/2026年8月4日(火)掲載/
研究不正疑惑の調査は、日本では、2014年の文部科学省のガイドラインに基づき、疑惑者の所属する大学・研究所が行なっているが、根本的な問題が多い。AIに質問すると、問題を「身内調査の弊害」「調査が遅く長期間」「調査員の能力不足」「新しい学術詐欺に不対応」の4つだと答えた。どれも深刻である。
白楽がさらに1つ加えるなら、「日本には研究不正の研究者が少なすぎる。そしてネカトハンターがいない」。
このような手詰まり状態だが、「学術研究で他人をだます学術詐欺」は学術の裏切り行為で、放置すれば学術研究は信頼を失い、知識体系が崩壊する。昨今、外国の多くの専門家は、科学の信頼が失われ、学術の危機だと指摘している。今回、AIに質問しながら、研究不正疑惑の調査の問題点と改善策を考えてみた。ただ、「蟷螂の斧」(『荘子』)だとも感じている。
〈AI使用:記事は白楽がGeminiと対話する方式でまとめた。Geminiの回答には間違いがあるので、白楽が校閲(加筆・訂正)した。でも、考えてみると、白楽の校閲にも間違いはある。間違いに注意してお読みください。アイキャッチ画像もGemini作です〉
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目次(赤字をクリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本の研究不正の調査体制
2.調査体制の制度的・法的な日米比較
3.調査体制の実態の日米比較
4.白楽以外が提唱している研究不正調査問題の解決策
5.白楽が提唱する研究不正調査問題の解決策
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1.日本の研究不正の調査体制
ーー白楽の質問ーー
白楽は、10件以上、日本の研究不正疑惑を大学・研究所などに告発してきたが、大学・研究所などの対応はピンキリである。
白楽の気持ちは、200%、善意で活動しているが、不思議なことに、伝えた大学・研究所から感謝されたことはない。
当方の意図は、研究者のズサンな行為(「不注意による間違い」と「能力不足による間違い」)なら、研究者に早く気づいてもらい、論文を訂正することで学術記録を正し、研究者は研究姿勢を改善することでその後の健全な研究キャリアを築くと期待して伝えている。
研究不正だとすれば、大学・研究所が早く気づいて、不正者に適切な対処をすることで研究不正が広がることを防ぎ、研究チームの他のメンバーへの被害を最小にできる。国民の損害も大きくならないし、大学・研究所の損害も大きくならない。論文の訂正・撤回により学術記録の正常化も進む。そして、根本的なことだが、学術規範が維持できる。
「早期発見・早期治療」で病気の根治や重症化を防ぐのと同じで、「ズサン」や「研究不正」を初期段階で見つけ対処すれば、事態が大きくならない。
しかし、大学・研究所はどう受け止めるのか、無視し何も返事をしてこない場合がある。また、脅迫するような返事をしてきたり、問い合わせても答えない大学・研究所もある。研究不正の対処に後ろ向きである。
白楽としては、そもそも、白楽から指摘される前に、大学・研究所自身が所属教員・研究員の不祥事を見つけて対処すべきなのに、そうしている大学・研究所はほぼゼロである。
それで、日本の研究不正の調査体制の現状と問題点はなにか? とAIに質問してみた。
ーーAIの回答ーー
日本の研究不正の調査体制は、文部科学省のガイドラインに基づき、不正が疑われる研究者が所属する各大学・研究機関が自ら調査委員会を設けて調査を行なう仕組み(個別機関主導)をとっている。しかし、身内による調査ゆえの不透明さ、予備調査や本調査の長期化、調査委員の専門性不足、そして捕食学術誌への対応遅れなど、多くの問題点が指摘されている。
日本の研究不正の調査体制における「現状」と、そこに潜む具体的な「問題点」は以下のようです。
現状:各研究機関による自主的な調査
現在の日本では、政府直轄の独立した調査機関は存在しません。
文部科学省のガイドラインに基づき、以下のプロセスで行なわれています。 → 2014年8月26日: 研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン
- 調査の主体: 不正の告発があった場合、該当する研究者が所属する大学や研究機関が責任を持って調査委員会を組織し、調査を行ないます。
