7-199 APCトラップと学術出版の問題点

/2026年10月10日(土)掲載/

研究者倫理と関係するかな、と思って読み始めた論文だったけど、関連は薄かった。米国の研究大学(コロラド大学ボルダー校、マサチューセッツ大学アマースト校、テネシー大学ノックスビル校、ピッツバーグ大学)に所属する研究者がオープンアクセス(OA)出版をどう思っているかというアンケートだった。これら比較的恵まれた研究環境にある研究者は、オープンアクセス(OA)出版の理念には賛同しながら、論文出版料(APC)の負担には強い不満と無力感を抱いていた。この心理的矛盾を、著者らは「APCトラップ」と名づけた。オープンアクセス(OA)出版の財政的負担、公平性への懸念、出版判断の制約など8種類のカテゴリーに分類し、分野・機関・出版形態による違いを明らかにした。

〈AI使用:記事は白楽が指定した書式で、CC BY-NC 4.0ライセンスの原著論文をGeminiに翻訳・翻案させ、白楽が画像添付と校閲(加筆・訂正)をし、「白楽・AI問答」と「白楽の感想」を加えた〉

目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)

1.論文の内容
 1-1.はじめに
 1-2.先行研究「APC効果」との違い――恵まれた研究者も苦しむ「APCトラップ」という発想
 1-3.調査方法:4大学・154件の自由記述回答の質的分析
 1-4.8つのコード(カテゴリー)とその内容
 1-5.コードの出現率と、分野別・機関別・出版形態別の違い
 1-6.コードどうしの共起関係――複合的な葛藤
 1-7.「OAには費用がかかる」という思い込み――見えなくなるダイヤモンドOA
 1-8.考察:機関のセーフティネット、道徳的な板挟み、転換契約の限界
 1-9.結論、限界、今後の課題
2.白楽の感想

1.論文の内容

1-1.はじめに

本論文は、米国の4つの研究大学の図書館に所属する5名の研究者による実証研究である。

原題は「’The system is obviously bonkers’: The APC Trap and the bind of scholarly publishing across four research intensive institutions in the U.S.」。日本語に訳せば「システムは明らかに狂っている――APCトラップと、米国の4研究大学における学術出版の板挟み」となる。

学術誌PLOS ONEに2026年7月付でオンライン公開された。

筆頭著者のメリッサ・キャントレル(Melissa H. Cantrell、写真出典)は、コロラド大学ボルダー校(University of Colorado Boulder)図書館の学術コミュニケーション図書館員(Scholarly Communication Librarian)である。

第二著者のレイチェル・コールドウェル(Rachel Caldwell)は、マサチューセッツ大学アマースト校(University of Massachusetts Amherst)図書館の学術関与部門長(Academic Engagement Head)である。

第三著者のジェニファー・A・メジック(Jennifer A. Mezick)は、テネシー大学ノックスビル校(University of Tennessee Knoxville)図書館のコレクション・評価担当准教授(Associate Professor)である。2025年からは同図書館の研究担当副学部長(Research Associate Dean)を兼務している(テネシー大学ノックスビル校図書館ニュース)。

第四著者のマシュー・エスティル(Matthew Estill)は、ピッツバーグ大学(University of Pittsburgh)図書館システムの電子リソース図書館員(Electronic Resources Librarian)である(ピッツバーグ大学図書館システムプロフィールページ)。

最終著者のローレン・B・コリスター(Lauren B. Collister)は、言語学の博士号を持つ。学術コミュニケーションの分野で10年余りのキャリアを積んできた人物で、ダイヤモンドOA出版社の運営に携わった経験もある。現在は米国オレゴン州ポートランドの非営利団体インベスト・イン・オープン・インフラストラクチャー(Invest in Open Infrastructure、IOI)のリサーチ・エンゲージメント・マネージャー(Research Engagement Manager)を務めている(IOIチームページ)。

5名はいずれも図書館員・学術コミュニケーション実務者としての立場から、オープンアクセス(Open Access、OA)出版と論文出版料(Article Processing Charge、APC)の実務に日常的に関わってきた経験を持つ。

著者らの問題意識は次のとおりである。

OA出版を実現する主要な手段として、著者(ないしその所属機関・助成機関)が出版費用を負担するAPCモデルが世界的に広がっている。

しかし先行研究は、経済的に恵まれない研究者や低・中所得国の研究者がAPCを払えずOA出版から排除される問題を明らかにしてきた。これはクレーベル(Klebel)とロス=ヘラウアー(Ross-Hellauer)らが指摘した「APC効果(APC effect)」と呼ばれる。

