2‐2‐3.大学が所属教職員向け


2013年12月20日 公表の「政府統計」によると、日本に大学は、国立大学86+公立大学90+私立大学606=782大学がある。

日本の大学・大学院(つまり高等教育機関)は所属する教員・研究者などのスタッフ向けに研究規範を制定・伝達している。ただし、教員・研究者向けなのか、学部生・大学院生向けなのか、サイトからは判断しにくいケースもある。

皆さんに白楽の評価を伝えた方がよいと思い、白楽が各大学の「盗用の定義と指針」を5段階評価した。「4」「5」は推奨です。「1」「2」は即刻改善した方が良いでしょう。「3」もそのうち改善した方が良いでしょう。

  1. (最悪):定義や指針がない・・・所属教員や学生・大学院生が盗用したとき、機関の責任も問われますよ。
  2. (即刻改善):定義や指針に問題多い
  3. (改善希望):ソコソコです。改善を希望します。
  4. (かなり良い):かなり良い。
  5. (スバラシイ):全国の模範となります。といっても完全はないので、今後、レベルをキープし、定期的に改善してください。

【無作為抽出大学】
無作為抽出大学として「日本の大学一覧 – Wikipedia」の「あかさたな」の各行最初の大学を調べた。

★あ 愛国学園大学(私立大学、1998年設立。1学部:人間文化学部):白楽評価「保留」。大学自身のウェブサイトがない。

★か 嘉悦大学(私立大学、2001年設立。2学部:経営経済学部、ビジネス創造学部):白楽評価「3(改善希望)」。規定あり。定義は貧弱だがある。
嘉悦大学及び嘉悦大学短期大学部における研究活動上の不正行為の防止等に関する規定」(2009年)があり、 次のように定義している。
「盗用」・・・盗用の定義は文部科学省と同じ。
盗用とは別に、「不適切な投稿又は出版」の項目がある。「同一内容とみなされる研究論文を複数作成して異なる雑誌等に発表する行為」と定義している。

★さ 埼玉大学(国立大学、1949年設立。5学部:教養学部、教育学部、経済学部、理学部、工学部):白楽評価「3(改善希望)」。規定あり。定義は文部科学省と同じ。

★た 第一工業大学(私立大学、1968年設立。1学部:工学部):白楽評価「4(かなり良い)」。規定あり。定義はよく練れている。作業の具体的解説があるともっと良い。
「第一工業大学研究倫理」について(指針)」があり、次のように定義している。

 「9.研究成果発表の基準」・・・「盗用(他人のデータや研究成果等を適切な引用なしで使用)」
「研究発表における不適切な引用、引用の不備、誇大な表現、都合のよい誤解をさせる表現等は、不正行為とみなされる恐れがあり、研究者は、適切な引用、誤解のない完全な引用、そして真摯な表現をしなければならない。」

「12. 他者の業績評価」・・・「研究者は、他者の業績評価に関わり知り得た情報を不正に利用してはならない。当該業績に関する秘密は、これを保持しなければならない。」

★な 長岡大学(私立大学、2001年設立。1学部:経済経営学部):白楽評価「1(最悪)」。規定や指針がない。

【事件大学】
2010年以降、所属教員の盗用事件が発覚した名古屋外国語大学、明治大学、早稲田大学、立命館大学、滋賀大学、東京大学、東北大学、東京医科大学(1‐2‐3.日本の学者・学生の盗用事件一覧)には、所属教員向けの「盗用」規定がなかったのだろうか?

当時に戻って調べるのは、なかなか大変だ。2014年5月現在で調べよう。「事件後、通常より優れた盗用規定を制定しただろうか?」という視点も込めてみてみよう。

名古屋外国語大学(私立大学、1988年設立。2学部:外国語学部、現代国際学部):白楽評価「1(最悪)」。研究規範の規定がない。盗用の定義もない。オイ!

明治大学(私立大学、1920年設立。10学部):白楽評価「2(即刻改善)」。規定あり。定義はない。
明治大学研究者行動規範」(2007年11月7日理事会承認)があるが具体性に欠く。盗用の定義はない。

早稲田大学(私立大学、1920年設立。13学部):白楽評価「5(スバラシイ)」。事務局の組織として「早稲田大学研究倫理オフィス」がある。規定があり。定義はよく練れている。作業の具体的解説がある。改善点は英語版を加えることだろう。
学術研究倫理に係るガイドライン」には、
「研究者等は、研究成果の公表に際しては、オーサーシップや既発表の関連データの利用基準、著作権等について特に注意を払い、各研究組織や研究分野、学会、学術誌等に固有の慣行やルールを十分尊重する。」
「研究者等は、研究業績の評価の際に得られた情報を正当な理由なく他人に知らせ、または不当な目的に利用してはならない。」

