ソフィー・ジャマル(Sophie Jamal)(カナダ)

ワンポイント:ニトログリセリン軟膏が骨粗しょう症の治療に効くというデータねつ造・改ざん

【概略】
jamal_sophieソフィー・ジャマル(Sophie Jamal、写真出典)は、カナダのトロント大学・準教授で、トロントにある女性大学病院(Women’s College Hospital)の骨粗しょう症・骨健康センター(Centre for Osteoporosis and Bone Health)所長・上級内科医でもあった。専門は内分泌学だった。

2015年春(40歳?)に、ねつ造・改ざんを指摘する匿名の公益通報を受け、女性大学病院とトロント大学が調査し、同年12月、クロと判定した。

なお、トロント大学は「Times Higher Education」の大学ランキングでカナダ第1位の大学である(World University Rankings 2014-15: North America – Times Higher Education)(保存版)。

womenscollege1トロントにある女性大学病院(Women’s College Hospital)。写真出典

  • 国:カナダ
  • 成長国:カナダ(人種はインド系?)
  • 研究博士号(PhD)取得:トロント大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1975年1月1日とする
  • 現在の年齢:42歳?
  • 分野:内分泌学
  • 最初の不正論文発表:2011年(36歳?)
  • 発覚年:2015年(40歳?)
  • 発覚時地位:トロント大学・準教授、女性大学病院・骨粗鬆症・骨健康センター長
  • 発覚:公益通報
  • 調査:①女性大学病院・調査委員会。②トロント大学・調査委員会
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:撤回論文は1報
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 結末:辞職し臨床医へ

【経歴と経過】
年齢は全く不明

  • 生年月日:不明。仮に1975年1月1日とする
  • xxxx年(xx歳):トロント大学(University of Toronto)を卒業。医師免許。専門は内科一般、内分泌、代謝
  • xxxx年(xx歳):米国のカリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)でポスドク。生物統計学・疫学
  • xxxx年(xx歳):トロント大学で研究博士号(PhD)取得。臨床疫学
  • xxxx年(xx歳):トロント大学・准教授、女性大学病院の骨粗しょう症・骨健康センター(Centre for Osteoporosis and Bone Health)所長
  • 2011年(36歳?):問題となる「2011年のJAMA誌」論文を発表
  • 2015年(40歳?):不正研究が発覚する
  • 2015年9月(40歳?):女性大学病院とトロント大学を辞職
  • 2015年12月(40歳?):オンタリオ内科外科カレッジ医院(College of Physicians and Surgeons of Ontario)で医師として勤務。
  • 2016年2月23日現在(41歳?):オンタリオ内科外科カレッジ医院の医師ではない(All Doctors Search | Public Register Info | College of Physicians and Surgeons of Ontario

【研究内容】

ジャマルの研究は骨粗しょう症である。ウィキペディアから引用しよう。

骨粗しょう症(こつそしょうしょう、osteoporosis)とは、骨形成速度よりも骨吸収速度が高いことにより、骨に小さな穴が多発する症状をいう。背中が曲がることに現れる骨の変形、骨性の痛み、さらに骨折の原因となる。骨折は一般に強い外力が加わった場合に起こるが、骨粗鬆症においては、日常生活程度の負荷によって骨折を引き起こす。骨折による痛みや障害はもちろん、大腿骨や股関節の骨折はいわゆる高齢者の寝たきりにつながり、生活の質 (QOL) を著しく低くする。

日本では厚生労働省などによると、日本国内の患者は高齢女性を中心に年々増加しており、自覚症状のない未受診者を含めると、推計で1100万人超に上る。患者の8割は女性である。ホルモンの分泌バランスが変化する更年期以降の女性に多く、60代女性の3人に1人、70代女性の2人に1人が、患者になっている可能性があるとされる。

治療方法は性別、月経の有無によって異なる。

 女性は、破骨細胞の活動を抑制するビスフォスフォネート系薬剤(第2世代薬アレンドロネートなど)、活性型ビタミンD、ビタミンK、カルシウム製剤の投与や、SERM・エストロゲン、遺伝子組換えヒトPTH(1-34)の投与が行われる。エストロゲンの投与は乳癌の発生率を高める副作用がある。SERM(ラロキシフェン、バゼドキシフェン)は閉経後女性にのみ有用である。

 男性はビスフォスフォネート、ビタミンD、ビタミンK、カルシウム製剤、遺伝子組換えヒトPTH(1-34)のみである。
骨粗鬆症 – Wikipedia

dt_151021_osteoporosis_800x600骨粗しょう症(左)と正常(右)。画像出典

ジャマルは、骨粗しょう症の画期的な新しい治療法(例:上記ウィキペディア日本語版に記載されていない)を発見したのだ。

それは、ニトログリセリン軟膏を毎晩腕に塗るだけで骨粗しょう症が治るという画期的な治療法だった。ニトログリセリン軟膏は安い(1日5セント(約5円))し、塗るだけなら簡単である。

【動画】

【不正発覚の経緯と内容】

★画期的発見とメディアが報道

ソフィー・ジャマル(Sophie Jamal)は、ニトログリセリン軟膏を毎晩腕に塗ると、2年間で閉経後の女性の骨密度が顕著に増加したと、「2011年のJAMA誌」論文に報告した。この研究成果は骨粗しょう症治療では画期的である。jamal_jpeg_size_xxlarge_letterbox

ジャマルは、論文としては「2011年のJAMA誌」に発表したが、その前に、2010年10月8-11日にトロントで開催の米国骨代謝学会(American Society for Bone and Mineral Research)の年会(2010 Annual Meeting)で、研究成果を発表した。

