白楽とAIの卓見・浅見31【自己引用率の高い日本の研究者ランキング】

/2026年9月22日(火)掲載/

自己引用率とは、研究者が自分自身の過去の論文を引用する割合である。スタンフォード大学のジョン・ヨアニディス教授(John Ioannidis)らの引用データベースでは、世界の科学者の自己引用率の中央値は12.7%で、25%を超えると精査の対象になるとされる。日本では工学・情報通信技術・物理学分野を中心に、自己引用率が50~87%に達し、自己引用を除くと世界順位が数十万位から数百万位も下がる研究者が複数人いる。自己引用そのものは、現在、公式には研究不正には含まれないが、行き過ぎれば研究評価をゆがめる「引用操作」として国際的に問題視される。過剰な自己引用は、「ズルをして」「他人を欺いて」得をしようとする研究詐欺(研究不正)だと白楽は考えている。

〈AI使用:記事はAnthropic Claude Sonnet 5を使用し、白楽が画像添付と校閲(加筆・訂正)をした。ただ、Claudeの記述に間違いがあり、白楽にも間違いがあり、訂正しても、まだ、間違いはある(多分)〉

目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)


1.自己引用率とは何か?

ーー白楽の質問ーー

自己引用率とは、なんですか?

ーーAIの回答ーー

自己引用(self-citation)とは、研究者が自分自身の過去の論文を、新しい論文の参考文献として引用することである。

自己引用率(self-citation rate)は、論文を引用した回数のうち、引用した論文に自分が著者・共著者だった割合を指す。

自分の先行研究を引用するのは、研究の継続性を示すうえで自然な行為である。それ自体は問題ではない。

むしろ、まったく自己引用がないと、別の疑いが生じる場合もある。その研究者が過去の自分の研究を発展させていない、あるいは孤立した研究をしている可能性があるからである。

スタンフォード大学(Stanford University)のジョン・ヨアニディス教授(John Ioannidis、ウィキ、写真出典はPLOS Video Channel, CC 表示 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=116802173)らがこの自己引用率を世界規模で測定し、引用データベースを作成し、エルゼビア(Elsevier)が公開している(出典:A standardized citation metrics author database annotated for scientific field(Ioannidis, Baas, Klavans, Boyack, PLOS Biology, 2019年))。

このデータベースは、世界の科学者について2種類の総合指標を示している。1つは自己引用を含めた指標(c-score)、もう1つは自己引用を除いた指標(c-score without self-citations)である。データベースは、研究者のそれぞれの指数での世界順位を公開している。

このデータベースによれば、世界の科学者の自己引用率の中央値は12.7%である。

そして、少なくとも250人の科学者は、自己引用率が50%を超えている。

極端な例を1人示そう。

インドのチェンナイ(Chennai)を拠点とする研究者スンダラパンディアン・ヴァイディヤナタン(Sundarapandian Vaidyanathan、写真出典)は、自己引用率が94%である(出典:① Hundreds of extreme self-citing scientists revealed in new database(Nature News, 2019年8月19日)、② When Scientists Over-cite Themselves, a Metric of Research Importance Breaks(The Wire Science))。

自己引用率が異常に高い日本の研究者は何人いるのだろうか?


2.自己引用のやり過ぎは研究不正なのか? 許容範囲はどこにあるのか?

ーー白楽の質問ーー

研究不正の認定は、捏造・改ざん・盗用という、学術上の行為の外形に基づいている。だが、その行為に研究者を駆り立てている動機および手段は、「ズルをして」「他人を欺いて」得をしようとするシンプルな私利私欲(悪意・下心・邪念)とその動機に基づく不正操作である。

従って、本来、「捏造・改ざん・盗用」だけでなく、「ズルをして」「他人を欺いて」得をしようとする学術上の行為のすべてが研究不正である。

その上で質問する。

自己引用はどの程度が学術上の許容範囲なのか? 許容範囲はどのように決まっているのか? 許容範囲を超えるとなぜいけないのか? 研究不正とすべきなのか? 他の研究詐欺(研究不正)とどう関係するのか? 

ーーAIの回答ーー

まず結論を言う。自己引用率が高いこと自体は、公的には、研究不正ではない。

研究不正の公式な認定は、捏造・改ざん・盗用という、行為の外形を基準にしているからである。

ただ、その行為に研究者を駆り立てている動機および手段を見れば、「ズルをして」「他人を欺いて」得をしようとする単純な悪行である場合が多い。

日本の文部科学省が定める「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(2014年)は、「特定不正行為」を捏造・改ざん・盗用の3つに限定している(出典:研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン(文部科学省、2014年8月26日))。

なぜ、動機および手段ではなく行為の外形で判定するのか?

