2‐3‐4.政府2:研究公正局サイトのミゲル・ローチ(Miguel Roig)

研究公正局(ORI、Office of Research Integrity)は、米国の不正研究を解決する中枢機関である。サイトには不正研究に関する資料が約10編(数えてません)ほどアップされている。それらはある意味、研究公正局(ORI)が推奨している見解(米国連邦政府の見解)とも受け取れる。「盗用の定義と解説」に関してはミゲル・ローチ(Miguel Roig)の文書が最も詳しい。

【盗用の定義と解説:ミゲル・ローチ(Miguel Roig)】
研究公正局の「盗用の定義」のページ末尾に関連ページとして、ミゲル・ローチ(Miguel Roig)の63ページの文書「盗用、自己再発表、疑念文章:規範的な文書の書き方(Avoiding plagiarism, self-plagiarism, and other questionable writing practices: A guide to ethical writing)」がリンクされている。

文書に記載されている「自己再発表(self-plagiarism)」は、単純な「盗用」とは区別して議論されるので、別項目を立てて後で解説する。ここでは「自己再発表(self-plagiarism)」を除く「盗用」を扱う。彼のこの文書は、研究公正局の「盗用の定義と解説」の一部だと読みとれる。

ミゲル・ローチ(Miguel Roig、右の写真)(1956年生まれ、米国・セント・ジョーンズ大学・心理学教授)は「盗用」問題の専門家である。

★【ローチの盗用指針9か条】
ミゲル・ローチ(Miguel Roig)著「盗用、自己再発表、疑念文章:規範的な文書の書き方(Avoiding plagiarism, self-plagiarism, and other questionable writing practices: A guide to ethical writing)」(2003年頃執筆、最終版 2013年5月15日)を紹介する。

そのつもりだったが、ファイルを開けて読み進めると、63ページの文書で内容が多く、かいつまみ切れない。

本人も量が多すぎると思ったに違いない。ポイントを26指針にまとめている(26 Guidelines at a Glance on Avoiding Plagiarism)。そのうち指針1~9が「盗用」に関する指針で、10~13が「自己再発表」、14~26が「疑念文章」に関する指針である。「盗用」部分の指針9か条だけ以下にリストしよう。

「ローチの盗用指針9か条」

  1. 執筆では、利用した文献とアイデアの出所を「常に」記載(acknowledge)する。
  2. 文章を一字一句流用したときは引用符で囲む。
  3. 自分の文章に、言い替え、要約、一字一句(引用符)で利用したら、どの場合も、常に、出典を明記する。
  4. 要約とは、かなりの量の文章を自分の言葉で短い文章にすることである。
  5. 要約でも言い替えでも、常に、情報源を提示しなければならない。
  6. 要約でも言い替えでも、原文に記述されているアイデアや事実を、自分の言葉と構文で、正確に再現しなければならない。
  7. 原文を大きく変更して適切に言い替えるためには、原文に使用されているアイデアと用語を十分に理解しなければならない。
  8. 言い替える時、できる限り自分自身の言葉で書くことが規範であり、使用したアイデアや語群の著者にクレジットすることも規範である。
  9. 記載する概念や事実がその分野の常識かどうかわからないときは、引用する。

ついでに、シメの第26条も示す。

第26条:学術界での学術ゴーストライターは規範上、禁則行為である。

指針は詳細である。というより、クドイ、しつこい、重複している。しかし、言葉でクドク、しつこく書かれても、定量的な基準はわからない。

★【「言い替え」の定量的判断例】
「ローチの指針26条」の最後に、どの程度、言い替えたら盗用でないか、ミゲル・ローチが具体例を示し、判定し、説明している。

白楽は、こういう定量的な盗用基準を求めていたのだ。英語論文を書くときの参考になる。日本語での盗用基準を制定する時の参考にもなる。

白楽は、さらに、ミゲル・ローチの具体例を単語数で分析し、「単語流用率」で定量化した。盗用は、単語の流用だけではなく構文やアイデアも対象だが、「言い替え」はアイデアを替えずに文章を言い替える作業である。「単語流用率」は有力な指標になるだろう。以下に定義した。

単語流用率=元の文章中の単語が新しい文章の中で占める割合(%表示)。

以下のミゲル・ローチの具体例を“流用”したが、「単語流用率」だけ白楽のオリジナルである。

★文章の原典は、Balas M, Adams ES. “Intraspecific usurpation of incipient fire ant colonies”. Behav Ecol 8:99-103, 1996で、単語数は「91単語」ある。
140526 ori

★言い替え例1 → 盗用と判定。
91単語が99単語になったが、79単語は元の文章の単語を使用している。単語流用率は80%。単語流用率が高いだけでなく、構文の流用も多い。
以下:赤字は原文と同じ単語。
140526 pla1

