1‐1‐2.研究不正(Research Misconduct)」=「ねつ造」「改ざん」「盗用」=「ネカト」


2016年6月23日改訂。

●1.【研究不正とは何か?(米欧)】

米欧で「“研究不正”(research misconduct)」といえば、以下の3つに限定される。

  1. 「ねつ造(fabrication)」
  2. 「改ざん(falsification)」
  3. 「盗用(plagiarism)」

ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.研究不正とは何か?(米欧)
2.研究不正とは何か?(日本)
3.研究者の5つの行動枠
4.白楽の感想
ーーーーーーー
英語の「Research Misconduct」を英語では略して「FFP」と呼ぶので、「Research Misconduct」を、日本語では「ネカト」と呼ぶと「1‐1‐1.日本語の用語と英語の用語」で説明した。

でも、なじみがありません。なじむために、皆さん、ご一緒に、ご唱和ください。はい、「ネカト、ネカト、ネカト」。ありがとうございました。

「ネカト」は本ブログの主題なので、「ねつ造」、「改ざん」、「盗用」に関する記載は本ブログのあちこちにある。というか、ほぼ全部、「ねつ造」、「改ざん」、「盗用」に関する記事である。「ねつ造」、「改ざん」、「盗用」の定義、具体的行動、事件例など、各項目を参照ください。

●2.【研究不正とは何か?(日本)】

米国に比べると、日本では、“研究不正”の概念・用語が曖昧である。研究者(大学教員・研究員・大学院生など)が研究行為に直接・間接に関係した言動の不正行為を、すべて、“研究不正”とみなす場合が一般的である。米国と同じ概念で使用する場合はマレである。

★日本学術会議・科学倫理検討委員会

日本学術会議・科学倫理検討委員会(2007年)の“研究不正”例を和泉(2009年)が解説している。以下の11項目である。[和泉潤:研究者の学術活動に関する倫理、『日本社会情報学会学会誌』21, pp35-42

  1. データのねつ造
  2. データの改ざん(矛盾データの恣意的削除)
  3. 研究成果やアイデアの盗用、論文の剽窃
  4. 不適正なオーサーシップ
  5. 個人情報の不適切な扱い、プライパシーの侵害
  6. 研究資金の不正使用
  7. 論文の多重投稿
  8. 研究成果の紹介や研究費申請における過大表現
  9. 研究環境でのハラスメント
  10. 研究資金提供者の圧力による、研究方法や成果の変更
  11. 利益相反

1~3は米国の「research misconduct」=「研究ネカト」と同じである。

しかし、他は、バラバラと並べただけという印象を受ける。米国科学アカデミー(NAS)のカテゴリー2(研究クログレイ)、カテゴリー3(研究違法行為)に入るのもあれば、そうでないのもある 。充分深く考えたとは思えない。研究規範の枠組みをちゃんと理解しているとも思えない。日本学術会議がこのレベルなのかと失望させられ、残念である。

●3.【研究者の5つの行動枠】

人間社会の秩序は、自然法則に規定された範囲内で、個人の人生や生活に秩序を与えるが、服従を要求する面もある。秩序を乱した時(乱そうとした時)、強制的に服従が要求される。個人の人生や生活に影響する強さの順に「5つの行動枠」を並べると以下のようだ。

  1. 法律:「法の属性としては、一定の行為を命令・禁止・授権すること、違反したときに強制的な制裁(刑罰、損害賠償など)が課せられる」(法 (法学) – Wikipedia)・・・NASカテゴリー3
  2. 規範・規則:組織(例:宗教、職業)の管理ルール・運営ルール・モットー・方針で、法律で規定していない。組織の規則はある。・・・NASカテゴリー1NASカテゴリー2
  3. 利害:例えば、需要と供給のバランス。
  4. 価値観:公序良俗、道徳、品格、善悪で決まる言行の秩序。
  5. 習慣:例えば、朝6時に起き、最初に歯を磨く。

研究倫理は「倫理」とあるから、日本では「道徳」「善悪」「良心」でとらえる人がかなり多く、その思い込みから抜けない人は、上記の「4.価値観」を要求するが、全く間違いである。

上記の意味の「倫理」は、英語では「モラル(moral)」である。研究倫理の「倫理」は、英語の「エシックス(ethics)」であって、「モラル(moral)」とは、似て非なる概念である。両方とも、「倫理」と訳されたから、混同しがちだが、むしろ、別物と考えよう。

白楽は、あちこちで、研究倫理の「倫理」は、「エシックス(ethics)」で、特定の組織の「規範」だと、何度も言ってきたが、日本では根付いてない。いまだに、研究倫理を「道徳」扱いする人がいて、大学院生や研究者に教えるようなものではないという意見にでくわす。

米国では、行動枠4の「価値観:公序良俗、道徳、品格、善悪で決まる言行」を研究者の行動規範とはしていない。ただ、もちろん、人間として善行を行なうことは良いことではある。

しかし、大学院生・研究者が研究を遂行する時、普通の社会人が仕事を遂行する時の「道徳」以上に格段と高い道徳が必要ということはない(誤解しないように繰り返すが、推奨はしている)。

極端な話、「道徳」的に問題でも、規範を守り、優れた研究成果を出せば、つまり、「白い猫も黒い猫も、スバラシイ研究成果をあげれば、いい猫」なのだ。

もちろん、研究規範を知っていても、それを守るかどうかは「価値観:公序良俗、道徳、品格、善悪で決まる言行」に依存するので、そういう意味での「道徳」は必要である。

●4.【白楽の感想】

《1》ネカトの実行状況は犯罪と同じ

「ネカト」、つまり、「ねつ造」「改ざん」「盗用」の原因、問題点、解決法、予防法を考える時、研究者・大学院生の立場に立つと、セクハラ、窃盗、殺人などの明白な違法行為を犯す状況と「研究ネカト」を犯す動機・姿勢・状況はよく似ている。同根である。

もっと軽い不正行為でも同じである。例えば、大学教授の「改ざん」も、検察官の検面調書の「改ざん」も、主婦が家計簿を「改ざん」するのも、同根である。人間が、自分に都合の良いように事実を加工する行為である。だから、人間社会の「すべての不祥事」が、「学術界の不祥事」の原因、問題点、解決法、予防法の参考になると思っている。

というわけで、学術界の不祥事をすべて収集・分析し、「学術界の事件とはどういうものか?」「どのように減らせるのか? 減らせないのか?」「事件種の共通点や、事件に関与する研究者・大学院生の特徴はあるのか?」を研究室の学生とともに10年以上研究し、何度も学会で発表してきた。その集大成を、2011年9月、講談社から出版した(『科学研究者の事件と倫理』)。

「ネカト」の原因、問題点、解決法、予防法は、研究者の世界に精通しているだけではなく、社会制度や人生・人間性など、すべてを深層から総合的にとらえなければならないと考えている。さらに、欧米の例もしっかり学ばならないと考えている。

《2》米国に25年遅れた現実

研究規範の対処では、日本は米国に25年遅れた。単に、遅れた25年を取り戻せばいいというものではない。

重要で深刻な問題は、身近な米国であれほど大々的に取り上げられていたのに、どうして、日本は25年も遅れてしまったのか、である。

日本のシステムの腐敗と欠陥を反映したものだ。日本の理系学者の社会機能不全は根深い。そして、政治家・官僚の科学技術への理解のなさも度が過ぎている。

1つの解決策として、研究博士号を持ち政策に生かせる人材を育てることが必要だと、だいぶ前に言われた。それから15年以上経つが、日本は、依然として育てていない。なんとかしないと・・・。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です