沖 昌也(Masaya Oki)(福井大学)

/2026年10月13日(火)掲載 随時更新/

研究不正(改ざん)の告発です。福井大学・学術研究院工学系部門の沖 昌也・教授(生物応用化学)の研究室が2022~2024年に出版した白内障研究の5論文は、同じマイクロアレイの測定ファイルを、それぞれ別の実験データとして使い回していた。白楽が5論文のGEO登録データ(元の測定ファイル38個)を照合した。すると、2016年にスキャンした対照群の1ファイルが5論文すべてに、2019年にスキャンしたガラクトース群の3ファイルが4論文に、別々の試料番号で登録されていた。ファイルの中身、スキャン日時、チップの識別番号が完全に一致していた。つまり、「データの使い回し」(改ざん)は明白である。なお、この5論文には学術誌が「懸念表明(Expression of Concern:EOC)」を付していた。適切な調査・対処をして下さるようお願い申しあげます。

〈AI使用:記事はAnthropic Claude Opus 5.5を使用した〉

ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.【告発とその後】
2.【不正疑惑】
3.【研究公正】
7.【白楽の感想】
ーーーーーーー

  • 記述は敬称略。
  • 白楽ブログの「5C 日本の研究不正告発」の意図は、日本の研究者の研究不正(含・疑惑)を具体的に示し、該当する研究機関の調査・対処の実態を公表・情報共有することです。そのことで、日本の研究不正調査・対処の問題点を日本国民・メディア、及び研究機関・研究者が一緒に考え、日本の研究倫理体制をより良い方向に改善することです。
    情報共有し改善策を考えるため、メールおよび文書は基本的に公表します。

●1.【告発とその後】

==261013 研究不正 告発した==

福井大学 研究・地域連携推進部 研究推進課 御中(福井大学の研究活動の不正行為の告発受付窓口)
メール:fc-madoguchi@ml.u-fukui.ac.jp
(窓口出典:福井大学における研究活動の不正行為への対応 | 福井大学)

件名:研究不正の告発(沖 昌也・教授の白内障研究5論文における改ざん)

研究者倫理の研究をしている白楽ロックビル(お茶の水女子大学名誉教授)と申します。

福井大学・学術研究院工学系部門の沖 昌也・教授(生物応用化学)が連絡著者の白内障研究の以下の5論文は、同じマイクロアレイの測定ファイルを、それぞれ別の実験データとして使い回しています。つまり、改ざんと思われます。

  • 論文②:PLoS One. 2022;17(11):e0273868(GEO:GSE186248)
  • 論文③:PLoS One. 2022;17(9):e0274735(GEO:GSE194074)
  • 論文④:PLoS One. 2022;17(12):e0273456(GEO:GSE194317)
  • 論文⑤:PLoS One. 2024;19(2):e0299145(GEO:GSE240617)
  • 論文⑥:Genes Cells. 2024;29(10):876-888(GEO:GSE223322)

各論文がGEOに登録した元の測定ファイル(CELファイル、計38個)を照合したところ、以下のファイルが、ファイルの中身(MD5ハッシュ値)、スキャン日時、チップの識別番号(array ID)まで完全に一致しました。

  • 2016年8月6日スキャンの対照群1ファイル → 5論文すべてで「対照群」として登録(GSM5641653、GSM5827329、GSM5833333、GSM6945422、GSM7703768)
  • 2019年7月4日・11月22日スキャンのガラクトース群3ファイル → 4論文で「ガラクトース群」として登録(GSM5641657~59、GSM5827330~32、GSM6945424~26、GSM7703770~72)
  • 2021年11月19日スキャンの対照群(6日間)1ファイル → 2論文で登録(GSM6945423、GSM7703769)

どの論文にも、他の論文と同じデータであるという記載はありません。そのため、読者は、各論文で新たに実験が行なわれたと理解します。

また、論文②(e0273868)で「ガラクトース6日間」とされた試料(GSM5641657)は、ファイル内の実験名が「K4」で、他のガラクトース試料(「…-gal-Day6」)と異なります。本当にガラクトースだけで培養した試料なのか、実験ノートとの照合をお願いします。