- 資金配分機関の役割: 日本学術振興会(JSPS)や科学技術振興機構(JST)などは、研究機関による不正認定の結果を受けて、研究費の返還請求や応募資格の制限といった行政的措置を行ないます。
現状の体制が抱える4つの問題点
- 身内による調査の限界(利益相反と不透明さ): 組織の防衛や名誉を優先し、不正を過小評価したり隠蔽したりするリスクが常に付きまといます。
- 調査の長期化と遅延: 連絡著者(corresponding author)と第一著者との間での主張の食い違いなどが生じた場合、解明に数年単位の時間が必要となり、証拠が散逸する問題が起きています。
- 調査委員の専門性と負担: 科学的なデータ捏造や改ざんは巧妙化していますが、大学内の教員が通常業務の傍らで委員を務めることが多く、専門スキルの不足や負担増が課題です。
- 捕食学術誌への対応: 粗悪な学術誌への論文乱発による業績水増しに対し、どのレベルで不正と認定し調査を行なうべきかの基準が曖昧なままです。
ーー白楽の感想ーー
〈ここはAIではなく、白楽が書いている〉
★AIの回答
AIの回答は良くまとまっている。「身内調査の弊害」「調査が遅く長期間」「調査員の能力不足」「新しい学術詐欺に不対応」の4つの問題点は、どれも深刻である。
でも、問題点はもっと多いと思う。
白楽が1つ加えるなら、「日本には研究不正の研究者が少なすぎる。そしてネカトハンターがいない」ということだ。あれ? 1つでなくて2つ加えてしまった。
「研究者が少なすぎる」と、①研究不正の問題点を探索し、議論を深め、解決策を提言することがほぼない。②若い院生・学者が育たない。③論文や学術集会はほとんどない。④日本の事件なのに日本の研究者が解析せず、外国の研究者が研究し論文を発表している。⑤記者は情報が少ないので、メディアは研究不正のスキャンダルを報道するが問題点を報道しない(できない)。それで、国民は知識が蓄積されず、無関心になる。⑥ひいては、大学・研究所の上層部も官僚・政治家もおざなりな対応しかしない。
「ネカトハンターがいない」と、学術界に研究不正の汚染が広がる。次節で述べるように、誰かが「告発・申立て(allegation)」しないと大学は調査をしない。外国では、国によるが、研究不正事件の3割~8割(推定。データはあるかも?)は、ネカトハンターが「告発・申立て(allegation)」した結果である。
外国のネカトハンターは、日本の研究不正行為に対しても「告発・申立て(allegation)」するが、圧倒的に少ない。それで、研究不正行為が明白なのに、日本では放置されているケースが多い。白楽は仕方なしに、ネカトハンター活動をしているが、青息吐息である。
★調査プロセス
AIが回答しなかったので、文部科学省が示す調査プロセスを白楽が加えておく。日本はほぼ米国・研究公正局のやり方を踏襲している。それで、カッコ内にポイントとなる英語を示した。
①発覚 → ②告発・申立て(allegation) → ③告発・申立てに対応 → ④告発判断(assessment) → ⑤予備調査(inquiry) → ⑥本調査(investigation) → ⑦認定(finding) → ⑧行政措置(懲戒処分など)の裁定(adjudication) → ⑨不服申立て(appeal) → ⑩調査結果の公表 → ⑪告発者及び被告発者に対する措置
この各プロセスに問題が多いのだが、AIが回答しなかったので、以下の「軽い」1例だけ示すが、今回は触れない。
インターネット上に不正疑惑が指摘されていれば、誰かが大学に「②告発・申立て(allegation)」をしなくても、大学が自発的に調査するよう文部科学省は指示している(ガイドラインp13、3-4-③)。しかし、今までこれが機能した「まともな」大学は1つもなかったと思う。文部科学省は警告(通達)すべきだと思う。
2.調査体制の制度的・法的な日米比較
ーー白楽の質問ーー
日本の調査体制の特徴を把握しやすいように、諸外国と比較しようと思う。と言っても、各国のばらつきは大きい。また、主要な外国と比較するだけでも膨大で、比較した結果をみても、かえって散漫になるだろう。それで、最も馴染があり、日本が真似してきた米国の研究公正局と比較してみよう。
米国の研究公正局(ORI)の調査権限と日本の文部科学省ガイドラインによる調査体制には、具体的にどのような制度的・法的な違いがありますか?
