1‐4‐15.英 ファカルティ1000(Faculty of 1000):F1000


研究規範に対処する組織・個人ではないが、重要な出版後査読(post publication peer-review)活動の1つなので掲載した。

【ファカルティ1000(Faculty of 1000)の要点】

  • サイト名:ファカルティ1000(Faculty of 1000)。
  • 言語:英語
  • 運営者:①Vitek Tracz (group chairman)、②Daniel Marovitz (CEO)
  • 本部:①英国: Middlesex House, 34-42 Cleveland Street, LONDON, W1T 4LB , UK。 ②米国: Faculty of 1000 Ltd, 121 W27th Street, Suite 604, NEW YORK NY 10001, USA
  • スタッフ数:
  • 連絡先: info@f1000.com
  • サイト:http://f1000.com/
  • 有料:最初の1か月無料。翌月から月額、US$9.95。支払いにペイパル(PayPal)口座が必要
  • ブログ:http://blog.f1000.com/
  • ツイッタ―サイト:https://twitter.com/F1000
  • 開始:2002年
  • 対象:生物学・医学の研究者
  • スタイル:5種類の場がある。出版後査読(post publication peer-review)に該当するのは①②③。
    F1000Prime(2002年開始):生物学・医学の44分野の出版論文を国際的に有力な研究者10,706人が「Good」(1点)、「Very Good」(2点)、「Exceptional」(3点)の3段階評価し、その集計で各分野の論文をランキングする。サイト:http://f1000.com/prime
    F1000Research(2012年開始):生物学・医学の論文を掲載する。オープンアクセスなので誰でも自由に読める。掲載されてから査読される。ネガティブデータ論文も掲載される。2013年12月から論文はパブメド(PubMed)とパブメド・セントラル(PubMed Central (PMC).)で見ることができる。サイト:http://f1000research.com/
    F1000Posters(2010年開始):生物学・医学の研究成果のポスター発表。サイト:http://f1000.com/posters
    F1000Journal Clubs(2014年開始):ジャーナルクラブを運営するソフト
    F1000Specialists:各大学・病院・研究機関の公式なF1000まとめ役。
  • 推薦論文数: 「①F1000Prime」の「推薦論文(Article Recommendations)」 は120,002論文(145,000論文との記述もある)(2014年7月9日)
  • ウィキペディア(英語サイト):http://en.wikipedia.org/wiki/Faculty_of_1000
  • 作業期間2002年~現(2014年7月7日)。活動は12年、継続中

【創始者はビテック・トラクズ(Vitek Tracz)】
140708 Vitek Tracz F1.medium[1]
ビテック・トラクズ(Vitek Tracz )( ← 写真出典も同)は生物学・医学の情報会社「Science Navigation Group」社長。1940年、ロシア国境近くのポーランド生まれ。

英国・ロンドンを拠点にした生命科学情報誌の起業家で、「科学出版界のピカソ」と呼ばれている。有料総説誌「Current Opinion journals 」を1988年に創始し、1997年、Elsevier社に売却した。また、無料オープンアクセス論文誌「BioMed Central 」を1998年に創始し、2008年、Springer Science+Business Media社に売却した。 他にも、 Gower、BioMedNet、Investigational Drugs Database、Current Drugs など新しい企画を成功させ、売却している。

ビテック・トラクズ(Vitek Tracz)の人生は、Richard Poynder(2005年1月)の記事「Interview with Vitek Tracz: Essential for Science」に詳しい。

【日本語サイトでの解説】

大学図書館で無料トライアルの宣伝が効を奏したのか、日本のいくつもの大学図書館が解説している。現在、多くは旧版用だが、力作の解説もある。大学図書館員に大きな期待をもたれたのだと推察できる。一方、生物学・医学の研究者からの解説サイトはヒットしなかった。しっかり調べれば、解説サイトはあるのだろうが、ナンカ、象徴的です。

いくつかの解説は、2014年7月現在の「ファカルティ1000(Faculty of 1000)」版とは様子が異なる。通用するのかどうか不明だが、以下に3つ示す。

★使い方(東京海洋大学附属図書館)
https://lib.s.kaiyodai.ac.jp/library/F1000BguideJ.pdf

★Facultyの役割(出典:奈良先端大学院大学・図書館http://library.naist.jp/library/news/F1000Jap.pdf
各Faculty Memberは、月1-2点の論文を評価し、
1. 簡潔なコメントを加えます。
2. 論文の重要度に応じて、Recommended / Must Read /Exceptionalのいずれかに格付けします。
3. 論文の性格によって“Interesting hypotheses”, “New finding”, “Important confirmation”, “Technical advance”, “Controversial finding”のいずれかに分類します。
4. 適切なSectionに割り当てます。

