ジル=エリック・セラリーニ(Gilles-Eric Seralini)(仏)

ワンポイント:遺伝子組換え食品は危険だという「錯誤」論文

【概略】
GE%20Séralini_colジル=エリック・セラリーニ(Gilles-Eric Seralini、写真出典)は、フランスのカーン大学(University of Caen、仏語:Université de Caen Basse-Normandie)・教授で、専門は内分泌の分子生物学。

2012年9月12日(52歳)、遺伝子組み換えトウモロコシを食べるとがんになるという論文を発表した。実験法の不備、解釈の不適切、メディア発表の異常に科学界から大きな批判を浴び、論文は撤回された。しかし、2014年、撤回論文は再び掲載された。

セラリーニは根っからの「遺伝子組換え生物」反対論者である。その思想が研究公正性より優先し、その思想に都合の良い研究成果を発表し続けている。つまり、学界では誤りとされても研究者本人は真実と信じて自説を提唱し続ける「錯誤」である。

「国際ビジネス・タイムス(ibtimes)」誌が選んだ2013年度・7大科学スキャンダルの第1位である(7 Scientific Scandals Of 2013: From A Retract)。

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「遺伝子組換えトウモロコシは危険」のポスター 写真出典

  • 国:フランス
  • 成長国:フランス
  • 研究博士号(PhD)取得:フランスのモンペリエ第2大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1960年8月23日
  • 現在の年齢:57 歳
  • 分野:内分泌学
  • 最初の論争論文発表:2012年9月12日(52歳)
  • 発覚年:論文発表直後の2012年(52歳)
  • 発覚時地位:フランスのカーン大学(University of Caen)・教授
  • 発覚:同分野の科学者群
  • 調査:
  • 不正:錯誤
  • 不正論文数:2014年に代表的論文1報を論文撤回したが、同年、別のジャーナルに再掲載
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:辞職なし。現在も論争が継続中

★動画「Genetically Modified Organisms Debate (GMOS): Interview with Gilles-Eric-Seralini」、(英語)2分59秒。米国のヴェロニカ・ドゥド(ジャーナリスト)がセラリーニにインタビューしているニュース動画(2014/08/27にアップ)。

★動画「Chemical pollutants and GMOs in food: effects on health and detoxification」、(英語)40分51秒。「Organic Connections会議」(2014年)でのセラリーニの講演(2015年1月7日アップ)。以下のリンクをクリックし、動画画面をクリックするとビデオが開始する。
Dr. Gilles-Eric Seralini – Chemical pollutants and GMOs in food: effects on health and detoxification – Organic Connections News | Organic Connections

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【経歴と経過】

  • 1960年8月23日:アルジェリアアンナバで生まれる
  • 19xx年(xx歳):フランスのトノン=レ=バン (Thonon-les-Bains)に、次いで二ースに、家族と共に移住した
  • 19xx年(xx歳):フランスのxx大学を卒業
  • 1987年(27歳):フランスのモンペリエ第2大学(University of Montpellier 2)で生化学・分子生物学(Doctor in biochemistry and molecular biology)の研究博士号(PhD)を取得
  • 1987‐1991年(27‐30歳):カナダのウェスタンオンタリオ大学(University of Western Ontario)、カナダのラヴァル大学・医学センター(Laval University Medical Center)で内分泌の分子生物学を研究する
  • 1991年6月(30歳):フランスのカーン大学(University of Caen)・教授
  • 2012年9月12日(52歳):遺伝子組み換え食品は危険という論文を発表した

4429474実験室のジル=エリック・セラリーニ(Gilles-Eric Seralini)。写真出典

【研究の背景】

研究の背景に、遺伝子組み換え作物を食べた時の安全性に関する疑念がある。

ウィキペディアを修正引用する(①遺伝子組み換え作物 – Wikipedia、②ラウンドアップ – Wikipedia)。

★遺伝子組み換え作物

遺伝子組換え作物とは、商業的に栽培されている植物(作物)に遺伝子操作を行い、新たな遺伝子を導入し発現させたり、内在性の遺伝子の発現を促進・抑制したりすることにより、新たな形質が付与された作物である。

食用の遺伝子組換え作物では、除草剤耐性、病害虫耐性、貯蔵性増大、などの生産者や流通業者にとっての利点を重視した遺伝子組換え作物の開発が先行し、こうして生み出された食品を第一世代遺伝子組換え食品とよぶ。

