7-134 ニック・ワイズが著者在順の売買者を摘発

2023年12月3日掲載

白楽の意図:著者在順を売る個人・組織と、コッソリ買う研究者が世界中に多数いる。ニック・ワイズが著者在順の売買者を特定した。この状況を解説したエリー・キンケイド(Ellie Kincaid)の「2023年3月のRetraction Watch」論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
2.キンケイドの「2023年3月のRetraction Watch」論文
7.白楽の感想
9.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●2.【キンケイドの「2023年3月のRetraction Watch」論文】

★読んだ論文

●【論文内容】

本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

★「2022年8月のSemiconductor Science and Technology」論文

ニック・ワイズ(Nick Wise 、写真出典)は英国の有名なネカトハンターで、これまで、論文工場をあばき、たくさんの不正論文を摘発し、彼の指摘で、850報以上の論文が撤回されている。

2022年8月12日、ニック・ワイズは、8日前の8月4日に出版された以下の「2022年8月のSemiconductor Science and Technology」論文の著者在順が、4か月前の2022年4月10日に売られていたことに気がついた。

販売者は、Facebookで第1、第3、第5著者の著者在順を850ドル(約8万5千円)、750ドル(約7万5千円)、650ドル(約6万5千円)で売っていた(以下出典:https://pubpeer.com/publications/5DF81DBD003F4F486E79992F0285D7#1)。

ニック・ワイズは、この著者在順売買をパブピア(PubPeer)で指摘した。 → PubPeer

同時に、学術誌の発行者にも通報した。

6か月後の2023年2月、「2022年8月のSemiconductor Science and Technology」論文は撤回された。 → 撤回公告

撤回公告では、ニック・ワイズの パブピア(PubPeer)コメント を引用し、対処を詳しく述べていた(以下)。

論文の著者在順が営利団体によって販売されていた十分な証拠がありました。

また、別の著者の論文の一部を引用せずに使用していました。さらに、論文内容には、ねつ造と不正編集を示す兆候が含まれていました。

当出版社(IOP Publishing) は、著者グループに何度も問い合わせましたが、著者グループ自身が研究成果をまとめた論文であることを示す資料を含め、提起された懸念を否定する証拠を著者グループは送ってきませんでした。

当出版社(IOP Publishing) は、これまでに得た証拠と著者グループとのやり取りで、この論文の信頼性は非常に低いと判断し、論文を撤回する決定を下しました。(出典:撤回公告

★売り手:ハムザ・クザール(Hamzah Kzar)

前述の「2022年8月のSemiconductor Science and Technology」論文の連絡著者は、第2著者のハムザ・クザール(Hamzah H Kzar)である。

ハムザ・クザール(Hamzah H Kzar、写真出典)は、イラクのアル=カシム・グリーン大学(Al-Qasim Green University)・獣医学部の助教授である。 → Loop | Hamzah H Kzar

「撤回監視(Retraction Watch)」は、ハムザ・クザールにこの論文の件を電子メールで問い合わせたが、返答は得られなかった。

なお、ハムザ・クザール は、2023年12月現在、アル=カシム・グリーン大学(Al-Qasim Green University)・獣医学部に在籍していない(らしい)。

というのは、アル=カシム・グリーン大学・獣医学部のサイトで、ハムザ・クザール(Hamzah H Kzar)を検索したが、ヒットしなかった。「らしい」というのは、アラビア語のサイトで検索したので、白楽がどこかヘマしている可能性があるからだ。

★買い手:マリア・ジェイド・カタラン・オピュレンシア(Maria Jade Catalan Opulencia)

「2022年8月のSemiconductor Science and Technology」論文の第3著者は、アラブ首長国連邦のアジュマーン大学・経営学のマリア・ジェイド・カタラン・オピュレンシア教授(Maria Jade Catalan Opulencia、写真出典、教授ではないかも)である。

以下(前掲図の一部)に示すように、第3著者は750ドル(約7万5千円)で売られていた。オピュレンシアがその著者在順を買ったと思われる。

実は、オピュレンシアは2021年まで、論文をほとんど発表していなかった。

それが、驚いたことに、2022年に突然50本以上の論文を発表した(スコーパスでは以下に示すように49本。2023年12月2日現在は62本)。パブメドだと、2021年まで0報で、2022年に23報、2023年に5報だった(Maria Jade Catalan Opulencia – Search Results – PubMed )。

