ディーパク・ペンタル(Deepak Pental)(インド)

ワンポイント:大学総長が論文盗用と種子の窃盗で逮捕・刑務所行き。事件後も研究者を続けた少数例。

【概略】
dpental@gmail_com_Dr_%20Pentalディーパク・ペンタル(Deepak Pental、写真出典)は、インドのデリー大学(University of Delhi)・総長で、専門は遺伝学(植物バイオテクノノジー)だった。

2009年(58歳):同じ大学の教授から、論文の盗用、植物種子の窃盗と訴えられた。

2010年(59歳):ペンタルはインドのデリー大学・総長を辞任し、遺伝学科の教授に戻った。総長辞任は盗用事件のためかどうか、白楽はつかめていない。

2014年11月25日(63歳):論文盗用、研究室でコバルト(放射性物質)を違法に使用したことで、逮捕され刑務所に留置された。ただ、数時間後には釈放された。

2016年1月12日現在(65歳)、デリー大学・遺伝学・教授職を保持している。事件後も研究者を続けた少数例。

この事件は、「iThenticate」誌の2014年のトップ「盗用」スキャンダルの第3位である(2014年ランキング | 研究倫理

17デリー大学・遺伝学科のサイトから。学園祭? 出典: Department of Genetics – University of Delhi

  • 国:インド
  • 成長国:インド
  • 研究博士号(PhD)取得:米国のラトガース大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1951年、インドで生まれる。仮に1951年1月1日とする
  • 現在の年齢:66 (+1)歳
  • 分野:遺伝学
  • 最初の不正論文発表:2003年?(52歳)
  • 発覚年:2009年(58歳)
  • 発覚時地位:デリー大学・総長
  • 発覚:同じ大学・分野の教授の公益通報
  • 調査:①デリー大学・調査委員会。結論はシロ。②裁判所
  • 不正:論文盗用。研究成果の窃盗
  • 不正論文数:1報
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 結末:総長辞任。教授留任

Deepak-Pental-Compressed1

【経歴と経過】
主な出典:INSA

  • 1951年:インドで生まれる。仮に1951年1月1日とする
  • 1971年(20歳): インドのパンジャブ大学(Panjab University)、植物学科卒業
  • 1973年(22歳):インドのパンジャブ大学(Panjab University)、植物学修士
  • 1978年(27歳):米国のラトガース大学(Rutgers University)で研究博士号(PhD)取得
  • 1978-84年(27-33歳):英国のノッティンガム大学(University of Nottingham)、ポスドク、後に研究員
  • 1985年(33歳):インドのタタ・エネルギー研究所(Tata Energy Research Institute: TERI)・遺伝学・教授
  • 1993年(42歳):インドのデリー大学(University of Delhi)・遺伝学・教授
  • 2000-2005年(49-54歳):インドのデリー大学・サウスキャンパス・学長
  • 2005-2010年(54-59歳):インドのデリー大学・総長
  • 2009年(58歳):盗用が発覚する
  • 2014年11月25日(63歳):逮捕され刑務所に留置。すぐに釈放された
  • 2016年1月12日現在(65歳):デリー大学・遺伝学・教授職を保持している

【不正発覚の経緯と内容】

P-Pardha-Saradhi(1)主役を追い詰める重要な人物のパルダ・サラディ(P. Pardha Saradhi、写真出典)の話からはじめよう。

パルダ・サラディは、インドのデリーにあるジャミア・ミリア・イスラミア大学(Jamia Millia Islamia University)の講師で、植物バイオテクノロジーを研究していた。

1996年に日本-インド共同研究が始まり、サラディは、日本の基礎生物学研究所の村田紀夫教授(Norio Murata)から細菌の遺伝子codAを供与してもらった。

サラディは、研究室の大学院生であるプラサド(KV Prasad)と一緒に、植物のカラシナ(Indian mustard、含・下記の写真出典)に組み込んだ遺伝子組み換え体を作成した。塩害に強いカラシナを作るためだった(Experiment:塩害に強い植物をつくる 村田紀夫 -BRH – JT生命誌研究館)。これが、インドで作成した最初の遺伝子組み替え植物だった。
Brassica_juncea_-_Köhler–s_Medizinal-Pflanzen-168
研究成果は「1999年のPlant Mol Biol.」論文として発表された(以下の書誌情報)。アレ? 著者に、サラディと村田紀夫の名前があるが、プラサド(KV Prasad)の名前がない。別の論文かもしれない。

ここで主役のディーパク・ペンタル(Deepak Pental)が登場する。ペンタルは2000年(49歳)に、インドのデリー大学・サウスキャンパス・学長に就任している。事件の根は就任前後に起こっている。