遺伝子組換え作物の栽培国と作付面積は年々増加している。2014年現在、全世界の大豆作付け面積の82%、トウモロコシの30%、ワタの68%、カノーラの25%がGM作物である(国際アグリバイオ事業団・ISAAA調査)。

日本の輸入穀類の半量以上は既に遺伝子組換え作物であるという推定もある。

遺伝子組換え作物の開発・利用について、賛成派と反対派の間に激しい論争がある。主な論点は、生態系などへの影響、経済問題、倫理面、食品としての安全性などである。

★ラウンドアップ耐性作物の食品としての安全性

ラウンドアップ (Roundup) は、1970年にアメリカ企業のモンサント社が開発した除草剤(農薬の一種)。

遺伝子操作により、ラウンドアップに耐性を有する遺伝子組み換え作物はラウンドアップレディー (Roundup Ready) と総称され、日本ではダイズ、トウモロコシ、ナタネ(Brassica napus)、ワタ、テンサイ、アルファルファ、ジャガイモのラウンドアップレディー 品種の一部の一種使用が認可されており、世界的にはベントグラスやアブラナ(Brassica rapa)やコムギの耐性品種も開発されている。

遺伝子組換え作物は、様々な安全性審査を受け、合格してから初めて上市される。

それでも、多世代にわたる摂取による安全性が確認されていないと非難する意見が、組換え食品反対派にある。

そこで、遺伝子組換えによって分子育種されたラウンドアップレディー大豆の安全性に関しては、多世代の動物飼育実験により、客観的・科学的検証がなされた。

様々な組換え作物と非組換え作物を飼料として多くの家畜に投与し、様々な生化学的、生理学的、組織学的差異を調べる大規模な研究を行ったが、如何なる有意な差異を見いだせなかったという包括的なレビューを欧州食品安全機関(European Food Safety Authority: EFSA)が発表している。(論文:”Safety and nutritional assessment of GM plants and derived food and feed: the role of animal feeding trials”. Food Chem Toxicol. 2008 Mar;46 Suppl 1:S2-70. doi: 10.1016/j.fct.2008.02.008. Epub 2008 Feb 13.、EFSA GMO Panel Working Group on Animal Feeding Trials)

例えば、サウスダコタ大学のグループは4世代にわたってマウスにラウンドアップレディー大豆を給餌しても、何ら悪影響を見いだすことができなかった。(論文:Brake, D. G.; Evenson, D. P. (2004). “A generational study of glyphosate-tolerant soybeans on mouse fetal, postnatal, pubertal and adult testicular development”. Food and Chemical Toxicology 42: 29–36)。

また、東京都の健康安全研究センターも2世代にわたるラットへの給餌試験を行ったが何ら有意差を見いだせなかった。同様な研究は多数ある。そのため、少なくとこれらの世代数では「遺伝子組換え大豆」に対する危険性を見いだすことができなかったといえる。

★パズタイ事件

遺伝子組換え食品の健康への影響例としてよく挙げられるものに、「遺伝子組換えジャガイモを実験用のラットに食べさせたところ免疫力が低下した」と、世間に大きな衝撃を与えたパズタイ(Pusztai)の論文がある(パズタイ事件)。

無題1998年8月10日、スコットランドのアバディーン(Aberdeen)のロウェット研究所(Rowett Research Institute)のパズタイ(Arpad Pusztai、1930年9月8日ハンガリー生まれ、当時67歳、写真出典)が、英国のテレビ番組で、遺伝子組換えジャガイモをラットに食べさせたところ、ラットの免疫低下がみられたと発表した。

論文はLancetの1999年10月16日号まで公表されず、主張の妥当性を検証できない状態であったにもかかわらず、一部の間ではさも真実であるかのように受け取られ大騒ぎになった。

  • 論文
    Ewen SW, Pusztai A (October 1999). “Effect of diets containing genetically modified potatoes expressing Galanthus nivalis lectin on rat small intestine”. Lancet 354 (9187): 1353–4.