ーーAIの回答ーー
米国の研究公正局(ORI)と日本の文部科学省ガイドラインの最大の法的な違いは、国家レベルでの「独立した法的権限の有無」と「調査の主体」にある。
米国は連邦法に基づき政府機関(ORI)が最終的な調査権・裁定権・処分権を有するのに対し、日本は行政指導(ガイドライン)に基づき、各大学や研究機関が第1次的な調査と処分を行なう仕組みにとどまっている。
米国ORI(科学公正局)と日本の文科省ガイドラインに基づく調査体制には、制度面および法的な解釈において、大きく分けて4つの明確な違いがあります。
4つの明確な制度的・法的違い
- 法的根拠と強制力の違い
- 米国(ORI):連邦法(公衆衛生サービス法など)に基づく明確な法的根拠を持つ。ORIやHHS(保健福祉省)は、大学の調査に対して再調査を命じる権限や、自ら直接調査を行なう強力な権限を有する。
- 日本(文科省):法的拘束力を持つ「法律」ではなく、行政上の「ガイドライン(指針)」である。文科省自体に強制調査権はなく、大学側に自主的な調査を行なうよう促す「行政指導」にとどまる。
- 最終決定権の所在(中央集権 vs 組織委任)
- 米国(ORI):大学が第1次調査を行なうが、最終的に「研究不正があったかどうか」の公式な判定を下すのは政府(ORI)である。
- 日本(文科省):不正の有無を最終判定するのは各大学・研究機関である。国が不正の事実認定そのものを覆す仕組みはない。
- 被処分者(研究者)の不服申立て手続き
- 米国(ORI):ORIが不正と判定した場合、研究者は「行政上訴委員会(DAB)」に対して、法的な不服申立てを行なう権利が保障されている。
- 日本(文科省):調査を行なった大学に対して異議申し立てを行なうが、同一組織内で再審査されるため手続きの公平性に疑問が持たれやすい。
- 処分の対象と範囲
- 米国(ORI):不正を働いた研究者個人に対して「連邦資金の配分停止」などの国家レベルの公的な制裁を下し、氏名を公表する。
- 日本(文科省):文科省からの制裁は「研究費の交付停止」や「申請資格の制限」であり、個人への懲戒処分(解雇など)は各大学の就業規則に委ねられる。
日米の比較表
| 比較項目 | 米国(ORI体制) | 日本(文科省ガイドライン体制) |
|---|---|---|
| 法的性質 | 連邦法に基づく行政規制 | 行政指導(ガイドライン) |
| 主たる調査者 | 大学(第1次)+ ORI(最終監督・直接調査) | 各大学・研究機関(終始一貫) |
| 最終不正認定 | 政府機関(ORI) | 各大学・研究機関 |
| 不服申立て先 | 独立した行政上訴委員会(DAB) | 調査を行なった各大学 |
ーー白楽の感想ーー
〈ここはAIではなく、白楽が書いている〉
- AIの回答は実態とズレている。
- 「回答1」:表面的には正しいが、実態は間違っている。ORIやHHS(保健福祉省)は、ORIが大学の調査に対して再調査を命じたり、自ら直接調査する権限はあるが、通常は実行しない。
最近の例だと、アリエル・フェルナンデス(Ariel Fernández)事件では大学の調査に基づきORIが調査したが、この調査は異例(異常?)である。HHS(保健福祉省)が乗りだすこともめったにない。 - 「回答2」:表面的には正しいが、実態は間違っている。2024年報告書ではORIが研究不正と発表したのは6件だけど、大学の判定で終わった(Decline to Pursue)のは43件もあった。つまり、大学が公式な判定を下して終わる方が圧倒的に多い。
- 「回答3」:表面的には正しいが、実態は間違っている。日本で大学に調査結果の異議申し立てをしても、異議申し立てが認められたケースは皆無だと思う(データがない(公表されない)ので正確ではない。公表を義務化すべだ)。
3.調査体制の実態の日米比較
ーー白楽の質問ーー
「2章」で制度的・法的な違いを質問したためなのか、AIの実力なのか、AIの回答は表面的で実態とズレていた。
それで、「制度的・法的な違い」にとらわれず、実態を回答して欲しいと依頼した。
ーーAIの回答ーー
制度や法律の枠組み(タテマエ)を取り払い、実際の現場で起こる「実効性」「スピード感」「調査の質」「文化」という運用の実態(ホンネ)から日米の違いを比較すると、主導権の在り方、隠蔽への抑止力、調査員のプロ意識において決定的な格差が存在する。
