タツミ・アリチ、有地建実(Tatsumi Arichi)(米)


ワンポイント:米国で事件を起こした日本人ポスドク

【概略】
img_ogpタツミ・アリチ、有地建実(Tatsumi Arichi、本人写真未発見)は、香川医科大学(現・香川大学医学部)出身の医師、課程博士である。

1998年頃(推定)、米国・NIH・国立がん研究所(NCI:National Cancer Institute)のジェイ・ベルゾフソキー研究室(Jay A. Berzofsky)にポスドク(Visiting Postdoctoral Fellow)として留学した。有地建実の専門は消化器内科だが、NIHのジェイ・ベルゾフソキー研究室の専門は免疫療法学だった。

2000年1月(33歳?)、有地建実が第一著者の「PNASの2000年論文」を出版した。
2001年5月(34歳?)、「PNASの2000年論文」が撤回された。
2002年6月20日(35歳?):研究公正局は「PNASの2000年論文」不正は有地建実がクロという報告書を発表した。

2015年6月現在(48歳?)、有地建実は日本に帰国していて、研究をしていない。内科医として病院に勤務している。

NIH_Clinical_Research_Center_aerialNational Institutes of Health

  • 国:米国
  • 成長国:日本
  • 研究博士号(PhD)取得:香川医科大学、課程博士(医学)
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に、1967年1月1日とする
  • 現在の年齢:50歳?
  • 分野:免疫療法学
  • 最初の不正論文発表:2000年(33歳?)
  • 発覚年:2001年(34歳?)
  • 発覚時地位:米国NIH・国立がん研究所のポスドク(推定)あるいは、日本に帰国していた
  • 発覚:内部公益通報?
  • 調査:①NIH・国立がん研究所・調査委員会? ②研究公正局。~2002年6月20日。
  • 不正:改ざん
  • 不正論文数:1報
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:2002年6月4日から3年間の申請不可(米国)

【経歴と経過】
不明点多い。

  • 生年月日:不明。仮に、1967年1月1日とする
  • 1991年(24歳?):香川医科大学(現・香川大学医学部)を卒業。医師免許取得
  • nishiokadr1991年(24歳?):香川医科大学・大学院入学。所属は第三内科(現・消化器・神経内科)・西岡幹夫教授(写真出典)の研究室
  • 1995年3月(28歳?):課程博士号(医学)取得。論文タイトルは、「慢性C型肝炎患者末梢血単核細胞のHCV core領域抗原由来合成ペプチドに対する反応性に与えるインターフェロン療法の影響」
  • berzofsky-jay1998年(31歳?)頃(推定):米国・NIH・国立がん研究所(NCI:National Cancer Institute)のジェイ・ベルゾフソキー研究室(Jay A. Berzofsky: 写真出典)にポスドク(Visiting Postdoctoral Fellow)として留学した。
  • 2000年1月(33歳?):不正論文「PNASの2000年論文」を出版した
  • 2001年5月(34歳?):「PNASの2000年論文」が撤回された
  • 2002年6月20日(35歳?):研究公正局が不正と判定した報告書を発表
  • 20xx年(xx歳):日本帰国

【不正発覚・調査の経緯】

有地建実(Tatsumi Arichi)の不正発覚の経緯は記述がない。

後述するように、不正箇所は棒グラフの改ざんである。棒グラフは他人がどう見ても、改ざんを見つけられない。同じ研究室でしかわからない。同じ研究室でデータ改ざんが疑われ、追求されたのだろう。

2001年5月(34歳?)、有地建実が第1著者だった「PNASの2000年論文」が撤回された。

2002年6月20日(35歳?):研究公正局は「PNASの2000年論文」の不正は有地建実がクロという報告書を発表した。

★米国・研究公正局が認定した不正論文と不正点

不正論文は「PNASの2000年論文」の1論文だけである。共著者のMutsunori Shiraiは、後述する。

  • Prophylactic DNA vaccine for hepatitis C virus (HCV) infection: HCV-specific cytotoxic T lymphocyte induction and protection from HCV-recombinant vaccinia infection in an HLA-A2.1 transgenic mouse model
    PNAS 2000 97 (1) 297-302; doi:10.1073/pnas.97.1.297
    Tatsumi Arichi, Takafumi Saito, Marian E. Major, Igor M. Belyakov, Mutsunori Shirai, Victor H. Engelhard, Stephen M. Feinstone, and Jay A. Berzofsky

米国・研究公正局によると、有地建実(Tatsumi Arichi)は、上記論文の図4,5,6を改ざんした。

この不正論文は、C型肝炎に対するワクチン開発の可能性を示した論文である。

有地建実(Tatsumi Arichi)は、プラスミドDNAによってマウスの免疫は強く長く続き、C型肝炎コア抗原を発現するワクシニア・ウイルスの防御に有効に見えるようにデータを改ざんした。