これらの5論文には、学術誌が「懸念表明(Expression of Concern)」を付しています(PLOS One:2025年7~8月、Genes to Cells:2026年)。また、同じ研究室の2019年の Scientific Reports 論文(9:20085、本記事の論文①)は学術誌が調査中と報道されています。GEO登録がないため照合できませんでしたが、同じ対照群・ガラクトース群のデータが使われていないか、あわせて調査をお願いします。

以上、これら6論文の研究不正疑惑を適切に調査・対処して下さるようお願い申しあげます。

詳しくは、以下の記事で説明しております。
沖 昌也(Masaya Oki)(福井大学)
https://haklak.com/page_masaya_oki.html

なお、私へのメールにはメール送信者の姓名(つまり、担当者名)を記載してください。

本件の告発はウェブ上で公表しておりますので、私の氏名を秘匿する必要はありません。

よろしくお願い申し上げます。

白楽ロックビル
お茶の水女子大学名誉教授

――――――――――

●2.【不正疑惑】

冗長になるのを避けるため、「研究不正疑惑」などの文言から「疑惑」を省いている箇所があります。省略されている箇所も、すべて「疑惑」を指しています。ただし、マイクロアレイ・データの使い回しそのものは、白楽の照合(下記【論文②】)で事実として確定しています。

=====【疑惑研究者】======

沖 昌也 (オキ マサヤ、Masaya Oki):写真出典

所属と職位出典:KAKEN – 研究者をさがす | 沖 昌也 (60420626)
所属 (現在):2026年度: 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授
所属 (過去の研究課題情報に基づく):
2017年度 – 2024年度: 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授
2016年度: 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授
2007年度 – 2009年度: 福井大学, 工学研究科, 准教授
2006年度: 福井大学, 大学院工学研究科, 助教授
2006年度: 長崎大学, 大学院医歯薬学総合研究科, 助手

他のサイト:

 

福井大学。元写真出典:日本語版ウィキペディアのBakkaiさん, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3061609による

=====【疑惑の全体像】======

沖 昌也は、ラットの水晶体をガラクトースで白濁させる白内障モデルに各種の阻害剤を作用させ、マイクロアレイで遺伝子発現を解析した論文を、2019~2024年の6年間に6論文、出版した。

福井大学は2023年1月23日、このうちの1論文を「白内障を治す物質を特定」「エピジェネティクスに着目した白内障治療薬の化合物の発見は世界初」とプレス発表した(白内障を治す物質を特定-治療用点眼薬の開発につながる成果- 沖昌也教授(生物応用化学講座)らチーム|福井大学工学部)。

ところが、2025年7月31日~8月3日、PLOS One は、沖 昌也が連絡著者の4論文に懸念表明(EOC)を付した。2026年には Genes to Cells(Wiley)も1論文に懸念表明(EOC)を付した。Scientific Reports(Springer Nature)の1論文も調査対象となった(PLOS One slaps four papers with expressions of concern for overlapping control data – Retraction Watch)。

懸念表明と調査中の6論文を以下の表にまとめた(表1)。

表1.沖 昌也研究室の白内障6論文と学術誌の措置

番号 出版 学術誌 論文題名 学術誌の措置
① 2019年12月 Sci Rep Histone acetyltransferase and Polo-like kinase 3 inhibitors prevent rat galactose-induced cataract 調査中(2025年8月時点)
② 2022年11月 PLOS One Histone acetyltransferase inhibition reverses opacity in rat galactose-induced cataract EOC
③ 2022年9月 PLOS One Atm inhibition decreases lens opacity in a rat model of galactose-induced cataract EOC
④ 2022年12月 PLOS One Analysis of cataract-regulated genes using chemical DNA damage induction in a rat ex vivo model EOC
⑤ 2024年2月 PLOS One HIF-1 inhibition reverses opacity in a rat model of galactose-induced cataract EOC
⑥ 2024年9月 Genes Cells Identification of genes contributing to attenuation of rat model of galactose-induced cataract by pyruvate EOC(2026年)

