ファウジ・ラゼム(Fawzi Razem)(カナダ)


ワンポイント:研究ネカトで辞職(解雇?)したが、名前を変え、他国の大学教員になっていた

【概略】
1374981ファウジ・ラゼム(Fawzi A. Razem、写真出典)は、カナダ・マニトバ大学(University of Manitoba)のポスドクで、専門は植物科学(ホルモン受容体)だった。

2008年(33歳?)、「2006年のネイチャー論文」のねつ造が発覚し、マニトバ大学を辞職した(解雇された?)。ここまでは研究ネカトでは、よくある話だ。

ところが、3年後の2011年(36歳?)、Fawzi A. Razemの姓を変えたファウジ・アルラゼム(Fawzi AlrazemまたはFawzi Al-Razem)という名前でパレスチナのパレスチナ科学技術大学(Palestine Polytechnic University)・助教授になっていた。過去を隠蔽するために名前を変え、助教授になった点が、さらに非難された。

なお、カナダ政府の方針では調査報告書では研究ネカト者は匿名で扱っていた。そのためにこういう事態が生じたと反省し、2015・6年に実名報告に切り替えるかもしれない。

university-of-manitoba-campus-imageマニトバ大学(University of Manitoba)。写真出典

  • 国:カナダ
  • 成長国:中東?
  • 研究博士号(PhD)取得:
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に、1975年1月1日とする
  • 現在の年齢:42歳?
  • 分野:植物科学
  • 最初の不正論文発表:2004年(29歳?)
  • 発覚年:2008年(33歳?)
  • 発覚時地位:マニトバ大学・ポスドク
  • 発覚:学術雑誌編集部
  • 調査:①マニトバ大学・調査委員会
  • 不正:ねつ造
  • 不正論文数:撤回論文数は3報
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:辞職(解雇?)

【経歴と経過】
不明点多い。

  • 生年月日:不明。仮に、1975年1月1日とする。パレスチナ(?)で生まれる
  • xxxx年(xx歳):xx大学を卒業
  • xxxx年(xx歳):カナダ・マニトバ大学(University of Manitoba)のロバート・ヒル教授(Robert Hill)のポスドク。
  • 2006年(31歳?):最初に発覚したねつ造論文を発表した
  • 2008年(33歳?):ねつ造が発覚した
  • 2008年(33歳?):カナダ・マニトバ大学を辞職した(解雇?)
  • 2011年(36歳?)以前:パレスチナのパレスチナ科学技術大学(Palestine Polytechnic University)・助教授

【不正発覚の経緯と内容】

★栄光と没落

2006年(31歳?)、マニトバ大学のロバート・ヒル教授のラボでポスドクとして、環境ストレスに関係するホルモンの受容器を植物で発見し、ネイチャー誌の2006年1月号に論文を発表した(出典:Plant scientists discover receptor for hormone

 

52075-1マニトバ大学のロバート・ヒル教授(Robert Hill)(中央)、ポスドクのAshraf El Kereamy (左)、 ファウジ・ラゼム(Fawzi Razem)(右)。写真出典:Plant scientists discover receptor for hormone

この受容器の存在で、植物は寒冷や干ばつに耐えられると思われ、200回以上も引用された重要な論文だった。

ところが、ニュージーランドの研究者が「ネイチャー誌の2006年論文」を追試できないと言い始めた。

2008年12月(33歳?)、オタゴ大学(University of Otago)のキャサリーン・デイ(Catherine L. Day)も「ネイチャー誌の2006年論文」が追試できないとネイチャーに発表した(Nature 456, E5-E6 (11 December 2008) : FCA does not bind abscisic acid : Nature)。

2008年12月(33歳?)、ネイチャー誌編集部は、「ネイチャー誌の2006年論文」の結論が間違っていて結論を支持するデータないと表明した。

マニトバ大学は、この頃、調査に否定的だった。

2008年7月30日、マニトバ大学は、アルラゼムがデータねつ造を告白したと発表した。「いかなる大学のいかなる学術職にもアルラゼムが就くことを、決して推薦できない」と述べている。

アルラゼムはマニトバ大学を辞職した(解雇された?)。

2009年1月、データねつ造の懸念が指摘されてから6か月以上も経過していた。マニトバ大学は、カナダ自然科学技術評議会(NSERC: Natural Sciences and Engineering Research Council)から2回も要請されてから、ようやく正式な調査を開始した。

