3‐5.「改ざん」の具体例2:画像操作


【細胞生物学での画像操作】
Nature.com の記事「細胞生物学での画像操作」が無料閲覧できないので、同様な事象の別の例を探った。

「細胞生物学での画像操作」への対処では、米国の細胞生物学会誌「Journal of Cell Biology」が優れている。2002年、「Journal of Cell Biology」は論文投稿を全部電子ファイルに切り替えた。当時、編集部長だったマイク・ロスナー(Mike Rossner)が、投稿された論文原稿にウェスタンブロットの改ざん画像があるのに気がつき、問題に対処することにした。

「Journal of Cell Biology」は、2003年6月、最初のガイドラインを発表し、2004年に「What’s in a picture? The temptation of image manipulation」を発表した(Rossner and Yamada, J. Cell Biol. 166:11–15)。2004年のは無料アクセスできるので、ここで紹介する。ここでは「JCBガイドライン」と呼ぶ。

JCBガイドラインは10年前の指針だが、具体的でわかりやすい。ここでポイントを紹介するが、生命科学の専門家は原典を参照されたい。

★ 電気泳動バンドの「明白」な改ざん(原典はJCBガイドラインの図)
電気泳動の画像の黒いバンドは、特定のタンパク質、DNA、RNAの存在を示す。バンドの濃さと縦方向の位置が重要で、1~4はサンプル(検体)番号で、4列あるからサンプルが4つあった。

141005 F1.medium[1]

図の左側の上下段が元のオリジナルな画像である。

上段(A)の右図では、列3にあったバンドを削除するという改ざんがされている。
下段(B)の右図では、列3に新しいバンドを加えるという改ざんがされている。

バンドの加工は加工痕跡が見つからないほどきれいである。また、削除・加筆されたバンドはハッキリとしている。

オリジナルデータがあれば「改ざん」は明白だが、オリジナルデータがないと「改ざん」はわからない。

★ 電気泳動バンドの「微妙」な改ざん(原典はJCBガイドラインの図)
上記の例は改ざんが明白だが、実際は、微妙なケースが多い。下図で説明しよう。

図A。左の図が元のオリジナルな画像である。右の図は、矢印のレーンの2本のバンドの下方を薄くして、あたかも、上のバンド1本だけが主要であるかのように加工している。とは言え、下のバンドの存在もわかる。加工はとても微妙だが、これは、改ざんと判定されている。
141005 F3.medium[1]-1

図B。左の図1が元のオリジナルな画像である。右の3つの図2,3,4は、図1のコントラストを変えた画像である。図4は最も右のレーンの像を極端にコントラストを変え、バンドが1本しかないように見せている。これは明白な改ざんだが、図2、図3は、さて、どうでしょう? 皆さんは、改ざんと判断されますか? 許容範囲と判断されますか? 判断の理由はなんでしょうか?
141005 F3.medium[1]-2

答:図2は許容範囲、図3は改ざんである。

理由は、元のオリジナルな画像・図1に見られるバンド(左の2つの列の下半分)が図2では薄くなっていても存在することがわかるが、図3では存在しないように見える。

★ 細胞像の改ざん(原典はJCBガイドラインの図)
左図には細胞が10数個ある。同じ細胞像のコントラストを変化させると、右図では、背景が異なってくる。つまり、左図は別々の視野から得た顕微鏡像を、あたかも1つの視野にあったかのように、切り貼りしたのである。これは、改ざんである。
141005 fal cell

【生物医学以外の画像改ざん例】
改ざんは、生物医学分野に多いが、生物医学分野だけというわけではない。心理学でも発覚しているし、科学や研究を離れた一般社会でも書類の改ざんはそれなりの頻度で発覚している。

歴史学・政治学でも、歴史的な写真が改ざんされていた例がある。(出典:Falsification of Photographs)。

写真では真中のレーニンの右にトロツキーが写っている。
141008 trotsky-orig1[1]

下の写真では、トロツキーが消されている。これが「改ざん」である。
141008 trotsky-alt1[1]
元々の出典は、David Kingの著書 『The Commissar Vanishes: The Falsification of Photographs and Art in Stalin’s Russia』 (1997年) である。

これは学問ではなく、単なる政治闘争の手段ですかね。

もう1つ、ごく普通の生活で起こる写真の改ざんをお見せしよう。

学校の集合写真でベランダの人たちが邪魔だった(上)。それで、画像操作して、ベランダの人たちを消した(下)。(出典:http://www.town-local.net/removals_and_replacments.htm

141008 SchoolRemoval[1]
学校の集合写真は研究発表や科学成果ではないので、この改ざんが研究不正ということはない。

これらの「改ざん」写真を見ると、、「百聞は一見にしかず」ということわざも、「百見一聞にしかず」というか、物事の何を信じて良いのやら・・・。

【白楽の感想】

《1》 JCBガイドラインは秀逸

JCBガイドラインは画像操作の許容範囲と改ざんとの判定の微妙なところを示していて、秀逸である。しかし、この判定そのものに同意しない研究者も多いだろう。薄いバンドを、ウッカリ、消してしまうこともあるだろう。

研究クログレイの各項目に関しても、各研究分野ごとに、それぞれ、許容範囲と不正の判定基準を示してくれると研究規範の世界はとても明るくなるのだが・・・。