沖 昌也は、全6論文の連絡著者である。連絡著者で現在は教授の2点から、沖 昌也を疑惑論文の代表者として挙げたが、不正行為疑惑の実行者は別人かもしれない。

「パブピア(PubPeer)」が疑惑視しているケースと異なり、本件は学術誌自身が調査し、問題を認めて懸念表明(EOC)を付した。疑惑の信頼度は高い。

Retraction Watch 記事によると、不正行為疑惑は数種類ある(PLOS One slaps four papers with expressions of concern for overlapping control data – Retraction Watch)。

  • 「対照群データの使い回し」:別々の実験のはずの対照群とガラクトース群のマイクロアレイ・データが、複数の論文で共有されていた。
  • 「同一の倫理承認番号」:複数の論文で、動物実験の倫理承認番号が同じだった。
  • 「不適切な研究デザイン・統計」:PLOS One の懸念表明(EOC)は「マイクロアレイの研究デザインとデータ解析は高い技術水準で行なわれていない」と述べた。

上記のように不正箇所はほぼ同じなので、以下、6論文から1つの論文、ここでは「論文②」、を代表に選んで疑惑部分の解析と説明をする。その後、「論文②」とは異なる学術誌の論文である「論文⑥」にも若干の説明を加える。

=====【論文②】=====

表1の論文②である。

「2022年のPLoS One」論文の書誌情報を以下に示す。

沖 昌也(Oki M)は連絡著者である。所属は福井大学である。

研究助成金(論文から引用):This study was supported by Grant of Life Science Innovation Center (University of Fukui).

研究助成金の説明:福井大学ライフサイエンスイノベーションセンターの学内助成である。沖 昌也は同センターの副センター長を兼任している。

ーーー論文②の問題点ーーー

福井大学が2023年1月23日に「白内障を治す物質を特定」とプレス発表した論文である。

2025年、PLOS One は同誌の他の3論文と一緒に懸念表明(EOC)を付した(Expression of Concern: Histone acetyltransferase inhibition reverses opacity in rat galactose-induced cataract)。

対照群とガラクトース群のマイクロアレイ・データを他の論文と共有していた。動物実験の倫理承認番号も他の論文と同じだった。

つまり、大学がプレス発表した「世界初」の成果の根拠データに、学術誌が懸念を表明したことになる。

ーーー論文②の問題点:「対照群・ガラクトース群のデータの使い回し」ーーー

PLOS は問題点を「各論文は互いにつながっており、同じ対照群とガラクトース群のマイクロアレイを使っていた」と指摘した(Retraction Watch)。

白楽は、論文②と関連5論文の方法の記述を比べ、以下の表2にまとめた(出典:各論文の「Materials and methods」「Data Availability」)。

表2.6論文のマイクロアレイ実験の方法の比較(各論文の記述より)

論文 論文①
Sci Rep 2019
論文②
PLOS One 2022(HAT)
論文③
PLOS One 2022(Atm)
論文④
PLOS One 2022(MMS)
論文⑤
PLOS One 2024(HIF-1)
論文⑥
Genes Cells 2024
投稿受付日 2019年7月12日 2022年1月12日 2022年1月24日 2022年1月25日 2023年11月17日 2024年5月24日
対照群 Ctrl・4日目 培地のみ(n = 1) 培地のみ・4日間 培地のみ・4日間(n = 1) 培地のみ・4日間または6日間(n = 2) 培地のみ・4日間と6日間(各n = 1、計n = 2)
ガラクトース群 4日目 4日間(n = 3)と6日間(n = 3) 3日間+3日間=6日間(Galactose-1~3の3試料) (なし。MMS・ブレオマイシン群) 6日間(n = 3) 6日間(n = 3、Galactose_1~3)
マイクロアレイ GeneChip Rat Gene 2.0 ST 同左 同左 同左 同左 同左
倫理承認番号 28091 28091 28091 28091 28091 28091
GEO番号 記載なし GSE186248 GSE194074 GSE194317 GSE240617 GSE223322
他論文とのデータ共有の記載 - なし なし なし なし なし(論文のFig 2の説明に Kanada et al., 2019 の引用はある)

