白楽の卓見・浅見32【2026年版:ノーベル賞受賞者・候補者の不正(含・疑惑・うわさ)】

2021年8月3日掲載、2026年10月6日(火)改訂

日本(のメディア)はノーベル賞受賞者を、専門分野で優れた業績を上げた人というだけでなく、全知全能のように扱う。その上、倫理観や徳の高い人として扱う。ノーベル賞の受賞条件に、他領域での業績評価や倫理観・徳の評価は入っていないので、白楽は、このような扱い・評価をなんだかな~、と感じてしまう。事実として、20人以上のノーベル賞受賞者の論文が撤回されている。本稿で「ノーベル賞受賞者・候補者の不正(含・疑惑や関連)」を2026年版に更新した。なお、この記事は「白楽の卓見・浅見3【ノーベル賞受賞者の不祥事は多いと思うべし】 2021年8月3日掲載」の改訂版である。

★ノーベル賞「受賞者」の不祥事

※分野の記載がないのは生理学・医学賞。

★最初に日本人:白楽ブログで解説していない

  • 2012年、山中 伸弥(Shinya Yamanaka)(日本):「2005年のScience」論文(大阪大学・下村 伊一郎教授のグループの論文で、山中は共著者の一人)が、再現性の問題などで2007年に撤回(不正の認定はなし)。また、2026年8月7日、空売り投資会社のゴッサム・シティ・リサーチ(Gotham City Research)社が、山中の2000~2020年の複数論文に画像操作があると指摘した。京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は反論している(2026年8月27日の撤回監視記事)。
  • 2014年、物理学:赤﨑 勇(Isamu Akasaki)(日本):「2016年のAppl. Phys. Express」論文が先行論文無視で2016年に撤回。
  • 2018年、本庶 佑(Tasuku Honjo)(日本):「2006年のJ Biol Chem.」論文が理由不記載で2008年に撤回。また、締結した契約を後でゴネた。

★日本人を除く世界の人:白楽ブログで解説済み

他にも問題者(含・研究公正以外)はいる。ただ、白楽ブログの解説記事にはしない(多分)。

以下は問題ないと思う。

★ノーベル賞「候補者」の不祥事:白楽ブログで解説済み

白楽ブログで解説したノーベル賞「候補者」の不正(含・疑惑や関連)を発覚年順にリストした。

★「撤回監視(Retraction Watch)」:ノーベル賞受賞者の撤回論文数ランキング

「撤回監視(Retraction Watch)」に「ノーベル賞受賞者の撤回論文数ランキング」のページが2024年10月(?)に作られた。その時は8人だったが、2026年10月5日には21人がリストされていた → Retractions by Nobel Prize winners – Retraction Watch

以下、そのまま貼り付けた(2026年10月5日現在)。白楽ブログで解説していない人は、日本人3人を除くと9人いる。

  1. Gregg Semenza (15): 2019 Nobel Prize in Physiology or Medicine. See coverage.
  2. David Baltimore (3): 1975 Nobel Prize in Physiology or Medicine. See coverage.
  3. Linda B Buck (3): 2004 Nobel Prize in Physiology or Medicine. See coverage.
  4. Thomas Südhof (2): 2013 Nobel Prize in Physiology or Medicine. See coverage.
  5. Jack W Szostak (2): 2009 Nobel Prize in Physiology or Medicine. See coverage.
  6. Isamu Akasaki (1): 2014 Nobel Prize in Physics.
  7. Zhores Alferov (1): 2000 Nobel Prize in Physics.
  8. Harvey J Alter (1): 2020 Nobel Prize in Physiology or Medicine. See coverage.
  9. Frances H Arnold (1): 2018 Nobel Prize in Chemistry. See coverage.
  10. Carolyn R Bertozzi (1): 2022 Nobel Prize in Chemistry. See coverage.
  11. Bruce A Beutler (1): 2011 Nobel Prize in Physiology or Medicine. See coverage.
  12. Ben L Feringa (1): 2016 Nobel Prize in Chemistry.
  13. Tasuku Honjo (1): 2018 Nobel Prize in Physiology or Medicine.
  14. Robert J Lefkowitz (1): 2012 Nobel Prize in Chemistry.
  15. Michael Rosbash (1): 2017 Nobel Prize in Physiology or Medicine. See coverage.
  16. Bert Sakmann (1): 1991 Nobel Prize in Physiology or Medicine.
  17. J Fraser Stoddart (1): 2016 Nobel Prize in Chemistry.
  18. Harold E Varmus (1): 1989 Nobel Prize in Physiology or Medicine
  19. Shinya Yamanaka (1): 2012 Nobel Prize in Physiology or Medicine. See coverage.
  20. Michael W Young (1): 2017 Nobel Prize in Physiology or Medicine.
  21. Rolf M Zinkernagel (1): 1996 Nobel Prize in Physiology or Medicine.