C型肝炎によって肝硬変や肝臓癌などになったアメリカ人は少なくとも300万人いる。300万人のアメリカ人の健康に重大な影響を及ぼしたのである。

改ざんされた図4は以下の図である。しかし、図4を眺めても、解説がないので、どこが改ざんされたのか分からない。
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以下の図5も改ざんされた図である。しかし、同じく、解説がない。図5を眺めてもどこが改ざんされたのか分からない。
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以下の図6も改ざんされた図である。しかし、同じく、解説がない。図6を眺めてもどこが改ざんされたのか分からない。
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【論文数と撤回論文】

パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、有地建実(Tatsumi Arichi)の論文を「Tatsumi Arichi[Author]」で検索すると、1報もヒットしない。

「Arichi T[Author]」で検索すると、1995年~2015年の21年間の37論文がヒットした。

2001年~2008年は論文がないので、本記事の有地建実(Tatsumi Arichi)の論文は1995年~2000年の6年間の9論文だろう。

9論文のうち、1995年の最初の論文を含めた7論文がジェイ・ベルゾフソキー(Jay A. Berzofsky)と共著で、8論文は白井睦訓(シライ ムツノリ)と共著、4論文が西岡幹夫と共著である。

2015年6月21日現在、1論文が撤回されていた。ここで問題視している「PNASの2000年論文」で、2001年5月に撤回されていた(http://www.pnas.org/content/98/10/5943.extract)。

【事件の深堀】

有地建実(Tatsumi Arichi)は、1995年~2000年の6年間に9論文出版している。

9論文のうち、1995年の最初の論文を含めた7論文がNIHのジェイ・ベルゾフソキー(Jay A. Berzofsky)と共著、8論文は香川医科大学の西岡幹夫研究室・助手の白井睦訓(シライ ムツノリ)と共著、4論文が教授の西岡幹夫と共著である。

論文の3報目は、1996年11月号の「J Immunol.」論文だが、第一著者の白井睦訓(シライ ムツノリ)は、NIHの所属になっていた。NIHのベルゾフソキー研究室に短期留学したのだろう。

1994年まで、白井睦訓(シライ ムツノリ)は、香川医科大学・医学部第3内科(西岡幹夫・教授)の助手だった。1995年に山口大学医学部・助教授、2000年同教授になった。

香川医科大学・西岡幹夫研究室の白井睦訓は、大学院生の有地建実(Tatsumi Arichi)をかわいがり、研究のスベテを教えたと思われる。

有地建実の最初の論文は1995年出版で、白井睦訓が第一著者である。2つ目・3つ目・4つ目の論文も白井睦訓が第一著者である。研究はこうすればいい、論文はこう書けばいいと、有地建実は白井睦訓から叩き込まれたに違いない。

有地建実(Tatsumi Arichi)は1995年3月に博士号を取得した。白井睦訓が博士号を取得した有地建実を、NIHのベルゾフソキー研究室に留学させたと思われる。

有地建実(Tatsumi Arichi)としても、研究の全部を助手の白井睦訓から学び、米国ではNIHのベルゾフソキーからかなりの部分を学んだに違いない。教授である西岡幹夫は、助手の白井睦訓に任せていたのだろう。

こう考えると、西岡幹夫は教室員の研究規範教育が足りなかった面はあるだろうが、有地建実(Tatsumi Arichi)のデータ改ざん事件の責任は主に白井睦訓、そして不正論発表時の直接のボスであるNIHのベルゾフソキーに副責任があると思われる。

2011年、そして、白井睦訓の研究費不正が発覚した(山大の不正経理 経産省、教授ら5人処分/山口新聞)。白井睦訓はそういうタイプの研究習慣病を持った人なのだろう。

【白楽の感想】

《1》情報が少ない

日本人の事件なので、日本語が使え、情報が得やすいかと思ったが、いつものことながら、情報は少ない。どうしてなんだろう? 理由①日本の科学メディアが記事にしていない(今回は米国も)。理由②ウェブ情報が徹底的に消された。本人の顔写真が見つからないだけでなく、有地建実の研究人生が見えてこない。

《2》その後、研究はしていない

有地建実は、その後どのような経過をたどったかわからないが、2015年6月現在、徳島県の三野田中(みのたなか)病院で内科医(診療部長)として勤務している。研究はしていないようだ。
http://www.tanakahospital.or.jp/about/doctor.html

研究ネカトで事件を起こし、不正を認めた研究者がその後どういう人生を送るか・送れるのか、白楽は気になる。研究界の外で仕事をし、2度と不正に手を染めず、幸福に暮らしてほしいと思う。有地建実は、医療での能力を生かし、医師として勤め、社会に貢献していて、なんか、ほっとする。

【主要情報源】
① 2002年6月20日、研究公正局の報告:NIH Guide: FINDINGS OF SCIENTIFIC MISCONDUCT