パウロ・マッキャリーニ(Paolo Macchiarini)(スウェーデン)

/2015年7月4日掲載、2026年10月27日(火)更新/

【長文注意】21世紀前半の最大級スキャンダルである。2008年(49歳)、スウェーデンのカロリンスカ医科大学のマッキャリーニは、患者の幹細胞を使った人工気管移植に「世界で初めて成功」し、再生医療の英雄「スーパー外科医」となった。しかし、プラスチック製気管を移植された患者の大半は死亡した。しかも、論文では患者の容態の悪化を隠し、手術は成功したと発表していた。2014年(55歳)、カロリンスカ医科大学病院の医師4人が論文にねつ造・改ざんがあると告発した。2015年8月(57歳)、それにもかかわらず、大学はマッキャリーニを「無罪」とし、その一方で告発者を冷遇した。ところが、2016年(57歳)、米国の月刊総合誌「ヴァニティ・フェア(Vanity Fair)」誌がマッキャリーニの結婚詐欺と悪行の数々を暴露した。また、スウェーデン公共放送(SVT)のドキュメンタリー番組「実験(Experimenten)」がマッキャリーニの治療法のデタラメさを放映した。事態は急転し、マッキャリーニはカロリンスカ医科大学から解雇された。2023年(65歳)、重傷害罪で禁錮2年6か月の実刑判決が確定した。2026年10月現在、撤回論文は15論文、パブピア(PubPeer)で問題を指摘された論文は36論文になる。この事件は、白楽指定の重要ネカト事件である:①ノーベル賞クラスの非常に画期的な手術法を開発し英雄視されたが、手術の成功がウソだった、②マッキャリーニの治療法で手術した患者21人のうち16人が死亡した(含・推定)、③米国・NBCニュースの女性プロデューサーとの結婚詐欺の大スキャンダル、そして、経歴詐称も発覚し、小保方事件のようにメディアが大騒ぎし、ドキュメンタリーやドラマも作られた。

〈AI使用:記事はAnthropic Claude Opus 5.5を使用した〉

■ 数字で見るマッキャリーニ事件

  • 21人中16人:マッキャリーニの開発した方法で人工気管を移植され、死亡した患者(含・推定)(18)
  • 15論文:撤回された論文(パブメド、うち「ランセット」4論文)
  • 4人:論文のねつ造・改ざんを告発した医師。大学は告発者を冷遇した(7)
  • 約4か月:大学の「無罪」裁定(2015年8月)から、暴露報道(2016年1月)で事態が逆転するまでの期間
  • 2年6か月:スウェーデンの裁判所が科した禁錮刑(12)

目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)


【付記】パウロ・マッキャリーニの生年月日は1958年8月22日である(2)。本稿では、年月日が判明している場合はその日の満年齢を、年のみが判明している場合はその年に到達する年齢(西暦年-1958)を、年月日の末尾に括弧書きで示した。

【注意】本稿は、2015年7月に掲載した記事を、2026年10月に全面改訂したものである。2015年の時点では、カロリンスカ医科大学はマッキャリーニを「無罪」としていた。その後、2016年以降の調査で、論文のねつ造・改ざんが認定され、刑事裁判で有罪が確定した。2015年版の【白楽の感想】は、「4.【白楽の感想】」の《1》に記録として残し、見解を改めた。なお、マッキャリーニの経歴の一部は、本人の履歴書(CV)に依拠しているが、その履歴書には虚偽記載があると指摘されている(1)。


●1.【概略】

15625-1パウロ・マッキャリーニ(Paolo Macchiarini、動画では「マッキャリーニ」と「マッカリーニ」の両方の発音がある。マチアリーニ、マッキアリーニとも表記される。写真出典)は、スイスで生まれ、イタリア・米国・フランス・ドイツ・スペインで経験を積んだ胸部外科医である。

マッキャリーニ事件は21世紀前半の最大級事件なので、ウェブ上に多数の記事、写真、動画がある。

事件ランキングに何度もリストされた:① 全期間ランキングの31で第3位、② 2017年の科学大スキャンダル6件の1つ、③ 2021年の★5、④ 2023年の★5。

2008年6月(49歳)、スペインのバルセロナで、ドナーの気管から細胞を洗い落とし、患者の幹細胞をまぶして移植する「幹細胞人工気管移植」に世界で初めて成功したと発表し、一躍、再生医療の英雄となった。

この成果を土台に、2010年秋(52歳)、スウェーデンのカロリンスカ医科大学(Karolinska Institutet)・客員教授、カロリンスカ医科大学病院(Karolinska University Hospital)・外科医に採用された(1)。専門は気管外科・再生医療(組織工学)である。

2011年6月(52歳)、カロリンスカ医科大学病院で、マッキャリーニは手術法をさらに改善し、今度は、プラスチック製の人工気管に幹細胞をまぶした「幹細胞プラスチック気管移植」を世界で初めて行なった。

しかし、不幸なことに、プラスチック製気管を移植された患者8人のうち7人が死亡した(2)。

ところが、論文では、患者の容態の悪化を隠し、手術は成功したと発表していた。

2014年6~9月(55~56歳)、カロリンスカ医科大学病院の医師4人が、マッキャリーニの論文内容は実際の医療記録と異なる、つまり、ねつ造・改ざんだと告発した(1)。

2015年5月(56歳)、ウプサラ大学・名誉教授のベング・ガーディン(Bengt Gerdin)がネカト調査を担当し、調査の結果、マッキャリーニを研究不正(クロ)と結論した。

しかし、その約3か月後の2015年8月28日(57歳)、カロリンスカ医科大学のアンダース・ハムステン(Anders Hamsten)学長は、マッキャリーニを「無罪」と裁定した(1)。

調査結果を尊重しない学長の裁定ではあったが、世間的には、これで、一件落着と思われた。

ところが、2016年1月(57歳)、米国の月刊総合誌「ヴァニティ・フェア(Vanity Fair)」誌の暴露記事とスウェーデン公共放送(SVT)のドキュメンタリー番組「実験(Experimenten)」で事態は大きく反転した。

マッキャリーニはウソの履歴書を大学に提出していた経歴詐称者で、かつ、エマヌエラ・ペッキア(Emanuela Pecchia)と30年近く結婚していたのに、米国人のベニータ・アレキサンダー(Benita Alexander)と婚約したのである。

つまり、研究不正疑惑だけでなく、経歴詐称や結婚詐欺などのウソまみれの人生を送ってきたことが暴露された。

暴露記事の2か月後の2016年3月23日(57歳)、カロリンスカ医科大学はマッキャリーニを解雇した。マッキャリーニを擁護していたハムステン学長、ノーベル委員会のウルバン・レンダール(Urban Lendahl)事務局長らも辞任した(1, 2)。

2年後の2018年6月25日(59歳)、カロリンスカ医科大学は、今度は、マッキャリーニら7人を研究不正と認定し、6論文の撤回を求めた(5)。2026年10月現在で、パブメドで15論文が撤回されている。

そして、患者を傷つけたとして、マッキャリーニは刑事訴追された。

結局、2023年6月21日(64歳)、スウェーデンの控訴裁判所(Svea hovrätt)はマッキャリーニを、患者3人への重傷害罪で禁錮2年6か月の判決を下した。2023年10月30日(65歳)、最高裁判所が上告を受理せず、刑が確定した(1)。

2024年3月(65歳)、スウェーデン刑務所局が、スペインでの服役を求めるマッキャリーニの申請を認め、2024年9月(66歳)、マッキャリーニはスペイン・カタルーニャ州の刑務所に収監された(9)。

2026年10月26日(68歳)現在、服役中と思われる。

本件は、(1)研究不正が患者の死に直結した、(2)大学が告発者でなく被告発者を守った、(3)ノーベル賞選考機関の権威を揺るがした、という点で、研究公正の歴史に残る事件である。また、(4)ノーベル賞級の手術法を開発した著名「スーパー外科医」が、実は、手術法を含め、経歴詐称や結婚詐欺などのウソまみれの人物だった。一転して、禁錮2年6か月の有罪となったことで、メディアが大騒ぎし、21世紀前半の最大級スキャンダルになった。