しかし、公表された論文からは実験そのものがずさんであり、パズタイの主張には無理があることが判明した。

使用した遺伝子組換えジャガイモが安全性が確認され商品化されているジャガイモとは全く別のジャガイモだった。レクチンという哺乳動物に対し有害な作用を持つタンパク質を作る遺伝子を組み込んだ実験用ジャガイモだった。有害な遺伝子を組み込んだ遺伝子組換え作物は有害だった、と当たり前の結果が出たに過ぎない。

事件の翌年、ロウェット研究所は36年間雇用していたパズタイの雇用契約を更新しなかった。パズタイは、仕方なく、母国・ハンガリーに帰国した。

なお、パズタイは、遺伝子組換え食品の安全性に警鐘を鳴らしたことで、2005年(パズタイは75歳)にドイツから公益通報賞が贈られ、2009年(パズタイは79歳)にドイツからシュトゥットガルト平和賞(Stuttgart Peace Prize)が贈られた。

【不正発覚・調査の経緯】

trfu実験室のジル=エリック・セラリーニ(Gilles-Eric Seralini)。写真出典

以下、2013年01月21日の松永和紀の記事を中心に修正引用した【主要情報源③】

2012年9月12日(52歳)、セラリーニは、「除草剤耐性トウモロコシNK603を2年間にわたってラットに与えたところ、乳がんや脳下垂体異常、肝障害などになった」とする論文を学術誌(Food Chem Toxicol.)に発表した。

セラリーニは、論文発表に伴う記者会見で、遺伝子組換えトウモロコシを食べたことでラット(スプラーグ・ドーリー・ラット:Sprague-Dawley rat)に大きな「乳がん」が発症したことを示した。

1_11471_J+B_Sequencesジル=エリック・セラリーニ(Gilles-Eric Seralini)が得た「乳がん」発症ラット。 写真はImage from the film All of us guinea-pigs now? J.-P. Jaud/J+B Séquences。出典:Rat study sparks GM furore : Nature News & Comment

「乳がん」発症ラットは、こちらの写真の方がわかりやすい。
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セラリーニの「乳がん」発症ラット。出典:Le prix de la vérité. Gilles-Eric Séralini, dénonciateur des OGM 1/5

論文発表後、すぐさま多くの研究者から反論が上がった。

実験がさまざまな条件を満たしておらず、信用に値しない、という反論だ。

セラリーニの論文では、除草剤耐性トウモロコシNK603を食べさせると、ラットがどうして乳がんや脳下垂体異常、肝障害が生じるのか、メカニズムを説明していない。

なお、トウモロコシNK603は米国のモンサント社(Monsanto)が遺伝子組み換えで除草剤(ラウンドアップ)耐性にした品種である。

また、スプラーグ・ドーリー・ラット(Sprague-Dawley rat) は寿命が約2年である。そして、2年近くになると、ナント、通常の飼育条件下でも、オスの8割に癌が発症することが報告されている(Spontaneous endocrine tumors in Sprague-Dawley rats – Springer)。メスでも高率で癌が発症する。

だから、遺伝子組み換えトウモロコシの影響を、スプラーグ・ドーリー・ラットの乳がん発症で判定するのは全く不適当だ。つまり、対照実験が成り立たない。

スプラーグ・ドーリー・ラット(Sprague-Dawley rat)を実験動物として提供している米国・ハーラン社の説明書(PDF)の3ページ目にも乳がん発症率が76%だと記載されている。

さらに、セラリーニの論文には、

そもそも、飼料の詳しい情報が掲載されていません。成分組成や貯蔵方法、含まれる可能性のある有害物質の含有量など、なにも書かれておらず、各々のマウスがどれだけの量を食べたかも不明です。まともな研究者の論文ではありえないことです。

しかも、比較に必要なラットの数を満たしていません。また、こうした発がん性を検討する試験においては、一つのグループにおけるラットの数は最低50匹必要というのが国際的なガイドラインなのに、各グループのラット数はわずか10匹でした。これでは、統計学的に妥当な解析をすることはできません。

最終的に、EUで食品の安全性についてリスク評価を行う「欧州食品安全機関」(EFSA)が2012年11月、「実験設計と方法論の深刻な欠陥があり、許容できる研究水準に達していない。したがって、これまでのNK603のリスク評価を見直す必要はない」という見解を明らかにした。6つのEU加盟国も独自に評価して同じ結論に達し、これにより騒動は終息した。

