マヤ・サレハ(Maya Saleh)(カナダ)

ワンポイント:改ざん論文を訂正で切り抜けた

【概略】 150414 maya-saleh-150x150[1]マヤ・サレハ(Maya Saleh、写真出典)は、カナダ・マギル大学(McGill University)の医学・生化学科(Department of Medicine and Biochemistry)の準教授で、専門は免疫、炎症、がんの生化学である。医師免許は持っていない。

なお、「Times Higher Education」の大学ランキングでは、マギル大学はカナダ第3位の大学である(World University Rankings 2014-15: North America – Times Higher Education)。

2010~2012年(39-41歳?)に、匿名の公益通報により、「ネイチャー」誌論文の図の改ざん、他3論文の不正が指摘された。但し、論文撤回をせずに、4論文の内2論文を訂正で切り抜けている。他の2論文は現在、訂正検討中。

★動画「Inflammation ― the fuel of cancer: extinguishing the fire to stop the disease」、(英語)57分3秒。マギル大学が提供しているサレハの学術講演。150414 Saleh[1]以下のリンクをクリックし、動画画面をクリックすると開始する。 McGill Podcasts » Inflammation — the fuel of cancer: extinguishing the fire to stop the disease

  • 国:カナダ
  • 成長国:レバノン、カナダ
  • 研究博士号(PhD)取得:カナダのマギル大学(McGill University)・生化学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に、1971年1月1日生まれとする
  • 現在の年齢:46 歳?
  • 分野:生化学
  • 最初の疑惑論文発表:2006年(35歳?)
  • 発覚年:2010~2012年(39-41歳?)
  • 発覚時地位:マギル大学(McGill University)・準教授
  • 発覚:公益通報
  • 調査:①マギル大学・調査委員会。20xx年x月~2012年12月。
  • 不正:改ざん
  • 不正論文数:4報
  • 不正開始時期:研究室主宰時から
  • 結末:無処分

150414 maya-saleh-mcgill_title[1]http://mayasalehlab.com/laboratory/

【経歴と経過】
経歴出典(Maya Saleh | LinkedIn

  • 生年月日:不明。レバノン、ベイルート生まれ? 仮に、1971年1月1日生まれとする
  • 19xx年(xx歳):xx大学を卒業
  • 1993 – 1995年(22-24歳?):レバノン、ベイルートにあるベイルート・アメリカン大学(American University of Beirut)・大学院、遺伝学専攻で、修士号(Master’s degree)を取得。指導教授:Dr. Laila Zahed と Dr. Rabih Talhouk
  • 1997 – 2001年(26-30歳?):カナダ・マギル大学(McGill University)・大学院、生化学専攻。研究博士号(PhD)を取得
  • 2001 – 2004年(30-33歳?):メルク社でポスドク
  • 2004年(33歳?):米国のラホヤ・アレルギー免疫研究所(La Jolla Institute for Allergy and Immunology)でポスドク
  • 2005年(34歳?):マギル大学(McGill University)の教員
  • 2010~2012年(39-41歳?):発表論文のデータが改ざんだと指摘され、マギル大学が調査に入る
  • 2012年12月(41歳?):マギル大学・調査委員会の調査終了。発表した4論文のデータ改ざん(含・軽微)が指摘される

★受賞歴(英語のママでゴメン) 

  1. Chercheur-Boursier Senior Fonds de recherche en santé du Québec 2013年7月 
  2. Prix André Dupont Club de Recherche Clinique du Québec 2011年9月 
  3. Chercheur-Boursier Junior 2 Fonds de la Recherche en Santé du Québe 2011年4月 
  4. モード・アボット賞(Maude Abbott Prize McGill University) 2011年6月 
  5. William Dawson Scholar McGill University 2011年4月 
  6. The Maud Menten Prize Canadian Institute for Health Research, Institute of Genetics 2010年11月 
  7. Canadian Society of Immunology New Investigator Canadian Society of Immunology 2010年5月 
  8. Investigator in the Pathogenesis of Infectious Diseases Burroughs Wellcome Fund 2009年5月

150414 MG_3619-600x400[1]マギル大学のリチャード・レビン(Richard Levin)医学部長(左)から2011年モード・アボット賞(Maude Abbott Prize)を受け取るサレハ(右)。Photo: Nicolas Morin、写真出典

【不正発覚・調査の経緯】

2010~2012年頃、発表論文の図表の分析により、告発サイトでデータのねつ造・改ざんが指摘された。マギル大学とメディアに公益通報された。

マギル大学が調査委員会を設け調査をした。

2012年12月、マギル大学・調査委員会は、調査を終了した。調査結果をメディアに伝えた。それを受け、メディア記者が新聞やウェブで記事にした。

但し、調査報告書をウェブ上で誰もが閲覧できる状況ではない。また、マギル大学は記者の質問に一部しか答えていない。

調査報告書は、サレハの2006年のネイチャー論文の2つの図は「意図的・計画的に改ざんされた(”were intentionally contrived and falsified”)」と判定した。