これに対し著者らは、比較的資金に恵まれた米国の研究大学に所属する研究者でさえ、APCによって何らかの困難や葛藤を経験しているのではないかという問いを立てた。ここでいう研究大学とは、Carnegie分類で最上位の研究活動水準を意味する「R1」に分類される大学のことである。

本論文はこの問いに答えるため、4つの研究大学の研究者を対象とした自由記述式アンケート調査を実施した。そこから見えてきた「恵まれた研究者もまた囚われている」という構造を、著者らは「APCトラップ(APC Trap)」と名付けて分析した。

1-2.先行研究「APC効果」との違い――恵まれた研究者も苦しむ「APCトラップ」という発想

著者らはまず、自分たちの研究の位置づけを、先行研究が示してきた「APC効果」と対比させて説明している。

「APC効果」とは、APCの高騰と学術誌ごとのAPC額の格差が、資金力の乏しい研究者・機関・低中所得国の研究者を実質的にOA出版から締め出すという概念である。「持たざる者」の排除である。

これに対し本論文が示す「APCトラップ」は、「持てる者」に着目した概念である。

著者らによれば、研究費や所属機関の支援に比較的恵まれた米国の研究大学の研究者たちは、OA出版を倫理的に重要だと強く支持している。しかし他方で、現在のAPCの価格設定を理不尽・不合理だとも感じている。この二つの相反する感情のあいだで、研究者たちは身動きが取れなくなっている。

つまり「APCトラップ」とは、経済的に排除される問題ではない。道義的な義務感と制度への無力感の板挟みという、心理的・倫理的な葛藤を指す概念として提示されている。

1-3.調査方法:4大学・154件の自由記述回答の質的分析

著者らは、米国の4つの公立研究大学の教員著者を対象に調査を計画した。

対象校は、コロラド大学ボルダー校、マサチューセッツ大学アマースト校、テネシー大学ノックスビル校、ピッツバーグ大学であり、いずれもCarnegie分類の「R1」に該当する。調査は、あらかじめ対象を絞り込んで抽出する有意抽出法(purposive sampling)によって行なわれた。

データ収集は2023年10月から11月にかけて、オンライン調査ツール「Qualtrics」を用いて行なわれた。コロラド大学のIRB(研究倫理審査委員会)から承認(プロトコル番号23-0216)を得ている。

調査には322人が同意して参加した。そのうち自由記述欄に実質的な回答を寄せたのは154人で、回答者全体の47.8%にあたる。機関ごとの有効回答率は42.5%から54.8%、分野ごとでは42%から56%の幅があった。

分野は3区分に分類された。人文・社会科学(Humanities/Social Sciences、HSS)、医学・健康科学(Health/Medicine、HM)、自然科学・工学(Natural Sciences/Engineering、NSE)である。出版形態はゴールドOAとハイブリッドOAの双方が対象に含まれた。ゴールドOAとは学術誌全体がOAとして出版される形態であり、ハイブリッドOAとは購読制学術誌の個々の論文をOAにする形態である。

自由記述式の設問は2問であった。1問目はAPC等の出版費用を支払う自身の能力について尋ねるもの、2問目は調査テーマ全般についての自由なコメントを求めるものであった。

分析は、あらかじめ仮説を立てず、データ自体からコード(カテゴリー)を帰納的に導き出す質的コーディング手法によって行なわれた。

複数の研究者がそれぞれ独立して回答をコーディングし、5名の著者のうち少なくとも4名が一致した場合にコードとして採用するという合意形成の手続きを経ている。この手続きを経て、最終的に8つのコードへと収斂させた。さらに、どのコードとどのコードが同一の回答内で同時に出現しやすいかを調べる、コードの共起(co-occurrence)を確認するクロス集計分析も行なわれている。

1-4.8つのコード(カテゴリー)とその内容

著者らが抽出した8つのコード(カテゴリー)とその内容は、次のとおりである。

(1)財政的懸念(Financial Concern):APC支払いに伴う個人的な経済的負担についての言及。回答全体の34%を占める。

(2)多様性・公平性(Diversity or Equity):APCが学術界の包摂性を損ない、既存の不平等を助長しているという認識。回答全体の32%を占める。

(3)妥当性の限界(Threshold of Reasonableness):受け入れ可能な費用には上限があるとする指摘、および出版社の「搾取的」な価格設定への批判。

