クレイグ・ジェルバンド(Craig H. Gelband)(米)

最下段にコメント欄を設けました(14日以内)。

ワンポイント:将来を嘱望された中堅研究者が改ざん

【概略】
F4_mediumクレイグ・ジェルバンド(Craig H. Gelband、写真出典)は、米国・フロリダ大学(University of Florida)・医学部・生理学科・準教授で、専門は腎血管調節の生理学だった。医師免許は持っていない。

2001年(38歳)、研究ネカトが発覚した。

2003年11月12日(40歳)、研究公正局が8論文・7研究費申請書に研究ネカトがあったと発表し、締め出し処分(debarment)を10年とした。10年以上の締め出し処分を受けた研究者は、2015年11月9日現在まで、6人しかいない(研究者の事件ランキング)。

halls1米国・フロリダ大学(University of Florida) 写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 研究博士号(PhD)取得:マイアミ大学?
  • 男女:男性
  • 生年月日:1963年頃。仮に、1963年1月1日とする
  • 現在の年齢:54 (+1)歳
  • 分野:生理学
  • 最初の不正論文発表:1995年(32歳)
  • 発覚年:2001年(38歳)
  • 発覚時地位:フロリダ大学(University of Florida)・医学部・生理学科・準教授
  • 発覚:内部公益通報?
  • 調査:①フロリダ大学(University of Florida)・調査委員会。2001年10月~2002年4月9日。調査期間は半年。②研究公正局。~2003年11月12日
  • 不正:改ざん
  • 不正論文数:8論文・7研究費申請書。撤回論文数は5報
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:辞職、通常3年間の申請不可年数が10年間

【経歴と経過】

  • 1980-19-1生年月日:1963年頃。仮に、1963年1月1日とする(右の写真は、1980年17歳のころ)
  • xxxx年(xx歳):xx大学を卒業
  • xxxx年(xx歳):研究博士号(PhD)を取得。マイアミ大学(?)
  • xxxx年(xx歳):ネバダ大学(University of Nevada)・医学部 ポスドク?
  • xxxx年(xx歳):フロリダ大学(University of Florida)・医学部・生理学科・準教授
  • 1999年(36歳):米国心臓学会の「Harry Goldblatt賞」を受賞
  • 2001年(38歳):研究ネカトが発覚し調査委員会発足
  • 2002年4月9日(39歳):フロリダ大学・調査委員会が研究ネカトと結論した
  • 2002年4月29日(39歳):フロリダ大学を自発的に辞職
  • 2003年11月12日(40歳):研究公正局が研究ネカトと発表

【不正発覚の経緯】

2001年10月(38歳)、誰が最初に公益通報したのか不明だが、クレイグ・ジェルバンド(Craig H. Gelband)の論文に研究ネカトの疑惑が生じた。これを受けて、3人の委員からなるフロリダ大学(University of Florida)・調査委員会が設置された。

2002年4月9日(39歳)、フロリダ大学・調査委員会は、半年間の調査の結果、ジェルバンドの1999-2001年論文に研究ネカトがあったと発表した。研究ネカトは、意図的な改ざんで、偶然の間違いではないと結論した。

ジェルバンドは、意図的な改ざんではなく、偶然に間違えただけだと主張した。

cew2ジェルバンドの以前のボス・チャールズ・ウッド(Charles Wood、写真出典)は、当時のフロリダ大学・生理学科長だった。

ウッド学科長は、「研究論文では誤りがないことの保証は著者の責任である。ただ、研究者といえども誤りを犯す可能性はある。しかし、その場合でも、誤りが多く、また、誤りが繰り返されていれば、偶然に間違えただけだとは言えず、研究ネカトと判定される」と述べている。

ジェルバンドは、米国心臓学会の「Harry Goldblatt賞」をはじめいくつかの賞を受賞していた有望な中堅研究者だったが、指摘された論文を撤回し、NIHからの研究助成金を返却した。

Sarasota Herald-Tribune - May 30, 2002Sarasota Herald-Tribune – May 30, 2002

【研究ネカトの内容】

2003年11月の研究公正局の報告書から抜粋しよう。

★NIH研究費申請書

問題のNIH研究費申請書は以下の通りである。ジェルバンドは、NIHからの研究費をたくさん獲得していた。39歳でこれほど多く獲得していたことから、とても有望な研究者だったことがうかがわれる。

  1. R29 HL52189-01A2, then R01 HL52189-05, “Regulation of renal vascular cells in hypertension”
  2. R01 HL56921, “AT1 receptor control in chronic hypertension”
  3. F32 HD08496, “Role of MNA V2.3 in uterine contraction”
  4. R01/R37 HL49254, “Ionic & pharmacological regulation of vascular cells”
  5. F32 HL08531, “Hormonal regulation of renal artery ionci currents”
  6. P01 DK41315, “Regulatory mechanism in colonic motility-program project”
  7. R01 HL69034-01, “Mechanisms of cerebral resistance artery constriction.”

