2‐2‐4.学部生・大学院生、高校生向け

前回と同様、「無作為抽出大学」と「事件大学」を対象とした。

【無作為抽出大学】
無作為抽出大学として「日本の大学一覧 – Wikipedia」の「あかさたな」の各行最初の大学を調べた。つまり、前回の「1‐2‐2-3.大学が所属教職員向け」で挙げた大学と同じ大学を調べた。

★あ 愛国学園大学(私立大学、1998年設立。1学部:人間文化学部):白楽評価「保留」。大学自身のウェブサイトがない。

★か 嘉悦大学(私立大学、2001年設立。2学部:経営経済学部、ビジネス創造学部):白楽評価「3(改善希望)」。規定あり。説明は貧弱だがある。「中国語」の記述があるのが優れている。

「嘉悦大学教務規程」に、「レポートの作成にあたって、他人の書いた文章等の盗作、盗用等の剽窃行為は、行ってはならない」とある。

不正行為と懲戒」に、「レポートの作成にあたって、他人の書いた文章等の盗作、盗用等の剽窃行為を行った場合・・・停学」とある。「日本語」「中国語」で記されていた。

★さ 埼玉大学(国立大学、1949年設立。5学部:教養学部、教育学部、経済学部、理学部、工学部):白楽評価「1(最悪)」。学則に盗用という用語がない。盗用の説明もない。

★た 第一工業大学(私立大学、1968年設立。1学部:工学部):白楽評価「3(改善希望)」。学則がウェブにアップされていない。

学科課程カリキュラム及び授業計画(2013年度)」に技術者倫理(Engineer ethics) という必修科目があり、授業概要に「技術者として、業務上知り得た秘密を他に漏らしたり、または盗用したりしない」とある。授業で盗用についての教育をしていると思われる。しかし、受講前の学部生に伝えるためにも、また、いつでも内容にアクセスできるように、ウェブに具体的説明を載せるべきでしょう。

★な 長岡大学(私立大学、2001年設立。1学部:経済経営学部):白楽評価「1(最悪)」。学則に盗用という用語がない。盗用の説明はない。

【事件大学】
2010年以降、所属の学生・大学院生の盗用が発覚したのは、早稲田大学、慶應義塾大学、筑波大学、広島大学である(1‐2‐3.日本の学者・学生の盗用事件一覧)。なお、この4件の内3件は、中国人留学生である。例数が少ないのと生命科学系がないので、2008年11月7日「山形大:医学部院生、論文盗用し発表 修了で処分できず」(毎日新聞)の山形大学を加えた。

早稲田大学(私立大学、1920年設立。13学部):白楽評価「5(スバラシイ)」。

大学全体では、早稲田大学・メディアネットワークセンター(2014年3月31日廃止)の『アカデミックリテラシー2008』が日本語・英語で丁寧に記載している。

「第3章 情報倫理」の「文書作成と著作権」で以下の説明がある。

文章について、他者の書いた文章を自分の文章の中に取り込むことは、引用という方式なら認められています(著作権法第32 条)。ただし、引用として認められるには以下の条件をすべて満たしている必要があります。
• その著作物を引用する必然性がある。
• 自分の著作物と引用部分が明確に区別できる。
• 引用された著作物の出典、著作者名などが明記されている。
• 自分の著作物と引用する著作物の主従関係が明確にされている。
• 原則として原形を保持し、改変して使用する場合はその旨を明記する。
「必然性がある」とは、脈絡なく引用していいわけではないということです。引用する必然性もなしに、これは引用だと言い張れば、何でも複製できることになってしまうからです。「自分の著作物と引用部分が明確に区別できる」とは、例えば短い文章であれば括弧でくくる、という方法が良いでしょうし、少々長い文章であれば段落を変え、字下げをして前後の段落から少し引用文章の段落を離してやるといった方法がよくとられます。
・・・中略・・・。

さて、出所の明示ですが、最後にまとめて参考文献としてあげるのでは不十分です。それぞれの引用部分に対応して出所を明示する必要があります。つまり、文章のうちどの部分が、どの文献から引用されているのかが明らかになっていなければいけません。この表示の仕方は学問分野や学会によって様々に異なります。