(4)意思決定の制約(Restriction of Decisions):費用を理由に、本来望まない出版先を選ばざるを得なかったという経験、および無力感。

(5)「助成金では足りない」(Grants Don’t Cut It):研究費(グラント)だけでは複数本の論文出版費用をまかなえない、あるいは利用できる助成の種類自体が限られているという不満。

(6)学術的な義務・期待(Academic Obligation/Expectation):昇進や業績評価、分野の慣行としてOA出版を行なうよう求められているという職業上のプレッシャー。

(7)学術労働(Academic Labor):研究者が無償で査読労働を担っている一方で、出版社がAPCによって利益を得ているという構造への批判。

(8)質・厳格性(Quality or Rigor):金銭を払えば論文が通りやすくなる「支払い型」出版モデルが、質の低い研究の受理を助長しているのではないかという懸念。

全体として、154件の回答のうち90%にあたる139件が、これら8つのコードのうち少なくとも1つに該当した。62%の回答は1~2種類のコードにとどまった。一方、28%は3種類以上のコードを含む複合的な内容であった。コードに該当しない回答は15件で、約10%にとどまった。

1-5.コードの出現率と、分野別・機関別・出版形態別の違い

分野別に見ると、人文・社会科学(HSS)の回答者は、他の分野に比べて8つのコードいずれかに該当する割合が12.5ポイント高かった。特に財政的懸念(Financial Concern)を訴える割合は、医学・健康科学(HM)・自然科学・工学(NSE)の2倍に達した。

一方、自然科学・工学(NSE)の回答者は妥当性の限界(Threshold of Reasonableness)を指摘する割合が36%と最も高かった。医学・健康科学(HM)の回答者は多様性・公平性(Diversity or Equity)への言及が36%と最も高かった。

機関別に見ると、マサチューセッツ大学アマースト校の回答者が際立っていた。財政的懸念・多様性公平性・意思決定の制約・「助成金では足りない」・学術労働という5つのコードで、最も高い出現率を示した。

テネシー大学ノックスビル校の回答者は財政的懸念こそ多かった。しかし「助成金では足りない」の出現率はわずか9%と際立って低かった。ピッツバーグ大学の回答者は、多様性・公平性(38%)と妥当性の限界(35%)を特に強く訴えた。

出版形態別に見ると、ハイブリッドOAで出版した経験を持つ回答者は、ゴールドOAで出版した回答者に比べて8つのコードのいずれかに該当する割合が13ポイント高かった。著者らはこの理由として、「転換契約(transformative agreement)」の影響を指摘している。転換契約とは、大学図書館コンソーシアムと出版社が包括契約を結び、個々の著者が支払うAPCを見えにくくする仕組みである。これが、費用そのものを隠しながら平均的なAPC額を押し上げている可能性があるという。

このほか、APCを「払いやすい」と回答した研究者ほど多様性・公平性への言及が多かった。自らの立場の有利さを自覚する傾向がうかがえる。逆に「払いにくい」と回答した研究者ほど財政的懸念への言及が多いという関係も確認された。また、十分な研究費を得ている研究者ほど「助成金では足りない」という不満を述べる割合は低かった。

1-6.コードどうしの共起関係――複合的な葛藤

クロス集計分析の結果、複数のコードが同一の回答内で20%を超える頻度で同時に出現する組み合わせがいくつか確認された。財政的懸念と意思決定の制約の組み合わせが37%、財政的懸念と多様性・公平性の組み合わせが36%であった。財政的懸念と学術的な義務・期待の組み合わせは27%、意思決定の制約と「助成金では足りない」の組み合わせは25%、妥当性の限界と学術労働の組み合わせは21%であった。

著者らは、こうした共起パターンから、多くの回答者が単一の不満ではなく、経済的負担・倫理的懸念・職業上の圧力が絡み合った複合的な葛藤を経験していると論じている。

論文が引用する回答者の生の声としては、次のようなものがある。「私たちは製品(論文)を作り、他人の製品を無償で査読し、それから製品を出版してもらうために金を払う――このシステムは明らかに狂っている(the system is obviously bonkers)」。

「これは多様性と公平性の問題だ。歴史的に周縁化されてきた集団の人々ほど、出版費用を払う余裕がない」。

「十分な予算のある研究室を持っているが、それでもインパクトの高い学術誌ほど出版費用が高く、価値の高い媒体と自分が払える媒体のどちらかを選ばなければならないことがある」。