表から次のことがわかる。

  • 3論文(論文②③④)は、わずか2週間の間(2022年1月12~25日)に PLOS One に投稿された。
  • 対照群はどの論文も「培地のみ、4日間程度」で、n = 1~2と少ない。ガラクトース6日間の群は論文②③⑤⑥の4論文にあり、どれも3試料である。
  • 論文⑤(2024年)と論文⑥(2024年)の試料構成は、「対照群:4日間と6日間の計2試料、ガラクトース群:6日間の3試料」で完全に一致する。
  • 論文③(2022年)と論文⑥(2024年)のヒートマップでは、ガラクトース群の3試料が同じ名前(Galactose-1、-2、-3)で、並び順も同じ「1、3、2」である(図1)。実際、後述のGEOデータの照合で、同じ3試料の測定データであることが確認できた。
  • 6論文とも、同じマイクロアレイ(GeneChip Rat Gene 2.0 ST)、同じ倫理承認番号(28091)である。
  • 各論文は別々のGEO番号でデータを登録している。そして、どの論文にも「対照群・ガラクトース群のデータを他の論文と共有した」という記載はない。

つまり、各論文が独立に対照群・ガラクトース群の実験を行なったと読者が理解するように記載している。ところが、PLOS の調査によれば、実際は同じデータを使い回していた。

以下に、各論文のヒートマップ(遺伝子発現の図)を並べた(図1)。図の細部を読み取る必要はない。論文ごとに見た目が違うことだけを示している。

図1.5論文のヒートマップ(遺伝子発現の図)の比較

図1:上段左から、論文①のFigure 6a、論文②のFig 3A、論文③のFig 2B、下段左から、論文④のFig 3A、論文⑥のFig 2c。PLOS One・Sci RepはCC BYライセンス。Genes CellsはCC BY-NC-ND(改変禁止)のため、著作権法上の「引用」として一部を示す。

注意:ヒートマップの見た目は論文ごとに異なる。選んだ遺伝子、正規化の方法、並べた試料が違うからである。つまり、図を見比べても、データの使い回しは目で見てわからない。「画像の使い回し」ではなく、図1の元になった生データ(マイクロアレイの測定値)の使い回しだからである。白楽が各論文の図を比較した範囲では、水晶体の写真を含め、論文間で同じ画像は見つからなかった。

ーーー白楽の解析:GEO登録データの照合ーーー

そこで、生データの使い回しと踏んで、白楽は、各論文がGEOに登録した測定値(series matrix、約3万6千遺伝子×38試料)をダウンロードし、試料どうしを総当たりで比べた(データ出典:GEO GSE186248、GSE194074、GSE194317、GSE240617、GSE223322)。

方法は次の通りである。

  • 同じ条件の試料(例:ガラクトース6日間の3試料)でも、レンズごとの個体差と測定誤差があるので、測定値は少しずつ違う。この「試料固有のずれ」は、いわば試料の指紋である。
  • 各試料の測定値から、同じ論文の3試料の平均を引くと、この指紋が取り出せる。
  • 別々に採った独立の試料なら、指紋どうしの相関はほぼ0になる。同じ測定データなら、相関は1に近くなる。

結果は明白だった。4つの論文(論文②③⑤⑥)のガラクトース群3試料は、以下の表3の横1行ずつが、同じ試料の測定データだった。指紋の相関は0.92~0.96だった。

表3.「個体差の指紋」が一致したガラクトース群の試料(横1行が同一データ)

論文②(2021年10月登録) 論文③(2022年1月登録) 論文⑤(2023年8月登録) 論文⑥(2023年1月登録)
Galactose day6-1
GSM5641657
Galactose-1
GSM5827330
Galactose-1
GSM7703770
Galactose-1
GSM6945424
Galactose day6-2
GSM5641658
Galactose-2
GSM5827331
Galactose-2
GSM7703771
Galactose-2
GSM6945425
Galactose day6-3
GSM5641659
Galactose-3
GSM5827332
Galactose-3
GSM7703772
Galactose-3
GSM6945426

各試料の「個体差の指紋」どうしの相関を図2に示した。赤いマス(相関0.92~0.96)が、別々の論文に登録された同一データの組である。G1~G3はガラクトース群の1~3番目の試料を示す。

図2.ガラクトース群の試料の「個体差の指紋」の相関(論文②③⑤⑥)