動機(意図)は本人の心の中にあり、外部から客観的に立証することが難しい。

一方、捏造・改ざん・盗用という外形は、元データや原稿を突き合わせれば、ある程度客観的に認定できる。証拠を基にした適正な手続きを通して結論するには、立証可能な基準が必要である。これが、行為の外形を基準にした実務上の理由だと考えられる。

とはいえ、「ズルをして」「他人を欺いて」得をしようとする動機および手段という点では、過剰な自己引用も、捏造・改ざん・盗用と同じ悪行である。

国際的にも、この点は意識されている。出版規範委員会(Committee on Publication Ethics、COPE)は、過剰自己引用を含む「引用操作(citation manipulation)」を、正式な研究不正(misconduct)に認定していないが、研究公正(research integrity)に反する行為として問題視している(出典:Citation manipulation(COPE討議文書))。

つまり、現行制度の「ネカト(捏造・改ざん・盗用)」という狭い定義には当たらない。しかし、動機および手段の視点に立てば、評価指標を意図的にゆがめ、他者を欺いて利益を得ようとする過剰な自己引用は、広い意味での研究詐欺(研究不正)の一種と位置づけることができる。

以下では、まず現状の制度が自己引用の許容範囲をどう定めているかを説明する。

但し、「自己引用率が何%を超えたら不正疑惑視される」という、世界共通の数値基準はないことを最初に示しておく。

理由は2つある。

(1) 研究分野によって、自己引用率が大きく異なる。数学や工学のように、研究者コミュニティが小さく、論文数自体が少ない分野では、他に引用できる文献が少ない。そのため、自己引用率が必然的に高くなりやすい。

(2) 研究キャリアの長さによって自己引用率が変わる。若手より、長年同じテーマで研究してきたベテラン研究者の方が、自己引用率が必然的に高くなる傾向がある。

このため、ヨアニディス教授らは、固定的な数値基準ではなく、研究分野ごとに判定することを提案している。「その研究分野の標準からどれだけ外れているか?」を見る、という考え方である(出典:How much is too much? The difference between research influence and self-citation excess(Ioannidis, Baas, Klavans, Boyack, Scientometrics, 2020年))。

それでも、目安として使われる数字はある。

ヨアニディス教授らの研究では、自己引用率が25%を超える研究者について、「不正とは限らないが、より詳しく調べる価値はある」としている(出典:前掲 When Scientists Over-cite Themselves, a Metric of Research Importance Breaks(The Wire Science))。

出版規範委員会は、もう少し具体的な数字を示した。出版社に対し、「自己引用は3件以内、または参考文献全体の10%以内」といった上限を設ける規則の策定を勧告した(出典:Excessive self-citation in a book chapter(COPE事例))。

許容範囲を超えると、なぜいけないのか?

被引用数やh指数、インパクトファクターといった指標は、大学ランキング、研究費の審査、昇進・任期の判断など、研究者や大学を評価する重要なものさしとして使われている。

自己引用でこの数字を水増しすると、実際の研究の質とは無関係に、見かけ上の評価が上がる。これは、自分の評価を詐欺的に高めるだけでなく、本当に優れた研究や研究者が正当に評価されなくなる点でも、公正な研究評価をゆがめる。

他の研究詐欺との関係で言うと、過剰な自己引用は、「白楽とAIの卓見・浅見30」で取り上げた「引用カルテル(citation cartel)」(複数の著者や学術誌が示し合わせて互いを引用し合う手口)や、「引用工場(citation mills)」(架空の著者名を使って引用を水増しする手口)と同じ、出版詐欺という悪行である。

引用絡みの不正行為はいずれも、捏造・改ざんのような「データそのものの不正」ではない。「研究評価の指標を操作する不正」で、その中でも、自己引用は、いわば「一人でできる引用不正」である。

過剰な自己引用、引用カルテル、引用工場は、いずれも「ズルをして」「他人を欺いて」得をしようとする動機を共有する、広義の研究詐欺(研究不正)である。

ただし、現行の制度では、ネカト(捏造・改ざん・盗用)のみが「特定不正行為」として処分の対象となっている。これらの「指標操作型」の不正は、処罰よりも教育・注意による対応にとどまっているのが実情である。この点は、4章で改めて取り上げる。