また、2008年のプロナス論文では「誤った(faulty)」情報が発表されていると判定した。

一部を具体的にみてみよう。

問題の図はウェスタンブロット像である。2006年のネイチャー論文の図4cを示す。
150414 2006 Fig4

上の図の左側3列が、2008年のプロナス論文の図6(下)右側3列と酷似している。
150414 zpq0100897790006[1]

2006年と2008年の2論文の最終著者は、メルク社副社長のドナルド・ニコルソン(Donald Nicholson)と共著である。ニコルソンは社会的地位が高いが、この分野の権威の1人である。

調査報告書では、誰が不正を行なったのか不明だとある。サレハが犯人と特定できないが、2006年論文では第一著者なので責任の一端があるとされた。

調査報告書では、別の2008年論文と2009年論文の図にも小さな操作があったと指摘した。ねつ造とは言えないが、許容できない操作だと述べている。

しかし、サレハ論文の結論・論旨に重大な欠陥はないとした。

2015年4月14日時点では、サレハは、マギル大学から何も処分を受けていない。

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サレハ研究室。出典

150414 maya_saleh_lab_-oct2013[1]サレハ研究室。サレハは左から2人目。出典

150414 1526486_428304317325776_4510829907150811711_n[1]サレハ研究室(2014年12月)。サレハは右後列の右から2人目。出典

【論文数と撤回論文】

パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、マヤ・サレハ(Maya Saleh)の論文を「Maya Saleh[Author]」で検索すると、2004年~2015年の12年間の43論文がヒットした。

2015年3月11日現在、撤回論文はゼロである。

しかし、以下の4論文に疑念がもたれた。

4論文の内、下の2論文は、2013~2014年に訂正された。

  1. Confinement of caspase-12 proteolytic activity to autoprocessing.
    Roy S, Sharom JR, Houde C, Loisel TP, Vaillancourt JP, Shao W, Saleh M, Nicholson DW.
    Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Mar 18;105(11):4133-8. doi: 10.1073/pnas.0706658105. Epub 2008 Mar 10.
    Erratum in: Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Mar 19;110(12):4852. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Feb 4;111(5):2047.
  2. Enhanced bacterial clearance and sepsis resistance in caspase-12-deficient mice.
    Saleh M, Mathison JC, Wolinski MK, Bensinger SJ, Fitzgerald P, Droin N, Ulevitch RJ, Green DR, Nicholson DW.
    Nature. 2006 Apr 20;440(7087):1064-8.
    Erratum in: Nature. 2014 Apr 10;508(7495):274.

【白楽の感想】

《1》 美貌で渡世

150414 maya_saleh[1]サレハ(写真出典)はマギル大学で自分の研究室を構えたのが2005年である。翌・2006年の論文で研究ネカト論文を発表している。時系列では、研究室を主宰したのとほぼ同時に不正を開始したことになる。

研究室を主宰したが思うように成果が出ない。そのストレスや焦りが研究ネカトに走らせたのか、それ以前から不正をしていたのか?

美人で受賞も多いことから、偉い人に取り入るのが上手だと推察する。多分、不正志向が強く、美貌を武器に研究界を生きてきた女性だと思われる。

《2》 発展途上国出身者の欧米での研究ネカト?

サレハは、遺伝学の修士号を、レバノン、ベイルートにあるベイルート・アメリカン大学(American University of Beirut)で取得している。レバノンで生まれ育ったレバノン人ではないだろうか?

そうなると、中東から欧米に留学し、研究者になってから研究ネカト問題を起こすという典型的な研究ネカト・コースに当てはまる。

《3》 カナダは対処が甘い

カナダの研究ネカトは、研究者数を考慮すれば、米国並みに多いと思われる。しかし、米国に比べ処分が甘い。

サレハが行なった図の再発表は、データねつ造であり、論文は訂正ではなく撤回が妥当である。そして、停職~免職処分に相当すると思える。

また、調査の透明性に欠ける。調査報告書をウェブ上で誰もが閲覧できる状況にすべきだ。

【主要情報源】

① 2013年1月25日のリトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)の記事:McGill committee says Nature figures were “intentionally contrived and falsified” – Retraction Watch at Retraction Watch
② ◎2013年1月29日のマーガレット・マンロ(Margaret Munro)の「canada.com」記事:McGill University finds scientists published ‘falsified’ images | canada.com
③写真集サイト:Maya Saleh Photos | Complex Traits Group – McGill University