【動画】
「マッキャリーニ」と紹介。サイエンスコミュニケーターのクリス・サンデリック(Kris Sunderic, PhD)が事件を解説。「When Fraudsters Do Science | The Rise and Fall of Celebrity “Scientist” Paolo Macchiarini」、(英語)25分2秒、Nerd Nite(チャンネル登録者数 1.27万人)が2019/08/08 にアップロード。

【動画】
「マッキャリーニ」と紹介。スキャンダルを起こした外科医、マッキャリーニのインタビュー「Exclusive interview with scandal surgeon Paolo Macchiarini」。2017年10月23日、(英語)31分37秒。 以下の画像をクリックし画像がでたら再度クリックする。少し宣伝の後、始まる。→ Exclusive interview with scandal surgeon Paolo Macchiarini

【動画】
「マッキャリーニ」と紹介。パウロ・マッキャリーニの幹細胞人工気管移植法が画期的であるとニュースで報じられた。「Stem Cells Used to Grow Windpipes」、(英語)2分6秒、Laboratory Equipmentが2010/08/09 にアップロード。


●2.【発覚・調査の経緯】

《1》研究人生

1958年8月22日、パウロ・マッキャリーニ(Paolo Macchiarini)は、スイスのバーゼルで生まれた。イタリア人である(2)。

研究人生は、大きく4つの時代に分けられる。

  • 修行の時代(1979~2004年、21~46歳):イタリアのピサ大学で医学を学び、米国・フランス・ドイツで胸部外科医としての経験を積んだ。
  • 栄光の時代(2005~2013年、47~55歳):スペインのバルセロナで幹細胞人工気管移植に「成功」し、英国・スウェーデン・ロシア・米国で次々と移植手術を行ない、「スーパー外科医」と呼ばれた。
  • 疑惑の時代(2012~2015年、54~57歳):イタリアで逮捕され、カロリンスカ医科大学で論文のねつ造・改ざんが告発された。しかし、大学はマッキャリーニを守った。
  • 断罪の時代(2016年~、57歳~):暴露報道で事態が逆転し、解雇、研究不正の認定、論文撤回、刑事裁判での有罪確定、収監と続いた。

事件の登場人物と関係を図1にまとめた。

マッキャリーニ事件の人物相関図

★脇道:ローマ法王が司式する結婚式?――結婚詐欺

話は若干脇道にそれる。マッキャリーニの研究人生というより、私生活についてである。結婚詐欺という大きなスキャンダルである。

1986年(28歳)、マッキャリーニはエマヌエラ・ペッキア(Emanuela Pecchia)と結婚し、その後、2人の子供をもうけた(2)。後述の別の女性と婚約した時点で、結婚して30年近くたっていた。

2013年(55歳)、それにもかかわらず、マッキャリーニは自分を取材した米国NBCニュースの女性プロデューサー、ベニータ・アレキサンダー(Benita Alexander)と交際し、婚約したのである。

マッキャリーニは、結婚式をローマ法王フランシスコが司式し、ゲストにはオバマ米大統領夫妻やプーチン露大統領が来ると語っていた。もちろん、すべてウソだった(2, 8)。

【動画】
「マッカリーニ」と紹介。ベニータ・アレキサンダー(Benita Alexander)がパウロ・マッキャリーニに騙された結婚詐欺の顛末。
「How a star surgeon’s lies in love and medicine came back to haunt him | Nightline」、(英語)8分47秒、ABC News(チャンネル登録者数 1990万人)が2021/02/13にアップロード。

【動画】
「マッカリーニ」と紹介。This Morningのキャスターがベニータ・アレキサンダー(Benita Alexander)にインタビューし、パウロ・マッキャリーニとの交際の顛末を画像と共に報道した。
「‘My Ex-Fiance Surgeon Turned Out To Be A Monster’ | This Morning」、(英語)11分15秒、This Morning(チャンネル登録者数 254万人)が2023/12/14 にアップロード。

2016年1月(57歳)、この結婚詐欺を米国の月刊総合誌「ヴァニティ・フェア(Vanity Fair)」誌が暴露した(8)。

結婚詐欺は科学の話ではないが、マッキャリーニが学術関係の経歴も詐称していたことも暴露され、ウソまみれの人物であることが発覚した。発覚の2年前から研究不正が指摘されていたので、大事件となった。

《2》修行の時代(1979~2004年)

以下の経歴は、主に2010年2月4日にカロリンスカ医科大学に提出した本人の履歴書(15)による。2016年2月(57歳)、カロリンスカ医科大学が履歴書を調べ直したところ、記載の一部に食い違いが見つかった(1, 2)。

  • 1979~1986年(21~28歳):イタリアのピサ大学(University of Pisa)を卒業。医師免許
  • 1986年(28歳):エマヌエラ・ペッキア(Emanuela Pecchia)と結婚
  • 1986年11月~1991年12月(28~33歳):ピサ大学で一般外科
  • 1990~1991年(32~33歳):米国のアラバマ大学バーミンガム校(University of Alabama at Birmingham)。生物統計学の修士号取得(真偽は未確認)
  • 1991~1993年(33~35歳):フランス・ブザンソンのフランシュ=コンテ大学(University of Franche-Comté)。器官組織移植学
  • 1994~1997年(36~39歳):フランシュ=コンテ大学で研究博士号(PhD)取得。論文タイトル「From tracheal and trachea-esophageal allotransplantation to lung xenotransplantation」
  • 1995~1999年(37~41歳):フランス・パリのマリーランロン病院(Hôpital Marie-Lannelongue)・胸部血管外科・医師
  • 1999~2004年(41~46歳):ドイツのハノーバー医科大学院(Hannover Medical School)。ヘイデハウス病院(Heidehaus Hospital)・胸部血管外科・医師

この時代、マッキャリーニは、気管・食道の同種移植(他人からの移植)を研究テーマとし、気管外科医としての腕を磨いた。

《3》栄光の時代(2005~2013年)

マッキャリーニは、バイオ人工臓器(組織工学)のパイオニアとして、時代の寵児となった。

★幹細胞人工気管移植法

まず、患者の骨髄から得た幹細胞を増殖させる。一方、ドナーから得た気管から、付着している細胞を洗剤と酵素で洗い落とす。ドナーの細胞をすべて洗い落とした細胞外構造体に、増殖した幹細胞をまぶして人工気管を作り、患者に移植する。

手順を図2のAに示した(論文(16, 17)の記述にもとづく)。

マッキャリーニの2つの人工気管移植法

人工気管移植法はドナーの細胞を使わないので、患者に免疫拒絶反応が起こらない。それで、免疫抑制剤を使う必要がない。免疫抑制剤を使えないがん患者にも適用できる。気管以外の臓器にも応用可能なので、夢のような新治療法だと大きく期待された。

【動画】
Harvard Bioscienceのデイヴィッド・グリーン(David Green)が、パウロ・マッキャリーニの幹細胞人工気管移植法を説明している。「Human Trachea Made from Stem Cells Transplanted into Cancer Patient」、(英語)4分45秒、Voice of America (チャンネル登録者数 378万人)が2011/07/27 にアップロード。

★2008年:バルセロナ大学、最初の患者・クローディア・カスティロ(女性、30歳)

2005年(47歳)、マッキャリーニはドイツのハノーバー医科大学院・ヘイデハウス病院からスペインのバルセロナ大学(University of Barcelona)・バルセロナ病院(Hospital Clínic de Barcelona)に移った。

2008年6月(49歳)、結核で左気管支が損傷したコロンビア人女性のクローディア・カスティロ(Claudia Castillo、30歳、写真はニュー・サイエンティスト記事を参照)に、世界で初めて幹細胞人工気管移植を行なった。

この移植手術には、英国ブリストル大学のマーチン・バーチャル(Martin Birchall、写真出典)教授らのチームが協力した。

2008年11月(50歳)、マッキャリーニらは、この手術結果を、医学界最高峰の学術誌「ランセット(Lancet)」に「移植は成功した」と発表した。世界中のメディアがその成功を称賛した。