★言い替え例2 → 盗用と判定。
91単語が95単語になったが、74単語は元の文章の単語を使用している。単語流用率は78%。単語流用率が高いだけでなく、言い替えて、原文の意味が変化している。
以下:赤字は原文と同じ単語。
140526 pla2

★言い替え例3 → 盗用と判定。
91単語が107単語になった。単語の順序を変えた部分を含めると、78単語は元の文章の単語を使用している。単語流用率は73%。単語流用率が高いだけでなく、言い替えて、原文の意味が変化している。
以下:赤字は原文と同じ単語。青で囲った部分は原文の単語の順序を変えた部分。
140526 pla3

★言い替え例4 → 盗用と判定。
91単語が96単語になった。単語の順序を変えた部分を含めると、71単語は元の文章の単語を使用している。単語流用率は74%。単語流用率が高いだけでなく、言い替えて、原文の意味が変化している。
以下:赤字は原文と同じ単語。青で囲った部分は原文の単語の順序を変えた部分。
140526 pla4

★言い替え例5 → 盗用では「ない」と判定。
91単語が109単語になった。元の文章の単語は7単語しか使用していない。単語流用率は6%。原文の構造は保存されている。
以下:赤字は原文と同じ単語。
140526 pla5

★言い替え例6 → 盗用では「ない」と判定。
91単語が98単語になった。元の文章の単語は6単語しか使用していない。単語流用率は6%。言い替え例5と違う点は、原文の構造も変え、自分の文章で書いていることで、言い替え例5よりも優れている。
以下:赤字は原文と同じ単語。
140526 pla6

【白楽の感想】
引用符なしで他人の文章を流用するのは盗用だと書いてあっても、他人の語群をどのくらい流用したら盗用なのかの具体例はほとんどないと、ミゲル・ローチ(Miguel Roig)も書いている。

それで、「言い替え」例文を6つ作り、説明した。ミゲル・ローチはスバラシイ。

スバラシイけど、しかし、白楽が「単語流用率」で解析すると、6例文は以下のようだ。

  • 盗用である・・・80%、78%、73%、74%
  • 盗用ではない・・・6%、6%

つまり、「単語流用率」が73%以上だと「盗用」で、6%以下だと「盗用ではない」。

これじゃ、中間部分が広すぎる。「単語流用率」が60%だと盗用なのか盗用ではないのか? 50%では、40%では、30%では? どこに線を引くか? この答えが欲しい。なお、文章の構造まで持ち出されると、チェックする人の判断に依存することになり、「盗用」かどうかを機械的に判定できない。そういう判定をなるべく採用したくない。

「単語流用率」が6%で、盗用ではないとされた「例5」「例6」は、しかし、誰もが簡単にできる「言い替え」ワザではない。ここまで言い替えるのは相当な理解力・単語力・文章力が必要だし、言い替えに時間もかかる。学術論文にそういうことが必要だろうか?

もっと根源的な疑問だが、白楽は、学術論文では他人の文章を流用してどうしていけないのか理解できない(もちろん引用符で囲い、引用する。生命科学系の論文では引用符で囲う文章はマレだが、そういう慣習を変えればよい)。

学術論文に重要なのは、発見・発明・記録の重要性である。文章はそれを正確に伝えるだけだ。他人の文章をゴッソリ流用しても、引用し、原著者にクレジットするのだから、それは良いと思う。学術論文中の文章に芸術性を求めるのは間違いだ。

現在、欧米では、「盗用」は重大な不正研究だから、発覚すれば、学生は停学・退学・学位取消、研究者は実質的な研究者廃業(ここ推定)になる。「盗用」の定義をこれほど拡大すると、学術研究を守り・育成するルールが、逆に、学術研究を阻害しかねない。牛は、角を矯(た)められ、死ぬことになる。

なお、重ねて言うが、学術論文に重要なのは、発見・発明・記録の重要性である。その点がロクでもなければカス論文なので、文章が名文であろうが美文であろうが、カス論文である。「盗用」が全くないカス論文は膨大である。「盗用」は排除すべきだが、「カス論文」の排除も重要ではないだろうか。カス論文は、審査、出版、維持に無益な時間、経費、労力をかけ、読む側にも無益な時間、経費、労力をかける。それ以上に、論文投稿までの研究費の無駄も大きい。そういうカス論文(とその著者)は論文公害なので、追放してほしい。ただ、誰がどういう基準でカス論文と判断するのか? 「定義と説明」「検出法」は「盗用」よりもヤッカイナ気がする。「盗用」からズレるので別の機会に議論しよう。