なお、カナダ自然科学技術評議会(NSERC)はカナダ政府の研究助成機関で年間10億カナダドル(約1,000億円)をカナダの大学・研究機関に助成している。

2009年6月、マニトバ大学は、調査を終え、調査報告書を発表した。この調査報告書では、ファウジ・ラゼム(Fawzi Razem)は匿名(unnamed researcher)で扱われた。

カナダ自然科学技術評議会(NSERC)は、個人情報保護法があるので研究ネカトの実行者の名前を公表できないとしている。

Margaret Munro2011年9月、「Postmedia News」紙のマーガレット・マンロ記者(Margaret Munro、写真出典)が、情報公開法に基づき、カナダ自然科学技術評議会(NSERC)に情報公開を求め、得られた情報をもとに「Postmedia News」紙に記事を書いた。その記事で、マニトバ大学の研究ネカト者は、ファウジ・ラゼム(Fawzi Razem)だと報道した。

2011年9月時点ではこの記事をウェブで閲覧できたようだが、2015年10月19日現在は閲覧できない。

記事で、カナダ大学教員協議会・会長のジェームス・ターク(James Turk)は次のように述べている。

「カナダ自然科学技術評議会(NSERC)の第一の義務は国民大衆のためでさる。だから、もっと透明性を高めるべきだ。もし誰かに研究ネカトの嫌疑がかかったら調査は非公開で行なうべきだが、調査の結果、研究ネカトがあったなら、その結果は氏名を含めて国民大衆に知らせるべきだ」。

★匿名報道だったので、ひそかに大学教員に

再度述べるが、2011年9月まで、マニトバ大学の調査報告書はカナダ自然科学技術評議会(NSERC)の方針で、ファウジ・ラゼム(Fawzi Razem)という姓名を発表せず、匿名で済ましていたのである。

それを、マーガレット・マンロ記者が情報公開法を使ってファウジ・ラゼム(Fawzi Razem)と公表したのである。

2011年9月、ファウジ・ラゼム(Fawzi A. Razem)は、姓を少し変えたファウジ・アルラゼム(Fawzi Alrazem)という名前でパレスチナのパレスチナ科学技術大学(Palestine Polytechnic University)・助教授になっていた(Fawzi Alrazem | Biotechnology Research Center)。

このことが見つかり、カナダのメディアが「おかしい」と非難の報道をした(①Canadian science fraudster now employed at Palestinian university – GenOmics、②【主要情報源②】、③2015年9月14日のローラ・エガートン(Laura Eggertson)の「CMAJ 2015. DOI:10.1503/cmaj.109-5146」記事)。

名前が違うのにどうして同一人物だと分かったか? 名前が違うと言っても、公表された名前とよく似ていたし、最終的には顔写真で判定できたのである。

2013年7月時点では、以下の写真に示すように、ファウジ・アルラゼム(Fawzi Al-Razem)がパレスチナ科学技術大学の教員として写真に写っている。2014年時点でも、パレスチナ科学技術大学に在籍していたようだ(Fawzi Alrazem | Biotechnology Research Center)。2015年10月19日時点では、パレスチナ科学技術大学に在籍しているのかどうか不明である。

Murad%20Def2013年7月17日、左の男性に博士号授与。右から2人目のファウジ・アルラゼム(Fawzi Al-Razem)が指導教員。パレスチナ科学技術大学(Palestine Polytechnic University)。写真出典

Dalia%20Def_02013年7月26日、左の女性に博士号授与。右から2人目のファウジ・アルラゼム(Fawzi Al-Razem)が指導教員。パレスチナ科学技術大学(Palestine Polytechnic University)。写真出典

【論文数と撤回論文】

2015年10月18日、パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、ファウジ・ラゼム(Fawzi Razem)の論文をファウジ・アルラゼム「Fawzi Alrazem [Author]」で検索したら、0論文がヒットした。ファウジ・ラゼム「Fawzi Razem [Author]」で検索すると、2002~2009年の8年間の7論文がヒットした。

2015年10月18日現在、7論文中の3論文が撤回されている。

  1. Hydrogen peroxide affects abscisic acid binding to ABAP1 in barley aleurones.
    Razem FA, Hill RD.
    Biochem Cell Biol. 2007 Oct;85(5):628-37.
    Retraction in:
    Biochem Cell Biol. 2010 Feb;88(1):129
  2. The RNA-binding protein FCA is an abscisic acid receptor.
    Razem FA, El-Kereamy A, Abrams SR, Hill RD.
    Nature. 2006 Jan 19;439(7074):290-4.
    Retraction in:
    Razem FA, El-Kereamy A, Abrams SR, Hill RD. Nature. 2008 Dec 11;456(7223):824
  3. Purification and characterization of a barley aleurone abscisic acid-binding protein.
    Razem FA, Luo M, Liu JH, Abrams SR, Hill RD.
    J Biol Chem. 2004 Mar 12;279(11):9922-9. Epub 2003 Dec 29.
    Retraction in:
    J Biol Chem. 2010 Feb 5;285(6):4264.

