4‐2.非許容研究行為(URP,Unacceptable Research Practices)


2016年6月30日改訂。

ワンポイント:欧米では「研究ネカト」「研究クログレイ」とは別に「Unacceptable Research Practices」(非許容研究行為と訳した)という用語が時々使われる。その内容をここで述べるが、この用語を使わないことを推奨する。なお、本項目は「研究クログレイ」の一部ではないが、一部重複することもあり、便宜上、「研究クログレイ」の子サイトの位置に配置した。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.序論
2.米国のミシガン州立大学の非許容研究行為
3.英国研究評議会(RCUK:Research Councils UK)の非許容研究行為
4.英国・シェフィールド大学(University of Sheffield)の非許容研究行為
5.経済学分野の非許容研究行為
6.白楽の感想
7.主要情報源
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●1.【序論】

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図の出典

1992年、米国科学アカデミー(National Academy of Sciences、NASと略す)は、「研究に関連した不正、研究上での不正」を3つのカテゴリーに分類した(Responsible Science. Ensuring the Integrity of the Research Process, Volume I. Washington, DC: National Academy Press. 1992)。

  1. カテゴリー1:「研究ネカト (research misconduct)」=「ねつ造」「改ざん」「盗用」
  2. カテゴリー2:「研究クログレイ(QRP,Questionable research practice)」。研究記録不備やギフトオーサーシップ
  3. カテゴリー3:「研究違法行為」。研究実施に伴う法律違反行為。例えば、セクハラ、研究費不正、重過失、研究器物破壊、法・条例違反

研究倫理関係のサイトに、上記3つとは別に「Unacceptable Research Practices」(「受け入れられない研究行為、許容できない研究行為」という意味なので、非許容研究行為と訳した)という用語が時々使われる。「研究ネカト」「研究クログレイ」とどう違うのか?

日本では、「非許容研究行為」(URP,Unacceptable Research Practices)という用語は使用されていないので、日本の事例はない。

●2.【米国・ミシガン州立大学の非許容研究行為】

米国・ミシガン州立大学は、「研究ネカト 」、「研究クログレイ」と共存・同格の用語として、「非許容研究行為」(URP,Unacceptable Research Practices)という語句を使用し、以下のように定義している。(Michigan State University Human Resources)(保存版

「非許容研究行為は、研究ネカトではないが、研究や創造的活動の提案、実行、評価、報告で、法律、条例、行政上の要求、大学規則、大学方針に違反している行為である」
32. “Unacceptable Research Practices” means practices that do not constitute Misconduct but that violate applicable laws, regulations, or other governmental requirements, or University rules or policies, of which the Respondent had received notice or of which the Respondent reasonably should have been aware, for proposing, performing, reviewing, or reporting Research or Creative Activities.

つまり、ミシガン州立大学は「非許容研究行為」を特定の行為を指す専門用語としている。内容は、「研究違法行為」(カテゴリー3)に近い印象だが、「研究クログレイ」(カテゴリー2)と同じジャンルに記述している。ただし、具体的な行為をリストしていない。

●3.【英国研究評議会(RCUK:Research Councils UK)の「非許容研究行為】

英国研究評議会(RCUK:Research Councils UK)は、基礎研究に研究費を助成する英国政府の研究助成機関である。佐藤雅裕のスライド不完全な保存版)を見ると構造がわかりやすい。

2013年2月記載の「RCUK Policy and Guidelines on Governance of Good Research Conduct」(保存版)の第3章が英国研究評議会の「非許容研究行為(Unacceptable Research Conduct)」である。英語の最後の単語が「Conduct」であって「Practices」ではないが、同じである。

非許容研究行為は、「ねつ造(fabrication)」「改ざん(falsification)」「盗用(plagiarism)」の「研究ネカト」含んでいる。さらに、以下の4~6もある。