図2:GEO GSE186248、GSE194074、GSE240617、GSE223322 の series matrix(発現値 >5 の11,507遺伝子)からAnthropic Claudeが作成。独立した別の試料どうしの相関は-0.24~0.32(本文参照)。

比較のため、明らかに別の試料どうし(論文②のガラクトース4日間の3試料と6日間の3試料)で同じ計算をすると、相関は-0.24~0.32だった。ピルビン酸処理試料(論文⑥)と2ME2処理試料(論文⑤)では、-0.06~0.06だった。

つまり、2021年10月にGEOに登録された論文②の「ガラクトース6日間」の3試料の測定データが、別々の実験として、論文③(2022年)、論文⑤(2023年登録・2024年出版)、論文⑥(2023年登録・2024年出版)に使い回されていた。

しかも、各論文は、これらを新たな試料番号(GSM番号)で別々に登録している。他の論文で使用した同じデータだと記載していない。

対照群についても、同様の傾向があった。

  • 論文⑤と論文⑥の「対照群・6日間」は、指紋の相関が0.97で、同じ測定データと考えられる。
  • 「対照群・4日間」は、論文②③⑤⑥の4試料の相関が0.988~0.992と高い(上記の独立試料では0.97程度)。同じ測定データの可能性が高い。
  • 論文④の対照群は、他の対照群との相関が0.980~0.982とやや低く、この方法では判断できなかった。しかし、下記の元の測定ファイルの照合で、同じファイルであることが確定した。

なお、使い回された試料どうしでも、登録された数値は完全には一致しない(相関0.99程度)。各GEO登録データは、同じ論文の他の試料と一緒に正規化(数値の補正)されているので、組み合わせる試料が違えば数値が少し変わるからである。

ーーー決定的証拠:元の測定ファイル(CELファイル)の照合ーーー

そこで白楽は、5つのGEO登録データの元の測定ファイル(CELファイル、計38個)をすべてダウンロードし、照合した。CELファイルは、マイクロアレイの読み取り装置(スキャナー)が出力するファイルで、ファイルの中にスキャンした日時、装置番号、チップ固有の識別番号(array ID)、実験名が記録されている。

結果は決定的だった。以下の表4の横1行の試料は、ファイルの中身が1バイトも違わない(MD5ハッシュ値が一致する)同一ファイルだった。スキャン日時とチップの識別番号も同じである。

表4.完全に同一だった元の測定ファイル(CELファイル)と、各論文での登録名・試料番号

元の測定ファイル(スキャン日時) 論文② 論文③ 論文④ 論文⑤ 論文⑥
「ctrl」2016年8月6日 Control
GSM5641653
Control
GSM5827329
Control
GSM5833333
Control_Day4
GSM7703768
Control-Day4
GSM6945422
「K4」2019年7月4日 Galactose day6-1
GSM5641657
Galactose-1
GSM5827330
- Galactose-1
GSM7703770
Galactose_1
GSM6945424
「850-gal-Day6」2019年11月22日 Galactose day6-2
GSM5641658
Galactose-2
GSM5827331
- Galactose-2
GSM7703771
Galactose_2
GSM6945425
「1612-gal-Day6」2019年11月22日 Galactose day6-3
GSM5641659
Galactose-3
GSM5827332
- Galactose-3
GSM7703772
Galactose_3
GSM6945426
「Ctrl-Day6」2021年11月19日 - - - Control_Day6
GSM7703769
Control-Day6
GSM6945423

表からわかることは次の通りである。

  • 対照群の1個のファイル(2016年8月6日スキャン)が、5つの論文すべてで、それぞれ別の試料番号を付けて「対照群」として登録されていた。
  • ガラクトース群の3個のファイル(2019年7月4日と11月22日スキャン)が、4つの論文で、それぞれ別の試料番号を付けて登録されていた。
  • 対照群・6日間の1個のファイル(2021年11月19日スキャン)が、2つの論文で登録されていた。
  • つまり、5論文の「対照群」と「ガラクトース群」は、実際には1回ずつしか測定していない。どの論文にも、他の論文と同じデータであるという記載はない。