出典:Opulencia, Maria Jade Catalan – 著者詳細 – Scopus Preview

オピュレンシアが著者のほとんどの論文は、その著者在順が売られていた、とニック・ワイズが指摘している。 つまり、オピュレンシアは62本の論文を買ったのだ。 → パブピアでオピュレンシアの50論文にコメントがある:PubPeer – maria opulencia

撤回論文データベースによると、オピュレンシアの2022年の8論文が撤回されていた。 → Retraction Watch Database

驚いたことに、オピュレンシアの撤回論文は、癌生物学、燃料電池、ナノエレクトロニクスに関する研究論文で、内容が多岐にわたり、というか、多岐過ぎて、とても1人の研究者、それも経営学の研究者がカバーできるとは思えない。

ニック・ワイズは次のように述べている。

オピュレンシアの2022年の論文はすべて著者在順を買った論文だと、確信しています。しかし、現状では、売買された論文だと確定するには、学術出版社が、数か月かけて、論文を1つ1つ調査しなければなりません。

これは効率が悪すぎます。

論文売買の広告を見つけたというメールを受け取ったら、学術出版社は、1つ1つの論文の詳細な調査をせずに、その人が出版した論文をすべて、まとめて調査すべきです。

なお、「撤回監視(Retraction Watch)」はオピュレンシアにコメントを要請したが、応じていない。

オピュレンシアが、2022年に50論文の著者在順を1件5万円で買ったとすると、払った金額は250万円になる。62論文なら310万円。

オピュレンシアは、250万円(310万円?)払って、何を手に入れたのだろう? 昇進? 500万円くらいの論文出版報奨金? 見合う投資だったのか?

★売り手:サリム・カレル(Salim Kallel)

ニック・ワイズはまた、「共著者募集!!」とFacebookで宣伝していたサリム・カレル(Salim Kallel)も論文の売り手だと指摘している。 → Salim Kallel | Facebook

白楽は、サリム・カレルの顔写真、国、所属など、属性を特定できなかった。仮名かもしれない。

ただ、以下に示すように、ニック・ワイズ以外の人も、サリム・カレル(Salim Kallel)の著者在順販売を指摘している。

 

「撤回監視(Retraction Watch)」は、サリム・カレルに連絡し、彼の著者在順の販売について問い合わせた。

サリム・カレルは「すべての情報は機密事項です。私には顧客の情報を開示する権利はありません」と返事してきた。

なお、サリム・カレルは、直ぐ後に、「世話をしなければならない赤ん坊がいるので、著者在順の販売はもう止めました」とも返事してきた。

サリム・カレルは「撤回監視(Retraction Watch)」に「もう止めました」と伝えたが(2023年3月13日出版の本論文)、実は、その直後に、サリム・カレルは論文販売を再開していた、とニック・ワイズが指摘した。

というのは、「c」氏が、本論文出版翌日の2023年3月14日のFacebookで、サリム・カレル(Salim Kallel)が著者在順販売をしていた、という情報を示していたからである(以下)。

Salim Kallel
Yesterday at 7:21 AM ·
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●7.【白楽の感想】

《1》著者在順の売買 

どうやら、売り手と買い手の両方にとって、著者在順の売買は美味しいビジネスのようだ。

ニック・ワイズが著者在順の売買者を特定した。しかし、犯罪行為ではない(らしい)。

イラクのアル=カシム・グリーン大学(Al-Qasim Green University)・獣医学部のハムザ・クザール助教授(Hamzah H Kzar)は、論文の売り手だが、論文売買で解雇されたという情報はない。ただ、大学を退職したらしい。退職は論文売買の発覚と関係ありそうだ。

アラブ首長国連邦のアジュマーン大学・経営学のマリア・ジェイド・カタラン・オピュレンシア教授(Maria Jade Catalan Opulencia)は50論文(62論文?)ほど買ったようだが、逮捕・投獄はされていない。逮捕・投獄どころか、アジュマーン大学を解雇されてもいない。

とにかく、どの国も、論文売買に対する法的規制がなく、取り締まる機関もなく、世界のあちこちで、売り手、買い手、仲介業者はやりたい放題のようだ。大学は関与している所属教員を見つけると処罰するかもしれないが、ハッキリしない。

日本で売り手、買い手、仲介業者がどれほどいるのか、白楽は把握していないが、発覚した場合、日本では処罰をうけるのだろうか、受けないのだろうか?

なんか、よくわかりません。

しかし、どう見ても、研究上の不正行為である。白楽は、犯罪行為とみなしているが、皆さんは、どうしたらよいと思いますろうか?

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●9.【コメント】

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