ペンタルは、植物の遺伝子組み替え技術を自分の研究室で展開したかった。

サラディ研究室の大学院生・プラサドにcodA遺伝子組み換えカラシナの種子をサラディ研究室から持って来ればポスドクとして採用すると約束した。

それで、大学院生・プラサドはcodA遺伝子組み換えカラシナの種子をサラディ研究室から盗み、ペンタル研究室のポスドクになった。ただ、ペンタル研究室で研究しても、新しい発見に至らなかった。

2001年、一方、偶然にも、サラディはペンタルが学長になっていたデリー大学の環境科学科・教授に移籍した。

2004年、サラディは、ペンタル研究室の論文(研究期間は2001-2004年)が、サラディが1995-1999年に日本-インド共同研究で報告した内容と一字一句盗用したしたことに気が付いて、問題を追及し始めた。

サラディは、ペンタルの論文盗用を公益通報したが、なかなか掛け合ってもらえなかった。

2008年、サラディの盗用の訴えに対し、ようやく、デリー大学は調査委員会を設けたが、ペンタルをシロと判定した。

サラディは、研究プロジェクトを支援しているインド科学技術省にペンタルの不正を何度も訴えたが、インド科学技術省は何も対処しなかった。

2009年(58歳):サラディはついに、ペンタルを裁判に訴えた。しかし、ペンタルはインドのデリー大学・総長に就任して4年が経過していた。

2010年(59歳):ペンタルはインドのデリー大学・総長を辞任し、遺伝学科の教授に戻った。総長辞任は盗用事件のためかどうか、白楽はつかめていない。

2014年11月25日(63歳)、ペンタルは、論文盗用、研究室で違法にコバルト(放射性物質)を使用した罪で、地方裁判所(Delhi Court)の命令で逮捕され、ティハール刑務所(Tihar jail)に留置された。しかし、高等裁判所(Delhi High Court)が、その命令は間違いだと電話とファクスでティハール刑務所伝え、ペンタルはすぐに釈放された

2016年1月12日現在(65歳)、ペンタルはデリー大学・遺伝学・教授職を保持している。

【動画1】
「Ex-Delhi University vice chancellor Deepak Pental sent to Tihar jail on plagiarism complaint – YouTube」(英語)1分57秒。
NDTV が2014/11/25 に公開

【動画2】
「Former DU Vice Chancellor accused of plagiarism: Does India need stricter ethics body? – YouTube」(英語)9分09秒。
NDTV が2014/11/25 に公開

【論文数と撤回論文】

2016年1月12日現在、パブメド(PubMed)で、ディーパク・ペンタル(Deepak Pental)の論文を「Deepak Pental [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2003~2015年の4年間の19論文がヒットした。

「Pental D[Author]」で検索すると、1984~2015年の4年間の43論文がヒットした。

2016年1月12日現在、パブメドでの撤回論文はない。

なお、かつてサラディ研究室にいたプラサドとペンタルとの共著論文は「2003年のPlant Cell Rep」論文1報のみである。

【白楽の感想】

《1》学長・総長の不正

インドは研究ネカト天国である:①Scientific plagiarism in India – Wikipedia, the free encyclopedia。②Special Report: Why India’s medical schools are plagued with fraud | Reuters。③Plagiarised scientific papers plague India – SciDev.Net

研究ネカト文化を一掃するのは、大きな変化が必要だろう。

《2》学長・総長の不正

無題学長・総長の研究ネカトは、厄介である。学長・総長は学内の主要な人物や権益と深く絡んでいる。調査委員会は学長・総長の下に設置される。さらに、大学だけでなく国の官僚・政治家・財界とも利害関係が強い。

そして、このタイプの人間は、研究ネカトをしてきたから学者としての出世があったので、本来の学術的な能力には疑問符が付くケースが多い。

このタイプの人間の言行・思想は研究ネカトと深く絡んでおり、インドでは、そういう人物が出世できる学術界文化なのである。「インドでは」と書いたが、日本でも、その傾向はかなり強い。

実際、日本でも東北大学総長、琉球大学学長の研究ネカト事件が公表され、権力闘争・利害闘争でみにくい争いを演じている。しかも、文部科学省は正面から解決に取り組んでいるようには思えない。状況は不透明で、調査・判定が公正とは思えない面が多々ある。

学長・総長は、本来、その大学や関連行政機関を超えた別の機関が調査すべきだろう。

【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Deepak Pental – Wikipedia, the free encyclopedia
② 「Deepak Pental」関連記事:Deepak Pental | The Indian Express
③ 2014年11月26日の「Daily Mail Online」記事:Former DU vice-chancellor Deepak Pental sent to Tihar over plagiarism charges | Daily Mail Online
④ 2014年11月25日のディープシクハ・ゴーシュ(Deepshikha Ghosh)の「NDTV」記事:Ex-Delhi University Vice Chancellor Deepak Pental Sent to Tihar Jail on Plagiarism Complaint
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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