第6 章「レポート・論文と作成支援」の「6.5 これだけはやるな」で盗用(剽窃)は処分されると警告している。

早稲田大学では、(試験の代わりに行われる)レポート(論文考査)、卒業論文、修士論文、博士論文などで剽窃が明らかになった場合、試験での不正行為と同様に扱います。この場合、不正行為が行われていた時点で履修しているすべての科目を無効とするほか、3ヶ月の停学を基準とする処分が学部等の各箇所で行われることになっています(2005 年12 月学部長会申し合わせ、2007 年10 月教務主任会確認)。

また卒業後に卒業、修士、博士論文等において不正が発覚した場合でも、学位が取り消される場合があります

さらに部局でも説明している。一例をあげる。「早稲田大学政治経済学部 <重要>レポートにおける盗用・剽窃行為について」(2014年5月9日閲覧)。

レポートのなかで他人の文章をそのまま借用したり、あるいはレポートの中心になる重要なアイディアを他人の文章に頼ったりした場合は、その文章の出所を(つまり、だれがどこに書いた文章であるかを)、引用や参照のルールにのっとって示し、その部分は自分の書いた文章(あるいは自分で考えたアイディア)ではなくて、誰かから借りたものであることを明らかにする必要があるのです。この要件を満たせば、「引用」といえます。他人から借りた文章やアイディアの出所を示さずに、自分の書いたものとして(自分の名前と学籍番号を書いて)提出すると、「盗用」または「剽窃」となるのです。

レポートとは、課題図書、参考文献、資料などを読み、調べ、必要に応じてその内容を整理し要約した上で、自分の文章で自分の考えを述べたものです。書物やウェブ上のサイトからの、他人の文章の抜書きや丸写しは、レポートではありません。もちろん、ウェブ上の他人の文章をそのままコピー&ペーストし ただけのもの、あるいは一部でもそうした部分を含むものをレポートとして提出することは許されません。これは、試験におけるいわゆるカンニング(他人の答案や持込の禁止されている資料を写すこと)と同様、不正行為に当たります。レポートやゼミ論文の盗用・剽窃行為が発覚した場合、全科目無効や停学を含む、厳格な処罰をもって臨みます。

慶應義塾大学(私立大学、1920年設立。10学部):白楽評価「2(即刻改善)」。「学生向け」サイトに盗用という用語がない。盗用の説明はない。

KITIE – Keio Interactive Tutorial on Information Educationという組織があり、「KITIEは、初学者の皆さん(主に大学1、2年生)を対象とした「情報リテラシー」習得のためのウェブチュートリアルシステムです」とある。英語名の組織だが、内容は日本語で英語はない。それなら日本語の組織名にした方がわかりやすい。

KITIE – 情報を活用するに、「剽窃(ひょうせつ)とは、盗用のことをいいます。そうです、これは犯罪なのです」という間違いを記述している。その他を含め、内容が貧弱である。

大学全体ではなく部局だが、「法務研究科(法科大学院)」のサイトに、「法律学という学問の性質上、剽窃や不適切な引用註等に関しては特に厳しく対処している」との記述がある。しかし、学問分野によって盗用の処分が異なるのはいかがなものでしょう。また、剽窃(盗用)の定義や説明、処分規定は書いてない。

筑波大学(国立大学、1973年設立。9学群):白楽評価「1(最悪)」。「教育」関連サイトに盗用という用語も説明もない。具体的記述や学部生・大学院生にしっかり伝えておこうという気持ちが感じられない。

ただし、「教育」ではなく、「研究」セクションの下に「研究コンプライアンス 研究活動の公正な推進」があり、その中に「知の品格<研究者倫理>」がある。盗用の定義は文部科学省と同じ。文中に大学院生も対象にしているとあるが、このファイル公開場所では、大学院生がアクセスしにくい。また、文中に「修士・博士論文を含め」と書いてあると、「卒業論文」は対象外と思う学部生がでてくる。

公表されたデータや論文の引用は、ルールに則って出所を明記しましょう。インターネット上の情報や修士・博士論文を含め、他者の著述を剽窃・盗用すること、適切なクレジットを示すことなく論文に文章や図表を引用することは研究不正にあたります。関連の先行研究に敬意を払い、他の業績を適切に評価し、きちんと引用することで、自らの論文のオリジナリティを明確にできます。

学生にも独立した研究者としての研究倫理が求められます。研究不正行為により、学位が取り消される場合もあります。

広島大学(国立大学、1949年設立。11学部):白楽評価「4(かなり良い)」。盗用の定義は文部科学省と同じ。「研究倫理案内 誠実で信頼される研究活動のために」リーフレットがある。このリーフレットが日本語だけでなく、英語版、中国語版がある点が優れている。