3.自己引用率が高い日本の研究者ランキングと、順位差が大きい日本の研究者ランキング

ーー白楽の質問ーー

自己引用率の高い日本の研究者ランキング25人を表にしてください。

また、自己引用ありと自己引用なしで世界ランキングの順位の差が大きい日本の研究者ランキング25人も、表にしてください。

ーーAIの回答ーー

白楽先生からご提供いただいたのは、ヨアニディス(Ioannidis)データベースの2025年8月更新版(2024年までのキャリア累計データ)と、白楽先生が抽出した日本(jpn)の研究者8,730人分のデータ(3.44 MBのエクセルファイル)である(出典:August 2025 data-update for “Updated science-wide author databases of standardized citation indicators”(Ioannidis, Elsevier Data Repository, V8))。

日本の研究者8,730人分のデータをもとに、2種類のランキングを作成しました。

①自己引用率(self%)が高い順のランキング25人(表A)[以下に示した。スプレッドシートはココ]。

②自己引用ありの世界順位(rank)と、自己引用なしの世界順位(rank without self-citations)の差が大きい順のランキング25人(表B)[以下に示した。スプレッドシートはココ]。
差は「自己引用なしの順位-自己引用ありの順位」で計算した。差が大きいほど、「自己引用を除くと世界順位が大きく下がる=自己引用への依存度が高い」ことを意味する。

2つのランキングには16人が重複していた。黄色で示した。

男女は、日本人男性に一般的な名前かどうか、および入手できた場合の顔写真から判断した推定である。女性名の研究者は1人も含まれていなかった。なお、本人への性別確認は行なっていない。

年齢は、公開情報で確認できた場合のみ記載し、確認できない場合は空欄にした。

職位は、研究者情報データベース「researchmap」や所属機関の公式サイトで確認できた場合に記載した。確認できなかった場合は「不明」とした(2026年9月時点の情報)。

研究分野は、データベースが付与した副分野(sm-subfield-1)を日本語にしたものである。

表A.自己引用率が高い日本の研究者ランキング(25人)

黄色は表Bと重複

順位 氏名(英語表記) 所属機関 自己引用率 男女 年齢 職位 研究分野
1 藤田眞作(Fujita, Shinsaku) 湘南分子情報化学研究所 87.2% 男性   研究所主宰者(京都工芸繊維大学・元教授) 化学(一般数学)
2 内藤健(Naitoh, Ken) 早稲田大学 84.3% 男性   教授 工学(エネルギー)
3 榎戸智也(Enokido, Tomoya) 立正大学 80.3% 男性   教授 情報通信技術(ネットワーク)
4 小澤隆弘(Kozawa, Takahiro) 大阪大学 73.7% 男性   助教 物理学・天文学(応用物理学)
5 上出哲広(Kamide, Norihiro) 名古屋市立大学 73.4% 男性   教授 情報通信技術(AI・画像処理)
6 竹井敏(Takei, Satoshi) 富山県立大学 73.4% 男性   教授 強化・戦略技術(光電子工学)
7 滝沢誠(Takizawa, Makoto) 法政大学 69.3% 男性   元・教授 情報通信技術(ネットワーク)
8 本島修(Motojima, Osamu) 核融合科学研究所 65.2% 男性 77歳(1948年生) 名誉教授・元ITER機構長 物理学・天文学(エネルギー)
9 藤井雄作(Fujii, Yusaku) 群馬大学 64.4% 男性   教授 工学(電気電子工学)
10 松田智裕(Matsuda, Tomohiro) 埼玉工業大学 64.2% 男性   教授 物理学・天文学(原子核・素粒子)
11 山登庸次(Yamato, Yoji) 日本電信電話(NTT) 63.9% 男性   特別研究員 情報通信技術(ネットワーク)
12 柳田健之(Yanagida, Takayuki) 奈良先端科学技術大学院大学 63.6% 男性   教授 物理学・天文学(応用物理学)
13 居田克巳(Ida, Katsumi) 核融合科学研究所 62.3% 男性   特任教授 物理学・天文学(流体・プラズマ)
14 大久保恒夫(Okubo, Tsuneo) コロイド&界面研究所 62.2% 男性   代表(元大学教授) 化学(高分子)
15 滝沢研二(Takizawa, Kenji) 早稲田大学 62.0% 男性   准教授 数学・統計学(応用数学)
16 鄧明聡(Deng, Mingcong) 東京農工大学 60.7% 男性   教授 工学(産業工学・オートメーション)
17 新田宗土(Nitta, Munetto) 慶應義塾大学 60.6% 男性   教授(商学部) 物理学・天文学(原子核・素粒子)
18 水野洋輔(Mizuno, Yosuke) 横浜国立大学 59.8% 男性   准教授 強化・戦略技術(光電子工学)
19 程京徳(Cheng, Jingde) 埼玉大学 59.6% 男性   名誉教授 情報通信技術(AI・画像処理)
20 相良明男(Sagara, Akio) 核融合科学研究所 58.3% 男性   名誉教授 強化・戦略技術(エネルギー)
21 上村龍太郎(Kamimura, Ryotaro) 東海大学 57.8% 男性   名誉教授 情報通信技術(AI・画像処理)
22 藤澤彰英(Fujisawa, Akihide) 九州大学 57.1% 男性   学術研究員 物理学・天文学(流体・プラズマ)
23 井谷俊郎(Itani, Toshiro) 産業技術総合研究所 56.9% 男性   首席研究員 強化・戦略技術(光電子工学)
24 加藤幸成(Kato, Yukinari) 東北大学 56.4% 男性   教授 臨床医学(免疫学)
25 末益崇(Suemasu, Takashi) 筑波大学 56.3% 男性   教授 物理学・天文学(応用物理学)