前回は法律や制度の枠組みに沿って説明しましたが、実際の運用の実態や現場のパワーバランス(ホンネの部分)に目を向けると、日米の体制にはより生々しい違いが見えてきます。
「制度・法律」という縛りを外したとき、特に際立つ4つの違いは以下の通りです。
現場の運用における4つの生々しい違い
- 1. 現場の「主導権」と「心理的圧力」
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- 米国(ORI):大学側は連邦資金の配分停止による経営破綻を恐れ、「ORIに睨まれたら終わり」という強い心理的圧力を受ける。主導権は常に国(ORI)にある。
- 日本(文科省):文科省は「適切に調査してください」と促すだけで現場に介入できないため、主導権は完全に大学側にある。総長や理事が組織防衛(看板教授の保護)に走りやすい土壌がある。
- 2. 調査を行なう「人間(調査員)」のプロ意識とスキル
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- 米国(ORI):科学的知見のみならず、画像解析の専門家、法執行機関の経験者、デジタルデータ復元のプロが集結した「不正調査のプロ集団」が暴く。
- 日本(文科省):不正が起きた大学の教員が臨時の委員に任命されるため、日頃の講義や自身の研究の傍らで行なう「素人の片手間」にならざるを得ない。巧妙な画像改ざんを見抜くスキルも決定的に不足している。
- 3. 「隠蔽」と「トカゲの尻尾切り」に対する抑止力
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- 米国(ORI):大学が甘い調査報告書を出せばORIが却下して再調査を命じるか直接乗り込んでくるため、連絡著者(corresponding author)ら有力教授の関与を大学側が庇いきれない。
- 日本(文科省):調査委員を選ぶのは大学上層部であるため、組織の利益を守るために「不正はすべて第一著者(若手や院生)の単独犯であり、連絡著者(教授)は知らなかった」とする尻尾切りが後を絶たない。
- 4. 調査の「スピード感」と「情報公開」のオープンさ
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- 米国(ORI):不正認定された研究者の氏名、所属、具体的な不正内容(どの図をどう捏造したか)、制裁内容が公式ウェブサイトで永続的に一般公開される。
- 日本(文科省):公表基準が曖昧であり、大学の社会的影響を言い訳に教授の氏名を非公表にしたり、詳細を伏せたまま「依願退職」で処理して他大学へ問題のある研究者を“輸出”してしまう事例すらある。
運用の実態 比較表
| 比較項目 | 米国(ORI主導の実効体制) | 日本(大学任せの形骸化体制) |
|---|---|---|
| 現場の心理的関係 | 「国(ORI)が絶対的優位」大学は資金停止を恐れて徹底調査 | 「大学が絶対的優位」文科省は介入できず、大学は組織防衛を優先 |
| 調査員の質 | 画像解析やデジタルフォレンジックのプロ調査官 | 通常業務と兼務する学内のアマチュア(大学教員) |
| 有力 profesor への追及 | 連絡著者(corresponding author)も容赦なく暴く | 第一著者の単独犯に仕立て上げる「トカゲの尻尾切り」が多発 |
| 透明性と公開性 | 氏名・捏造手口・制裁を公式HPで永続的に一般公開 | 氏名非公表や「依願退職」による幕引きなど隠蔽体質が残る |
ーー白楽の感想ーー
〈ここはAIではなく、白楽が書いている〉
- AIの回答は実態に近くなったが、「回答1」のORIの強さは誇張していると思う。
- 「回答1」:表面的には正しいが、実態は間違っている。ORIやHHS(保健福祉省)は、ORIが大学の調査に対して再調査を命じたり、自ら直接調査する権限はあるが、通常は実行しない。
だから、「国(ORI)が絶対的優位」というのは建前で、実態ではない。米国では徹底調査をする大学もあるけど、ズサンな調査をする大学もある(というか多い?)。印象としては、日本より少しマシ。
4.白楽以外が提唱している研究不正調査問題の解決策
ーー白楽の質問ーー
「1章」で挙げた日本の研究不正調査における4つの問題点に対し、白楽以外、日本では誰がどのような解決策を述べていますか?