★主な特徴(出典:奈良先端大学院大学・図書館http://library.naist.jp/library/news/F1000Jap.pdf
Advanced Searches — ユーザの興味ある論文を正確に特定
MyF1000 email alerts — 関心ある分野や検索条件を保存し、該当する論文が新たに掲載されると、定期的にメールで通知を受ける
Browse —FacultyやSection単位で目を通す
Hidden Jewels — マイナー誌に掲載されたがFaculty of 1000では高い評価を受けた論文をハイライト(Faculty of 1000で選ばれた論文の掲載誌は300以上にもなります。Nature/Science/Cellに掲載された論文のシェアは15%以下に過ぎません。)
Top 10s — 最も高い評価を受けた論文、最も頻繁に閲覧された論文をハイライト

F1000Primeのファカルティの構造】

★ 生物学・医学の以下の44分野(ファカルティ:Faculty)に、77人の分野長(Heads of Faculty)、725人の細目分野長(Section Heads)、5,753人のファカルティ会員(Faculty Members)、4,953人のファカルティ準会員(Associate Faculty Members)が論文を評価し推薦する。

上記には、米国人が多いが、日本人も数十人(多分)~数百人(?)はいる(数える気があれば、数えられる)。

以下の各分野は「ファカルティ1000(Faculty of 1000)」にリンクしてある。

【フィブロネクチン(fibronectin)で試す】

フィブロネクチン(fibronectin)は細胞接着性タンパク質である。パブメド「PubMed」で「fibronectin」論文を検索すると、35,082報見つかった(2014年7月9日閲覧)。この「fibronectin」で「ファカルティ1000(Faculty of 1000)」の「①F1000Prime」「②F1000Research」「③F1000 Posters」を検索してみた。分野は「細胞生物学(Cell Biology)」である。

★ ①F1000Prime:原著論文の推薦と3段階評価

「推薦論文(Article Recommendations)」の総数は120,002報である。「fibronectin」で検索すると以下が左に提示された(2014年7月9日作業)。

ALL SEARCH RESULTS
All F1000Prime449
Article Recommendations 439
F1000Prime Reports 6
Faculty 4
Blog 0

上から3段目に、「推薦論文(Article Recommendations)」 は439論文あると表示されている。この中身を見よう。ウウン? ここはサイン・インしないと見られない(1か月の無料トライアルがある)。白楽は、ペイパル(PayPal)口座手続でトラぶって、ここになかなか入れなかった。いくつかのステップを踏んでペイパル(PayPal)口座の処理が終わり、入れた。

439「推薦論文(Article Recommendations)」 を総合得点順に並べ替えた。21得点の以下の論文が最上位にリストされた。2012年のネイチャー論文である。8人が推薦し、内5人が「Exceptional」(3点)、3人が「Very Good」(2点)で総合点が21点。異議ありが1人だ。

140709 f1000

学術誌のサイトに飛ぶボタンもある。この論文では、ネイチャーに論文サイトが開き論文を読むことができる(購読契約があれば。有料)。パブメド「PubMed」とグーグル・スカラー(Google Scholar)サイトにもリンクしていて、こちらに飛ぶこともできる(契約不要。無料)

ここ30日以内の「推薦論文(Article Recommendations)」もクリック1つで表示されるが、1報しかなかった。

その他にも便利な機能はある。例えば、「Japan」と入れると、日本からの論文に絞ることもできた。すると、「推薦論文(Article Recommendations)」数は21報で、総合得点順に並べ替えると7得点の以下の論文がトップにでてきた。

「Roles played by a subset of integrin signaling molecules in cadherin-based cell-cell adhesion.」
Yano H, Mazaki Y, Kurokawa K, Hanks SK, Matsuda M, Sabe H
J Cell Biol. 2004 Jul 19; 166(2):283-95

しかし、最高得点といっても2004年の論文、つまり、10年前の論文である。「出版後論文議論(post publication peer-review)」といっても、もう評価は不要でしょうし、今さら読まないでしょう。

F1000Prime Reportsの6報。こちらを見た。2009年2報、2010年2報、2013年2報。

《白楽の感想》 こんなに少数の論文数では、とても使い物にならない。

★ ②F1000Research:原著論文

F1000Researchでは2013年と2014年の論文が各1報、計2報ヒットした(2014年7月9日作業)。

2013年の論文には、3人の研究者が実名でコメントしていた。2人はファカルティ会員でいわば義務で、1人はファカルティ非会員だ。

2014年の論文には、1人のファカルティ非会員が実名でコメントしていた。

《白楽の感想》 2報と驚くほど少数の論文数だ。役に立たない。さらに、どちらも、コメント数が少なく、議論は不活発だ。

★ ③F1000 Posters:原著ポスター発表

F1000Postersでは2010年~2013年の学会発表(米国細胞生物学会など)が8件ヒットした(2014年7月9日作業)。

《白楽の感想》 こんなに少数では役に立たない。

【ビテック・トラクズ(Vitek Tracz)の他の事業】

★ ウェブ・オブ・ストーリー(Web of Stories

ビテック・トラクズ(Vitek Tracz)は、2003年、「ウェブ・オブ・ストーリー(Web of Stories)」も創始した。内容は、著名科学者や文化人のインタビューを動画にしたものである。動画による本人の「生きている科学者・著名人の伝記」だ。数分の動画をたくさん撮り、合わせて、人生を多角的に語らせている。言語:英語。