論文には「この移植により、患者はすぐに正常な気道を持つことができ、生活の質が向上した。移植 4か月後も、移植された組織の外観や機械的性質は正常だった。患者にはドナーに対する抗体はなく、免疫抑制剤も服用していない」とある。

しかし、実際には、移植した気管はすぐに狭くなり、患者カスティロはステントを入れる処置を繰り返し受けた。手術8年後の2016年7月、カスティロは結局、左肺を切除した(2, 6)。「成功」は論文の中だけだったのである。

★2010年:ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン、患者はキアラン・フィン=リンチ(少年、10歳)

2010年1月(51歳)、マッキャリーニは英国のユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(University College London、UCL)の名誉客員教授となった。

2010年3月(51歳)、英国ロンドンのグレート・オーモンド・ストリート病院(Great Ormond Street Hospital)のマーチン・エリオット(Martin Elliott、写真By Jamesfranklingresham – Own work, CC BY-SA 4.0, 出典)医師のチームとともに、北アイルランドの10歳の少年、キアラン・フィン=リンチ(Ciaran Finn-Lynch)に、子供としては世界初の幹細胞人工気管移植を行なった。

キアラン少年は、生まれつきの長節気管狭窄症(long segment tracheal stenosis)で、気管の直径は1mmしかなかった。可愛いキアラン少年が両親とともに写った写真はガーディアン記事に掲載されている。

2010年3月19日(51歳)、エリオット医師は「手術は成功した」と語った(BBC News – Windpipe transplant success in UK child)。

3年後の2013年4月(54歳)、バチカンはキアラン少年に法王英雄賞(Pontifical Hero Award)を授与した。その時点で、キアラン少年は生存していたが、術後に多くの処置が施されていた。

★2011年:カロリンスカ医科大学、患者はアンデマリアム・ベイエン(男性、36歳)

2010年秋(52歳)、スウェーデンのカロリンスカ医科大学がマッキャリーニを客員教授に採用した。

推薦した教授陣には、カロリンスカ医科大学・教授でノーベル委員会のウルバン・レンダール(Urban Lendahl、右写真出典)事務局長らがいた(1, 2)。

幹細胞人工気管移植のネックは、気管のドナーが少ないことである。そこで、マッキャリーニは、ドナーの気管の代わりに、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのアレキサンダー・セイファリアン(Alexander Seifalian、左写真出典)教授が作ったプラスチック製の気管を使うことにした。

手順は図2のBである(以下、図2再掲)。患者のCT画像から気管の形を測り、プラスチック(ナノ複合材料)で人工気管を作り、患者の骨髄の細胞を約36時間まぶして移植した(17)。

マッキャリーニの2つの人工気管移植法

2011年6月9日(52歳)、マッキャリーニは、カロリンスカ医科大学病院で、気管がんのエリトリア人男性、アンデマリアム・ベイエン(Andemariam Teklesenbet Beyene、36歳、写真は出典記事を参照)に、世界で初めて幹細胞プラスチック気管移植を行なった。

ベイエンは、アイスランドの大学院に留学中の地球物理学の大学院生(男性)だった。

「まだブタでしか成功しておらず、ヒトで一度も実施していない手術はしたくない」と主張したが、マッキャリーニの熱心な説明を受け、手術を了承した。実は、このプラスチック製気管は、「ブタでしか成功しておらず」どころか、「ブタでも試しておらず」、動物実験は全くされていなかった(10)。

手術5か月後の2011年11月24日(53歳)、論文は「ランセット」に掲載された。患者ベイエンの経過は良好と記述された。

論文は「細胞の再播種およびバイオリアクター処理後の足場(スキャホールド)において、細胞外マトリックス様コーティングと、CD105陽性亜群を含む増殖細胞が確認された。重篤な合併症は認められず、移植後5か月の時点で患者は無症状かつ腫瘍のない状態だった」と成功した様子を記載していた。

実際には、患者ベイエンの人工気管はうまく機能せず、ベイエンは繰り返し処置を受けていた。手術2年半後の2014年1月、ベイエンは死亡した(1)。

【動画】
「First Successful Transplant of Trachea Made of Stem Cells」、(英語)2分22秒、NTDTV が2011/07/21 にアップロード。
下の画面(患者ベイエン)またはココをクリック → https://www.dailymotion.com/video/xk1fl9

★2011~2012年:患者は米国人(男性、30歳)とトルコ人(女性、22歳)

2011年11月(53歳)、カロリンスカ医科大学病院で2人目の幹細胞プラスチック気管移植を受けたのは、米国人男性のクリストファー・ライルス(Christopher Lyles)だった。写真出典には公有(public domain)とあるので、マッキャリーニが患者ライルスと一緒の写真を以下に示す。2012年3月、手術の約4か月後、患者ライルスは死亡した(2)。

2012年(54歳)、3人目はトルコ人女性のイェシム・チェティル(Yesim Cetir、22歳)だった。手術後、チェティルは人工気管の不具合で長く入院し、190回以上の処置を受けたと報じられた。5年後の2017年3月19日、患者チェティルは死亡した(1, 2)。 →  動画 | Facebook

2013年(55歳)、カロリンスカ医科大学病院は人工気管手術を中止し、マッキャリーニの外科医としての契約を更新しなかった(1)。しかし、カロリンスカ医科大学での研究者としてのマッキャリーニの地位は続いた。

★2011~2014年:ロシア・クラスノダールでの患者は少なくとも5人

マッキャリーニは、ロシアにも進出した。2011年(53歳)、クバン国立医科大学(Kuban State Medical University)の職を得て、ロシア政府の巨額の研究費(メガグラント)を獲得し、クラスノダールで少なくとも5人に人工気管移植を行なった。

手術した患者のユリア・トゥーリク(Yulia Tuulik、1979年生まれ)、アレクサンドル・ゾズーリャ(Alexander Zozulya)らが死亡した。ロシアの監査は、マッキャリーニがロシアの医師免許なしに手術していたと指摘した(2)。

★2013年:米国イリノイ州、患者は2歳女児のハナ・ウォレン

ハナ・ウォレン(Hannah Warren)は、カナダ人の父と韓国人の母の子として韓国で生まれた。生まれつき気管がない病気で、ソウルの病院で2歳まで生きてきた。

2013年4月(54歳)、マッキャリーニは米国イリノイ州ピオリアの聖フランシス小児病院(Children’s Hospital of Illinois at OSF Saint Francis Medical Center)で、2歳のハナに幹細胞プラスチック気管移植を行なった。史上最年少の移植だった。

手術時のハナの写真はCNNの写真を参照。または、日本語記事を参照 → 2013年5月3日記事:2歳女児に自身の幹細胞で作った人工気管を移植、会話や食事も可能に 写真6枚 国際ニュース:AFPBB News

2013年7月6日、手術の3か月後、ハナは死亡した(2)。

この手術は、NBCテレビのドキュメンタリー「信念の跳躍(A Leap of Faith)」で取り上げられた。なお、その番組のプロデューサーが、前述のベニータ・アレキサンダーである。

【動画】
「マッキャリーニ」と紹介。ハナ・ウォレン(Hannah Warren)の命を救うため、医師たちが世界中の人々を結集させ、彼女自身の成体幹細胞から気管を作り出した物語。成功物語として語られている。実際は、上記したように、手術の3か月後、ハナは死亡した。
「Hannah’s Hope」、(英語)10分39秒、Alliance for the Advancement of Cellular Therapies(チャンネル登録者数 26人)が2015/09/28 にアップロード。

★プラスチック製気管の患者の結末

ウィキペディア英語版(2)の集計では、プラスチック製気管を移植された患者8人のうち7人が死亡した。唯一の生存者(ロシア人男性)も、気管切開の状態で生存していた(2017年時点)。

範囲を、ドナー気管による移植まで広げると、死亡者はさらに多い。

「より良い科学のために(For Better Science)」の患者一覧によれば、2008~2014年にマッキャリーニの開発した方法で移植を受けた患者は21人で、そのうち16人が死亡または死亡したとみられる。生存が分かっているのは、カスティロとロシア人男性の2人だけである(18)。

