2‐2‐5.研究所


ここでは、事件を起こした「事件研究所」と「無作為抽出研究所」の「盗用の定義と説明」を調査しよう。

【事件研究所】
2010年以降、所員の盗用事件が発覚したのは、理化学研究所と国立社会保障・人口問題研究所の2研究所である(1‐2‐3.日本の学者・学生の盗用事件一覧)。

理化学研究所(国・文部科学省系の巨大な研究所。自然科学。所員3,390名、予算844億円):白楽評価「3(改善希望)」。

研究所本部に担当組織の「監査・コンプライアンス室」がある。しかし、サイトのホームページの目次に「研究規範(研究倫理)ガイドライン」はない。

「盗用」で検索すると「「科学研究上の不正行為への基本的対応方針」制定のお知らせ」(2006年1月23日)がヒットし、「盗用」の定義と説明がある。

「研究不正」とは、科学研究上の行為であり、研究の提案、実行、見直し及び研究結果を報告する場合における、次に掲げる行為をいう。ただし悪意のない間違及び意見の相違は研究不正に含まないものとする。(米国連邦科学技術政策局:研究不正行為に関する連邦政府規律 2000.12.6 連邦官報 pp.76260 -76264 の定義に準じる。)
(1)略。(2)略。
(3)盗用(plagiarism):他人の考え、作業内容、結果や文章を適切な了承なしに流用すること。

定年制職員就業規程」に処分規則が決められ掲載されている。

第55条 定年制職員が次の各号の一に該当するときは、諭旨退職又は懲戒解雇に処する。ただし、情状により前条の懲戒にとどめることがある。
(5) 研究の提案、実行、見直し及び研究結果を報告する場合における不正行為(捏造、改ざん及び盗用)が認定されたとき。

定年制職員以外で研究を担当する職員がいるなら、その人たちの就業規程はどうなっているのだろう?

「盗用」の定義と説明は、検索したから見つかったのだが、これでは不十分だ。基本的に、所員が容易にアクセスしやすい場所に、「盗用」に関する事項を置くべきだ。それに、「盗用」の豊富な具体例を示し、「盗用」を丁寧に説明すべきである。

国立社会保障・人口問題研究所(国・厚生労働省の小規模研究所。社会科学。所員52名、予算7億6千万円):白楽評価「1(最悪)」。サイトに研究規範の規定はなく、盗用の定義・説明はない。

【無作為抽出研究所】

研究所 – Wikipedia

研究所とは、自然科学、人文科学、社会科学の研究、および研究開発、試験や鑑定を行うための機関である。国、大学、企業、財団などが作る場合が多い。広義には、国や地方自治体の試験所等の公設試験研究機関や天文台も含める

大学の研究所は大学傘下なので「1‐2‐2-3.大学が所属教職員向け」「1‐2‐2‐4.学部生・大学院生、高校生向け」に含めた。

「無作為抽出研究所」は、国(独立行政法人)と財団の研究所を無作為抽出しよう。「研究所 – Wikipedia」の各項目の上から2つの研究所を無作為に選んだ。ただし、分野が近いときは3番目に繰り下げた。

【独立行政法人の研究所】
医薬基盤研究所 – Wikipedia(国・厚生労働省の小規模研究所。生命科学。サイトに所員数なし、予算額なし):白楽評価「1(最悪)」。助成機関のためか、厚生労働省の盗用の定義と同じ。研究所としてそれ以上の盗用の定義・説明はない。現在設置予定の日本版NIHの母体となる研究所なのに、なんたることか。

独立行政法人医薬基盤研究所法」に「盗用」という用語があるが、不正研究ではなく守秘義務として書かれている。

第十三条
研究所の役員若しくは職員又はこれらの職にあった者は、その職務上知ることができた秘密を漏らし、又は盗用してはならない。

研究倫理審査委員会」はあるが、内容は生命倫理であって、不正研究には触れていない。

宇宙航空研究開発機構 – Wikipedia(国・内閣府・総務省・文部科学省・経済産業省の共同の大規模研究所。航空宇宙科学技術。所員数1594人、予算2298億円):白楽評価「2(即刻改善)」。「研究者行動規範」はあるが、貧弱で、盗用の定義・説明はない。