【事件の深堀】

★匿名・実名報道

2011年9月、「Postmedia News」記者のマーガレット・マンロ(Margaret Munro)が、情報公開法に基づき、カナダ自然科学技術評議会(NSERC)に情報公開を求め、それまで匿名だった研究ネカト者がファウジ・ラゼム(Fawzi Razem)だと国民大衆に伝えられた。

研究ネカト者を匿名・実名で報道することの是非は? 何がポイントなのか? 研究ネカト事件を報道すべきかどうかの議論はとばしてしまうが、「報道すべき」という立場で進めよう。

白楽は、報道するとなると、実名・所属・行為内容を詳細に報道することが望ましいと考えている。公益と思うからである。

一方、個人情報を保護する(隠す)思想・文化・法律がある。個人情報を保護する理由を「個人情報の保護に関する法律」の基本理念で見ると、以下のようである。

第三条(基本理念):個人情報は、個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべきものであることにかんがみ、その適正な取扱いが図られなければならない。(出典:個人情報の保護に関する法律

つまり、「個人の人格尊重」とある。

しかし、どの程度の公表がどの程度の人格尊重をそこなうのかとてもわかりずらい。また、公益とのバランスで、悪いことをした場合、どの程度の悪さなら名前を公表されても仕方ないのかわかりにくい。

しかし、簡単な例でいえば、殺人犯は実名報道されている。殺人行為の抑止、再犯の抑止という公益につながるからだ。

国会議員もほぼ全行為が実名報道されるが、この報道方針を問題視する人は少ないだろう。

それでは、研究者の研究ネカトは、どうか? どうすべきか? ということだ。

米国・研究公正局は、研究ネカトの調査の結果、クロなら名前・研究機関の実名を公表している。シロなら、公表しない。

以下は、2015年9月14日のローラ・エガートン(Laura Eggertson)の「CMAJ 2015. DOI:10.1503/cmaj.109-5146」記事から要点を引用した。

カナダでは、研究ネカトに対応する政府系組織として、2011年12月に「責任研究遂行委員会 (PRCR :Panel on Responsible Conduct of Research)」が発足した。責任研究遂行委員会(PRCR)は調査しないが、研究ネカト者に研究費助成をしないことを決める権限がある。

発足以来、研究ネカトがクロでも、名前・研究機関の実名を公表してこなかった。統計値だけが公表された。例えば、2014/15 会計年度では、研究ネカト嫌疑が89件あり、42件が終了した。42件のうち14件がクロで28件はシロだった。45件は継続中だった、という統計値である。

しかし、多額の公的資金が使用される研究で研究ネカトがあった時、国民大衆に名前・研究機関の実名を公表しない理由を思いつけない」と「論文撤回監視(Retraction Watch)」のオランスキー(Ivan Oransky)は述べている。

オランスキーは、研究ネカトの国際的データベースを作り、そこに実名で登録することで、研究ネカトをした研究者を国際的に認知できる。というか、それ以外、認知する方法がない。実名で公表することで、本記事で取り上げたファウジ・ラゼム(Fawzi A. Razem)のようなこっそり大学教員に就職するというケースを防げる、とも述べている。

それで、カナダの責任研究遂行委員会(PRCR)は、米国・研究公正局と同じように、調査の結果、クロなら名前・研究機関の実名を公表する方向に動くのかもしれない。

【白楽の感想】

《1》名前を変える

名前を変えて研究活動したことが非難された。しかし、ファウジ・ラゼム(Fawzi A. Razem)をファウジ・アルラゼム(Fawzi AlrazemまたはAl-Razem)とするのは、名前を変えたことになるのか? パレスチナの習慣・文化では、同一の扱いではないのか? 米国人の名前のロバート(Robert)=ボブ(Bob)の方がよほど変化が大きい(ボブは略称ですが)。

また、結婚して改姓した時に、研究者は旧姓を使うか、新しい姓を使うか、規則があるわけではない。結果として、研究キャリアの途中で、別姓を使うケースは、特に女性では多い。

ここでの非難は、単なる改名というより、過去の汚点を隠す意図での改名が問題なのだ。

これらを含め研究者を特定する方策が必要かもしれない。指紋登録をする? あるいは、世界で研究者マイナンバー制にして、世界で1人1つの番号をもらう。博士号授与とともに、各授与機関は研究者番号を割り振る。そして、研究者は世界のどこにいても、生涯、その番号を使う? なんか変?