4.発表不正 Misrepresentation

  • データ不正。関連データの秘匿し、あるいは、故意、不注意、重過失で、欠陥のあるデータ解釈をする。 Misrepresentation of data, for example suppression of relevant findings and/or data, or knowingly, recklessly or by gross negligence, presenting a flawed interpretation of data
  • 非開示の重複出版・重複投稿。 開示しないで原稿を重複投稿する、または、開示しないで重複出版をする。
    Undisclosed duplication of publication, including undisclosed duplicate submission of manuscripts for publication
  • 利害関係の非開示。研究者あるいは研究資金提供者のどちらかの製品に関連していることを言明しない。 Misrepresentation of interests, including failure to declare material interests either of the researcher or of the funders of the research
  • 資格や経験の誤伝。資格や経験がないのにあると主張する、あるいはほのめかす。
    Misrepresentation of qualifications and/or experience, including claiming or implying qualifications or experience which are not held
  • 不適切なオーサーシップ。研究結果に重要な貢献をしていないのに著者に加えるように主張、または、逆に、重要な貢献をしたのに、著者に加えることを否定される。
    Misrepresentation of involvement, such as inappropriate claims to authorship and/or attribution of work where there has been no significant contribution, or the denial of authorship where an author has made a significant contribution

5.世話義務違反 Breach of duty of care

  • 個人情報・守秘義務違反。同意なしに研究で扱った個人やグループの身元を不適切に開示する。あるいは他の守秘義務違反。
    Disclosing improperly the identity of individuals or groups involved in research without their consent, or other breach of confidentiality
  • 不十分な保護。研究対象者、研究参加者、関連する個人を、事前承諾なしに、あるいは、事前承諾を得ても適切な保護手段なしに、危険にさらす。予測された世間での悪評判も危険に含まれる。
    Placing any of those involved in research in danger, whether as subjects, participants or associated individuals, without their prior consent, and without appropriate safeguards even with consent; this includes reputational danger where that can be anticipated
  • 不適切なインフォームド・コンセント。インフォームド・コンセントを、適切に、明示的に、透明に得るために、リスクと危険、研究目的、研究スポンサーを研究参加者やそれらの法定代理人に知らせるべきだが、それらをしない。
    Not taking all reasonable care to ensure that the risks and dangers, the broad objectives and the sponsors of the research are known to participants or their legal representatives, to ensure appropriate informed consent is obtained properly, explicitly and transparently
  • 研究諸規定違反。実験動物、ヒト臓器・組織の取扱い、環境保護の倫理規定・規則を守らない。
    Not observing legal and reasonable ethical requirements or obligations of care for animal 7 subjects, human organs or tissue used in research, or for the protection of the environment
  • 不適切なピアレビュ。研究計画書や論文原稿の不適切なピアレビュ。つまり、利益相反の非開示、能力不足の非開示、内容の横領、守秘義務違反、ピアレビュ用に提供された資料の悪用。
    Improper conduct in peer review of research proposals or results (including manuscripts submitted for publication); this includes failure to disclose conflicts of interest; inadequate disclosure of clearly limited competence; misappropriation of the content of material; and breach of confidentiality or abuse of material provided in confidence for peer review purposes

6.告発の不適切な扱い Improper dealing with allegations of misconduct

  • 不正の隠ぺい、告発者への報復。不正の隠ぺい、告発者への報復などをすると、今後、さらなる違反行為が起こり得る 。
    Failing to address possible infringements including attempts to cover up misconduct or reprisals against whistle-blowers
  • 悪意の告発への不適切な対処。善行の妨害行為として扱うべき悪意の告発に適切に対処しない。
    Failing to deal appropriately with malicious allegations, which should be handled formally as breaches of good conduct.