「合法化された恐喝のように感じる。私は人質のような立場だ。昇進のためにも研究費獲得競争を勝ち抜くためにも、論文を出版しなければならないのだから」。

1-7.「OAには費用がかかる」という思い込み――見えなくなるダイヤモンドOA

著者らは、コーディングの過程で9番目の主題も見出した。しかしこれは最終的な8つのコードには含めず、別途論じている。

それは、回答者の多くが「OA出版には費用がかかるものだ」という前提そのものを疑わずに回答している、という言語的な思い込みである。

しかし実際には、DOAJ(Directory of Open Access Journals)に登録されている学術誌のうち約71%はいかなる出版費用も著者に請求していない。こうした無料のOA形態は「ダイヤモンドOA(Diamond OA)」と呼ばれる。

それにもかかわらず、調査回答の多くは「OA=有料(There is a cost to publish)」という前提に立っていた。著者らはこれを、OAというアクセスモデルとAPCという事業モデルを混同させる、出版社側のマーケティング言説が研究者の認識に浸透した結果だと指摘する。結果として、ダイヤモンドOAという選択肢の存在そのものが見えなくなっているという。

1-8.考察:機関のセーフティネット、道徳的な板挟み、転換契約の限界

著者らは考察において、まず分野による違いの背景を論じている。人文・社会科学(HSS)の研究者がより強くAPCトラップを経験する理由として、2点を挙げている。第一に、理工系分野に比べて利用できる研究助成の種類・額が少ないこと。第二に、人文・社会科学分野ではAPCの平均額が高いハイブリッド学術誌の比重が高いことである。

機関による違いについても論じている。代替的なOA出版費用の支援制度、たとえば機関のOA基金などが比較的乏しいマサチューセッツ大学アマースト校で、APCトラップの各コードが最も強く現れていた。このことから、比較的資金に恵まれた研究大学の内部でも、機関ごとのセーフティネットの有無が研究者の経験を大きく左右することが示唆されている。研究者は、実験機材や大学院生への支援といった研究インフラへの投資と、出版費用のどちらを優先するかという競合する優先順位のあいだで判断を迫られている。

道徳的な葛藤についても言及がある。自らの立場が相対的に恵まれていることを自覚している回答者ほど、公平性への懸念を強く示していた。一方、あらゆる出版費用そのものに反対する回答者は、質・厳格性(Quality or Rigor)への懸念を最も強く示していた。こうした回答者の一部は、APCと捕食学術誌(predatory journal)とを混同しているとみられる。また、限られた予算をAPCに割り当てた研究者ほど、研究インフラへの投資を減らさざるを得なかったと報告している。

著者らはさらに、代替的な出版モデルもいくつか検討している。欧州の助成機関連合が主導するAPC上限設定などの方針である「Plan S」、大学図書館コンソーシアムと出版社の包括契約である「転換契約(transformative agreement)」、高エネルギー物理学分野における学術誌購読料の集合的な肩代わりの枠組みである「SCOAP3」、図書館の購読料収入をOA転換の原資とする「サブスクライブ・トゥ・オープン(Subscribe-to-Open)」の4つである。

しかし著者らは、これらの多くが費用を根本的になくすのではなく、費用を見えにくくするに過ぎないと指摘する。特に大学図書館コンソーシアムが出版社と結ぶ転換契約は、個々の著者からは価格が見えなくなる一方で、根底にある費用自体は維持ないし上昇させている可能性がある。結果としてAPCトラップをかえって悪化させかねないと、著者らは警鐘を鳴らしている。

1-9.結論、限界、今後の課題

著者らは、比較的資金に恵まれた米国の研究大学の研究者であっても、APCに基づくOA出版モデルに深い不満を抱いていることを本研究は示したと総括する。

この認知的不協和は、分野・機関・キャリア段階・利用可能な助成によって一人ひとり異なる形で現れる「もつれた結び目(messy knot)」のようなものである。それでいて根底では「不当だという意識」で共通していると著者らは述べる。

論文はこの不協和を、「フラストレーションと強い不当感……そのようなシステムに参加せざるを得ないという義務感ないし道義的責任感を伴っており」という表現で描写する。そこから生じる無力感は、「結び目をいっそう固く締め上げるだけだ」と結んでいる。