さらに、スキャン日時から、以下の不自然な点も見つかった。

  • 論文②の「ガラクトース6日間の1番目の試料」は、ファイル内の実験名が「K4」である。他のガラクトース試料の実験名は「850-gal-Day6」「1612-gal-Day6」のように「gal」を含む。同じ日(2019年7月4日)の直前にスキャンされた論文③のKU55933(Atm阻害剤)処理試料の実験名は「K1」だった。「K4」が本当にガラクトースだけで培養した試料なのか、福井大学に確認を求めたい。
  • 論文②の「ガラクトース4日間」の3試料(n = 3)も、1個は2016年8月6日、2個は2019年11月22日のスキャンで、約3年離れている。
  • 論文⑤の2ME2処理試料2個(n = 2)は、1個が2017年8月10日、もう1個が2022年7月21日のスキャンで、約5年離れている。論文⑥のピルビン酸処理試料2個も、2021年4月9日と2022年7月29日のスキャンである。
  • 対照群(2016年8月6日)と処理群(2017~2022年)は、測定時期が最大6年ずれている。比較する群を同時期に測定していないので、実験の比較の妥当性にも疑問がある。

福井大学・調査委員会には、元の測定ファイルと実験ノートを照合し、何回の実験が実際に行なわれたのかを確認するようお願いしたい。

=====【論文⑥】=====

表1の論文⑥である。

「2024年9月のGenes Cells」論文の書誌情報を以下に示す。

沖 昌也(Oki M)は最後著者でかつ連絡著者である。所属は福井大学である。

研究助成金(論文から引用):This work was supported by a grant from the Life Science Innovation Center (University of Fukui) (M.O.) and JSPS KAKENHI Grant Number JP19K20111 (M.I.).(論文冒頭の「Funding information」には JP19K20111 と JP20K09768 の2件が記載されている)

研究助成金の説明:①福井大学ライフサイエンスイノベーションセンターの学内助成(沖 昌也)、②日本学術振興会の科研費 JP19K20111(井波 真弓・研究代表者、福井大学・工学部・技術職員)(KAKEN)、③日本学術振興会の科研費 JP20K09768(高村 佳弘・研究代表者、福井大学・医学系部門・准教授。沖 昌也は研究分担者)(KAKEN)。

ーーー論文⑥の問題点ーーー

2025年8月に PLOS One が懸念表明(EOC)を付した後、Wiley は調査を開始した。2026年5月21日、Genes to Cells は懸念表明(EOC)を付した(EXPRESSION OF CONCERN: Identification of Genes Contributing to Attenuation of Rat Model of Galactose-induced Cataract by Pyruvate – Genes to Cells、PubMed)。

PLOS One の4論文と同じ白内障モデル・同じ解析方法の論文である。倫理承認番号も同じ28091である。

表2で示したように、試料構成(対照群:4日間と6日間の各1試料、ガラクトース群:6日間の3試料)は、約7か月前(2024年2月28日)に出版された論文⑤と完全に一致する。一方、GEO番号は別々(GSE223322とGSE240617)である。

論文の考察では「HAT阻害剤とATM阻害剤を用いた以前のマイクロアレイ解析の遺伝子と比較した」と述べている。しかし、対照群・ガラクトース群のデータをそれらの論文と共有したとは書いていない。

●3.【研究公正】

沖 昌也の研究室の白内障5論文は、上述したように、同じマイクロアレイの測定ファイルを、それぞれ別の実験の試料として使い回していた。これは白楽の照合で事実として確定している。

以下、研究公正意識が欠如していると思われる点を指摘する。

(1)1回の測定を5回の実験に見せた

2016年8月6日にスキャンした対照群のファイル1個が、2022~2024年の5論文で、それぞれ新しい試料番号を付けて「対照群」として登録されていた。2019年にスキャンしたガラクトース群のファイル3個も、4論文で同様に登録されていた。

論文を読む人は、各論文でそれぞれ対照群とガラクトース群の実験が行なわれたと理解する。ところが、実際は1回の測定である。どの論文にも、他の論文と同じデータであるという記載はない。読む人を騙すような構成である。

既存データを再利用すること自体は、明記すれば問題ない。GEOには、他の登録データの試料を引用する仕組みもある。それを使わずに、同じファイルを毎回、新しい試料として登録し直している。

