フォジュルル・サルカール(Fazlul Sarkar)(米)


ワンポイント:不正疑惑で栄転取り消され、指摘者を脅迫・裁判

【概略】
sarkarフォジュルル・サルカール(Fazlul Sarkar、写真出典)は、インド出身で、米国・ミシガン州のウェイン州立大学(Wayne State University)の著名な教授(病理学)である。525報の論文を出版し、その内、100回以上引用された論文は38報もある。米国・NIHから1,280万ドル(約12億8千万円)の研究費を得ていた。

専門はがんの細胞生物学で、がんにおける転写因子NF-κB(エヌエフ・カッパー・ビー、核内因子)の役割を研究している。

2014年(64歳?)、「パブピア(PubPeer)」で論文中の図の不正が指摘された。なお、「パブピア(PubPeer)」は匿名で運営されている出版後論文議論(post publication peer-review)サイトの1つで、2012年10月に発足した。

2014年8月、「パブピア(PubPeer)」を法的に訴えると脅迫し、10月、実際に訴えた。

このサルカール事件は、「「The Scientist」誌の科学トップ・スキャンダル」の2014年度第2位の事件である(Top Science Scandals of 2014 | The Scientist Magazine®)。

  • sarkar_for_web_1国:米国
  • 成長国:インド
  • 研究博士号(PhD)取得:インドのバナラス・ヒンドゥ大学(Banaras Hindu University
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に、1950年1月1日とする
  • 現在の年齢:67 歳?
  • 分野:がん学
  • 最初の不正論文発表:2003年(53歳?)
  • 発覚年:2014年(64歳?)
  • 発覚時地位:ウェイン州立大学・教授
  • 発覚:「パブピア(PubPeer)」
  • 調査:①ウェイン州立大学? ②研究公正局? ③裁判所:データ不正とは別件
  • 不正:データねつ造疑惑
  • 不正論文数:50報以上が疑惑。撤回論文はゼロ
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 結末:採用取り消し

無題フォジュルル・サルカール(Fazlul Sarkar)編集の著書『Nutraceuticals and Cancer』 (英語) が、2011年11月23日に出版されている。

【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に、1950年1月1日とする、。バングラデシュかインドで生まれた(推定)
  • 1974年(24歳?):インドのxx大学で修士号取得。生化学
  • 1978年(28歳?):インドのバナラス・ヒンドゥ大学(Banaras Hindu University)で研究博士号(PhD)取得。生化学
  • 1978-1984年(28-34歳):米国・ニューヨークのスローン・ケタリング記念癌研究所(Memorial Sloan Kettering Cancer Center)でポスドク
  • 1989年(39歳?):紆余曲折を経てミシガン州のウェイン州立大学(Wayne State University)・教員。後に教授
  • 2011年10月18日(61歳?):ウェイン州立大学・殊勲教授(Distinguished Professor)。ウェイン州立大学は、1959年以来、31人しか殊勲教授を授与していない
  • 2014年春(64歳?):米国のミシシッピ大学・医学大学院(University of Mississippi Medical Center)・教授に就任の話が進んでいた。年棒$350,000(約3,500万円)(Wayne State professor to join pharmacy faculty – University of Mississippi Medical Center
  • 2014年春(64歳?):データねつ造が「パブピア(PubPeer)」で指摘された
  • 2014年6月19日(64歳?):ミシシッピ大学から採用を取り消すとの通知を受けた
  • 2014年8月(64歳?):「パブピア(PubPeer)」を脅迫し、裁判に訴えた

【追記:2016年8月13日】
撤回監視が年代記(タイムライン)を作成した。白楽の記載と違うかもしれない。白楽の間違いを直していない。
→ Meet the researcher with 13 retractions who’s trying to sue PubPeer commenters: Fazlul Sarkar – Retraction Watch at Retraction Watch

【データねつ造疑惑】

2014年春・夏、パブピア(PubPeer)で、サルカールの2003年から2014年の50論文以上の図がおかしいと指摘された(PubPeer – Results for Fazlul Sarkar)。

★例1

以下の「Cancer Tes. 2005年」論文の画像が使い回されている(出典https://pubpeer.com/publications/16204081)。

  • “Molecular evidence for increased antitumor activity of gemcitabine by genistein in vitro and in vivo using an orthotopic model of pancreatic cancer”
    Sanjeev Banerjee, Yuxiang Zhang, Shadan Ali, Mohammad Bhuiyan, Zhiwei Wang, Paul J Chiao, Philip A Philip, James Abbruzzese, Fazlul H Sarkar, Cancer Res., 65 (2005)