マッキャリーニが手術に加わっていない移植でも、死亡例がある(18, 19, 10)。

  • 2011年3月2日、スウェーデンのヨーテボリの別の医師グループが、高齢の患者にドナー気管による移植を行なった。患者は23日後に死亡した。
  • 2011年9月29日、英国のバーチャル教授は、マッキャリーニ抜きで、若い英国人女性のケザイア・ショーテン(Keziah Shorten)にプラスチック製気管を移植した。ショーテンは、2010年7月にイタリアでマッキャリーニからドナー気管の移植を受けていた。2回目の移植の約4か月後の2012年1月、ショーテンは死亡した。
  • 2012年2月15日、英国のバーチャル教授とエリオット医師のチームは、マッキャリーニ抜きで、15歳の女子のショーナ・デイヴィソン(Shauna Davison)にドナー気管による移植を行なった。2012年3月6日、手術の約3週間後、デイヴィソンは死亡した。

なお、米国人のライルスとトルコ人のチェティルの手術を執刀したのはマッキャリーニの部下のフィリップ・ユンゲブルート(Philipp Jungebluth)で、マッキャリーニの役割は明記されていない、という記述もある(18)。

栄光の絶頂にあったマッキャリーニ。しかし、その足元では、論文に書かれた「成功」と、病室の現実との食い違いが積み重なっていた。

《4》疑惑の時代(2012~2015年)

2008~2011年の4年間に、マッキャリーニは世界の超有名外科医となった。しかし、2012年から少しずつ暗転する。

★2012年:イタリアで逮捕、論文の盗用撤回

2012年9月29日(54歳)、イタリア・フィレンツェのカレッジ病院(Careggi Hospital)の患者を私的な手術に誘導し、金銭を要求したなどとして、マッキャリーニはイタリアの検察当局に告発され、自宅軟禁となった(Arrestato il superchirurgo Macchiarini «Approfittava della fragilità dei malati» – Corriere Fiorentino)(14)。

2012年11月(54歳)、学術誌「Ann Thorac Surg」は、2012年のマッキャリーニの論文を撤回した。他人の2007年論文の表を無断で使用(つまり、盗用)したためである(“Misconduct” leads to retraction from Italian “super surgeon” under house arrest – Retraction Watch)。

★2014年:ルーヴェンの教授とカロリンスカの医師4人の公益通報

2030142014年6月(55歳)、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学(KU Leuven)のピエール・デレア(Pierre Delaere)教授(写真出典)が、カスティロの手術に関する論文のデータねつ造を指摘した(1)。

デレア教授は気管移植の専門家で、2008年以来、マッキャリーニの手法は科学的に成り立たないと批判してきた。

そして、2014年6~9月(55~56歳)、カロリンスカ医科大学病院でマッキャリーニとともに手術に加わった医師4人、マティアス・コルバシオ(Matthias Corbascio)、トーマス・フクス(Thomas Fux)、カール=ヘンリク・グリネモ(Karl-Henrik Grinnemo)、オスカー・シモンソン(Oscar Simonson)が、7論文の記述が実際の医療記録と異なると公益通報した(1)。

例えば、「ランセット」の2011年論文は、プラスチック製気管の表面は「ほとんど健康な上皮細胞で部分的におおわれていた」と記述していた。しかし、生体組織検査のリポートにそういう証拠はなかった。また、「移植された気管は、ほぼ正常の気道として働いていた」と記述されていたが、気管支鏡の記録では、気管と気管支の間にすき間があり、ステントが必要だった(Investigations launched into artificial tracheas : Nature News & Comment、2014年11月28日、デイヴィッド・シラノスキー(David Cyranoski))。

4人はさらに、3人の患者のうち2人のカルテにインフォームドコンセントの記録がなく、唯一の記録は手術の17日後に患者がサインしたものだったと主張した。マッキャリーニは「手術前にインフォームドコンセントを得ています。倫理違反は絶対にありません」と反論した(同上)。

驚いたことに、正義の告発者である4人は、ひどい報復を受けた。患者のプライバシーを侵害したとして「即刻解雇だ」と脅され、警察の事情聴取を受け、心臓胸部外科長から正式な警告を受けた。告発者の1人・グリネモは「私とコルバシオは、カロリンスカで最も嫌われている2人のようだった」と述べている(7)。

★2015年:ガーディン報告は「クロ」、学長は「シロ」

2014年11月(56歳)、カロリンスカ医科大学は外部調査者として、ウプサラ大学のベング・ガーディン(Bengt Gerdin、写真出典)名誉教授にネカト調査を委嘱した(1)。

ガーディン名誉教授が調査している間の2015年3月(56歳)、カロリンスカ医科大学の倫理委員会は、前項のデレア教授の告発を「研究倫理ではなく科学理論の問題」として退けた(1)。

一方、2015年5月13日(56歳)、ガーディン名誉教授は、ネカト調査の結果、7論文でマッキャリーニが研究不正をしたと結論した(1)(詳細は《6》)。英語版の報告書(42ページ)は2015年5月27日に公表された(Karolinska releases English translation of misconduct report on trachea surgeon | Science)。

以下は「撤回監視(Retraction Watch)」が公表した英語版の報告書(42ページ)の冒頭部分(出典:同)。→  ココ.

2015年6月22日(56歳)、スウェーデン研究評議会(Swedish Research Council)は、マッキャリーニへの研究費支給を凍結した(1)。

2015年6月26日(56歳)、マッキャリーニは24ページの反論をハムステン学長に送付した。

2015年6月29日(56歳)、「ランセット」2011年論文の共著者であるカロリンスカ医科大学のオラ・ハーマンソン(Ola Hermanson)上級研究員は、ガーディン報告書に「重要な欠陥と間違いがある」と発表した。

2015年8月28日(57歳)、カロリンスカ医科大学のアンダース・ハムステン学長(Anders Hamsten、写真出典)は、マッキャリーニの研究は「質の基準を満たしていない」が、研究不正ではないとして、「無罪」と裁定した(1)(Regenerative Medicine Researcher Cleared of Scientific Misconduct Charges – The New York Times)。

驚いたことに、なんと、ハムステン学長が「無罪」を発表した記者会見に告発者が出席できないよう、カロリンスカ医科大学は警備員まで雇った。

「ランセット」誌は社説でこの裁定を歓迎し、マッキャリーニは「無罪」だと宣言した(7)。

2015年12月(57歳)、しかし、ガーディン名誉教授は、自分の「クロ」の結論は変わらないと表明した(1)。エライ。

調査結果を尊重しないハムステン学長の裁定ではあったが、世間的には、これで、一件落着と思われた。

大学に守られ、「ランセット」誌にも擁護されたマッキャリーニだった。

この流れを変えたのは、科学者でも大学でもなく、ジャーナリストだった。

《5》断罪の時代(2016年~現在):解雇・撤回・裁判

★2016年1月:ヴァニティ・フェア誌とドキュメンタリー番組での悪事発覚

2016年1月5日(57歳)、米国の月刊総合誌「ヴァニティ・フェア」誌は、アダム・シラルスキー(Adam Ciralsky)の記事「NBCニュースのプロデューサーを、愛とお金とローマ法王で騙したセレブ外科医(The Celebrity Surgeon Who Used Love, Money, and the Pope to Scam an NBC News Producer)」を掲載した(8)。

勿論、セレブ外科医とはマッキャリーニのことである。ベニータ・アレキサンダーとの偽装婚約に加え、マッキャリーニの履歴書の虚偽も指摘した。

2024年1月2日(65歳)、「ヴァニティ・フェア」誌は社交メディアでもこの記事を再び紹介した(以下の埋め込み)。

2016年1月13~27日(57歳)、スウェーデン公共放送(SVT)は、ボッセ・リンドクヴィスト(Bosse Lindquist)制作のドキュメンタリー番組「実験(Experimenten)」3回シリーズを放送した。