●4.【英国・シェフィールド大学(University of Sheffield)の非許容研究行為】

英国・シェフィールド大学(University of Sheffield)も「非許容研究行為」(The University’s Position on What is Meant by Unacceptable R&I Practices )を記載している。

英国の大学なので、英国研究評議会(RCUK:Research Councils UK)の「非許容研究行為(Unacceptable Research Conduct)」によく似ている。

「ねつ造(fabrication)」「改ざん(falsification)」「盗用(plagiarism)」の3つと以下の5つを「非許容研究行為」としている。タイトルだけ示す。英国研究評議会と異なるのは「7. 研究職のステータスの悪用(故意に地位や研究評判を悪用)」を加えたことだ。

4. 「発表不正」 Misrepresentation
5. 「データや研究材料の不適切な管理・保存」 Mismanagement or inadequate preservation of data and/or primary material
6. 「世話義務違反」 Breach of duty of care
7. 「研究職のステータスの悪用(故意に地位や研究評判を悪用)」 Abuse of status as a member of the general research profession (deliberately exploiting status and reputation as a research)
8. 「告発の不適切な扱い」 Taking reprisals against an individual(s) who made an allegation of research misconduct and/or attempting to cover up reprisals taken against the individual(s).

●5.【経済学分野の非許容研究行為?】

今までの非許容研究行為の解説では分野を限定していないが、主に生物医学分野を想定していると解釈できる。

2014年7月23日、経済学分野の研究不正に関する論文が出版された。論文のタイトルに「非許容研究行為」(Unacceptable research practice)の用語があるので、経済学分野の「非許容研究行為」と思える(Impact of Social Sciences – Scientific Misbehavior in Economics: Unacceptable research practice linked to perceived pressure to publish)(保存版)。

140801 sarah-necker[1]著者のサラ・ネッカー(Sarah Necker、写真出典同上)はドイツのフライブルグ大学の経済政策学・制度派経済学(Department of Economic Policy and Institutional Economics at the University of Freiburg)のポスドクである。

ただ、上記の2日後の2014年7月25日、同じ内容の論文が別のサイトにも出版された(同じ内容だと明記されている)。そのタイトルには「非許容研究行為」(Unacceptable research practice)という用語がないし、本文中にもない。(S.Necker (2014): Economists Behaving Badly Linked to Pressure to Publish)。

この論文は経済学分野全体の研究不正と思える。別の記事にした。→ 「経済学分野の研究不正

●6.【白楽の感想】

《1》非許容研究行為

米国では、“研究に伴う不正行為”を、米国科学アカデミー(National Academy of Sciences、NAS)の分類に従い、「研究ネカト 」(カテゴリー1)、「研究クログレイ」(カテゴリー2)、「研究違法行為」(カテゴリー3)の3つに分類している。

そこに、一部の機関が、「非許容研究行為(URP,Unacceptable Research Practices)」という語句を導入し、特定の行為を指す専門用語に思われた。しかし、具体的な行為は、「研究クログレイ」(カテゴリー2)とほぼ同じで、内容は重複している。

英国では、米国科学アカデミーの3つのカテゴリーを全部合わせた概念で「非許容研究行為(URP,Unacceptable Research Practices)」という語句を使用している。また、英語の最後の単語が「Conduct」と「Practices」の両方を使用している。これらのことから、特定の行為を指す専門用語というより、一般的に「許容できない」レベルの「研究行為」を指していると理解できる。

米国と英国で言葉が同じ英語だから、英文を読む方は混乱しがちになる。

“研究に伴う不正行為”の分類は、米国科学アカデミーの以下の3つのカテゴリーが妥当である。

  1. カテゴリー1:「研究ネカト (research misconduct)」=「ねつ造」「改ざん」「盗用」
  2. カテゴリー2:「研究クログレイ(QRP,Questionable research practice)」。研究記録不備やギフトオーサーシップ
  3. カテゴリー3:「研究違法行為」。研究実施に伴う法律違反行為。例えば、セクハラ、研究費不正、重過失、研究器物破壊、法・条例違反

結論として、「非許容研究行為(URP,Unacceptable Research Practices)」という語句を使う必要はない。欧米では多用されていない。白楽のブログでは、特定の研究行為を示す専門用語として扱わないことにした。

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。