表B.自己引用あり/なしの世界順位差が大きい日本の研究者ランキング(25人):黄色は表Aと重複

順位 氏名(英語表記) 所属機関 順位差 男女 年齢 職位 研究分野
1 内藤健(Naitoh, Ken) 早稲田大学 2,168,411 男性 ? 教授 工学(エネルギー)
2 竹井敏(Takei, Satoshi) 富山県立大学 1,011,840 男性 ? 教授 強化・戦略技術(光電子工学)
3 榎戸智也(Enokido, Tomoya) 立正大学 994,987 男性 ? 教授 情報通信技術(ネットワーク)
4 上出哲広(Kamide, Norihiro) 名古屋市立大学 744,837 男性 ? 教授 情報通信技術(AI・画像処理)
5 藤田眞作(Fujita, Shinsaku) 湘南分子情報化学研究所 728,324 男性 ? 研究所主宰者(京都工芸繊維大学・元教授) 化学(一般数学)
6 山登庸次(Yamato, Yoji) 日本電信電話(NTT) 701,213 男性 ? 特別研究員 情報通信技術(ネットワーク)
7 滝沢誠(Takizawa, Makoto) 法政大学 566,546 男性 ? 元・教授 情報通信技術(ネットワーク)
8 上村龍太郎(Kamimura, Ryotaro) 東海大学 545,279 男性 ? 名誉教授 情報通信技術(AI・画像処理)
9 今宿晋(Imashuku, Susumu) 島根大学 494,222 男性 ? 教授 強化・戦略技術(採鉱・冶金)
10 丸浩一(Maru, Koichi) 香川大学 463,401 男性 ? 教授 物理学・天文学(光電子工学)
11 程京徳(Cheng, Jingde) 埼玉大学 454,570 男性 ? 名誉教授 情報通信技術(AI・画像処理)
12 松谷晃宏(Matsutani, Akihiro) 東京科学大学 447,595 男性 ? 副センター長・上席テクニカルスペシャリスト 物理学・天文学(光電子工学)
13 松田智裕(Matsuda, Tomohiro) 埼玉工業大学 425,934 男性 ? 教授 物理学・天文学(原子核・素粒子)
14 川添忠(Kawazoe, Tadashi) 東京電機大学 425,061 男性 ? 教授 物理学・天文学(光電子工学)
15 本島修(Motojima, Osamu) 核融合科学研究所 406,064 男性 77歳(1948年生) 名誉教授・元ITER機構長 物理学・天文学(エネルギー)
16 川村邦男(Kawamura, Kunio) 広島修道大学 384,506 男性 ? 教授 化学(分析化学)
17 裏升吾(Ura, Shogo) 京都工芸繊維大学 375,498 男性 ? 元教授(名誉教授と推定) 物理学・天文学(光電子工学)
18 二木厚吉(Futatsugi, Kokichi) 北陸先端科学技術大学院大学 345,716 男性 ? 名誉教授(推定) 情報通信技術(AI・画像処理)
19 相良明男(Sagara, Akio) 核融合科学研究所 336,908 男性 ? 名誉教授 強化・戦略技術(エネルギー)
20 山村清隆(Yamamura, Kiyotaka) 中央大学 329,335 男性 ? 教授 情報通信技術(ネットワーク)
21 藤井雄作(Fujii, Yusaku) 群馬大学 314,196 男性 ? 教授 工学(電気電子工学)
22 水野洋輔(Mizuno, Yosuke) 横浜国立大学 304,927 男性 ? 准教授 強化・戦略技術(光電子工学)
23 鄧明聡(Deng, Mingcong) 東京農工大学 299,962 男性 ? 教授 工学(産業工学・オートメーション)
24 小澤隆弘(Kozawa, Takahiro) 大阪大学 290,338 男性 ? 助教 物理学・天文学(応用物理学)
25 森欣司(Mori, Kinji) 早稲田大学 273,161 男性 ? 教授 情報通信技術(ネットワーク)