この「実験(Experimenten)」は、マッキャリーニの治療で、苦しむ患者の映像、死亡の経緯、倫理違反を伝え、スウェーデン社会に衝撃を与えた(1)。番組は、2016年、米国のAAASカヴリ科学ジャーナリズム賞(テレビ・詳細報道部門)の金賞を受賞した(2016年11月16日記事:Winners Named for the 2016 AAAS Kavli Science Journalism Awards)。

【動画】
「マッキャリーニ」と紹介。AAASカヴリ科学ジャーナリズム賞(AAAS Kavli Science Journalism Awards)の受賞作紹介動画。スウェーデン公共放送(SVT)のアンナ・ノルドベック(Anna Nordbeck)が、マッキャリーニによる人工気管の欠陥を明らかにした自身のチームの調査と発見について語っている。マッキャリーニに関する調査でカロリンスカ医科大学が果たした役割や、不正行為を一切否定するマッキャリーニの協力を維持する難しさについて振り返っている。この一連の報道で、2016年のテレビ部門「詳細報道(In-Depth Reporting)」で金賞を受賞した。「”A picture that did not at all reflect reality” : Surgeon Paolo Macchiarini」、(英語)5分31秒。AAAS_org(チャンネル登録者数 9610人)が2018/04/05にアップロード。

★2016年2~9月:解雇と、カロリンスカ首脳陣の総退陣

2015年8月にカロリンスカ医科大学のハムステン学長が、マッキャリーニを「無罪」と裁定したが、前節で述べたように、約4か月後の2016年1月のヴァニティ・フェア誌とドキュメンタリー番組で悪行が暴露され、事態は急変した(1)。

  • 2016年2月4日(57歳):ハムステン学長は、マッキャリーニの契約を延長しないと決定。弁護士のステン・ヘクシャー(Sten Heckscher)を長とする外部調査を開始
  • 2016年2月13日(57歳):ハムステン学長が辞任
  • 2016年2月(57歳):マッキャリーニ採用を推進したノーベル委員会のウルバン・レンダール事務局長が辞任(2)
  • 2016年2月22日(57歳):医学部長のハンス=グスタフ・リュングレン(Hans-Gustaf Ljunggren)が辞任。マッキャリーニに解雇予告
  • 2016年3月23日(57歳):カロリンスカ医科大学の職員懲戒委員会が、マッキャリーニを解雇
  • 2016年6月22日(57歳):スウェーデン警察が業務上過失致死の容疑者としてマッキャリーニを聴取
  • 2016年8月31日(58歳):シェル・アスプルンド(Kjell Asplund)の調査報告書が、カロリンスカ医科大学と大学病院の両方を批判
  • 2016年9月2日(58歳):大学理事長のラーシュ・レイヨンボリ(Lars Leijonborg)が辞任
  • 2016年9月5日(58歳):ヘクシャー報告書が、カロリンスカ医科大学はマッキャリーニの採用時に十分な調査をせず、「規則を十分に顧みなかった」と批判。スウェーデン政府は大学理事会の全理事の交代に動いた(2)

マッキャリーニを採用した元学長のハリエット・ヴァルベリ(Harriet Wallberg)とハムステン前学長は、ノーベル生理学・医学賞の選考組織(ノーベル・アセンブリー)からも外された(2)。

★2016~2018年:研究不正の認定と論文撤回

  • 2016年9月9日(58歳):スウェーデン中央倫理審査委員会の専門家グループが、「ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)」2014年論文でマッキャリーニの研究不正を認定(1)
  • 2016年12月20日(58歳):カロリンスカ医科大学が、同論文でマッキャリーニと共著者3人の研究不正を決定(1)
  • 2017年3月21日(58歳):同論文を著者が撤回(1)
  • 2017年10月30日(59歳):中央倫理審査委員会の専門家グループが、6論文に研究不正があり撤回すべきと結論(Six papers by disgraced surgeon should be retracted, report concludes | Science)
  • 2018年1月30日(59歳):カロリンスカ医科大学が、「Respiration」2015年論文で4人の研究不正を決定(Retraction Watch)
  • 2018年6月25日(59歳):カロリンスカ医科大学が、マッキャリーニら7人を研究不正と認定し、6論文の撤回を要請(4, 5)
  • 2018年7月10日(59歳):「ランセット」が2011年論文と2012年論文の2論文を撤回(11)

なお、2018年6月25日(59歳)、研究不正と認定された7人には、告発者のグリネモも含まれていた。グリネモは「この決定の後では、誰も研究について告発しなくなるだろう」と抗議した(5)。

★イタリアの裁判:有罪から逆転無罪

2019年11月25日(61歳)、イタリアの裁判所は、文書偽造と職権乱用でマッキャリーニに禁錮1年4か月の判決を下した(13)。

しかし、2021年1月18日(62歳)、イタリアの最高裁判所である破棄院(Corte di Cassazione)は、マッキャリーニと同僚3人を無罪とした。2012年の逮捕から9年、当初19件あった容疑はすべて消えた(14)。

★スウェーデンの刑事裁判:禁錮2年6か月が確定

マッキャリーニはイタリアでは無罪となったが、スウェーデンでは、そうは問屋がおろし大根。

  • 2017年10月12日(59歳):検察は、証拠不十分として刑事捜査を終結(ただし、5件中4件で過失を認めた)(1, 2)
  • 2018年12月11日(60歳):検事総長が刑事捜査を再開(1)
  • 2020年9月29日(62歳):カロリンスカ医科大学病院の患者3人に対する重傷害罪で起訴(Sweden charges Italian surgeon with assault over world-first synthetic trachea transplants – The Telegraph)
  • 2022年6月16日(63歳):ソルナ地方裁判所は、患者1人について傷害罪で有罪(執行猶予)、残る2人については無罪とした(1)(Barron’s)
  • 2023年6月21日(64歳):スヴェア控訴裁判所(Svea hovrätt)は、患者3人全員への重傷害罪で、禁錮2年6か月の実刑とした(1, 12)
  • 2023年10月30日(65歳):スウェーデン最高裁判所が上告を受理せず、刑が確定(1)
  • 2024年3月(65歳):スウェーデン当局が、スペインでの服役を認めた。マッキャリーニはスペインに住所があり、スペインで服役するほうが社会復帰しやすいとの判断である(Sweden allows windpipe surgeon to serve prison term in Spain – The Local)
  • 2024年9月(66歳):スペイン・カタルーニャ州のクアトレ・カミンス刑務所(Quatre Camins)に収監された(9)

2023年6月21日(64歳)、判決後の記者会見で、マッキャリーニは「最初の警察の捜査では証明されなかったのに、この裁判所は私が3人の患者を害する意図を持っていたとした」と不満を述べた(12)。

刑期2年6か月の満了は、単純計算で2027年3月頃となる(白楽の推定)。スペインの仮釈放制度で早まる可能性はあるが、2026年10月26日現在、服役中と思われる。

★2023年以降:最後の撤回と、残る論文

  • 2023年9月20日(65歳):スウェーデン研究不正審査委員会(Npof)が、「ランセット」論文で3人の研究不正を認定(1)
  • 2023年10月5日(65歳):スウェーデン研究不正審査委員会(Npof)が、「Biomaterials」論文で4人の研究不正を認定(1)
  • 2023年10月28日(65歳):「ランセット」が、カスティロの手術を記述した2008年論文と、その5年後の追跡調査の論文を撤回。ねつ造・改ざんが理由である(6)
  • 2024年1月3日(65歳):「Biomaterials」が論文を撤回(1)
  • 2025年7月(66歳):英国の元・循環器専門医のピーター・ウィルムズハースト(Peter Wilmshurst)とリバプール大学のパトリシア・マレー(Patricia Murray、写真出典)教授が、カスティロの手術を記述した「Biomaterials」の2009年と2010年の2論文の撤回を要請(3)
  • 2026年8月26日(68歳):「撤回監視(Retraction Watch)」によれば、出版社エルゼビア(Elsevier)は1年以上たっても「近く調査する」と述べるだけだった(3)

