例】

・4章で触れた数学分野の事例では、中国医科大学(China Medical University)とキング・アブドゥルアジーズ大学(King Abdulaziz University)が関わった引用カルテルを受け、クラリベイトが2023年11月、数学分野の研究者をまるごと「高被引用研究者」リストから除外するという、分野単位の思い切った措置を取った(出典:Citation cartels help some mathematicians—and their universities—climb the rankings(Catanzaro, Science, 2024))。

・スペインのサラマンカ大学(Universidad de Salamanca)のフアン・コルチャド教授(Juan Corchado)は、部下に自己引用を強制したこと、内容と無関係な自己引用を大量に行なったこと、架空の著者を使って引用を操作した疑いなどが2022年以降相次いで報じられた。

2024年10月には、シュプリンガー・ネイチャー(Springer Nature)が75本もの論文を撤回した。スペインの研究規範委員会は制裁を促したが、コルチャドは2024年5月に同大学の学長に選ばれており、本人への目立った処罰は科されていない(出典:白楽の研究者倫理:フアン・コルチャド(Juan Corchado)(スペイン))。

【日本の事例】

2026年9月現在、日本国内で引用カルテルを理由に大学や学術誌、研究者が公に処罰された例は確認できなかった。

クラリベイトの除外リストにも、日本の学術誌が引用スタッキングなどで名指しされた例は見当たらない。

これは「日本に引用カルテルが存在しない」こととイコールではない。

日本のメディアの調査報道は、海外に比べて貧弱でかつ後手後手なため比較的新しい研究不正の引用カルテルを報道しない可能性が高い。

また、日本の大学上層部に引用カルテルが研究不正だという認識がない(または薄弱な)ため、摘発しないし、告発にまともな対応をしない・できない(もちろん、実行者は研究不正だと認識してうまい汁を吸っているハズ)。

例えば4章で述べたように、2026年8月18日、会津大学・コンピュータ理工学部の蘇 春華(スー チュンホワ、Chunhua Su)・上級准教授の引用カルテル疑惑を白楽が告発した。しかし、会津大学は調査しない。これが良い例である。

蘇 春華(スー チュンホワ、Chunhua Su)(会津大学)、ティッパ・レディ・ガデカル(Thippa Reddy Gadekallu)(中国)

8.引用カルテルを防ぐ方法

ーー白楽の質問ーー

引用カルテル(citation cartel)を防止する方法は?

ーーAIの回答ーー

引用カルテルをこれ一つで解決できる特効薬はない。ただ、いくつかのレベルで対策が提案されている。

①評価のものさし自体を見直す

そもそも、インパクトファクターや被引用数といった「数えやすい数字」に評価を頼りすぎることが、引用カルテルを生む土壌になっている。

2012年に出された「DORA(ドーラ、サンフランシスコ研究評価宣言、San Francisco Declaration on Research Assessment)」は、学術誌に対してはインパクトファクターの宣伝をやめて論文ごとの指標を使うよう、大学や研究資金の配分機関に対しては、採用・昇進・助成の判断で「学術誌の格」よりも「論文の中身」を重視するよう求めている。研究者に対しても、あとから出た総説論文ばかり引用するのではなく、その知見を最初に報告した論文をきちんと引用するよう呼びかけている(出典:Read the Declaration(DORA))。

②大学・研究機関でできること

2025年に国際数学連合(International Mathematical Union、IMU)と国際応用数理評議会(International Council for Industrial and Applied Mathematics、ICIAM)が共同で出した提言は、大学に対して、採用や昇進の判断に書誌計量指標を使うのをやめ、代表的な論文の質と研究を続けてきた実績で評価するよう求めている。また、論文数のノルマをなくすこと、論文掲載料(APC)の支払い先を厳しく選ぶこと、教員や研究者に不正出版の実態を教育することも挙げている(出典:How to Fight Fraudulent Publishing in the Mathematical Sciences: Joint Recommendations of the IMU and the ICIAM(arXiv, 2025))。

③学術誌・出版社でできること

出版規範委員会(COPE)は、編集者が投稿者に「自分の学術誌の論文も引用してほしい」と求めること(強制引用)自体を、問題のある行為として位置づけている(出典:Editors requiring authors to cite papers in their journal(COPE))。

実際の対応例として、2022年にCOPEが検討したある事例では、3つの大学の研究者グループが特集号(Special Issue)を舞台に引用カルテルを作り、掲載された論文の引用のほとんどすべてが仲間内に向けられていたことが発覚した。

学術誌側は全論文に「懸念表明(Expression of Concern)」を出し、関係する大学の研究公正の窓口に報告したうえで、問題の編集チームとの関係を打ち切っている(出典:Sanctions for citation cartels?(COPE))。