日本の研究者8,730人のうちの上位25人である。2章で指摘したように、(1) 情報通信、物理学・天文学、工学の研究分野がほとんどで、(2) 研究キャリアの長い名誉教授などが多い。

ヨアニディス教授らの研究では、自己引用率が25%を超える研究者について、「不正とは限らないが、より詳しく調べる価値はある」としているが、この25人は自己引用率が 56.3%以上ある。「より詳しく調べる価値はある」でOK?


4.世界と日本における取り締まりと処罰事例

ーー白楽の質問ーー

世界と日本は、自己引用率が異常に高い研究者を、どう取り締まり、どう処罰してきましたか?

ーーAIの回答ーー

【世界の事例】

自己引用率が異常に高いだけを理由に、所属機関が研究者個人を公式に「処罰」した例は見当たらない。

しかし、指標・ランキングからの除外という形の対応は、年々強化されている。

クラリベイト(Clarivate)は毎年、被引用数の多い研究者を選ぶ「高被引用研究者(Highly Cited Researchers)」というランキングを発表している。2025年版では、「異常な水準の自己引用または引用カルテル」や、研究倫理上の理由で撤回論文があった著者などを理由に、2,400人の研究者をリストから除外した。

この除外者数は、年々増加している。2022年は500人、2023年は1,000人、2024年は2,000人超であった(出典:Math is back as Clarivate boosts integrity markers in Highly Cited Researchers list(Retraction Watch, 2025年11月))。

ただし、これは学術誌のインパクトファクター取り消しと同様、「ランキングから外れる」という間接的な対応である。

[白楽注:白楽は、2022年は500人、2023年は1,000人、2024年は2,000人超、2025年は2,400人、という除外者の中の日本の研究者の割合および研究者名リストを作ろうとした。しかし、個人名は公表されていないし、国別リストも入手できなかったので、作れなかった。]

出版規範委員会(Committee on Publication Ethics、COPE)は、過剰な自己引用に対し、出版後の訂正やエディトリアルノートの掲載、著者への教育的な指導を、軽微な対応として挙げた。著者が非協力的、あるいは常習的な場合に限り、所属機関に通知するという、段階的で予防的な対応を勧告している(出典:前掲COPE事例)。

つまり、過剰な自己引用に対する世界的な対応は、現時点では「処罰」より「教育・注意・指標からの除外」が中心である。

【日本の事例】

今回の調査では、日本国内で、自己引用率の高さを理由に研究者や大学が公に処罰された事例は確認できなかった。これは、「白楽とAIの卓見・浅見30」で取り上げた引用カルテルの場合と同様の傾向である。

ただし、これは「日本に過剰な自己引用がない」ことを意味ではない。3章のランキングが示すように、自己引用率が50%を超え、自己引用を除くと世界順位が数十万~200万位以上も下がる研究者が、日本にも複数人いる。

研究詐欺の摘発や調査報道の体制が、日本は海外に比べて手薄である可能性もある。


5.過剰な自己引用を防ぐには、誰が何をすべきか?

ーー白楽の質問ーー

過剰な自己引用を防ぐには、誰が、どう対処していくべきか?