★英国側の責任は問われていない

2025年8月19日(66歳)、ウィルムズハーストは、マッキャリーニが服役している一方、2008年の「ランセット」論文の最後著者で、英国でも人工気管移植を行なったマーチン・バーチャル(ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン・教授、写真出典)は、刑事責任を問われないどころか、英国の「国家臨床功労賞(National Clinical Impact Award)」(年額約3万ポンド:約420万円)を受けていると批判した(10)。

★本・映像・オペラ

マッキャリーニ事件は多くの作品になった。

【動画】
「マッキャリーニ」と「マッカリーニ」の中間の発音。パウロ・マッキャリーニ事件を丁寧に説明している。「Bad Medicine: The Downfall of Paolo Macchiarini」、(英語)1時間30分25秒、True Crime Brewery(チャンネル登録者数 4.95万人)が2018/11/06 にアップロード。

【動画】
「マッキャリーニ」と発音。パウロ・マッキャリーニ事件を基にした米国のドラマ「Dr. Death | Season 2」の宣伝動画。登場人物は役者で本人ではない。「Dr. Death | Season 2 | Official Trailer | Peacock Original」、(英語)2分21秒、Peacock(チャンネル登録者数 346万人)が2023/11/29にアップロード。

《6》研究不正の具体的内容

★一目でわかる:論文に書かれたことと、実際に起きたこと

表1.論文に書かれたことと、実際に起きたこと

患者・論文 論文の記述 実際に起きたこと
カスティロ
2008年「ランセット」論文
「患者はすぐに正常な気道を持つことができた」
「4か月後も、組織の外観や機械的性質は正常だった」(16)
気管はすぐに狭くなり、ステントを入れる処置を繰り返した
2016年、左肺を切除(6)
カスティロ
2014年「ランセット」5年追跡論文
「4か月の時点で合併症なし」 ステントを挿入していた事実を隠していた(6)
ベイエン
2011年「ランセット」論文
「重篤な合併症は認められなかった」
「5か月の時点で無症状かつ腫瘍のない状態だった」(17)
人工気管は機能せず、処置を繰り返した
2014年1月、死亡(1)

作表:Anthropic Claude

★2015年のガーディン報告書

ガーディン名誉教授の報告書は、7論文に研究不正があると結論した(Misconduct found in 7 papers by Macchiarini, says English write-up of investigation – Retraction Watch)。主な指摘は以下である。

  1. 「Nature Communications」2014年論文:論文の記述が実際の実施内容と一致しない。動物実験の記述にも多くの問題がある。
  2. 「Lancet」2011年論文:投稿前に患者を診察して状態を記述していない。経過を実際より良く記述した。
  3. 「Lancet」2011年論文:倫理審査の承認やインフォームドコンセントを得ていないのに、「得ていた」と記述した。
  4. 「J Biomed Mater Res A」2014年論文:手術の12か月後、患者の健康がとても危険な状況なのに、経過は良好と記述した。
  5. 「Thorac Surg Clin」2014年論文:患者に新たな手術が必要になった事実を記述せず、手術結果を取りつくろった。
  6. 「Biomaterials」2014年論文:患者の死亡の主原因を記述せず、術後の些末な問題を記述した。

つまり、手術がうまくいかなかったのに、うまくいったように論文に書いたのである。これは「改ざん」である。

★2018年のカロリンスカ医科大学の決定

2018年6月25日(59歳)、カロリンスカ医科大学のカリン・ダールマン=ライト(Karin Dahlman-Wright、写真出典)学長代行は、以下の6論文の撤回を要請した。患者の状態の虚偽記述、倫理審査の承認の欠如などを認定した(4, 5)。

  1. 「Tracheobronchial transplantation with a stem-cell-seeded bioartificial nanocomposite」(Lancet、2011年)
  2. 「Engineered whole organs and complex tissues」(Lancet、2012年)
  3. 「Verification of cell viability in bioengineered tissues and organs before clinical transplantation」(Biomaterials、2013年)
  4. 「Are synthetic scaffolds suitable for the development of clinical tissue-engineered tubular organs?」(J Biomed Mater Res A、2014年)
  5. 「Airway transplantation」(Thorac Surg Clin、2014年)
  6. 「Biomechanical and biocompatibility characteristics of electrospun polymeric tracheal scaffolds」(Biomaterials、2014年)

研究不正とされた7人は、マッキャリーニ、カール=ヘンリク・グリネモ、フィリップ・ユンゲブルート(Philipp Jungebluth)、ヤン・エリク・ユート(Jan Erik Juto)、アレキサンダー・セイファリアン、トーマス・グドビャルトソン(Tomas Gudbjartsson)、カタリナ・ル・ブラン(Katarina Le Blanc)である(5)。

★2023年のスウェーデン研究不正審査委員会(Npof)の決定:「ランセット」2008年論文

2023年9月20日(65歳)、スウェーデン研究不正審査委員会(Npof)は、「ランセット」2008年論文と2014年の5年追跡論文に「複数の箇所でねつ造と改ざん」があると認定した。2008年論文は、移植片の直後の成功を偽って記述し、5年追跡論文は、4か月の時点で「合併症なし」と記述しながら、ステントを挿入した事実を隠していた(6)。


●3.【本件から学ぶ研究不正】

《1》臨床研究の不正は人を殺す

実験室の研究不正なら、被害は研究費(国民の税金)と学術記録と共同研究者である。しかし、臨床研究の不正は、患者の命を奪う。

マッキャリーニは、論文で手術の「成功」を書き続けた。その論文を信じて、医師は手術を行ない、患者は治る希望を抱いて手術を受け、そして死亡した。ハナ・ウォレンの両親も、ロシアの患者も、「ランセット」に載った「成功」を信じたのである。論文の改ざんが、犠牲者を生んだ。

マッキャリーニが開発した方法で手術を受けた患者21人のうち16人が死亡した(含・推定)。[白楽注:16人の死亡はほぼ確定である。生存とされる数人も、最新の消息は2020~2023年の報道で、その後は不明である。しかも、カスティロは左肺を切除し、オノグダは人工気管を取り外して生き延びた。つまり、人工気管が機能して生存した患者は、ほぼいないと白楽は推定している。]

さらに、プラスチック製気管は動物実験すらされておらず(10)、カロリンスカ医科大学は倫理審査が未承認だったと認定した(5)。「他に治療法がない患者への緊急避難的な使用」という名目で、未検証の手術が繰り返された。

人間がモルモットである。まったく、なんていうことだ!

《2》大学は、告発者ではなく、スター研究者を守った

カロリンスカ医科大学は、外部調査者のガーディン名誉教授が「クロ」と結論したのに、それを覆して「シロ」とした。告発者4人を脅し、警察に聴取させ、最後には告発者の1人を研究不正者と認定した(5, 7)。

大学がこの姿勢を改めたのは、研究公正の仕組みが働いたからではない。「ヴァニティ・フェア」誌とSVTのテレビ番組という、外部のメディアがマッキャリーニのウソと悪行を暴露したからである。

大学が、所属研究者の身分と大学の評判を守る方向に働いた典型例である。

ここで、ひっくるめて「大学」と書いているが、実態は無機質の「大学」が判定しているわけではない。「大学」の中の人間が判定しているのである。つまり、マッキャリーニ採用を推進したハムステン学長やウルバン・レンダール(ノーベル委員会の事務局長)などが自分の身分と評判を守るために、マッキャリーニを「シロ」と判定したと思われる。

《3》誰が、何をどうすべきだったか?