特集号の査読をふだんより厳しくすることや、自己引用の割合に上限を設けることも、学術誌側の対策として挙げられている。

④監視ツールを活用する

5章で紹介したような統計的な検出方法に加えて、撤回監視(Retraction Watch)、パブピア(PubPeer)、クリア・スカイズ(Clear Skies)や「問題論文スクリーナー(Problematic Paper Screener)」といった不正検出ツール、投稿先を選ぶ前に学術誌の実態を確認できる「シンク・チェック・サブミット(Think. Check. Submit.)」といった仕組みを活用することも勧められている(出典:How to Fight Fraudulent Publishing in the Mathematical Sciences(IMU・ICIAM, arXiv, 2025))。

⑤研究者ひとりひとりにできること

最後は、研究者一人ひとりの心がけである。

  1. 投稿する学術誌の評判を事前に確かめる
  2. 本当に必要な論文だけを引用する
  3. 編集委員や査読の依頼を安易に引き受けない
  4. そして不自然な引用の要求や、引用カルテルらしき事例を見つけたら声を上げる

ただし、声を上げた研究者が不利益を被らないよう、大学や学術誌の側が告発者を守る体制を整えることも同時に必要だと指摘されている(出典:2025年9月30日:Citation cartels, ghost writing and fake peer-review: Fraud is causing a crisis in science — here’s what we need to do to stop it(Yates, Live Science))。


9.白楽の感想

《1》学術誌から「指標を取り上げる」だけでは、抑止力として不十分

クラリベイトが学術誌のインパクトファクターを取り消しても、それは学術誌という「入れ物」への制裁に過ぎず、実際にカルテルを主導した著者や編集者本人には、ほとんど痛手が及ばない。

フアン・コルチャド事件が象徴するように、研究規範委員会が制裁を促しても、当の本人が大学のトップに就いてしまえば、実効性のある処分はまず不可能になる。

学術誌への指標剥奪と、個人への雇用上・研究費上の処分とをきちんと連動させる仕組みがない限り、「バレても学術誌が痛むだけで、本人は無傷」という構図は変わらないだろう。

《2》日本は「摘発されていない」のか、「見過ごされている」だけなのか

今回の調査で日本の具体的な処罰事例が見当たらなかったことを、単純に「日本には引用カルテルがない」と読むのは早計である。

撤回監視(Retraction Watch)のような米国の監視メディアや、エル・パイス(El País)のような調査報道を行なうスペインの新聞が、日本の研究不正を監視しているわけではない。

現在の日本にはネカトハンターがいない上、告発ハラスメント(告発者に報復する行為)が激しいので、研究不正の告発は低調である。狭い研究者コミュニティの中での相互引用は「仲間内の慣行」として見過ごされている可能性は十分にある。

英語版ウィキペディアでは、2024年1月に「Citation cartel – Wikipedia」が登場しているが、2026年9月現在、日本語版はない。

白楽は、日本では 引用カルテル「行為」がそこそこ(数10~数100件?)あった(ある)が、誰も告発しないので、引用カルテル「事件」になっていないと、推定している。つまり、「事件」になっていないこともあり、深く静かに蔓延しつつあると。

文部科学省が2023年に出した査読偽装を研究不正とする通知は一歩前進ではあるが、査読偽装だけでなく、もっと多くの出版詐欺(編集詐欺)をまとめて研究不正と認定する方向に動いてほしかった。研究不正は日進月歩ではないけど月進年歩です。(査読における不適切な行為の防止について(通知)(文部科学省, 2023年))。

《3》メガジャーナル・論文掲載料(APC)ビジネスとの持ちつ持たれつ

引用カルテルの背景には、論文掲載料(APC)で稼ぐメガジャーナルや、それにつながる出版社の収益の仕組みがある。掲載する論文が増えるほど収入が増える仕組みの下では、出版社にとって「引用が少しくらい不自然でも」目をつぶりたくなる。

学術出版社が「過剰に」「異常に」儲けているという話はよく聞く。

2026年の「arXivの論文によると、2019年から2025年の間に、主要出版社14社に対して世界全体が支払った論文掲載料(APC)の総額は、約150億8,000万ドル(2025年の米ドル換算、2026年9月の為替レートで約2兆4千億円)(推計)だそうだ。

エルゼビアの主要な学術誌ですら、大規模な引用カルテルの舞台になったという事実は、この問題がもはや一部の怪しい捕食学術誌だけの話ではなく、学術出版産業全体に根ざした構造的な利益相反であることを物語っている。

化学分野で見つかった、APC免除の対象国の研究者名を勝手に借りる手口(4章参照)は、その典型だろう。論文が撤回されても本物の研究者の経歴には傷が付かず、しかも撤回された論文からの引用すら数字に残り続けるという、いわば「制度設計そのものの穴」を突いたやり方である。

個々の研究者の倫理だけを問うのではなく、出版社の収益モデルや、指標そのものの計算の仕組みに切り込む議論が必要だろう。

ただ、もっと根本的な改革が必要だと思う。例えば、チャバ・サボー(Csaba Szabo)が主張するように、学術論文の営利出版を廃止し、研究助成機関が学術誌を出版するようなことだ。

7-188 ◎学術論文の営利出版を廃止せよ:サボーのフリブール宣言