文部科学省のガイドラインは、「改ざん」を「研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること」と定義している(研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン(平成26年8月26日文部科学大臣決定))。

別の実験データを、その論文の実験で得た結果として示すことは、この「改ざん」に当たる可能性が高いと白楽は考える。ここは、福井大学の調査委員会の判断にお任せする。

さらに、実験名「K4」のファイルが「ガラクトース6日間」の試料とされている点、同じ群の反復試料(n = 2~3)の測定時期が1~5年離れている点、対照群と処理群の測定時期が最大6年ずれている点も不自然である。実験の実態と論文の記述が一致しているのか、疑問がある。これらは、実験ノートと元データの確認が必要で、福井大学の調査委員会に確認を求めたい。

(2)説明を拒否する

「研究成果の発表とは、研究活動によって得られた成果を、客観的で検証可能なデータ・資料を提示しつつ、科学コミュニティに向かって公開し、その内容について吟味・批判を受けることである。」(研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン(平成26年8月26日文部科学大臣決定)の4頁)

撤回監視(Retraction Watch)の取材に対し、沖 昌也は「この件についてこれ以上の問い合わせには応じないと約束するよう求められた」と回答した。

ところが、PLOS は、そのような要求はしていないと否定した(上記の撤回監視(Retraction Watch)記事)。

1つのファイルを5論文で使い回したのは、単純な間違いでは起こらない。連絡著者として、なぜこうなったのかを説明する責任がある。以下は白楽の推察だが、意図的に使い回したことがバレるのを恐れ、質問を拒否することにしたと思われる。

(3)患者と投資家への影響

使い回しがあった論文は、白内障の点眼薬の開発につながる研究である。福井大学は2023年1月、論文②を「白内障を治す物質を特定」とプレス発表した。沖 昌也は点眼薬の大学発スタートアップ化を目指していると報じられている(「点眼薬」で世界中の人が見える世界をつくる。|スタクラ)。

複数の独立した実験で確認されたように思わせた研究結果が、実は、同じ対照群・ガラクトース群のデータに依存していた。このまま開発が進めば、将来の患者と投資家に不適切な影響を与えかねない。

この状況も、告発に踏み切った理由である。

●7.【白楽の感想】

《1》読者に感謝

福井大学の沖 昌也の不正疑惑は、沖 昌也の論文に懸念表明(EOC)を付したという2025年8月22日の「撤回監視(Retraction Watch)」の記事を読んだ時から、気になっていた。 → 2025年8月22日の「撤回監視(Retraction Watch)」:PLOS One slaps four papers with expressions of concern for overlapping control data – Retraction Watch

ただ、白楽は山のようにある外国の研究不正事件と研究倫理論文の解説に追われている。日本の研究不正疑惑もかなり多い。その上、自分の間違い記事の修正や今年6月に受けたサイバー攻撃で壊れたブログの修復もある。それで、この不正疑惑を深掘りする気力が湧かなかった。

そうこうしている中で、読者から「福井大学 沖 昌也・教授の件。白楽氏もご指摘の通り、計6報の論文においてEOCが出されています。6報に渡るデータの使い回しはかなり悪質だと思いますが、当の本人は福井県が県版ミニ・ノーベル賞と位置づける「福井県科学学術大賞」やGGS PRIZE 2026を受賞するなどしています。是非、追跡調査や記事にしていただきたい」とメールが来た(白楽注:懸念表明(EOC)は5報で、1報は調査中)。

それで、「ウ~ン、自分で調査してよ」とブツブツ言いながら、深掘りし始めた。しかし、解析は結構大変で、AIを使ってなんとか、記事にまとめ、告発するまでになった。刺激してくれる読者はありがたい。読者に感謝している。

《2》公開データは嘘をつかない

懸念表明(EOC)を付した理由として、PLOS One は「同じ対照群とガラクトース群のマイクロアレイを使っていた」と述べただけで、具体的にどのデータがどう重複しているかを示していなかった。

それで、白楽はAIの助けを借りて掘り下げた。疑惑論文の著者たち自身がGEOに登録した元の測定ファイルを照合すると、2016年にスキャンした1つのファイルが5論文に、2019年にスキャンした3つのファイルが4論文に、別々の試料として登録されていた。つまり、ファイルの中身、スキャン日時、チップの識別番号まで一致したので「データの使い回し」は明白である。