研究活動に係る不正防止に関する規程」には、
「著作権の侵害[:] 出典を明示または明確にしないで、他人の作成したデータや文書を引用し、または要約を作成すること[。]その他他人が発表した試資料等を盗用すること。」[]は白楽が加筆。

立命館大学(私立大学、1922年設立。13学部):白楽評価「3(改善希望)」。規定あり。定義はあるが貧弱。
立命館大学研究倫理指針」(2007年3月15日制定、2010年11月10日改正)には、「盗用:他人のアイデア、データや研究成果を適切な引用なしで使用」 とある。

滋賀大学(国立大学、1949年設立。2学部:教育学部、経済学部):白楽評価「2(即刻改善)」。規定あり。定義はあるが貧弱。
国立大学法人滋賀大学における研究活動の不正行為への対応に関する規程」(2007年5月8日)では、盗用の定義は文部科学省と同じ。
国立大学法人滋賀大学における研究者等の行動規範」(2008年3月11日)には、盗用の定義はない。

東京大学(国立大学、1877年設立。10学部):白楽評価「3(改善希望)」。規定あり。以下のリーフレットの定義・解説は優れているが、元の規約・定義・解説が貧弱である。リーフレットが学部生・大学院生向けの印象を受け、教職員はまともに読まないだろう。

科学研究行動規範サイト」がある。

科学研究行動規範」リーフレット(2010年11月)があり、定義・解説はよく練れている。英語が併記されている点は評価高い。リーフレットとしてコンパクトにまとめてある点も優れている。逆に、コンパクトな点、詳細な文書や具体例が別途ほしい。以下の定義・解説がある。

■他人のアイデア、データ等を、了解もしくは適切な表示なく流用すること。Plagiarism: Appropriating others’ ideas, data, etc. without permission or proper citation.
■研究室の同僚がミーティングで発表していたアイデアを、自らのアイデアとして公表した。Presenting an idea originally set out by a colleague at a meeting as your own.
■論文を作成する際、序論や先行研究の説明は重要ではないと考え、他者の論文からそのまま流用した。Plagiarizing introductions and summaries of previousstudies from other papers, considering these sections as unimportant parts of the paper.
■インターネットで見つけた他人の文章を切り貼りして自分のレポートとして提出した。Copying and pasting material found on the Internet without citation.

最近、「東京大学おける研究不正防止の取組について 研究倫理アクションプラン ~高い研究倫理を東京大学の精神風土に~」(2014年3月)を発表した。「今後本学として取り組むべき事項を示すものである」としているが、対象は大学院生で、教員を対象としていない。

どうして、教員を対象にしないのだろう? 事件を起こしているのは教員の方がズット多い。盗用に関しては、教員が大学院生の時にしたことであっても、指導教授の責任は重大でしょう。

★東北大学。学長が事件を起こす大学の「盗用」規定や定義・解説を調べるのは、「むなしい」。規定や定義・解説がひどければ「ヤハリ」と思うし、優れていれば「規定や定義・解説は意味ない」と思う。調べません。

東京医科大学(私立大学、1946年設立。1学部:医学部):白楽評価「3(改善希望)」。規定あり。定義はあるが貧弱。
東京医科大学教職員等の研究活動に係る不正行為等に関する規程」(2007年10月31日制定、2011年8月1日、2012年9月21日改正)では、盗用の定義は文部科学省と同じ。
Uniform Requirements(統一規定)の解説」では、「図がすでに発表されている場合は、引用元の出典を載せ、著作権の所有元からのデータ複製許可書を提出すること。公的財産であるもの以外は、著者資格や出版社に関わらず、使用許可が必要である。」と作業の具体的解説がある。

【白楽の感想】
所属教員が事件を起こした大学は、その後、大いに改めて、教員向けのスバラシイ研究規範を作っていると想定したが、どうやらそうでもない。もちろんスバラシイ規定を作っている早稲田大学もあるが、おざなりの大学もある。

大規模・有名大学が優れているというわけでもない。

私立大学は事件が起こると、国立大学よりも経営的な傷が深いと思うのだが、私立大学が研究規範に厳しく、国立大学が甘いというわけでもない。さほど配慮しない私立大学はどうしてなのだろう。

仮に、国立大学の方が教員の質が高いとすると(乱暴な「仮に」でスミマセン)、私立大学は、むしろ、国立大学よりも一層厳しい規定・指針を設け、教職員に丁寧に解説し、周知徹底しないと危険な気がするのだが・・・。

ただ、無作為抽出で選んだ第一工業大学は小規模・無名(ゴメン)・私立大学だが、盗用の定義はよく練れていて、かなり良い。こういう大学もあると感心した。

結局、大学運営陣の力量なのだろう。しかし、研究規範のレベルが大学によって異なるのは、日本社会として健全とは思えない。個々の大学の力量をあげて全大学のレベルを上げるのは非効率的である。拠点組織が、全大学に向けて統一的な研究規範を提示し、各大学がその研究規範を受け入れる仕組みの方が効率的で、優れている。

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