宇宙航空研究開発機構に「コンプライアンス・コーポレートガバナンスへの取り組み」が大きな項目として取り上げられているが、「盗用」の記載はない。

宇宙航空研究開発機構における研究の公正な推進のための研究者行動規範」には、「データや研究成果の捏造、改ざん、盗用の不正行為は、研究活動の本質に反するものであり、絶対に許されるものではない。」とある。盗用の定義を示していない。しかし、この文言だと、「盗用」は「データ」「研究成果」に限定されてしまい、マズイ。

【財団の研究所】
電力中央研究所 – Wikipedia(研究員737人、事務99人、電気事業に関連する研究開発、戦後民間初、日本最大の財団法人格の研究機関):電力中央研究所:白楽評価「1(最悪)」。盗用の定義・説明はない。

毎年、「環境・社会行動レポート」を発表し、2008年から2013年まで毎年、以下の文言が記載されている。例えば2011年のサイトはココ。しかし、不思議なことに、掲載しているハズの「研究者・技術者倫理事例集」は見つからない(2014年5月18日閲覧)。

当研究所では、研究所の特色である「研究」をテーマに研究者・技術者倫理事例集を作成し、ホームページに掲載しています

※研究者倫理:主に研究手法と研究成果発表においての倫理を指す。ここでは、研究プロセス・成果発表の誠実性に関わる問題(研究費の流用、研究データの改ざん、捏造、盗用、不適切なオーサーシップ等)を不正行為とする。

鉄道総合技術研究所 – Wikipedia(予算185億円、職員526名人、鉄道技術や鉄道労働科学):白楽評価「1(最悪)」。盗用の定義・説明はない。サイト(公益財団法人鉄道総合技術研究所)で「盗用」を検索しても一件もヒットしなかった(2014年5月18日閲覧)。

【白楽の感想】
オドロイタことに、日本の研究所は、理化学研究所を除き、「盗用」の定義・説明は「ない」(に等しい)。全研究所を調べたわけではないが、もっとたくさん調べて比較する意味がないほど、記載が「ない」。

どうしてなんだろうか?

国の研究所(独立行政法人)は、国の方針に従い、国の7割程度に対応する風習が染みついている(推定)。出過ぎたマネをすると本省の官僚にニラまれるので、すべて本省の7割程で対応する。事件を起こした研究所でも、経験から学んで、大改革する姿勢が(強く)ないようだ。

では、民間の財団法人はどうしてなんだろうか?

研究規範意識がない。

どうして「意識がない」?

怠慢と慣習である。そして、「都合の悪いことに触れたくない」という価値観だろう。

「盗用」の定義・説明に関して、日本で最もシッカリしている「1‐2‐2‐4.学部生・大学院生、高校生向け」と比べ理由を考えてみた。

「学部生・大学院生」は無知で未熟だから「盗用」に関する定義・説明は必要かもしれないけど、研究所は、分別をわきまえた成熟した大人の集団だから、「盗用」に関する定義・説明は必要ない、という根拠のないいい加減な思い込みが原因だろう。

拙著のデータで示しているが、実際は「学部生・大学院生」の事件より、「大人」の事件の方がズット多い。研究所は研究規範に関して大きく変身すべきである。時代に、国際社会に、取り残されますよ。

研究所のウェブサイトは、「こんなに優れた研究成果をあげました」という自慢話のオンパレードだが、研究規範がシッカリしていなければ、信用されず、無視される。原子力開発であれ、STAP細胞発見であれ、どんなスバラシイ研究成果だと喧伝しても、国民は、信用しない。現状のままなら、マスマス・・・。

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