★研究ネカト論文とその内容

★(1)張力データの改ざん

ジェルバンドは、(ACE)のアンチセンス実験で、腎臓細動脈の平滑筋の張力データを改ざんした。

具体的には、「Hypertensionの2000 年論文その1」の図5,6,7は、「PSEBMの1998年論文」の図6,7、8のラベルを張り替えて再発表(ねつ造)した図である。

  • 「Hypertensionの2000 年論文」・・・Wang, H., Reaves, P.Y., Gardon, M.L., Keene, K., Goldberg, D.S., Gelband, C.H., Katovich, M.J. & Raizada, M.K. “Angiotensin I-converting enzyme antisense gene therapy causes permanent antihypertensive effects in the SHR.” Hypertension 35[part 2]:202-208, 2000
  • 「PSEBMの1998年論文」・・・Martens, J.R. & Gelband, C.H. “Ion channels in vascular smooth muscle: Alterations in essential hypertension.” PSEBM 218:192-200, 1998

「Hypertensionの2000 年論文その1」の図5は以下のである。図6,図7も似た図である。ただ、「PSEBMの1998年論文」は無料アクセスができないので、アクセスしていない。それで、比較すべき図を提示できない。

ただ、図を見てわかるように、図は曲線や折れ線である。容易に改ざんできる印象だ。

F5_large

★(2)電流/電圧(I/V)データの改ざん

ジェルバンドは、電流/電圧データの1つのを改ざんし、6つの論文(内1つは原稿)と1つのNIH研究費申請書HL52189-05に、すっかり違う実験系の結果として使用した。

具体的な論文を1つをあげると、「Hypertensionの2000 年論文その2」の図1Aである。

  •  「Hypertensionの2000 年論文その2」・・・ Gelband, C.H., Wang, H., Gardon, M.L., Keene, K., Goldberg, D.S., Reaves, P., Katovich, M.J., Raizada, M.K. “Angiotensin 1-converting enzyme antisense prevents altered renal vascular reactivity, but not high blood pressure, in spontaneously hypertensive rats.” Hypertension 35 [part 2]:209-213, 2000

この図1Aも容易に改ざんできる、という印象だ。
F1_large

★(3)改ざん。詳細は省略

★(4)改ざん。詳細は省略

★(5)改ざん。NIH研究費申請書HL69034-01の26ページの図の改ざん。詳細は省略

★(6)改ざん。NIH研究費申請書HL69034-01の25ページの図の改ざん。詳細は省略

★(7)電気生理データの改ざん。
ジェルバンドは、もともと同じ電気生理学的データをトレースし、改ざんして2つの異なる電気生理データにした。
具体的に示すと、「Circ. Res.の1995年論文」の図4A、4Bである。

  •  「Circ. Res.の1995年論文」・・・ Gelband, C.H. & Hume J.R. “[Ca2+]I Inhibition of K+ Channels in Canine Renal Artery. A Novel Mechanism for Agonist-Induced Membrane Depolarization.” Circulation Research 77(1):121-130, 1995

この2つの図はよく似ている。線の引き方を変えるだけだから容易に改ざんできる、という印象だ。
F4_large

★(8)ウェスタンブロットのねつ造。

ジェルバンドは、調査の間、仲間の実験記録から4枚のウェスタンブロット実験のフィルムをはずして、彼が自分でウェスタンブロット実験を行なった証拠として調査委員会に提出した。

つまり、ジェルバンド(Gelband)はジェル(gel)のバンド(band)をねつ造したのである。ハハハ、ダジャレです。ただ、書いてあることは冗談ではなく、事実です。

【論文数と撤回論文】

2015年9月1日現在、パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、クレイグ・ジェルバンド(Craig H. Gelband)の論文を「Gelband CH[Author]」で検索すると、1989年~2009年の21年間の57論文がヒットした。

2015年9月1日現在、1995年から2000年の5論文が撤回されている。1995年の撤回論文の所属はネバダ大学だが、他の1998年~2000年4撤回論文は所属はフロリダ大学になっている。

最古は1995年論文。所属はネバダ大学。

最新は2000年論文。所属はフロリダ大学。

【白楽の感想】

《1》どうして?

得られる情報からだけでは、ジェルバンドの研究ネカトの動機がわからない。最初の撤回論文は1995年のネバダ大学だが、32歳の時である。最初に研究スタイルを習得するときに研究ネカトをしてもいいのだと思い込んで研究習慣病になっていたのだろう。

2001年(38歳)に発覚だから、この間、7年間、研究ネカトをしてきたに違いない。研究ネカトというズルをしたから、NIHからの研究費をたくさん獲得できた。賞も受賞し、とても有望な中堅研究者と評価された。発覚が遅れ、撤回論文数が5報と多くなった。

研究公正局は、悪質度が高いと判断したのだろう、通常3年間の申請不可年数をジェルバンドには10年間とした。

Dr_C_vanBreemenそもそも最初の論文は1989年にマイアミ大学所属である。この時、26歳だから、大学院生だったハズだ。最終著者はブレーメン(Cornelis van Breemen、右の写真出典)である。ブレーメンにも責任がある?

joseph-hume1991年(28歳)にブレーメンの研究室を離れ、ネバダ大学のジョセフ・ヒューム研究室(Joseph R. Hume、左の写真出典)に移籍した(ポスドクになった?)。そこで、1995年にヒュームと共著で出版した論文が研究ネカトなのである。

ということは、ヒューム研究室で研究ネカトを身につけたのだろうか? ヒュームにも責任がある?

《2》事件後

2002年4月29日(39歳)、騒動のさなか、ジェルバンドはフロリダ大学を自発的に辞職した。

berezowskygelband-1その後の人生はわからない。

ただ、事件5年後の2007年(44歳)のジェルバンドの写真が見つかった。幸福そうだ(出典)。

【主要情報源】
① 2003年11月12日、研究公正局の報告:NIH Guide: FINDINGS OF SCIENTIFIC MISCONDUCT
② 2002年6月4日、エミリー・エンジェル(Emily Engel)の「ニューヨーク・タイムズ」記事:Misconduct Finding Prompts U. Florida Prof to Resign
③ 記事中の画像は、出典を記載していない場合も、白楽の作品ではありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です