またFFPの他にも,次のような研究上の倫理問題(疑わしい行動)があります。

◆ 論文の重複投稿,多重投稿
  同一の研究成果を複数の雑誌に投稿すること。使用する言語が異なっていても同じ内容の論文を複数の雑誌に投稿すると重複投稿とみなされます。また,論文の内容を故意に小分けにして投稿する分割行為も不適切な行為とみなされる場合があります。
◆ 承諾されていない著作物の利用,転載
  “思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの”(著作権法第2条)が著作物であり,“人間の思想や感情を伴わない単なる事実やデータ”は著作物ではないと定義されています。承諾されていない著作物の利用や転載は不適切な行為とみなされます。(ただし,著作権法により認められた行為は除く。)

「博士の学位論文の提出及び公表に係る確認書(申請書)」(gakuironbun_kohyo_kakuninsho)に「盗用」関連の確認事項が記載されている。しかし、「論文の提出」する時の申請書ではなく、別途、論文を書く前に指導・説明が欲しいですね。

1.学位論文執筆に係る確認事項
□ 研究上の不正行為(捏造,改ざん,盗用等)を行っていないこと。
□ 著作権の侵害行為を行っていないこと。(以下のア~キを満たす,適切な方法で引用を行っている。または,学位論文執筆に関して著作権者の許諾を得ている。)
ア 既に公表されている著作物であること
イ 「公正な慣行」に合致すること
ウ 研究の引用の目的上「正当な範囲内」であること
エ 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
オ カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること
カ 引用を行う「必然性」があること
キ 「出所の明示」をすること

山形大学:白楽評価「2(即刻改善)」。「学生向け」サイトに盗用の規定も説明もない。 2008年11月7日に「山形大:医学部院生、論文盗用し発表 修了で処分できず 」(毎日新聞)と報道されたように、医学系の大学院生が盗用事件を起こした。そういう過去があるのに、学部生・大学院生向けの研究規範規定や盗用に対する規定や説明がウェブにない。

山形大学の研究活動における行動規範に関する規程」に文部科学省と同じ盗用の定義はあるが、学生・大学院生向けというより、教職員向けである。それも、定義だけで、盗用の説明はない。

医学系大学院では、「学位論文審査願」に広島大学と一字一句同じ確認事項がある。

1.研究上の不正行為(捏造,改ざん,盗用等)を行っていないこと。
 2.著作権の侵害行為を行っていないこと。(以下のア~キを満たす, 適切な方法で引用を行っている。または,学位論文執筆に関して 著作権者の承諾を得ている。)
  ア 既に公表されている著作物であること。
  イ 「公正な慣行」に合致すること。
  ウ 研究の引用の目的上「正当な範囲内」であること。
  エ 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること。
  オ カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること。
  カ 引用を行う「必然性」があること。
  キ 「出所の明示」をすること。

【大学教員の個人的サイト】
大学や部局ではなく、大学教員が個人的に「盗用」を解説しているサイトがある。他大学の学部生・大学院生もインターネットで無料アクセスできるので、所属大学が充分な情報を提供してくれなくても、自習すればよい。内容は玉石混交だが、「玉」を以下に3つ示す(なおサイト探索・提示は、システマティックでも網羅的でもありません)。

推奨》松本邦彦(山形大学・人文学部 政治学・日本外交史)が、「引用の作法とは」で「盗用」を解説している。
推奨》江口聡(京都女子大学現代社会学部):「レポートの書き方(2) 剽窃を避ける
推奨》 西澤 幹雄(立命館大学・生命科学部 生命医科学科)が、「ライフサイエンスにおけるレポート・論文の書き方」の中に引用も書いてある。

【高校生向け】
日本では、どの時期に盗用を教育すればよいか? 大学か高校か?