【論文数と撤回論文】

パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、ジル=エリック・セラリーニ(Gilles-Eric Seralini)の論文を「Séralini GE[Author]」で検索すると、2002年~2015年の13年間の59論文がヒットした。

2015年4月17日現在、1論文が撤回されている。ここで問題として論文である。撤回日は2014年1月である。

しかし、2014年1月に撤回した同じ論文が、同じ著者名で、別のジャーナルに2014年6月24日に掲載された。

  • Republished study: long-term toxicity of a Roundup herbicide and a Roundup-tolerant genetically modified maize.
    Environmental Sciences Europe
    June 2014, 26:14

【事件の深堀】

★メディア記者と政治家が簡単にだまされる問題

以下、2013年01月21日の松永和紀の記事を中心に修正引用した【主要情報源③】

フランスの首相(ジャン=マルク・エロー、Jean-Marc Ayrault)も「研究が確かなら、欧州全土での禁止措置を要請したい」と発言しました。

しかし、この問題は、欧米でより深刻にとらえられています。それは、発表したセラリーニ氏にマスメディアやフランス政府が当初、やすやすと手玉にとられてしまったからです。

実は、セラリーニ氏は、遺伝子組換えにこれまでもずっと反対して来た研究者で、しかも、「遺伝子組換えが危険」と主張する論文や報告書を何度も発表し、そのたびにEFSAなどに「ずさんな研究」と批判されて来た経緯があります。

メディアの取材力の低さ、エンバーゴ(報道解禁時刻)の悪用、学術誌による掲載審査の甘さ、EUの中でも強硬な遺伝子組換え反対国であるフランス政府の軽率さ等々、さまざまな問題が、今回のセラリーニ氏の騒動で露になりました。

日本でも、民主党の大河原雅子・前参議院議員が、セラリーニの報道を引用し、遺伝子組み換え作物に反対している。この程度の悪さには、コマッタものだ。サイト:http://www.ookawaramasako.com/?p=4106

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実験室のジル=エリック・セラリーニ(Gilles-Eric Seralini)と除草剤(ラウンドアップ)。写真出典

★日本のマスメディアがこのような問題を報道しない・できない問題

以下、2013年01月21日の松永和紀の記事を中心に修正引用した【主要情報源③】

遺伝子組換え作物は日本に大量に輸入されています。ISAAA(国際アグリバイオ事業団)によれば、日本は年間1800万トンの遺伝子組換え作物を輸入し、主に食用油や異性化糖などの原料、飼料として消費しています。日本の米の消費量が年間約860万トン(農水省まとめ)なのですから、遺伝子組換え作物の動向を無視はできないはず。

なのに、今回の問題を社会的な事件として報じたマスメディアは、日本にはなかったのです。

松永和紀は、日本のマスメディアの取材力の低さが原因だと述べている。

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実験室のジル=エリック・セラリーニ(Gilles-Eric Seralini)。出典:Le prix de la vérité. Gilles-Eric Séralini, dénonciateur des OGM 1/5

【白楽の感想】

《1》 学問が宗教・金儲けの道具・政治になっている

セラリーニは、「遺伝子組換え生物」反対の思想を研究公正性よりも優先し、その思想に都合の良い研究成果を発表し続けている印象が強い。つまり、学界では誤りとされても、研究者本人が真実と信じて自説を提唱し続ける「錯誤」である。これは、いわば、宗教だ。

また、「遺伝子組換え生物」は巨額のカネが絡む。推進派は「遺伝子組換え」企業(例えばモンサント社)とそれを後押しする政治家・国家の利権が絡む。反対派の有機農業団体(CRIIGEN、JMG Foundation、他)とそれを後押しする政治家の利権・国家も絡む。技術力・特許から生じるカネも絡む。

 

国家間の利益・覇権争いも絡み、巨額のカネが動く。

このような背景を知らない(配慮しない)大衆をあおる活動家がいる。純粋に警鐘を鳴らす活動家は少なく、カネ・地位・名声目的で、大衆をあおり、特定の方向に誘導する活動家が多い。

活動家と共に厄介なのは、黒い欲望を内に秘めて研究成果を捻じ曲げ、発表する科学者である。大衆だけでなく、首相や議員など多くの人がだまされる。まあ、だまされるというより、自分から信奉してしまう。