2024年11月27日当時の8人

  1. Gregg Semenza (13): 2019 Nobel Prize in Physiology or Medicine. See coverage.
  2. Linda B Buck (3): 2004 Nobel Prize in Physiology or Medicine. See coverage.
  3. Jack W Szostak (2): 2009 Nobel Prize in Physiology or Medicine. See coverage.
  4. Frances H Arnold (1): 2018 Nobel Prize in Chemistry. See coverage.
  5. Bruce A Beutler (1): 2011 Nobel Prize in Physiology or Medicine. See coverage.
  6. Michael Rosbash (1): 2017 Nobel Prize in Physiology or Medicine. See coverage.
  7. Thomas Südhof (1): 2013 Nobel Prize in Physiology or Medicine. See coverage.
  8. Shinya Yamanaka (1): 2012 Nobel Prize in Physiology or Medicine. See coverage.

★ノーベル賞受賞者は全能?

以下は「グレッグ・セメンザ(Gregg Semenza)(米) | 白楽の研究者倫理」の「7.白楽の感想」をベースにしている。

日本社会(つまり、日本のメディア)はノーベル賞受賞者を人格高潔で万能な超人として扱う。

ノーベル賞受賞者だけでなく、文化勲章など著名な賞を受賞した非常に優れた人は人格高潔で万能である。悪人はいない、という論調である。[なお、ここでは顕著な研究成果をあげた例を、代表格のノーベル賞で通すが、他の著名な賞、顕著な研究成果も同じである]。

だから、ノーベル賞受賞者がデータねつ造・改ざんや論文盗用などをするわけがない。セクハラも全くしないし、アカハラなどはあり得ない。と、日本人と日本社会(メディア・行政)は思っているようだ。

そこまで断言しなくても、ノーベル賞受賞者の不祥事は極めてまれだと思っているようだ。

ノーベル賞受賞者が厚顔無恥で傍若無人な言動をしても、日本社会は好意的に、あるいは大目に見ているように白楽は感じる。

例えば、有機化学の専門家にすぎないのに、国の教育再生会議の座長をしてしまった野依 良治というノーベル賞受賞者がいた。

有機化学の専門家であって教育は素人でしょうに、その人に国の教育方針を任せる官僚の見識を疑うし、引き受ける野依の見識も疑う。

また、本庶 佑(ほんじょ たすく)の言動は常軌を逸していると思った。

小野薬品工業とライセンス契約したにもかかわらず、ノーベル賞受賞後に、不当な契約だったと訴えた。当時は「はした金だ」と一蹴しておいて、後になって文句を付ける。傲慢で、契約を軽視している。ただ、世間はノーベル賞受賞者だからと本庶 佑の味方になった。 → ①2021年9月2日記事:【オプジーボ訴訟詳報】(4)本庶氏の「はした金」発言めぐり応酬 – 産経ニュース、②2021年9月2日記事:オプジーボ訴訟詳報① ノーベル賞受賞者・本庶氏「私がいなければ米製薬会社との訴訟勝てなかった」(産経新聞) – Yahoo!ニュース

しかし、以下が正論だと思う。

1%のライセンス料率を合意した契約の成立自体は争わないが、特許料の一般相場等の情報を知らないまま、不当に安いライセンス料率を認めさせられたのだという主張をしています。

