「非ネカト」:ラスル・チョウダリ(G. Rasul Chaudhry)(米)


2016年11月20日掲載。

ワンポイント:1995年、学術不正(エイズ研究の安全性疑念)で半年間の停職を命じられたパキスタン出身のオークランド大学・準教授。不正判定は不当?

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】

02445914ラスル・チョウダリ(G. Rasul Chaudhry、写真出典)は、オークランド大学(Oakland University, Rochester, Michigan)・準教授で、事件当時の専門はエイズ・ウイルスだったが、2016年現在の専門は幹細胞で教授である。医師ではない。

1993年(45歳)(推定)、オークランド大学の複数の教員がチョウダリ準教授の学術不正(academic misconduct in the HIV research)をオークランド大学に訴えた。

1995年11月1日(47歳)、オークランド大学は学術不正(エイズ研究の安全性疑念)と認定し、半年間の停職を命じた。

チョウダリ準教授に「academic misconduct」「scientific misconduct」の疑念があったとされたので、分析したが、研究ネカトではなく、エイズ・ウイルスの取り扱い安全性に欠けるという疑念だった。

白楽は、「academic misconduct」は研究ネカトを含めた学術不正で、「scientific misconduct」は研究ネカトそのものと解釈している。間違い?

2554ef0オークランド大学(Oakland University, Rochester, Michigan)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:パキスタン
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:カナダのマニトバ大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1948年6月6日
  • 現在の年齢:69 歳?
  • 分野:エイズ
  • 最初の不正:1992年(44歳)
  • 発覚年:1993年(45歳)
  • 発覚時地位:オークランド大学・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はオークランド大学の複数の教員(代表はフェイ・ハンセン)がオークランド大学に訴えた。
  • ステップ2(メディア):
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①オークランド大学・調査委員会。②裁判所
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:エイズ研究の安全性疑念
  • 不正論文数:ない
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 研究費:
  • 結末:辞職なし。6月の停職

●2.【経歴と経過】

主な出典

  • 1948年6月6日:パキスタンのムルターン(Multan)で生まれる
  • 1969年(21歳):パキスタンの農業大学(University Agriculture, Pakistan)を卒業
  • 1971年(23歳):パキスタンの農業大学(University Agriculture, Pakistan)で修士号を取得した
  • 1972-1977年(24-29歳):パキスタンの農業研究所(Agricultural Research Institute)・研究員
  • 1978-1980年(30-32歳):カナダのマニトバ大学(University Manitoba, Winnipeg)でティーチング・アシスタント
  • 1980年(32歳):カナダのマニトバ大学(University Manitoba, Winnipeg)で研究博士号(PhD)を取得した
  • 1980-1982年(32-34歳):米国のジョージタウン大学(Georgetown University)・ポスドク
  • 1982-1985.年(34-37歳):米国のNIH・ポスドク
  • 1985-1989年(37-41歳):米国のフロリダ大学(University Florida)・助教授
  • 1989.年(41歳):米国のオークランド大学(Oakland University, Rochester, Michigan,)・準教授
  • 1993年(45歳):オークランド大学の複数の教員が学術不正(エイズ研究の安全性疑念)を大学に告発した
  • 1995年11月1日(47歳):オークランド大学は学術不正(エイズ研究の安全性疑念)と認定し、半年間の停職を命じた
  • 2016年11月現在(68歳):オークランド大学・正教授として幹細胞研究で活躍している

●3.【動画】

【動画1】
2014年の学会発表動画:「SBMT 2014 Rasul Chaudhry」(英語)6分24秒。
Brain Mapping Foundation が2014年 に公開
下の写真をクリックすると動画になる。動画をクリックしてスタート。 469063111_1280x720https://vimeo.com/90057420

●5.【不正発覚の経緯と内容】

1981年、世界で最初のエイズ患者が見つかり、急激な勢いでエイズ死亡者が増加した。

1983年、フランスの研究者がエイズの病原菌であるエイズウイルスの同定に成功した。しかし、治療法はまだ先だった。

1987年、米国食品医薬品局(FDA)はAZTを最初のエイズ治療薬として承認したが、エイズ死亡者は減少せず、増加の一途をたどっていた。

1992年、米国では、エイズが25-44歳の主要な死因になった。

1993年、エイズがすべての米国人の主要な死因になった。

多くの生命科学者がエイズの研究をしていたが、有効な治療法が見つからず、握手をすると感染するとか、近寄るだけで感染するとか、デマや流言も多く、極度の風評被害がまん延していた。

オークランド大学では、1992~1993年の間、生物学科のチョウダリ準教授が、ドッジホール棟の304実験室でエイズ・ウイルスの研究をし、その監督者でもあった。

しかし、後述するフェイ・ハンセンは、1993年2月まで、チョウダリ準教授が学内でエイズ研究をしていることを知らなかった。

1993年(45歳)(推定)、オークランド大学の複数の教員がチョウダリ準教授の学術不正(academic misconduct in the HIV research)をオークランド大学に訴えた。ここでの学術不正は、危険なエイズ実験を学内でしていることらしい。デマや流言、極度の風評被害を真に受けて、集団心理・集団無思考に陥り、チョウダリ準教授をスケープゴートにしたと思われる。

fay-hansen生物学科のフェイ・ハンセン教授(Fay Hansen、写真出典)がその先鋒だった。

ハンセン教授の不当な批判に対して、チョウダリ準教授はハンセン教授を名誉毀損で訴えた。

1994年11月の新聞「オークランドポスト(Oakland Post)」紙で、フェイ・ハンセンは「これは、内部告発者を裁判で訴える古典的な反応である」と、相変わらず、攻撃している。