彼らが示している解決策と、その実効性の予測を教えて下さい。
ーーAIの回答ーー
〈この4章でのAIの回答が正しいかどうか、白楽はわかりません。つまり、姓名をあげた人の主張が正しいかどうか、白楽は確認を取っていない。ただ、AIが大きく間違えた部分は削除や訂正・注釈をした。以下、敬称略〉
日本の研究不正調査における4つの問題点(身内調査、長期化、専門性不足、捕食学術誌)に対し、「誰がどのような解決策を示しているか」、そして「その解決策で本当に解決できるのか(予測)」について、実態を踏まえて記述します。
1. 身内による調査の限界(利益相反と不透明さ)
榎木英介(一般社団法人 科学・政策と社会研究室 代表理事 / 医師)
解決策: 大学の「組織防衛」の心理を崩すため、不正調査のプロセスに第三者機関(日本版ORIなど)を介入させるべきだと一貫して主張しています。また、告発者が不利益を被らないよう、公益通報者保護の仕組みを学外に完全に独立させることを求めています。
解決できる(と予測): 榎木が提案する「完全外部の公的機関」に権限を移譲できれば、大学が看板教授を守るために行なう「トカゲの尻尾切り」や隠蔽は、利害関係が遮断されるため、調査の透明性は劇的に向上すると予測されます。
2. 調査の長期化と遅延
市川家國(信州大学特任教授/ 一般社団法人 公正研究推進協会〈APRIN〉元理事長)
解決策: 市川らは研究倫理教育の普及とともに、不正の疑いが生じた際の「初期対応の定型化」を推進しています。告発があった時点で自動的にデータ保全(実験ノートやサーバーのクローン作製)を行なう標準プロトコル(手順書)を各大学に配布し、引き延ばしを許さない仕組み作りを提唱しています。
遅延の根本的な解決は難しい(と予測): 市川らの提唱する初期データの即時保全は「証拠隠滅の防止」に極めて有効です。しかし、破った場合の大学への強力な罰則(ペナルティ)がないため、被疑者である教授側が弁護士を立てて抗戦した場合、結局は泥沼化して長期化を防げないと予測されます。
3. 調査委員の専門性と負担
田中智之(京都薬科大学 教授 / 日本科学技術ジャーナリスト会議)
解決策: 不正論文の検証を長年行なってきた経験から、一般の大学教員(アマチュア)に調査を委ねる限界を指摘。画像解析や統計学のエキスパートを「専門職(プロの調査官)」として公的に雇用し、不正調査が発生した大学へJST(科学技術振興機構)などの資金配分機関から「プロの調査チーム」を派遣するシステムを提案しています。
調査の質に関しては飛躍的に解決する(と予測): 田中の提案通り、画像改ざんや数値の不自然な偏りを見抜くプロが調査を主導すれば、巧妙な捏造も短期間で見抜くことができます。現役教員が過度な重責と時間的負担から解放されるため、実効性は非常に高いと予測されます。
4. 捕食学術誌への対応
栗山正光(上智大学 教授 / 大学図書館員・情報組織化の専門家)[白楽注:上智大学 教授ではない。AIの間違い]
解決策: 論文のオープンアクセス化の進展に伴う捕食学術誌の問題を早期から分析。図書館員や学術情報流通の専門家が連携し、国際的な基準(「Think. Check. Submit.」など)を用いた「悪質な雑誌の見分け方」を若手研究者や大学院生に徹底教育するシステムの構築を実践・提案しています。
今後の被害抑制は可能だが、過去の業績評価の精算は困難(と予測): 栗山らの啓発や経理面での規制により、無知による「うっかり投稿」や研究費の無駄遣いは確実に減らすことができます。しかし、すでに過去に捕食学術誌に大量投稿して教授の地位を得てしまったような「故意の水増し業績」を、研究不正として遡って処罰できるかという点については、現行の基準では裁ききれず解決は不透明です。