第一に、カロリンスカ医科大学は、2010年、マッキャリーニの採用時に履歴書と過去の手術成績を調べるべきだった。2014年の告発時には、ガーディン報告書の結論を尊重し、告発者を保護すべきだった。

第二に、カロリンスカ医科大学病院は、動物実験も倫理審査もない手術を、「同情的使用」の名目で許すべきではなかった。

第三に、「ランセット」誌など学術誌は、2014年の告発の時点で、医療記録との照合を著者に求めるべきだった。実際には、2015年の「無罪」裁定を社説で歓迎し、2008年論文の撤回は2023年まで遅れた。「Biomaterials」の2論文は、2026年8月時点でもまだ撤回されていない(3)。


●4.【白楽の感想】

《1》2015年の白楽の見解は間違っていた

2015年7月4日、本記事の初版で、白楽は以下のように書いた。

「ルーヴェン・カトリック大学のピエール・デレア教授の告発内容も、ウプサラ大学病院のベング・ガーディン名誉教授の告発内容も、あまりに些末で、重箱の隅のさらに隅をつついているように思える。(中略)告発内容が、あまりに些末で、なんかおかしい。研究ネカトの純粋な事件とは思えない。経済抗争や政治抗争がらみの事件ではないのだろうか?」

また、「Lancetの2011年論文」の共著者であるグリネモが、自分の論文を告発するのは「ヘンだ」とも書いた。

この見解は間違っていた。告発内容は些末ではなかった。「患者の状態が良好」という記述は、論文の結論そのものであり、それが虚偽であれば、論文は成り立たない。そして、その虚偽の論文を信じて、医師は手術を行ない、患者は治る希望を抱いて手術を受け、死亡した。

共著者のグリネモが告発したのは、共著者だからこそ、医療記録と論文の食い違いに気づいたからである。告発は、共著者の責任の取り方として、むしろ正しかった。

白楽が2015年に読み違えたのは、カロリンスカ医科大学の「無罪」裁定と、「ランセット」誌の擁護という「権威」に引きずられたからだと思う。白楽は凡人である。権威ある機関の判断が、必ずしも正しいとは限らないと、自戒を込めて記録する。

ただ、「ヴァニティ・フェア(Vanity Fair)」誌の暴露記事などでマッキャリーニの悪行が発覚したのは2016年1月である。2015年7月4日の白楽の初版記事の時点では、マッキャリーニの悪行は知られていなかった。

とはいえ、何を信じて良いのか? 難しい!

《2》ノーベル賞の殿堂の腐敗

カロリンスカ医科大学は、ノーベル生理学・医学賞の選考機関(ノーベル・アセンブリー)がある大学である。その大学が、スター外科医を守るために、告発者を冷遇し、外部調査の結論を覆した。

そして、マッキャリーニ採用を推進したノーベル委員会の事務局長が辞任し、元学長2人がノーベル賞選考機関(ノーベル・アセンブリー)から外された。世界最高の権威と信じられていた組織の人々でも、スター研究者を守るために不正をかばったのである。

日本の大学でも、研究費を稼ぐスター研究者を守る構造は同じである。読者のあなたが告発者4人の立場だったら、解雇の脅しを受けても、告発を続けられただろうか?

《3》英国側の責任

マッキャリーニは服役した。しかし、2008年の「ランセット」論文の最後著者であるバーチャル教授、プラスチック製気管を作ったセイファリアン教授、そして英国で子供に人工気管移植をした病院の責任は、英国では十分に問われていない(ウィルムズハーストの主張(10))。

ネカト者処分の白楽原則:「受益割合と同じ割合で不正の責任を負う」・・・論文著者は全員、著者としての利益を得るので、その論文に不正が見つかれば、不正者として責任がある。その割合は受益の割合と同じ割合にすべきである。

英国では、正義は何処に?

日本人のお前が、どの口で言うか? ハイ、自分のことを棚に上げています。

ーーーーーー
研究不正が患者を殺した。そして、大学も学術誌も、それを止めなかった。止めたのは、4人の告発者と、ジャーナリストだった。研究公正の仕組みは、告発者を守ることから始まる。
ーーーーーー


●5.【補助記述】

《1》事件早見表

  • 国:スウェーデン
  • 成長国:イタリア(スイス生まれ)
  • 医師免許取得:ピサ大学、1986年(28歳)
  • 研究博士号(PhD)取得:フランシュ=コンテ大学(本人の履歴書による)
  • 男女:男性
  • 生年月日:1958年8月22日
  • 現在の年齢:68歳
  • 分野:胸部外科・気管外科・再生医療(組織工学)
  • 不正論文発表:2008~2015年(49~57歳)
  • 不正論文発表時の地位:バルセロナ大学・教授、カロリンスカ医科大学・客員教授
  • 発覚年:2014年(55歳)(2012年に盗用で1論文撤回)
  • 発覚時地位:カロリンスカ医科大学・客員教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は、ルーヴェン・カトリック大学のピエール・デレア教授と、カロリンスカ医科大学病院の医師4人(コルバシオ、フクス、グリネモ、シモンソン)の公益通報
  • ステップ2(メディア):「ヴァニティ・フェア」誌、スウェーデン公共放送(SVT)、「撤回監視(Retraction Watch)」、「サイエンス」誌、「ネイチャー」誌
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①カロリンスカ医科大学(2015年「無罪」→2016年解雇、2018年クロ)、②スウェーデン中央倫理審査委員会(2016年、2017年クロ)、③スウェーデン研究不正審査委員会(Npof)(2023年クロ)、④スウェーデンの裁判所(2023年禁錮2年6か月確定)
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:あり(ガーディン報告書、ヘクシャー報告書、アスプルンド報告書など)
  • 大学の透明性:2015年までは不透明(告発者を冷遇)。2016年以降は公表(〇)
  • 不正:ねつ造・改ざん、盗用、倫理違反(倫理審査・インフォームドコンセントの欠如)
  • 不正論文数:撤回15論文(パブメド、2026年10月)
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:カロリンスカ医科大学を2016年3月(57歳)に解雇。ロシアのカザン連邦大学の職も2017年4月に終了(2)
  • 処分:解雇。スウェーデンで禁錮2年6か月(重傷害罪)、2024年9月からスペインで服役
  • 対処問題:大学が外部調査の結論を覆して「無罪」とし、告発者を冷遇した
  • 特徴:研究不正が患者の死と直結した。ノーベル賞選考機関の首脳陣が辞任
  • ランキング:① 全期間ランキングの31で第3位、② 2017年の科学大スキャンダル6件の1つ、③ 2021年の★5、④ 2023年の★5
  • 日本人の弟子・友人:不明