それで、「2011年のJAMA誌」論文が公表される前から、たくさんのマスメディア(テレビ・新聞・ウェブ)が、ジャマルの画期的な骨粗しょう症治療法を報道した。
①2010 年10月21日 Topical Nitroglycerin Builds Bone保存版
②2010 年12月20日 Can heart drug help osteoporosis patients? | CTV News保存版
③2011年2月23日  Nitroglycerin ups bone density: study | CTV News保存版
④2011年2月22日  Study Finds Nitroglycerin Improves Bone Density保存版

★研究結果

研究結果を具体的に見よう(Nitroglycerin ups bone density: study | CTV News保存版)。

hch080骨粗しょう症ではない243人の女性(平均年齢は約64歳)を2年間に渡って臨床試験した。治験者を2群に分け、片方のグループに毎晩15ミリグラムのニトログリセリン軟膏を上腕に塗り込み、もう片方のグループは偽薬を塗り込んだ(写真出典)。

すると、ニトログリセリン軟膏を塗ったグループは、偽薬を塗ったグループに比べ、骨密度は背骨が6.7%、腰が6.2%、大腿骨先端が7%、高かった。また、骨の配置や構造に改善が見られ、骨形成が増え、骨破壊が減った。

以下は、「2011年のJAMA誌」論文の図2である。(BMD=bone mineral density=骨ミネラル濃度=骨密度)。Nitroglycerin=ニトログリセリン。

ニトログリセリン軟膏を塗ったグループ(●)の数値は、偽薬を塗ったグループ(○)に比べ、いずれも高い値を示している。
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ニトログリセリン軟膏は製品化されている。
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★不正発覚

2015年春(40歳?)、「2011年のJAMA誌」論文がデータねつ造・改ざんだと、トロント大学に公益通報があった。どこの誰が公益通報したのかをトロント大学は公表していない

2015年7月(40歳?)、トロント大学と女性大学病院は正式に調査を始めた。

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2015年12月、女性大学病院長のマリリン・エメリー(Marilyn Emery、写真出典)は調査の結果、「2011年のJAMA誌」論文は「明確に系統だったデータ不正操作が行なわれていた」と発表した。実際の数値よりもポジティブに見えるように数値をねつ造・改ざんした、と結論した。

「2011年のJAMA誌」論文以外、研究結果が未出版の2件も調査した。それらの研究結果に不正は見つからなかった。

Emery Emery240話がそれるけど、美人過ぎる病院長・マリリン・エメリーの写真をさらに2枚見つけました(出典 )。

★不正発覚のその後

2015年9月(40歳?)、ジャマルは、トロント大学と女性大学病院の調査終了前に両機関を辞職した。

2015年12月(40歳?)、オンタリオ内科外科カレッジ医院(College of Physicians and Surgeons of Ontario)(「カレッジ」とあるが「大学」ではないらしい)で骨粗しょう症臨床医として勤務した。

2016年2月23日現在(41歳?):オンタリオ内科外科カレッジ医院の医師を検索しても見つからないので、この医院の医師をやめたようだ(All Doctors Search | Public Register Info | College of Physicians and Surgeons of Ontario)。

【論文数と撤回論文】

2016年2月23日現在、パブメド(PubMed)で、ソフィー・ジャマル(Sophie Jamal)の論文を「Sophie Jamal [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2016年の15年間の78論文がヒット保存版)した。

2016年2月23日現在、1論文が撤回されている。ここで問題にしている「2011年のJAMA誌」論文が、2016年1月26日に撤回されている。

【白楽の感想】

《1》不正が1報とは思えない

photo1877調査委員会は「2011年のJAMA誌」論文以外、研究結果が未出版の2件も調査した。それらの研究結果に不正は見つからなかった。

撤回論文は「2011年のJAMA誌」論文の1報だけだ。

しかし、2011年ころの同じ趣旨の出版論文は他にもいくつもある。それらにねつ造・改ざんはなかったのだろうか? 普通に考えれば、ねつ造・改ざんが「ある」と考えて調査すべきでしょう。イヤイヤ、ジャマルの全78論文を調査すべきでしょう。

なお、研究ネカト疑惑に関して、カナダは比較的よく調査し、その結果を公表している。調査は現在進行中かもしれない。

《2》動機?

sophie_jamalジャマルの研究人生は、不正発覚まで順風満保に見える。どうして、ねつ造・改ざんをしたのだろう。

ニトログリセリン軟膏を塗るだけで骨粗しょう症が治ると提唱すれば、すぐに、他の研究者・医師が追試することは容易に想像がつく。

そして、治験期間の2年後、効果なしとわかれば、問題視されるのは目に見えている。

冷静に考えれば「バレる」とわかるだろう。それでも不正をしてしまうのが研究ネカトではあるが、ジャマルは、もともと、不正体質のシリアル研究ネカト者ではないだろうか?

報道はこういう視点からも報道してほしい。

【主要情報源】
① 2015年10月26日のテレサ・ボイル(Theresa Boyle)の「Toronto Star」記事:Women’s College researcher ‘manipulated’ study results: hospital president | Toronto Star保存版
② 「撤回監視(Retraction Watch)」のソフィー・ジャマル(Sophie Jamal)記事群:You searched for Sophie Jamal – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 2015 2015年12月30日の「medicalxpress.com」記事:Researchers: Retract study that claimed nitroglycerin might boost bone density保存版
④ 2015年10月30日のアンジェラ・マルホランド(Angela Mulholland)の「CTV News」記事:Scientists say publishing all clinical trials would improve data | CTV News保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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