総括的な予測
榎木、田中といった個人の専門家たちは、一様に「大学の自主性(アマチュア教員による身内調査)」の限界を突いており、解決策として「プロの専門調査官による、利害関係のない外部調査」を求めています。 一方で、行政のガイドラインに依拠する現行の施策は、既存の大学組織を温存したままルールを改訂するアプローチです。結論として、前者のような「独立した公的専門機関」に権限を集中させない限り、日本の研究不正調査における根本的な問題解決はできないと言えます。
5.白楽が提唱する研究不正調査問題の解決策
〈ここはAIではなく、白楽が書いている。以下、敬称略〉
★第三者機関
研究不正の調査での4つの問題点(身内調査、長期化、専門性不足、捕食学術誌)、を解消するために、4章で榎木英介や田中智之が提唱しているように、基本的に、大学(現行)ではなく、第三者機関が調査すべきだと思う。
この第三者機関をどのような組織とするか、誰も真剣に検討していないが、学術関係全体の第三者機関なら、日本学術会議の中にを設けるのが、本来だと思う。しかし、日本学術会議は研究不正の取り組みに後ろ向きで、表面的な活動はしたが、実態としては、研究不正問題をほとんど何も改革してこなかったので、期待できない。
白楽は、捜査権を持つ独立した政府機関が妥当だと考えている。
警察と同じような捜査権(家宅捜索や逮捕など)を持つ麻薬取締部、または、裁判所の令状を得て強制臨検(家宅捜索のようなもの)・捜索・差押えはできるが、「逮捕」権限はない国税査察部(いわゆるマルサ)のような組織を想定している。
しかし、そこに至るには、国民・研究者・政府の理解・賛同が必要で、この道は遠い。
それで、次善策として、4章で田中智之が提唱している「不正調査が発生した大学へJST(科学技術振興機構)などの資金配分機関から「プロの調査チーム」を派遣するシステム」が妥当と思われる。
ただ、白楽の不勉強で、田中智之が提唱しているシステムの詳細を把握していない。勝手に想像するに、航空事故の調査で派遣される「プロの調査チーム」、つまり、事故調査委員のようなシステムだろう。
この場合、国土交通省の外局の運輸安全委員会が、航空事故の際に「プロの調査チーム」を派遣し、調査させ、調査報告書を作成させている。そして、そのすべての調査報告書を、ウェブサイトに公開している。誰でも航空事故および重大インシデントの調査結果をオンラインで知ることができる。このシステムは素晴らしい。
研究不正調査に話を戻すと、資金配分機関が「プロの調査チーム」を派遣する問題は、①JSTなら、調査対象者は、JSTが助成している研究者に限られる。日本全体の研究不正を調査できない。各資金配分機関がそれぞれ「プロの調査チーム」を派遣すると、無駄と不統一が起こるし、政府から研究助成されていない研究での不正疑惑は調査できない。また、②研究助成している機関は第三者ではなく、利害関係がある第二者である。「自らが研究費を出したプロジェクトに研究不正が発覚すると自らの採択責任が問われる」という利益相反を潜在的に抱えている。
政府の組織に詳しい専門家の意見が必要だが、公正取引委員会のように、内閣府の外局に「学術不正調査委員会」を設けるのが望ましいと思う。内閣府は従来から「研究不正への対応 – 科学技術政策 – 内閣府」と研究不正を管轄下に置いている。
しかし、こうなると、前述の「白楽は、捜査権を持つ独立した政府機関が妥当だと考えている」に戻り、ハードルが高くなる。
★ プロの調査チーム
取り合えず、田中智之案の「不正調査が発生した大学へJST(科学技術振興機構)などの資金配分機関から「プロの調査チーム」を派遣するシステム」で話を進める。