著者らは同時に、本研究の限界も率直に認めている。第一に、この調査はもともと量的分析を主目的として設計されており、自由記述設問はあくまで補助的な位置づけであった。

第二に、1問目の設問が「出版費用を払う能力」を明示的に尋ねる誘導的な形になっていた。特に財政的な主題への回答が誘発されやすかった可能性がある。

第三に、有意抽出による対象は米国の4つのR1大学に限られており、結果を一般化することはできない。

第四に、著者らはテキストマイニングツール「NVivo」や感情分析ツール「SentiStrength」による自動分析も試みた。しかし、皮肉や複合的な感情を含む込み入った権力関係についての記述を、これらのツールはうまく処理できなかった。自動分析は失敗に終わったことも報告されている。

論文は今後の課題として、3つの問いを提起して締めくくっている。第一に、APCトラップが米国のR1大学以外の文脈――他国や資金力の異なる機関――でも現れるのか。第二に、転換契約やリード・アンド・パブリッシュ(read-and-publish)契約の広がりが、今後APCトラップの現れ方をどう変えていくのか。第三に、機関間契約によってAPCの費用を見えにくくすることは、根本的な公平性の問題を解決するのか、それとも問題との対峙を単に先送りするだけなのか、である。

なお、調査票と匿名化されたデータは、GitHubリポジトリで公開されている。本研究には特定の助成金は拠出されておらず、著者らは利益相反がないと申告している。

2.白楽の感想

《1》「持たざる者」だけでなく「持てる者」の苦悩にまで踏み込んだ視点は評価できる

これまでOA出版とAPCをめぐる議論は、低・中所得国や資金力の乏しい研究者が締め出される「APC効果」に焦点が当てられることが多かった。

本論文は、米国の有力な研究大学に所属し、相対的に恵まれているはずの研究者たちですら、道義的な義務感と制度への無力感の板挟みに苦しんでいるという、見過ごされがちな側面に光を当てた点で意義がある。

ただし、対象はあくまで米国の公立研究大学(R1)4校に限られており、著者ら自身も認めるとおり一般化には慎重を要する。

白楽は、日本に「APCトラップ」問題があるかどうか考えたことはなかった。

日本の大学研究者や、私立大学・地方大学といった異なる立場の研究者にも同様の「トラップ」が存在するのか、比較調査の余地は大きい。

《2》「転換契約がコストを見えなくする」という指摘は、日本の大学図書館コンソーシアムにも重い示唆を持つ

大学図書館コンソーシアムが出版社と結ぶ「転換契約(transformative agreement)」が、個々の研究者からは価格を見えなくしながら、実質的な費用負担を維持・拡大しているという著者らの指摘は重要である。

日本でも大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)などを通じた包括契約の議論が進んでいる。しかし契約の中身が個々の研究者に十分に開示されなければ、本論文が警告する「見えないAPCトラップ」が日本でも再生産されかねない。

契約交渉にあたる図書館・大学執行部は、費用の透明性そのものを交渉の論点に含めるべきだろう。

《3》「OA=有料」という思い込みへの指摘は重要だが、ダイヤモンドOAの周知不足という構造的問題への処方箋は薄い

DOAJ登録誌の約71%が無料であるにもかかわらず、多くの研究者が「OA出版には費用がかかるものだ」と思い込んでいるという指摘は、出版社側の言説がいかに研究者の認識を形作っているかを示す重要な発見である。

しかし論文は、この思い込みを生み出す構造にまでは踏み込んでいない。ダイヤモンドOAの学術誌が、業績評価や引用指標の面で「格下」に見られがちな学術文化そのものである。

研究者がダイヤモンドOAを安心して選べるようにするには、費用の周知だけでは足りない。そうした学術誌の質を保証し、業績として正当に評価する仕組みづくりが同時に必要である。

《4》「無償の査読労働と有償の出版」という構造批判は正論だが、具体的な制度改革案の提示が乏しい

回答者の「私たちは製品を作り、他人の製品を無償で査読し、それから製品を出版してもらうために金を払う」という声がある。これに象徴される、査読労働の無償性とAPCによる出版社の利益追求という構造への批判は、学術出版界に対する根本的な問いを突きつけるものであり、白楽としても強く共感する。

しかし論文全体としては、この構造をどう変えるべきかという具体的な制度設計にまでは踏み込んでいない。査読労働への対価、非営利型出版基盤への移行といった案である。問題提起にとどまっている印象は否めない。

著者ら自身が学術コミュニケーション実務者であるからこそ、次の研究では、より踏み込んだ改革の道筋を示してほしいところである。