以下の図では、左の図3Bと3Dの左側の2列が使い回しである。3Dの2列は、右図に示すように3Bの2列を反転させたものだ。右図では、バンドだけでなく、周囲の複数のゴミ(黒い点)が同じ位置にある。
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上記と同じ「Cancer Tes. 2005年」論文の画像が使い回されている
(出典https://pubpeer.com/publications/16204081)。画像出典

以下の図では、上記の指摘点以外にも同様な画像操作がされている。つまり、データねつ造である。
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以下の「Mol. Cancer Ther. 2006年」論文で画像が使い回されている(出典https://pubpeer.com/publications/16546962)。

  • “Down-regulation of Notch-1 contributes to cell growth inhibition and apoptosis in pancreatic cancer cells”
    Zhiwei Wang, Yuxiang Zhang, Yiwei Li, Sanjeev Banerjee, Joshua Liao, Fazlul H Sarkar, Mol. Cancer Ther., 5 (2006)

下図の左の図が、右の実験条件が異なる別の論文の図と同一である(2014年5月11日指摘)。
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【脅迫と裁判】

Fazlul-Sarkar2014年3月11日、フォジュルル・サルカール(Fazlul Sarkar)は、米国のミシシッピ大学・医学大学院(University of Mississippi Medical Center)・薬学・教授への就任が打診された。年棒は$350,000(約3,500万円)、$15,000(約150万円)の引っ越し費用、$750,000(約7,500万円)の研究室開設初期費用という条件だった(【主要情報源】③、Wayne State professor to join pharmacy faculty – University of Mississippi Medical Center)。

2014年4月18日、サルカールはミシシッピ大学への移籍を了承し契約書にサインした。

2014年5月15日、サルカールはミシシッピ大学の終身雇用権が認められた。

2014年5月19日、サルカールはウェイン州立大学を辞職した。自宅の売却の広告を出し、ミシシッピ大学が提供する宿舎に引っ越した。

2014年6月19日、ミシシッピ大学・医学大学院(University of Mississippi Medical Center)のラリー・ウォルカー所長(Larry Walker、Director of the National Center for Natural Products Research)から、ミシシッピ大学への採用を取り消すという手紙が郵送されてきた。

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ミシシッピ大学(University of Mississippi)
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日本語の解説(2014年11月24日更新)があるので、それを修正引用しよう(BioMedサーカス.com – 医学生物学研究の総合ポータルサイト

発表済みの論文について匿名で議論するパブピア(PubPeer)というサイトでの中傷的な書き込みにより、せっかくの採用内定を取り消されたとして、ある研究者が書き込みを行った人物の情報を開示するようパブピア(PubPeer)に求めている。しかし、パブピア側はこれに対して争う姿勢を見せいている。

この研究者は米国のウェイン州立大学(Wayne State University)のフォジュルル・サルカール(Fazlul Sarkar)という人物で、ミシシッピ大学からの終身雇用付きポジションの内定を獲得していた。しかし、ミシシッピ大学はパブピア上の書き込みを見て内定を取り消した。

サルカール氏は現在もウェイン州立大学に留まっており、2014年10月9日にその書き込みを行った人物を相手取って訴訟を起こし、パブピアに対して書き込みを行った人物のIPアドレス等の情報を開示するよう要請している。pubpeer processado

その後、パブピアがこの要請に対して回答するのに2014年12月10日まで猶予が与えられることになった。パブピアの弁護士によれば、パブピアの管理者(匿名であるが自称若手研究者としている)は、書き込みは中傷ではないとしてサルカール氏の要請の根拠を却下する姿勢である。

このケースでパブピアを支援しているアメリカ自由人権協会(American Civil Liberties Union)のアレックス・アブド(Alex Abdo)氏は「パブピアは、合法的であれば、利用者たちは匿名で書き込みをする権利があると強く信じている」と言う。

サルカール氏の弁護士は、ミシシッピ大学にも訴訟を起こすつもりである。現在のところ、ミシシッピ大学がパブピアの書き込みをどう扱ったのかは不明である。しかし、同大のスポークスマンはサルカール氏に、この件に関する疑義に答えるよう要請したが、返答はなかったとしている。だが、サルカール氏の弁護士は、それに対して同意できないと表明している。(http://www.nature.com/news/peer-review-website-vows-to-fight-scientist-s-subpoena-1.16356

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パブピア(PubPeer)は、法的に訴えるという脅迫を受けたのは、今回が初めてである(PubPeer – PubPeer’s first legal threat)。