4つの問題点(身内調査、長期化、専門性不足、捕食学術誌)のうち、「身内調査、長期化、専門性不足」の3つの問題点は、該当大学の現役教員に調査を兼務させている現在のシステムに起因している。
顕著な問題は、学長や理事長の研究不正疑惑を、その大学・研究所の教員・所員がまともに調査出来ない。これは「身内調査の弊害」の一部だが、この問題は、日本だけでなく外国でも問題視されている共通問題である。
それで、大学の現役教員に調査員を兼務させるのをやめ、JSTが派遣した「プロの調査チーム」が調査する。このことで「身内調査の弊害」は解消する。
「プロの調査チーム」として、米国のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik )は半分引退した科学者(semi-retired scientists )たちを推奨している(2026 年 6 月 3 日記事:Elisabeth Bik: ‘Take research fraud investigations away from universities’)。ビックの推奨理由は、「調査が遅く長期間」かかる弊害を解消できることだ。白楽は賛成で、日本だと、定年退職した元研究者で構成するプランが妥当だと思う。
フルタイムで調査に当たる「プロの調査チーム」なら、3か月程度で調査結果をまとめることができるだろう。これで、現役教員たちが「本務の傍ら」「仕方なし」に調査に携わっていたために生じた「調査が遅く長期間(年の単位)」かかる問題が解消する。
3か月が適切かどうか試行錯誤が必要だが、研究不正の調査に院生が巻き込まれる場合が多い。指導教員の疑惑が有力でも・そうでない場合でも、1年後とか2年後に調査結果が出て、指導教員がクロとなったでは、院生の人生が歪んでしまう。もちろん疑惑教員の人生も歪んでしまう。それで、調査結果は、3か月程度で主な結論(シロクロと実行者の認定。難しければ、シロの人だけ認定)をつけ、関係者に中間発表すべきだろう。最終的な報告書の完成はその後でよい。
さらに、3番目の問題である「専門性不足」である。研究不正の実態に詳しく、画像解析やデジタルデータ復元(フォレンジック)の専門技術を持つ「プロの調査チーム」に調査を依頼することで、この「専門性不足」も解消する。
なお、現在の調査の実態は、スルメ調査なのである。疑惑研究者はネカト調査が始まる前に、調査が始まることを知らされるので、当然、証拠隠滅、関係者との口裏合わせ(協力要請)あるいは関係者を恐怖支配することができる。 → 白楽の卓見・浅見16.ネカト調査の現状は大掃除後のゴミさがし:根本的改善を
これを避けるには、強制調査権を与えることも導入したほうがいい。導入には、慎重な検討が必要だが、
4章で市川家國が提唱しているように、「不正の疑いが生じた際の「初期対応の定型化」を推進しています。告発があった時点で自動的にデータ保全(実験ノートやサーバーのクローン作製)を行なう標準プロトコル(手順書)」は「証拠隠滅の防止」に有効だと思う。検討すべきだと思う。
米国だと、以下のような証拠保全をしている例もある。
「アリエル・フェルナンデス(Ariel Fernández)(米) 」事件では、
ライス大学の研究公正官(RIO)で研究担当副学長のジェームズ・コールマン(James Coleman)は、学内の情報セキュリティ部門に対し、フェルナンデスの研究室およびオフィスのコンピュータに保存されているデータが削除・改変されないよう、保全措置(デジタルフォレンジック)するよう指示した。
また、フェルナンデスが帰国した際のノートパソコンに保存されているデータも同じように保全措置するよう指示した。
ライス大学のサーバーやネットワークのバックアップから、フェルナンデスおよび一連の不正に関連する電子データをすべて収集した。