だから、背景を知らない(配慮しない)で、充分に考えずに、活動家や大衆の動きに呼応してはマズイ。

本来、研究成果の真偽の議論は、論文とそのデータの詳細な分析、および追試が可能かどうかで決着すべきである。

しかし、セラリーニは、ネイチャー誌の質問に、「ヨーロッパがNK603の認可した生データが公表されるまで、自分の生データを公表しない」と述べている。

どうして、「ヨーロッパがNK603の認可した生データ」を公表しないのかわからないが、セラリーニが生データを公表しないのは、白楽は科学者として解せない。必要な生データを公表しなければ、論文は検証できない。多分、追試もできない。そうなると、もう、科学じゃないです。

le-professeur-gilles-eric-seralini_449607_510x255ジル=エリック・セラリーニ(Gilles-Eric Seralini)。写真出典

《2》 学術界は「錯誤」者を排除すべきだ

人間は何かを深く信じ込む。信じた観念にとらわれて言動し、人生を選択する。そういう生き物である。

多くの人は社会が許容する範囲内で言動する。しかし、科学者は許容範囲を変えるのが使命なので、研究では許容範囲を少し越えてでもいろいろ考え、言動する。いままで学術的に未踏の領域、あるいは、従来は誤りとする学説にもチャレンジする。

学術界では誤りとされても、研究者本人は真実と信じて自説を提唱し続けた学者は多数いる。有名なところでは、物理学の常温核融合、生命科学ではジャック・ベンヴィニスト(Jacques Benveniste)(仏)の「水の記憶」である。これらは「錯誤」とされている。

科学研究は振り子である。従来の常識がくつがえった例がソコソコある。「錯誤」と思われていた学説が、後に、真実とされ、ノーベル賞を受賞した例もある。

しかし、「遺伝子組換え食品」の是非は、科学研究そのものというより、科学と社会の関係性の問題である。個人の主観・信念・価値観を持ちこむ科学者がとても多い。そうすると、科学研究の信頼を失う。

また、個人の主観・信念・価値観なので科学者が大衆社会と衝突することもある。この場合、両者の科学技術に対するスタンスが大きく関係する。

例えば、先端生殖医学である。自分の子供の遺伝子をより良い遺伝子に改変できる時代になった。科学者は人類社会に良かれと思って技術開発するが、大衆社会はその技術の普及を望んでいない。

科学者は人類社会に良かれと思って、遺伝子組み換え技術で作物・家畜の品種改良を可能にしても、その食品化に関しては、大衆社会は普及を望んでいない(程度、国による)。

科学者個人の信念・価値観が強いと、自分の信念・価値観に合うように科学研究結果を曲解し、悪用する科学研究者が登場する。ただ、科学者本人は、「曲解し、悪用」しているとは思っていない。セラリーニのように、誠実に研究していると主張する。

「科学は客観的」と評されているが、もちろん、科学研究者も人間だから、個人の信念・価値観にとらわれて研究をする。しかし。科学的な検証を甘くして個人の信念・価値観を優先することは科学研究では許されない。

学術界は科学的な検証が甘い「錯誤」者を排除すべきだ。生データを提示しない「錯誤」者を排除すべきだ。外部からの検証を拒否する「錯誤」者を排除すべきだ。

しかし、現実的には、排除の仕組みが機能していない。それで、「錯誤」であろうがなかろうが、著名な大学教授の論文を大衆社会は信じてしまう。これは大きな問題である。

学術界が対処しなければならない。

gilles-eric-seralini実験室のジル=エリック・セラリーニ(Gilles-Eric Seralini)と研究室員。写真出典

【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Séralini affair – Wikipedia, the free encyclopedia
② ウィキペディア英語版:Gilles-Éric Séralini – Wikipedia, the free encyclopedia
③ ◎2013年1月21日の松永和紀の「WEDGE Infinity(ウェッジ)」記事:遺伝子組換え食品 海外での“大事件”が報じられない日本(前篇) 「遺伝子組換えトウモロコシに発がん性」? 
④ ◎2012年9月25日のデクラン・バトラー(Declan Butler)の「Nature」記事:Rat study sparks GM furore : Nature News & Comment
⑤ 2015年6月19日記事:The Industry Funding Behind Anti-GMO Activist Gilles-Éric Séralini