5,227人の動画が収録されている(2014年7月9日閲覧)。スゴイ量だ。

1例をあげる。 「Gerald Edelman – Biologist -My first bit of scientific research – Web of Stories」(英語)。(写真出典:Gerald Edelman – Wikipedia, the free encyclopedia)。
140709 Gerald_M._Edelman[1]

ジェラルド・エデルマン(Gerald Edelman)は、抗体分子の一次構造の解明で、1972年度ノーベル生理学・医学賞を受賞した米国の生命科学者だ。

白楽は、国際会議でエデルマンを見たことがある。会話はしていない。100人ほどの研究者全員が合宿する米国の国際会議でエデルマン(招待講演者)のすぐ後ろに座った。エデルマンは、ノーベル受賞後、細胞接着の研究に移行し、当時、その領域で、かなり優れた研究成果を出していた。しかし、精神的に不安定で、ピリピリしていて、エデルマン研究室員以外、誰も近づかなかった。「別格扱いの人」だった。

【出版前査読は崩壊】

従来、論文を出版局に送付し、査読してもらう。そのシステムが崩壊している。

著者にとって査読は、①論文の出版が送れる。②査読者は秘密のことが多い。競争者かもしれない。③特に優れた論文では査読が出版の障害になる。古典的な例に、リン・マーギュリス(Lynn Margulis)の真核生物の細胞内共生説の論文『有糸分裂する真核細胞の起源』(The Origin of Mitosing Eukaryotic Cells)がある。1967年の重要な論文だが、出版までに査読者に15回ほど不採択にされた。

査読者にとっても、1回目の査読なのか、2回目、3回目なのかわからない。無駄が多い。

出典:Frontiers | Post-Publication Peer Review: Opening Up Scientific Conversation | Frontiers in Computational Neuroscience、2012年

【白楽の感想】

《1》 科学出版界のピカソ

2013年、ビテック・トラクズ(Vitek Tracz)は「査読付き科学論文誌は10年以内に消滅する」と述べている。そうかもしれない。スゴイ発想だ。
出典:Tania Rabesandratana(4 October 2013):「The Seer of Science Publishing」、Science、Vol. 342(no. 6154)、pp. 66-67、DOI: 10.1126/science.342.6154.66

「ファカルティ1000」は、数百年続いた科学論文誌システムをヒックリ返してしまう可能性を秘めている。それは、欧米で1990年代後半から始まった「オープンアクセス」運動の流れを汲んでいる。10年後、学術研究者は研究成果をどういう形で共有するのだろう? 一般社会とも共有するのだろうか?

「オープンアクセス」とは、誰でもインターネットで学術論文を無料で閲覧できるシステムである。理由の1つは、「公的資金によって行われた研究の成果はそのスポンサーである市民(納税者)に公開すべき」ということだ(引用:①佐藤 翔)。

オープンアクセスの解説 ① 佐藤 翔:「オープンアクセスの広がりと現在の争点」、情報管理、Vol. 56 (2013) No. 7 P 414-424  http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.414  ② オープンアクセス – Wikipedia

ついでに書くと、「公的資金によって行われた研究の成果はそのスポンサーである市民(納税者)に公開すべき」なら、日本の研究成果は「日本語を優先すべきだ」。日本人の税金で行なった研究成果を日本人向けに書かないなら、研究費を支給しない! 誰のお蔭で研究できたんだ! とはいえ、国際的には英語論文も必要だろうから、英語でも書く。この場合、同じ内容になるが、2重投稿扱いはしないと国際的に認めさせる。

話しを戻す。

歴史を作るビテック・トラクズ(Vitek Tracz)に、感動する。ビテック・トラクズ(Vitek Tracz )は、「科学出版界のピカソ」である。

こういう革新的システムを創設する人物が日本にはとても少ない。日本はこういうユニークな人材を育てられない。排斥し、つぶしてしまう。異質を許容し面白がる文化を日本に導入したいものだ。

白楽の「バイオ政治学」も一代学問で終わってしまうのか? 引き継ぎ発展してくれる人は出てこないのか?

《2》 研究者・大学院生は「ファカルティ1000」を読むか?

「ファカルティ1000」の「①F1000Prime」の「推薦論文(Article Recommendations)」は、その分野の研究者に推薦された論文である。しかし、指導教員や研究室の先輩から推薦されたなら別だが、一般的に知名度の高い研究者が推薦した論文を、研究者・大学院生は読むだろうか?

研究者は、自分の研究テーマの最新の原著論文を読み、自分で評価する。自分で評価できなければ独創的な研究はできない。自分の分野ではない分野の最新情報や総合的な情報を必要とする時は、総説をよむ。推薦された優良論文を読むのは、「自分の研究テーマ以外の論文を読んでまとめよ」という大学院生向け課題セミナーなどでしかない。

それに、以下のような報告もある。

<論文紹介> 専門家の目による論文評価サイト「Faculty of 1000」で高評価を受けた論文は、被引用回数も多くなる?|両者の相関は弱いとの結果 | ワイリー・サイエンスカフェ