ーーAIの回答ーー

①データベース提供者(エルゼビア(Elsevier)、クラリベイトなど)

最も実効性のある対策は、すでに一部で実行されている。

ヨアニディス教授らのデータベースは、「自己引用を除いた指標」を最初から公開している。クラリベイトも、「高被引用研究者」リストから自己引用の多い研究者を除外している。

指標そのものから自己引用の影響を取り除く、あるいは別枠で示す仕組みを標準化することが重要である。今回のランキングも、まさにこの「自己引用を除いた順位」という仕組みがあったからこそ作成できた。

②大学・研究機関(評価者)

昇進や採用の審査で、被引用数やh指数といった「生の数字」だけに頼るべきではない。自己引用を除いた指標や、論文の内容そのものを重視する評価に切り替えるべきである。

性別による引用指標の差を自己引用の観点から分析した2025年の論文がある。この論文は、男性研究者は女性研究者より自己引用率が約70%高く、従来の指標はこの影響で平均13.9%水増しされていると指摘した。自己引用を調整しない指標をそのまま使うと、評価に性差が紛れ込む恐れがある(出典:Billions at Stake: How Self-Citation Adjusted Metrics Can Transform Equitable Research Funding(arXiv, 2025年))。

③学術誌・出版社

出版規範委員会が勧告するように、「自己引用は参考文献の10%以内」といった具体的な上限を編集方針として定めるべきである。査読者・編集者が投稿論文の自己引用率を確認する体制も整えるべきである。

④研究資金配分機関

研究費の審査でも、自己引用調整済みの指標を採用の検討対象にすべきである。

米国の研究資金配分は年間1000億ドル(約10兆円)を超えるが、これを例に、調整済み指標の導入がより公正な資金配分につながるという提言がなされている(出典:前掲arXiv論文)。

⑤研究者自身

自分の過去の論文を引用する必要が本当にあるかどうかを、論文を書くたびに問い直す姿勢が求められる。研究の継続性を示すために必要な自己引用と、被引用数を増やすためだけの自己引用とを、自分自身で線引きする必要がある。


6.白楽の感想

《1》本質的問題は外形ではない

2章の「白楽の質問」の一部を再掲する。

研究不正の認定は、捏造・改ざん・盗用という、学術上の行為の外形に基づいている。だが、その行為に研究者を駆り立てている動機および手段は、「ズルをして」「他人を欺いて」得をしようとするシンプルな私利私欲(悪意・下心・邪念)と不正操作である。

従って、本来、「ズルをして」「他人を欺いて」得をしようとする学術上の行為のすべてが研究不正なのである。

日本は、上記再掲した視点がゴッソリ欠けている。これは、研究不正行為への外国の対処姿勢と大きく異なる。

2026年8月18日、会津大学に所属する研究者の引用カルテル疑惑を指摘したのだが、当の会津大学は以下のように答えてきた。

研究活動における不正行為への対応が定められている文部科学省の「研究活動における不正行為への対応等に対するガイドライン」に明示されておりませんので、対応は困難であると考えております。

本質的問題は外形ではない。このことがどうしてわからないのだろう?

《2》「処罰がない」ことが、事実上の「お目こぼし」になっている

4章で見たように、自己引用率が異常に高い研究者に対する世界的な対応は、指標からの除外という間接的なものにとどまる。日本では、処罰事例そのものが見当たらない。

3章のランキングに名前が挙がった研究者の中には、自己引用率が80%を超える者もいる。これは、被引用数のほとんどが自分自身の引用で成り立っていることになる。

大学・研究機関が、昇進や研究費の審査でこうした「水増しされた数字」を無批判に使い続ける限り、自己引用による評価の歪みは見過ごされたままになるだろう。

《3》分野の偏りが示す、評価指標そのものの限界

表A・表Bのいずれも、情報通信技術、物理学・天文学、工学系の研究者が目立って多い。

これは、論文数自体が少なく、研究者コミュニティが狭い分野ほど、自己引用率が必然的に高くなりやすいという構造上の理由が大きい。

だとすれば、分野をまたいで被引用数やh指数を単純に比較すること自体に、大きな限界があることになる。大学ランキングや研究費配分の議論で、分野の違いを無視した指標比較がいまだに行なわれていないか、点検する必要があるだろう。

《4》女性研究者が1人もいないという、もう一つの構造的な問題

今回作成した2つのランキング、合わせて34人の中に、女性と見られる研究者は1人もいなかった。

5章で紹介した研究が指摘するように、男性研究者は女性研究者より自己引用率が高い傾向にあるとされており、今回の結果はその傾向とも整合する。

しかし、それ以前の背景も無視できない。今回名前が挙がった分野(工学、情報通信技術、物理学)では、女性研究者の比率が日本では著しく低い。

自己引用率の問題を論じることが、結果としてこうした性差別と分野構成の不均衡を可視化することにもなった。この点は、本題とは別に記録しておく価値があると思った。