このように、結局、「プロの調査チーム」の派遣で4つの問題点(身内調査、長期化、専門性不足、捕食学術誌)のうちの3つを解消できる。
「プロの調査チーム」の育成を、文部科学省やJST・JSPSなどにしていただきたい。
★ 捕食学術誌 → 出版詐欺(編集詐欺)
さて、残るは、4つの問題点(身内調査、長期化、専門性不足、捕食学術誌)のうちの最後の「捕食学術誌」問題である。
AIは「捕食学術誌」と回答したが、問題の本質は、インターネットやAIの普及に伴いここ10年(3~4年?)ほど顕著に問題視されている膨大な数の「出版詐欺(編集詐欺)」問題だと、白楽は受け止めた。
ここ10年(3~4年?)ほどなので、2014年の文部科学省ガイドラインに言及はない。そのこともあって、各大学は「出版詐欺(編集詐欺)」を研究不正と認定していない。
この出版詐欺(編集詐欺)は、40~50年前から研究不正とされていたネカト(捏造・改ざん・盗用)を含むが、その不正行為は以下のようである。
つまり、「捕食学術誌」だけでなく、「論文工場(論文売買)、特許工場(特許売買)、談合出版(共謀出版)、査読偽装、査読工場、引用カルテル、引用強要(引用強制)、過剰自己引用、引用詐欺、架空文献、AI不正、フェイク・ニセ(学位、資格、大学、研究者、学術誌)」など、最近問題視されているもののすべてである。
それで、4番目の「捕食学術誌」問題の名称を本稿では「出版詐欺(編集詐欺)」問題に変えて調査の問題点と解決策を考えた。
これらの学術詐欺は日本固有の問題ではなく、詐欺者たちの活動拠点は世界中に分布している。
日本にも「出版詐欺(編集詐欺)」に加担する研究者が相当数いると白楽は推定するが、日本では公的組織である文部科学省、日本学術会議、国立国会図書館、大学図書館コンソーシアム などは調査していないし、しっかり調査している研究者として、前章でAIが栗山正光をあげたが、ごく少数のようだ。
調査は、現在、外国の複数の研究者とネカトハンターに依存している。
① 日本は、まず、文部科学省のガイドラインを改訂し、「出版詐欺(編集詐欺)」を研究不正と認定することが急務である。
② 英国や中国が計画・実施しているように、特定の不適切な学術誌への論文掲載料(APC)の支出を禁止する。
③「出版詐欺(編集詐欺)」に加担している日本の研究者をあぶりだし、その行為をやめさせる。悪質な場合は、しかるべき処罰を与える。
④ そして、「出版詐欺(編集詐欺)」を摘発している国際的なグループに日本も協力する体制を作るべきである。
★研究不正の研究者とネカトハンター
1章で、AIが「身内調査の弊害」「調査が遅く長期間」「調査員の能力不足」「新しい学術詐欺に不対応」の4つの問題があると答えた時、白楽はさらに1つ加え、「日本には研究不正の研究者が少なすぎる。そしてネカトハンターがいない」と書いた。
この5番目の問題があるので、前節で議論した4番目の「出版詐欺(編集詐欺)」問題に対する①~④の解決策は絵に描いた餅になる。解決のアイデアを示しても、このエンジンを始動させる「研究不正の研究者」がいない(少なすぎる)のである。アイデアを出しても、エンジンがかからない。
そして、賢い皆さんは気づかれたと思うが、日本に「研究不正の研究者が少なすぎる」ため、本稿で解決策を論じた「身内調査の弊害」「調査が遅く長期間」「調査員の能力不足」「新しい学術詐欺に不対応」の4つの問題点のすべてで、解決のエンジンがかからない。
イヤイヤ、4つの問題点だけでなく、もっと大きな括りの「学術研究で他人をだます学術詐欺」のすべてにおいて、問題点の解析と解決は、なかなか進まない。
ということで、アナタが研究者なら、「研究不正の研究者」になりません? 研究者でなければ、仮名のネカトハンターはどうでしょう。