白楽は、小学生・中学生・高校生に対しても、学年に見合った「盗用」の規定や説明をする必要があると思っている。要するにカンニングと同列に扱う規範だと思っている。

しかし、日本の高校は、高校生に対して「盗用」の規定や説明をしていないと、白楽は思っていた。この場合、高校生は「盗用」に関して教育されないから、大学で大学生に教育しないといけないことになる。というわけで、高校の学則や教育実態を確かめたい。これが第1点。

第2点は、実は、米国の高校では「盗用」の規定があり、高校生に丁寧に説明している。日本との比較を記述することで、読者に「日本の高校でも教育した方が良い」という材料を提供しておきたい。米国の「盗用」に関することは後述するが、ここで、2つのサイトを示しておこう。

★「High School Plagiarism Policies 」では、「ほとんどの高校は盗作に関する方針を示している。(Most high schools have policies in place regarding plagiarism)」とある。

★ネバダ州のワショー群学校・「 Washoe County School」の規定に「ACCEPTED PRACTICE PLAGIARISM AND CHEATING POLICY」があり、「ほとんどの高校と大学は盗作に関する・・・(以下略)。(Most high schools and universities have a policy clearly stating that students who plagiarize material or cheat on examinations will receive no credit on the assignment/test and risk failure in the course.)」とある。盗用はカンニングと同レベルの「してはいけない」ことになっている。

しかし、日本の高校の学則そのもの、まして、「盗用」規定をウェブで探しても見つからなかった。

もし、少数見つかっても、それは特殊な高校なのか、平均的な高校のか判断できない。それで、高校生向けに書かれた「レポートの書き方」のサイトを探った。

無作為に3つのサイトを見たが、どれも、研究規範(研究倫理)や盗用の具体的記述はなかった。つまり、日本の高校は、「盗用」の定義も説明もしていない(多分)。

論文・レポートの書き方|骨組みから作ろう(2014年5月14日閲覧)

高校理科課題研究レポートの書き方 | nanapi [ナナピ](2014年5月14日閲覧)

レポートの書き方(2014年5月14日閲覧)

【白楽の感想】
ここでの記述は、白楽がウェブサイトをソコソコ調査した結果である。大学は白楽の調査以外にも情報を提供しているかもしれないが、白楽はそれを重要とは考えていない。「軽く」調査した程度で「盗用」の警告や説明にヒットしなければ、多くの学部生・大学院生は、アクセスしない可能性が高い。だから、大学は、「盗用の定義と説明」に学部生・大学院生が簡単にアクセスできる状態にしておかなければ意味が低減する。

盗用の定義と説明は、一部の大学が丁寧に説明し、他の大多数の大学がおざなりである。また多くの大学は、学部生・大学院生向けの学則や規則で、盗用を禁止していない(つまり、何も触れていない)。白楽は、こういう状況に驚いた。学則や規則を即刻改訂し、盗用の警告と説明をし、罰則(米国だと「停学」「退学」。日本だと「3か月停学」「単位無効」「学位取消」など)を記載すべきだろう。

国立大学は、立場上、文部科学省に従うしかないのかもしれないが、文部科学省の貧弱な定義と説明(拙著で指摘しているように貧弱です)では、学部生・大学院生への警告・説明が大きく不足する。文部科学省の定義・説明は、主に教職員向けで、学部生・大学院生に同じ文章で済ませてはいけない。

早稲田大学・大学院生で盗用のため、2013年に博士号を取り消された中国人留学生・晏 英(イエン・イン)は、次のように「不服申立」している。「上申書」も提出している。

在学中、論文の作成方法、特に引用方法、不適切引用と剽窃の区別、さらに具体的にどのような行為が不正にあたるのかについて、一切の指導を受けたことはありませんでした。

学生の「教えてくれなかった」主張をそのまま鵜呑みにはできないが、少なくとも、「盗用」の具体的な基準を説明し、学則や規則で処分(3か月停学、単位無効、学位取消など)を制定していなければ、処分は困難だろう。

関東の一流私立大学の早稲田大学と慶応義塾大学は、同じように大学院生の盗用事件を経験しているのに、盗用の定義と説明は対照的である。早稲田大学は日本で最高ランクの対応をしているのに、慶応義塾大学は日本で最低レベルの対応をしている。慶応義塾大学は非常にマズイと思う。

また、一部の大学教員は優れた「レポートの書き方」「論文の書き方」をウェブに個人的に公開している。個人サイトは一般的には玉石混交だが、「玉」のほうは、「盗用」や引用にも触れ、丁寧で優れた説明がある。学部生・大学院生には玉石の選別は難しいかもしれないが、現代ではその選別は必須スキルである。選別を間違えなければ、大学生・大学院生が優良・有益サイトを見つけられる。あとは、本人が読んで学んで実行すればよい。人生は自己責任である。成功を祈る!

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