立派な成人が契約書を締結しながら、後で「こんなはずではなかった」と契約を無かったことにしようというのは、客観的に見て無理筋です。(2019/04/12記事:オプジーボ特許料問題 交渉戦術の選択に残る2つの疑問 – サインのリ・デザイン)

ところが、以下のような当事者間の和解になった。

2021年11月12日、小野薬品が本庶氏に解決金50億円を支払うほか、大学に230億円を寄付して「小野薬品・本庶 記念研究基金」を設立することで合意した。(本庶佑氏に解決金50億円、京大に230億円寄付 オプジーボ和解 | 毎日新聞)

和解だが、日本の司法がノーベル賞の権威に負けて、法律を曲げてしまったような印象を白楽は受けた。

他にもある。別格扱いしてきた例はたくさんある。

ノーベル賞受賞者レベルではないケースでも、日本は別格扱いする風潮が強い。

例えば、池袋暴走事故の加害者だった飯塚 幸三は、通産省工業技術院の院長だった元高級官僚で、特別扱いされているとして「上級国民」と称された。 → 「上級国民」…|【西日本新聞】

★ノーベル賞受賞者は研究公正?

では、ノーベル賞受賞者は研究成果だけでなく研究公正も優れているのだろうか?

白楽は否定的である。

科学的業績と規範的言動は、基本的に、全く別である。

あえて言えば、科学的業績を上げるためにアクドイことをし、その業績を他人に認めさせるためにエゲツナイことをしないと、大きな賞はもらえない。それで、白楽は、ノーベル賞受賞者の研究公正は平均「以下」だという印象を持っている。

なお、ここでは、「あえて」、負の側面を強調し誇張した。強く言わないと人々は今までの自分の価値観を変えないからだ。

普通に考えてわかると思うが、激しい研究競争を勝ち抜くのに、謙譲は美徳にならない。マイナスである。温厚な性格では無理だ。

結果として、ノーベル賞受賞者は自己主張とズル賢さが人一倍強く、ネカト・クログレイはギリギリという研究者が多い、と思う。この表現も負の側面を強調し誇張した。

何度も言うが、ノーベル賞は研究者の研究規範行動や人格・教養・人間性が優れていると評価されたわけではない。

人間は、周囲が特別扱いをすると、自分は特別だと思い、社会ルールからはずれても許容されると思うようになる。

もちろん、ノーベル賞受賞者には規範に優れた人もいる。しかし、全体的には、研究界全体の平均と比較すれば平均以下だろう(データはない)。

誤解しないでもらいたい。ノーベル賞受賞者の研究成果は素晴らしい。これは間違いない。いくら強調しても、し過ぎることはない。

ネガティブに聞こえる人には、申しわけない。ただ、ネカト研究者の白楽としては、その上で、研究成果と人間性・規範行動は別に考えて欲しいと言いたいのだ。

なお、ノーベル賞受賞者は受賞後はアクセクする必要はないし、世間の注目を浴びるので、研究公正にも注意深くなり、平均「以上」に倫理的で、道徳的に振る舞っている、と思う。

その点、本庶の件は受賞後の言動なので、平均「以上」に倫理的という解釈とずれる。ただ、がん治療薬「オプジーボ」の特許を巡る小野薬品工業との争いは、和解の結果、小野薬品工業が京都大学に230億円を寄付し、「小野薬品・本庶 記念研究基金」が設立され、研究環境の充実に充てられることになった。

本庶は、争いをエゲツナイと思われないよう、大学への寄付という形の決着を選んだのかもしれない(白楽の邪推です)。そう見れば、受賞後の言動は平均「以上」に倫理的で、道徳的だった、と言えなくもない。なお、本庶個人は解決金50億円を寄付していないで受け取っている。今後、ロイヤリティも受け取る。 → 2021年11月12日記事:本庶佑氏に解決金50億円、京大に230億円寄付 オプジーボ和解 | 毎日新聞、薬事日報記事:小野薬品と本庶氏が和解‐解決金や基金寄付で280億円|薬事日報ウェブサイト