データ公開は、研究の透明性を高めるための制度である。その公開データが、「データの使い回し」の動かぬ証拠になった。

照合にかかった費用はゼロで、専門の機器も要らない。学術誌の担当者がやろうと思えばできたはずである。ちゃんと照合し、「データの使い回し」の証拠をつかんで、懸念表明(EOC)ではなく、論文を撤回すべきだったと思う。

《3》懸念表明(EOC)の後に受賞

2025年7~8月、PLOS One は沖 昌也の4論文に懸念表明(EOC)を付した。

その約半年後の2026年2月7日、沖 昌也は「エピジェネティックな発現を制御することによる治療薬の開発」で福井県科学学術大賞を受賞した(2026年2月12日記事:沖昌也教授が福井県科学学術大賞を受賞しました|福井大学工学部)。

授賞対象は、まさに、データを使い回した白内障研究の延長線上にあるテーマである。

沖 昌也の論文には懸念表明(EOC)が付いているのだから、研究不正の疑いが濃厚であった。福井県の選考委員会は、受賞者選考で論文の懸念表明(EOC)を確認しなかったのだろうか? 確認して、問題ないと判断したのだろうか? 福井県には、受賞の妥当性を再検討してほしい。

さらに、2026年9月14日、日本遺伝学会はGGS PRIZE 2026の受賞論文を発表し、沖 昌也の論文を選んだ(GGS PRIZE 2026,GGS REVIEW PRIZE 授賞者|日本遺伝学会)。なお、GGS PRIZE の受賞論文は酵母の論文(Ayano T, Oki M. Genes Genet Syst. 2024; 99)で、白内障論文ではない。

とはいえ、懸念表明(EOC)論文を複数出版した研究者に賞を授与するなら、受賞論文に問題がないか十分検証すべきでしょう。そもそも論で言えば、そのような研究者に賞を授与しないのが普通ではないのか、と思いました。

懸念表明(EOC)は撤回と違い、論文は有効なまま残る。所属大学も表彰機関も「研究不正の認定はない」として今のところ何もしなくて済む。

ただ、懸念表明(EOC)が付いている論文は、撤回される可能性がかなりある。受賞の根拠となった研究の論文が研究不正で撤回されると、表彰機関の受賞者選考のズサンさが表に出る。論文の懸念表明(EOC)を確認しなかったデタラメ選考だと非難される可能性も出てくる。白楽は、常々、受賞者選考をもっと厳正にして欲しいと思っている。

《4》誰が何をすべきだったか

  • 沖 昌也・教授:
    連絡著者として、どの論文のどのデータが、いつの実験のものかを説明し、論文を訂正または撤回すべきである。「問い合わせに応じないと約束させられた」は、説明を拒否する理由にならない。
  • 福井大学:
    2025年8月22日の Retraction Watch 記事から1年以上が経過した。白楽が調べた範囲では、福井大学が予備調査をした、あるいは調査結果を公表した、という情報はない。学術誌が5論文に懸念表明(EOC)を付した時点で、自発的に調査すべきだった。元の測定ファイルと実験ノートを照合すれば、短期間で事実関係を確定できる。
  • 学術誌(PLOS One、Genes to Cells):
    懸念表明(EOC)で止めず、どのデータがどの論文と重複しているかを具体的に示すべきだった。同一ファイルの使い回しが確認できる以上、論文を撤回すべきである。Scientific Reports は、論文①の調査結果を早く公表すべきである。
  • 福井県と日本遺伝学会:
    表彰の選考で、懸念表明(EOC)などの研究公正上の情報を確認する手順を設けるべきである。

なお、ネカト調査の実態について白楽は、「多くの大学は、自発的には調査しないし、告発者を攻撃する。不正行為を矮小化・隠蔽、調査結果を捻じ曲げ・隠蔽する。甘過ぎる処分や無処分、批判を無視する」と受け止めている。

福井大学はこの「実態」の例外であってほしい。

ーーーーーーー
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
ーーーーーーー