チョウダリ準教授は無実を主張し続けた。オークランド大学はエイズ研究に従事する学生への適切なプロトコルを持っていないかった。

チョウダリ準教授がエイズ研究をしたドッジホール棟の304実験室は、学内で唯一バイオハザード設備がある施設だった。

チョウダリ準教授の弁護士・スティーブン・ランドー(Stephen Landau)は法廷で、「チョウダリ準教授は世界的な研究者であり、大学は、彼が教員であることを誇りにすべきです」と、述べている。

しかし、フェイ・ハンセンは、「私は、彼が大学から追放されるべきだと思う」と述べた。

1995年11月1日(47歳)、オークランド大学・学長のサンドラ・パッカード(Sandra Packard)はチョウダリ準教授に手紙を送った。その内容は、エイズ研究で学術不正(academic misconduct in the HIV research)の疑惑があり、調査した結果、学術不正と認定したことを伝える、という内容だった。

あなたがオークランド大学の規則に違反していることをお伝えするのはとても残念です。

研究担当副学長のゲーリー・ルッシ(Gary Russi)は、チョウダリ準教授に懲罰を与えるよう主張した。その主張が通り、チョウダリ準教授は1998年までフルタイム教員になれなかった。一方、過剰な量の授業をすることが強要された。

また、チョウダリ準教授は追放されなかったが、半年間の停職が命じられた。つまり、1996年5月1日まで、チョウダリ準教授はオークランド大学で研究すること、さらに、内部または外部の研究資金の申請と受給が許されなかった。

しかし、2016年10月現在、チョウダリ(68歳)は正教授に昇格しハンセンとともに、オークランド大学・生物学科・教授として在籍している。

2016年10月のオークランド大学新聞・「オークランドポスト(Oakland Post)」紙は、20年前の事件を振り返る記事を掲載した。当時、エイズでパニックになって起こした事件や裁判を振り返り、現在、何を考え・議論し・教訓とするか考えるために、当時の当事者だったチョウダリ教授とハンセン教授に質問した。

ハンセン教授は、「私は、責任ある教員ならしたであろうことをしました。学生およびポスドクが懸念していた安全問題上の不満を私は私の上司の注意しました」と言った。

彼女は、チョウダリ準教授を告発したことを後悔していない。もし同じような状況なら、再び、告発するかどうかを尋ねると、彼女は言った。「します。私達の学生、スタッフ、教員の健康と安全は、最優先です。しない人なんているんですか?」

チョウダリ教授は「オークランドポスト(Oakland Post)」紙にコメントを寄せなかった。

●6.【論文数と撤回論文】

2016年11月19日現在、パブメド(PubMed)で、ラスル・チョウダリ(G. Rasul Chaudhry)の論文を「G. Rasul Chaudhry [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2016年の15年間の10論文がヒットした。

「Chaudhry GR[Author]」で検索すると、1980~2016年の37年間の35論文がヒットした。

2016年11月19日現在、パブメドの論文リストでは撤回論文はない。

●7.【白楽の感想】

《1》嫉妬

looking-back-chaudhry事件の詳細は不明だが、新聞記事は「停職中の教授は学術的嫉妬でスケープゴート」という文字を掲載している。

チョウダリ準教授は、同僚の学術的嫉妬でスケープゴートにされた、と世論(新聞記者)は受け止めている。

今回の事件は「エイズ研究での学術不正(academic misconduct in the HIV research)」で、研究ネカトではないが、研究ネカトの場合も、事件の裏側では、研究者の嫉妬が渦巻くことがあるだろう。

一般的に、研究者の事件は、学外の研究者仲間、および、同じ大学の教員からの学術的嫉妬でスケープゴートにされた例がたくさんあるように思える。出る杭をたたく。自分より優秀な研究者を引きずりおろせば、研究費も地位も自分に回ってくるからだ。

ただ、その実態を、具体例で示すことや数値で示すことは難しい。公的な調査記録や新聞記事では、そういうドロドロした面(事件の裏事情)を記録・記事にしない・できないからだ。

しかし、それらの記録・記事がなければ、外部の人間はそのような内部事情を知るすべがない。

《2》集団心理・集団無思考

imagesxhecnyrn今回の事件は、エイズ研究での安全性の問題を、デマや流言、極度の風評被害を真に受けて、集団心理・集団無思考に陥り、チョウダリ準教授をスケープゴートにしたと思われる。

チョウダリ準教授がパキスタン出身の男性で、フェイ・ハンセン(Fay Hansen)は白人女性である。記事にはないが、人種差別の臭いもする。エイズ研究していたチョウダリ準教授の多額の獲得研究費に嫉妬したのかもしれない(推定)。

「オークランドポスト(Oakland Post)」紙が20年ぶりにチョウダリ事件を記事に取り上げた機会に、フェイ・ハンセン(Fay Hansen)は、チョウダリ教授に謝罪すべきだったと思う。

自分の信念として正しいと思って行動したことでも、結果として、そうではなかったことは、長い人生では誰にもあることだ。

フェイ・ハンセンとその賛同者は、当時、エイズに関するデマや流言、極度の風評被害に踊らされていた烏合の衆だったのは明らかだ。それで、チョウダリ教授の人生は大きく損傷したのである。

写真でみるとフェイ・ハンセンは高齢である。人間としてなかなかできないことだろうが、この機会を逃しては、オークランド大学に教授で在籍中に、もう謝罪する機会はないだろう。

●8.【主要情報源】

① 2016年10月26日のCheyanne Kramerのオークランド大学新聞「オークランドポスト(Oakland Post)」記事:The Oakland Post | Looking Back: The curious case of G. Rasul Chaudhry
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。ar-150309739

 

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