★裁判

2014年10月13日、ミシガン州ウェイン郡巡回裁判所召喚令状(pdf):
http://blog.pubpeer.com/wp-content/uploads/2014/10/signed-Subpoena-PubPeer.pdf

2014年10月9日、上記の関連訴状 (pdf):
http://blog.pubpeer.com/wp-content/uploads/2014/10/Filed-Complaint.pdf

2015年3月5日、ミシガン州ウェイン郡巡回裁判所は、判決を下した。

「パブピア(PubPeer)で匿名の書き込みをしても違法ではない」と裁定した。サルカールの敗訴である(Judge: PubPeer Users Remain Anonymous | The Scientist Magazine®)。

alex_abdo-edit-webパブピア(PubPeer)の弁護士をつとめたアメリカ自由人権協会(American Civil Liberties Union)のアレキサンダー・アブド(Alexander Abdo、写真出典)は、「パブピア(PubPeer)利用者が匿名で合法的に研究論文を議論する権利のために戦い続けよう」と述べている。

【論文数と撤回論文】

パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、フォジュルル・サルカール(Fazlul Sarkar)の論文を「Fazlul Sarkar[Author]」で検索すると、2002年以降の論文がヒットするが、2015年までの14年間の392論文がヒットした。とても多作である。

2015年1月14日現在、撤回論文はゼロである。

【白楽の感想】

《1》噂段階で内定を取り消す

出版後論文議論(post publication peer-review)などのサイトで研究ネカトと指摘されると、通常は、所属大学が調査に入る。クロと断定されれば処分される。

一方、研究費の支援を受けていれば研究公正局に報告される。研究公正局は大学の調査を基に調査し、独自の結論を出す。

また、大学だけでなく、論文掲載ジャーナル編集部も独自に調査し、クロと断定すれば論文を撤回する。

今回の場合、大学とジャーナル編集部は調査したかどうか不明である。大学からの処分、ジャーナル編集部の論文撤回も発表されていない。

その段階で、ミシシッピ・メディカル・センター大学が採用取り消した。これはマズイ。何ら公的な判定がされていない段階で、いわば、噂の段階で、噂を信じて一度公的に採用通知した人事を覆した。これは不当で、行き過ぎた行為だ。「サルカール氏の弁護士は、ミシシッピ大学にも訴訟を起こすつもりである」とあるので、サルカールがミシシッピ・メディカル・センター大学を訴える模様だ。

とはいえ、研究者の世界だけでなく、採用過程の途中で疑惑(の噂)が発覚した場合、一般的にはどうするのが適切なのだろうか?

内定者に不正(の噂)があれば、内定を取り消したほうがダメージは少ないのか? 採用したあとに解雇したほうがダメージは少ないのか? 前者のほうが双方のダメージは少ない気がする。婚約中に相手の欠点が発覚した場合、婚約を解消するほうが、結婚・離婚よりダメージは少ないでしょう。

《2》脅迫

サルカールが「パブピア(PubPeer)」を「脅迫」したとの記載があったために「脅迫」に関心を持って調べたが、科学的真実を曲げさせるほどの脅迫ではなかった。この程度の「脅迫」は研究犯罪には該当しないだろう。

それに、裁判に訴えると通知すること、実際に裁判に訴えること、その両方とも「脅迫」ではない。

日本では、憲法第32条に、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」とある。自分の権利・自由の確保・救済を求めるために、誰でも裁判所に訴えることができる。

これは欧米でも同じだろう。

ただ、「裁判に訴える」と伝えられた人が、「脅迫」だと感じたことは、理解できる。

《3》裁判

「誰でも裁判所に訴えることができる」とはいえ、研究ネカトに裁判所が介入するのは好ましく思えない。学術界で処理できないのだろうか? 裁判なら、生命科学の感性・判断ができる裁判官を養成しないと、生命科学が歪む。

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【主要情報源】
① リトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)の記事群:Fazlul Sarkar Archives – Retraction Watch at Retraction Watch
② 2014年9月22日、ケリー・サーヴィック(Kelly Servick)の「Science」記事:Anonymous peer-review comments may spark legal battle | Science/AAAS | News
③ 2014年11月7日、「The Pathology Blawg」記事:Pathology researcher sues anonymous PubPeer.com commenters for defamatory comments | The Pathology Blawg
④ 2014年10月13日、ミシガン州ウェイン郡巡回裁判所召喚令状(pdf):
http://blog.pubpeer.com/wp-content/uploads/2014/10/signed-Subpoena-PubPeer.pdf
⑤  2014年10月9日、上記の関連訴状 (pdf):
http://blog.pubpeer.com/wp-content/uploads/2014/10/Filed-Complaint.pdf