《2》学歴・職歴・研究不正歴

  • 1958年8月22日(0歳):スイスのバーゼルで誕生
  • 1979~1986年(21~28歳):イタリアのピサ大学。医師免許
  • 1986年(28歳):エマヌエラ・ペッキアと結婚
  • 1986~1991年(28~33歳):ピサ大学・一般外科・医師
  • 1990~1991年(32~33歳):米国・アラバマ大学バーミンガム校(本人の履歴書による)・研究員(?)
  • 1991~1997年(33~39歳):フランスのフランシュ=コンテ大学。研究博士号(PhD)取得(本人の履歴書による)
  • 1995~1999年(37~41歳):フランス・パリのマリーランロン病院・医師
  • 1999~2004年(41~46歳):ドイツのハノーバー医科大学院・ヘイデハウス病院・医師
  • 2005~2009年(47~51歳):スペインのバルセロナ大学・教授、バルセロナ病院・医師
  • 2008年6月(49歳):カスティロに世界初の幹細胞人工気管移植
  • 2008年11月(50歳):「ランセット」論文を出版(2023年に撤回)
  • 2010年1月(51歳):英国のユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン・名誉客員教授
  • 2010年3月(51歳):ロンドンでキアラン少年に移植
  • 2010年秋(52歳):カロリンスカ医科大学・客員教授、カロリンスカ医科大学病院・外科医
  • 2011年6月9日(52歳):ベイエンに世界初の幹細胞プラスチック気管移植
  • 2011年(53歳):ロシアのクバン国立医科大学の職を得る
  • 2011年11月(53歳):ライルスに移植。「ランセット」2011年論文を出版(2018年に撤回)
  • 2012年3月(53歳):ライルスが死亡
  • 2012年9月29日(54歳):イタリアで自宅軟禁
  • 2012年11月(54歳):「Ann Thorac Surg」論文を盗用で撤回
  • 2013年4月(54歳):米国でハナ・ウォレンに移植。ハナ・ウォレンは7月6日に死亡
  • 2013年(55歳):カロリンスカ医科大学病院が人工気管手術を中止。外科医契約は更新されず。ベニータ・アレキサンダーと交際
  • 2014年1月(55歳):ベイエンが死亡
  • 2014年6~9月(55~56歳):デレア教授と、カロリンスカ医科大学病院の医師4人が公益通報
  • 2015年5月13日(56歳):ガーディン名誉教授が研究不正と結論
  • 2015年8月28日(57歳):ハムステン学長が「無罪」と裁定
  • 2016年1月(57歳):「ヴァニティ・フェア」誌の暴露記事、SVTのドキュメンタリー番組「実験」
  • 2016年2月13日(57歳):ハムステン学長が辞任
  • 2016年3月23日(57歳):カロリンスカ医科大学を解雇
  • 2016年9月5日(58歳):ヘクシャー報告書
  • 2017年3月21日(58歳):「Nature Communications」論文を撤回。2日前の19日にチェティルが死亡
  • 2017年10月30日(59歳):専門家グループが6論文の撤回を勧告
  • 2018年6月25日(59歳):カロリンスカ医科大学がマッキャリーニら7人を研究不正と認定
  • 2018年7月10日(59歳):「ランセット」が2論文を撤回
  • 2019年11月25日(61歳):イタリアで禁錮1年4か月の判決
  • 2020年9月29日(62歳):スウェーデンで重傷害罪で起訴
  • 2021年1月18日(62歳):イタリアの破棄院が禁錮1年4か月の判決を破棄し、無罪
  • 2022年6月16日(63歳):スウェーデンのソルナ地方裁判所で1人について傷害罪、執行猶予
  • 2023年6月21日(64歳):スウェーデンのスヴェア控訴裁判所で禁錮2年6か月
  • 2023年10月28日(65歳):「ランセット」が2008年論文など2論文を撤回
  • 2023年10月30日(65歳):スウェーデン最高裁判所が上告を受理せず、刑が確定
  • 2024年1月3日(65歳):「Biomaterials」が論文を撤回
  • 2024年3月(65歳):スウェーデン刑務所局(Kriminalvården)が、スペインでの服役を求める本人の申請を認めた。理由は「スペインに住所があり、スペインで服役するほうが社会復帰が容易になる。移送は適切と判断する」というもの。
  • 2024年9月(66歳):スペイン・カタルーニャ州のクアトレ・カミンス刑務所に収監
  • 2025年7月(66歳):ウィルムズハーストらが「Biomaterials」2論文の撤回を要請
  • 2026年10月(68歳):服役中(推定)

《3》出版論文数・h指数・評価・撤回論文数・疑惑論文数

〈ここはAIではなく、白楽が書いた〉

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★ScholarGPS

ScholarGPSでは、パウロ・マッキャリーニ(Paolo Macchiarini)の出版論文数、Predicted citations(予測被引用数)、Predicted h-index(予測h指数)は示されていなかった。

年次別の出版数と被引用数は以下の通り。Paolo Macchiarini | Scholar Profiles and Rankings | ScholarGPS

★パブメド(PubMed)

2026年10月26日現在、パブメド(PubMed)で、パウロ・マッキャリーニ(Paolo Macchiarini)の論文を「Paolo Macchiarini[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2026年の25年間の116論文がヒットした。

2026年10月26 日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、2008~2015年の15論文が撤回されていた。

撤回論文は、「ランセット(Lancet)」4論文、「Biomaterials」3論文、「Nature Communications」1論文、「Ann Thorac Surg」1論文などである。なお、「撤回監視(Retraction Watch)」の2026年8月26日の記事は、撤回数を13論文としている(3)。登録モレまたは登録の遅れが生じているためと思われる。

★撤回監視データベース

白楽注:「撤回監視(Retraction Watch)」へのリンクが作動しないことがある。その時は、https://retractiondatabase.org/をクリックし、検索語を入れてください。

2026年10月26日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでパウロ・マッキャリーニ(Paolo Macchiarini)を「Paolo Macchiarini」で検索すると、 13論文が2012~2024年に撤回されていた。

なお、2024年10月14日の撤回を最後に、その後の撤回論文はデータベースに入っていない。つまり、2026年10月1日の「Transplantation」論文の撤回情報が入っていない。この頃、このような未記入が目に付く。このデータベースは2023年にクロスレフ(Crossref)が取得している。移管後に登録モレまたは登録の遅れが生じている気がする。

★パブピア(PubPeer)

2026年10月26日現在、「パブピア(PubPeer)」で、パウロ・マッキャリーニ(Paolo Macchiarini)の論文のコメントを「authors:”Paolo Macchiarini”」で検索すると、36論文にコメントがあった。


《4》日本語の記事

《5》主要情報源

(1) カロリンスカ医科大学のウェブ記事:The Macchiarini case: Timeline | Karolinska Institutet

(2) ウィキペディア英語版:Paolo Macchiarini – Wikipedia

(3) 2026年8月26日の「Retraction Watch」記事:Elsevier to ‘soon investigate’ two Macchiarini papers more than a year after retraction request – Retraction Watch

(4) 2018年6月25日のカロリンスカ医科大学のニュース:Seven researchers responsible for scientific misconduct in Macchiarini case | Karolinska Institutet

(5) 2018年6月25日の「Retraction Watch」記事:Karolinska finds Macchiarini, six other researchers guilty of misconduct – Retraction Watch

(6) 2023年10月27日の「Retraction Watch」記事:Lancet retracts two more papers by convicted surgeon Paolo Macchiarini – Retraction Watch

(7) 2024年5月17日のカール・エリオット(Carl Elliott)教授の「Retraction Watch」記事(書籍からの抜粋):How the Karolinska protected Paolo Macchiarini — and whistleblowers paid the price – Retraction Watch。書籍:The Occasional Human Sacrifice | Carl Elliott | W. W. Norton & Company

(8) 2016年1月5日のアダム・シラルスキー(Adam Ciralsky)記者の「Vanity Fair」記事:The Celebrity Surgeon Who Used Love, Money, and the Pope to Scam an NBC News Producer | Vanity Fair

(9) 2025年4月の「Ara」記事:Paolo Macchiarini, the Clínic surgeon known as ‘Doctor Mort’, is already serving a sentence in a Catalan prison | Ara in English

(10) 2025年8月19日のピーター・ウィルムズハースト(Peter Wilmshurst)のブログ記事:Stem cell scandal: prison for one surgeon, pay bonus for another – Dr Peter Wilmshurst

(11) 2018年7月10日のニーシャ・ゲインド(Nisha Gaind)記者の「Nature」記事:Top medical journal retracts papers by disgraced trachea surgeon | Nature

(12) 2023年6月21日の「Sveriges Radio」記事:Surgeon Paolo Macchiarini gets jail term after appeals court verdict – Radio Sweden

(13) 2019年11月25日のマイケル・デイ(Michael Day)記者の「BMJ」記事(2025年9月29日の編集部注で、2021年の破棄院による判決破棄を追記):Disgraced tracheal transplant surgeon is handed 16 month prison sentence in Italy | The BMJ

(14) 2021年1月18日の「Firenze Post」記事:Cassazione: assolto il chirurgo Macchiarini, mago dei trapianti di trachea – Firenze Post

(15) 2010年2月4日にカロリンスカ医科大学に提出したマッキャリーニの履歴書(PDF):Qualifications portfolio for teachers and researchers at Karolinska Institutet: Curriculum vitae

(16) 2008年12月13日の「Lancet」論文(2023年撤回):Clinical transplantation of a tissue-engineered airway – PubMed

(17) 2011年12月10日の「Lancet」論文(2018年撤回):Tracheobronchial transplantation with a stem-cell-seeded bioartificial nanocomposite: a proof-of-concept study – PubMed

(18) 2017年6月16日(2023年12月20日更新)のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の「より良い科学のために(For Better Science)」記事:Macchiarini’s trachea transplant patients: the full list – For Better Science

(19) 2017年6月1日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の「より良い科学のために(For Better Science)」記事:Keziah’s deadly trachea transplant: UCL hospital’s secret – For Better Science

(20) その他(2015年版の【追記】に掲載していた記事)

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