《2》日本では研究ネカト大学教員がたくさんいる

米国で研究ネカト事件を犯した研究者が、日本の大学の教員になっている。一部の大学が日本でも処分をしたが、大半の大学は無処分である。無処分どころが、昇進を認め学部長になったり、他大学に栄転している人もいる。

研究ネカト者を抱える日本の大学は、「米国で研究ネカト事件を犯した研究者」であることを承知しているハズだ。というのは、ほとんどの公益通報者はその大学に連絡するからである。白楽のところにも、「大学に通報したのに、大学がアクションしない、白楽先生からもプレッシャーかけてください」というメールがしばしばくる。

「大学がアクションしない」日本の状態をどう考えたらいいか?

本記事で解説したファウジ・ラゼム(Fawzi Razem)のように、日本の大学は、海外メディアに叩かれ、学長が辞任という騒動になるのだろうか?

もっとも、日本で「研究ネカト事件を犯した研究者」は、実名で報道されても、日本の大学教員として在籍しているケースはかなりある。懲戒処分が休職であって免職でなければ、休職期間が過ぎれば、復職できる。匿名報道なら、転職もしやすい。

問題ないのだろうか?

白楽は、否定的である。研究ネカトは研究の信頼を大きく損なう行為である。どのような言い訳をしようが、「研究ネカト事件を犯した研究者」が、大学教員で居続けることは、そういう大学組織の信頼を損ない続けている。少なくとも世間はそう思うだろう。

もちろん、研究ネカト者も前向きに幸せに生きる権利がある。事件を犯しても罪を償えば、人生をリセットできるシステムは必要だ。

しかし、学術界には「研究ネカト事件を犯した研究者」がいてはならないと思う。別の業界で生きてほしい。

《3》日本の匿名化に異議あり!

2006年の文部科学省の「研究活動の不正行為への対応のガイドライン」では「研究ネカト事件を犯した研究者」の氏名・所属の公表は義務だった。

調査機関は、不正行為が行われたとの認定があった場合は、速やかに調査結果を公表する。公表する内容には、少なくとも不正行為に関与した者の氏名・所属、不正行為の内容、調査機関が公表時までに行った措置の内容に加え、調査委員の氏名・所属、調査の方法・手順等が含まれるものとする。(4 告発等に係る事案の調査:文部科学省、(7)調査結果の公表)

しかし、改訂された2014年の文部科学省ガイドラインでは、大学・研究機関の内部規程に任せ、具体的な指示をしていない。現実は、被認定者の氏名公表はケースバイケースである。実名報告の義務はなくなった(「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」の決定について:文部科学省)。

そして、2015年、文部科学省は、研究ネカト者の一覧表を作ったが、ここで、氏名・所属の公表をしないことにしている(文部科学省の予算の配分又は措置により行われる研究活動において特定不正行為が認定された事案(一覧):文部科学省)。

折角のサイトなのに、大きく後退した姿勢である。

多額の公的資金が使用されている研究で研究ネカトがあったとされた時、国民大衆に名前・研究機関の実名を公表しない理由を思いつけない」と「論文撤回監視(Retraction Watch)」のオランスキー(Ivan Oransky)は述べている。

実名報告は大きな抑止策である。顔写真も大きな抑止策である。どうして改悪するのだろう。

話は少し変わるが、2011年、米国・オバマ政権が医療問題の情報を非公開にした(The NPDB – Public Use Data File)。これを、ジャーナリズム協会が抗議した。米国政府も批判されたくないので、何かと秘密にしたがる。同じ穴の・・・。

  1. 記事:AHCJ, other journalism organizations protest removal of data from public website | Association of Health Care Journalists
  2. 抗議の手紙:http://healthjournalism.org/uploads/NPDB_HRSA.pdf

【主要情報源】
① 2009年8月4日、ジェン・スカーリット(Jen Skerritt)の「Winnipeg Free Press」記事:U of M research results fake – Winnipeg Free Press
② 2011年9月20日、Ivan Oranskyの「論文撤回監視(Retraction Watch)」記事:Unveiled: Anonymous researcher found guilty of fraud in Canadian funding agency documents – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 2011年9月25日、「University World News」記事:CANADA: Science fraudster traced to Hebron – University World News
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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